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【新道風牙の食ノ道】太陽の晩餐は秋の恵みの味

登場人物一覧

新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの

 大樹ファルカウに見守られるようにしてアルティオ=エルムの森は赤と黄色が染まっていた。川の水は前よりもひんやりとしていて、冬に向けて少しでも貯えが欲しい栗毛のリスたちが枝の上を走り回っていた。時折、キラキラと光るのは妖精たちのものだろうか。鮮やかな景色の中、新道 風牙(p3p005012)は頼まれていた香辛料を村へと運んでいた。人数は15人と、一般の村にしては人口が少なく、少々寂しさのある場所だと風牙は思ったが、自然と対話ができるハーモニアにとって隠居先としては、意外と悪くないロケーションなのかもしれない。実際、この村にいるのは見た目の若さを随分と置き去りにした高齢のハーモニアがとても多かった。

「こんなものでよかったかな。……あと、これはいつも取引をしてくれているお礼だって、商隊頭が」
「おお、砂蜥蜴の爪か。これはありがたい」

 何に使うのか皆目見当もつかないが、目の前のハーモニアはその価値を充分に理解しているようで、香辛料の入った小袋と一緒に砂蜥蜴の爪を受け取った。

「よかったら共に晩餐を取らないか? ちょうど、そろそろ出来上がるころだし、なにより食事を共にする人数は多い方がいい。どうかな」
「是非」

 季節は秋。森にははち切れんばかりに果物が実る時期だ。無断で森のごちそうに手を出そうとすれば、果物に触れるよりも先に、矢が手に刺さると言われるアルティオ=エルムだ。晩餐をふるまってくれるというのであれば断る理由がない。風牙は迷うことなく、その誘いに乗った。



 晩餐は太陽が沈み切る前にふるまわれた。風牙は火を忌むアルティオ=エルムでごちそうと言われたときに、てっきり果物が多く出されるのではないかと思っていたが、その予想は裏切られた。――もちろん、良い意味で。金木犀の香りが少し漂う蒸しパンや、クルミと樹液を使った甘辛いソースが掛かった野菜炒め、そして、何よりも美味だったのは――

「おかわりもありますよ」
「よければこちらもどうですか? イレギュラーズの方」
「いいの? なら貰う!」

 ――鳥肉とキノコの香草蒸し焼きだ。おそらくは魔物なのだろう、チキンというよりかは少しターキーのような触感のある鳥肉は、狩って早々に血抜きと内臓を処分したおかげなのか少しも苦いところに当たらない。なにより、内臓の代わりにこの森で取れた山菜や香草、そしてコリコリとした触感のあるキノコを文字通りおなか一杯に詰めた鳥肉は長い時間をかけて加熱された甲斐もあり、余分な脂が落ちていた。

「これ、めちゃくちゃ美味しい。香りもいいし、キノコの触感も楽しいし……何より肉のうまみを吸った山菜がこんなにうまいもんだとは思わなかった」
「そうでしょう、そうでしょう。これらもすべて、大樹ファルカウ様のお恵みのおかげですわ」

 村長の孫だというハーモニアはどこか自慢げだ。宗教や信仰心、そういうモノに関する知識について風牙はさっぱりわからないが、美味しいものは美味しく、そしてその恵みを感謝するという気持ちに関しては深く共感ができた。同時に、ふと疑問も湧き上がる。蒸しパンも、野菜炒めも、もちろん絶品であるこの鳥肉とキノコの香草蒸し焼きも、加熱しなければありつけないごちそうだ。だが、アルティオ=エルムでは火が疎まれることが多いと聞く。
 熱砂の恋心事件と呼ばれるものや、妖精郷アルヴィオンでの事件。そういった事柄にイレギュラーズが介入し、多くの危機から救ったことで、秘密主義だったアルティオ=エルムは随分変わったと聞いたが、これもその1つなのだろうか? 風牙が疑問を口にしようとしたときに、よければこちらもどうぞとグレープジュースをゴブレットへ注がれたので、質問はブドウの果汁と共に飲み込んでしまった。

「そういえば、壊れていた太陽窯だけど、今朝には治っていたわ」
「おかげで今日は美味しいものがたくさん作れたし、イレギュラーズの方にふるまえてよかった」
「今の時期、町の方では収穫祭も準備されているものね」

 質問の答えとなる単語が聞こえて、風牙はその声に耳を傾ける。部屋の一角、女性のハーモニアが何人か集まって井戸端会議をしていた。『太陽窯』。それがこの暖かい料理に必須なのだろうというのは、『窯』とつく名前と会話内容から推測ができる。しかし、調理方法はさっぱりわからない。ずいぶんと飲んで酔っ払ったらしい村長がとなりの椅子にどっかりと腰を下ろして落ち着いたのを見れば、風牙は慎重に問いかける。

「太陽窯という言葉が聞こえたのだけれど、この美味しい料理はそれで調理を?」
「ああ……そうだ。知らないか? 太陽窯を」

 知らない、と風牙が首を振ると、村長はすいすいと指先を動かす。すると、コップから水がするすると蛇のように伸びてきた。水は室内の明かりを反射して、キラキラと光っている。

「この水のように、光というのは道を作ってやればその方へ進む。天から生まれた光というのは熱を抱えた迷子でな? 行き先を教えてやると、お礼にその熱をいくらか分けてくれるのだ。私たちはその道しるべを作ってやった。それが、太陽窯さ。晴れている日ならこうして、多くの料理を生み出せるのだ」

 つまりは太陽光を集めて作った竈で、こうして熱処理が必要な料理が出てくるらしい。――『ソーラークッカー』。たしか、故郷ではそんな名前だったかもしれない。風牙はなんだか不思議な思いで村長の指先で踊る水の蛇を見つめた。《熱を抱えた迷子》が道しるべのお礼に《熱》を分けてくれる。この村では少なくとも、そういう解釈をされているらしい。理論としては納得がいくが、いくらか物語めいている説明に、改めてこの世界が自分にとって異世界なのだと思い知らされる。

「……明日、晴れていたら見てみたいな。太陽窯。それでいくらか手伝えるなら、少し作ってみたい」
「ああ、そうするといい」

 自分の行き先に道しるべはないけれど、自分の熱を分けることはできないけれど。せめて通った道で世話になった人たちにお礼は返したい。アルコールはちっとも入っていないはずなのに、真面目なことを考えた風牙はなんとなくグレープジュースのおかわりを遠慮した。


  • 【新道風牙の食ノ道】太陽の晩餐は秋の恵みの味完了
  • NM名蛇穴 典雅
  • 種別SS
  • 納品日2021年10月22日
  • ・新道 風牙(p3p005012

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