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今日も元気に郵便配達!
登場人物一覧
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「は~い、お届け物だよ~」
それは、まだ『平原の穴掘り人』ニーニア・リーカー(p3p002058)が召喚される直前、イレギュラーズになる前の日常の話。
その頃のニーニアは梟の翼を羽ばたかせ、三つ編みにした長い髪を揺らしながら幻想の街を飛び回っていた。
幻想のごく普通の一般家庭で生まれたニーニアは、生まれ持ったギフトを活かして仕事を行っていた。
彼女のギフト『マッピング』は、一度でも来たことのある場所ならば、頭の中に地図を思い浮かべて迷わず進むことが出来るというもの。
ニーニアはそれを活かし、郵便屋さんとして働いていた。
その日も、ニーニアは郵便屋さんの制服に帽子を被り、朝からお仕事。
配達するお手紙はたんまりとあるので、効率よく動いて郵便受けに。
すでに、その作業は手慣れたものだ。
「あら、郵便屋さん、いつもありがとう」
「は~い、こちらこそご利用ありがとう~」
毎日郵便物を運んでいれば、顔見知りも増える。
声をかけられれば、愛嬌ある顔に丸眼鏡といった見た目のニーニアも微笑みを浮かべて、手渡しで郵便物を渡す。
その宛先を見てほっこりする人達を見るのも、ちょっとした楽しみでもある。
「さてっと、次のお届け先は……」
気づけばもうお昼時。とはいえ、彼女は立ち止まることなく、配達しながら買ってきたサンドウィッチを口にしていく。
具はたまごにハムにレタス。定番のものを食べながら、手紙の後先確認。
「もぐもぐ……、これがあっちだから……」
じっくり味わうこともなく、ニーニアはマッピングで場所を思い浮かべていく。
同時進行することが彼女の仕事の時短テクニックだ。
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一通りサンドウィッチも食べ終わり、ニーニアは引き続きお昼の配達。
「おや、郵便屋さん、今日も元気だね」
「こんにちは~、はい、郵便だよ~」
お昼になってからも、顔見知りのお客さんと顔を合わせれば、ちょっとした世間話を語り合う。
昼食の時間を惜しむほどに急いでいるようではあるが、マイペースに楽しくするのがニーニアの仕事スタイルだ。
そんな中で話を聞くのは……。
昔、冒険家だったお爺さんの自慢話。
「その時、ワシは山のように大きなトカゲと出会って、その巨体をばっさりと切り裂いたのじゃ!」
「なるほど、すごいですね~」
うんうんと相槌を打ちつつ、さりげなく次の配達先も確認。
ニーニアは楽しげにお爺さんの話を最後まで聞いてから、次の場所へ。
続いて、彼女は街角のおばさん達の井戸端会議へと混ざる。
「そうそう、最近はこの辺りにも見かけない人増えたわね」
「頻繁に旅人さんが呼び出されているからね~」
「ローレットにイレギュラーズが集まっているそうよ」
そんな経緯もあって、幻想にはこの世界中だけでなく、他の世界にまで召喚対象が広がっている。
人間だけでなく、動物や物と思われるような存在にまで意識が宿り、イレギュラーズとして活動していることも。
「最近活動していた魔物、討伐してくれたそうよ」
「あたしも失くした指輪を見つけてもらって、助かったわぁ」
そして、ローレットに所属した彼らは様々な仕事を斡旋され、混沌中を駆け回ってその解決に勤しんでいる。
――『混沌世界にやがて訪れる破滅的結末』を回避する為に。
そんな話をニーニアは聞いていても、他人事にしか思えず。
「僕とは無縁の遠い場所の話だな~」
彼女は笑いながら、おばさん達にそう答えていた。
しばらくおばさん達と話をしていたニーニアは再び翼を羽ばたかせ、配達を再開する。
きちんと毎日、受け持った配達分は全部きっちりとお届け。
今日も一日、彼女は全ての配達物を配り終え、詰所へと戻っていく。
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ずっとこうした日常が続くものだと、ニーニアは特に疑いもしていなかった。
彼女にはとりわけ向上心があるわけでもなく、庶民生活に何の不満もなかったからだ。
「まさか、そんな自分がイレギュラーズになるなんて、思いもしていなかった」
――明日じゃないかも知れませんが、近い将来、世界は滅亡するでごぜーます。
ある日いきなり、空中庭園、信託の少女ざんげの目の前へと召喚されたニーニア。
「それはもう間抜けな顔してただろうね」
こうしてイレギュラーズとなったニーニアは、ローレットのお仕事を合間に挟むようになった。
以前は世界の情勢など聞き流しすらしていたのに、気づけば、幻想の存亡に関わるような依頼にまで参加するように。
以前の自分にそれを伝えたところで、絶対信じてくれなかっただろう。
ニーニアは今日も郵便屋のお仕事。
イレギュラーズとなったことで収入も増え、生活も安定してきた。
今日のお昼はいつものサンドウィッチと合わせ、イチゴやキウイのフルーツサンド。甘党な彼女にとって、ちょっとしたご褒美だ。
「今度の休みはどこの温泉に向かおうかな」
そんなことを考えつつ、ニーニアは今日も幻想の街を飛び回るのである。