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秘密の場所へご招待
登場人物一覧
「勉強もいいけどさ。今度あった時は、ちょこっとだけ冒険に付き合ってくれねーかな」
エドワードからそう提案された時のカルウェットは、その約束に胸を躍らせる――。
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幻想のとある街。夜の帳が降りてすぐの頃、カルウェットは街の入口で待ち焦がれていた。
以前とある依頼でエドワードと知り合った時に彼とちょっとした約束を取り付けていたのだが、それがいつ始まるのだろうと、何処へ行くのだろうという緊張感と高揚感がまぜこぜになって、身体に現れ始めていた。
しばらくはお互いの時間が合わず約束が果たされることはなかったのだが、今日、ついに2人の時間が空いたということで、エドワードから誘いが入り……現在、待ち合わせ場所で彼を待っている状態だ。
まだかな、と夜空を見上げていると、おぉい、と遠くから声をかけられる。久方ぶりに聞こえてくるエドワードの声に、カルウェットは振り向く。
エドワードは……時間に少々遅れが出ていたために、走ってカルウェットの下へとやってくる。合流すると少し呼吸を整えつつ、謝罪の言葉を入れた。
「わりぃ、ちょっと待ったか!?」
「ううん、大丈夫。ボク、少し、早かっただけ」
「いや、本当に悪い。出るの遅れちまってさ……けど、待っててくれてありがとな!」
「ん……」
じゃあ、行こうかと声をかけられて、エドワードが前へ出る形で街を出て道を歩く。
それを追いかけるようにカルウェットがついてくるのだが、少しだけ彼との距離を詰めておいた。
怖いのか? というエドワードの問いかけに対し、カルウェットの答えは『怖いと思うようにした』という珍しい答え。
もともと暗い山の中に住んでいたから多少の恐れはなかったのだが、エドワードと出会ってから変化が出たのだろう。多少の怖いという感情が芽生えたようだ。
「仕方ないな~……ほら、こうしてれば怖くないだろ?」
「あ……ありがとう、エドワード」
怖いという感情は悪いことではない。そう教えるかのように、エドワードはカルウェットの手を握って道案内をしてあげた。
1人でいるのが怖いのなら、2人で一緒にいればきっと大丈夫だと。
「……エドワードと、一緒、するなら、大丈夫だよね」
「おう、そうだな。道案内もするしさ、このまま引いてくぜ?」
「うん。……どこ、行く?」
「へへっ、みんなには内緒の、秘密の場所さ」
「秘密……」
秘密の場所と聞いて、更にどきどきわくわくが胸の奥に積まれてきたカルウェット。
彼がみんなには内緒と言っているのだから、自分だけに特別に教えてくれるのだろう。心いっぱいに嬉しさが積もって、いつも以上に口元が緩んでいた。
カルウェットのその様子には、思わずエドワードの口元も緩んだ。『ともだち』が嬉しそうにしていると自分もなんだか嬉しい気持ちになってしまうもので。
街を出て数分。
気づけば空には満天の星空が広がっており、足元は真っ暗闇。
手を引くエドワードも、引かれているカルウェットもお互いの足元を気をつけながら、緩やかな坂を登っていった。
「……星空って、実は、たくさん、見てる、する。森で、よく、見えるから」
「へっ? カルウェットって森によくいるのか? 知らなかったな……」
森で星空をよく見ていると聞いて、エドワードは目を丸くした。
これから行く秘密の場所も星空がよく見える場所なだけに、余計に。
しかしそんな中でカルウェットはいつもとは違う気がする、と首を傾げながら呟いた。
森の中から見た星空も綺麗だったが、こうしてエドワードと一緒に歩いている中で見える星空のほうが綺麗だ、と。
「いつもより綺麗、か……。ふふーん、ならその言葉はこの坂を登りきってから言ってみるんだな!」
エドワードの足が早くなる。もうすぐ誰にも内緒の秘密の場所に辿り着くぞと教えるかのように。
カルウェットの胸の高鳴りが高くなる。もうすぐ『ともだち』が教えてくれた秘密の場所に行けるんだと。
少々傾斜の高い坂を登り切った2人の前に現れたのは、まさに満天の星空。
雲ひとつ無い星空の中に、足元に輝く街の灯りがより一層幻想的な景色を作り出していた。
「わ……すごい。いつもより、綺麗、見える、する。秘密の場所、するから?」
「へへへ、なんだよー」
カルウェットの褒め言葉に多少の恥ずかしさがあったのか、エドワードは照れつつも肘でツンツンとカルウェットを小突く。
その行動にはカルウェットは首を傾げたのだが、とても嬉しそうだな、と少しだけ微笑んだ。
「でも、良かったよ。案内した甲斐があったかな? あ、でもこの場所のことはみんなには秘密だからな?」
「ん。秘密、する。大丈夫」
人差し指を口元に当てて。この場所は『ともだち』である自分達だけの秘密だと約束する。
誰にも教えない、2人だけが知っている場所だと。
そうして約束を誓ったところで、2人は座り込んだ。
少々長く歩いたものだから、足の疲れがとんでもない。多少休めるために草むらに体を預け、空を見上げた。
上を見上げるだけで、落ちてきそうなほどの無数の星。
エドワードは手を伸ばして星を掴む動作をして、カルウェットはぱちぱちと手を叩いて星を捕まえようとする動作をしていた。
「……なあ、カルウェット」
ふと、エドワードが腕を天に伸ばしたままでカルウェットに声をかけた。
なんだろうと首を傾げていると、エドワードは握り締めた拳を開いて、自分のやりたいことを語り始める。
なんてことはない、ただただ、この場所よりもすごい景色の場所を探したいと宣言するだけ……だった。
「けど……けどさ、世界には多分これと同じか、ここよりもすごい景色の場所がたくさんあるんだ!」
「ここ、よりも?」
「そう、ここよりも!」
興奮しているエドワードは両手を広げて、たくさんある、ということを示す。
この場所と同じ、この場所よりも綺麗な場所。それらを『ともだち』のカルウェットと一緒に見に行きたいと彼は言う。
カルウェットは……とても嬉しくなって、にやけ顔が止まらなくなった。
『ともだち』と一緒に行きたい。その思いはエドワードだけでなく、カルウェットも同じだったようで。
「ひっひー、エドワードは、すごい、する。いつも、ボク、嬉しくなる。ありがとう」
「へへ、俺もなんか、嬉しくなってきちまった。友達のお前と一緒に見に行ったら、きっときれーな景色になりそうだしな!」
「んふふ。特別って、やっぱりとても嬉しい、するな!」
「だろ!」
2人で笑い合って、また満天の星空を眺める。
こうして眺めていると、時間が流れていることを忘れそうになる……そんな気分のカルウェットはエドワードの手をそっと握り、このあとの予定を聞き出した。
「エドワード、今日は、何か、ある?」
「ん? この後は特になにもないけど……どうしたんだ?」
「今日は、ここで、もっと、話して、もっと、仲良く、なる、したいぞ」
「おっ? いいぜ、どんな話が聞きたい?」
「そうだなー……」
これまでのこと。これからのこと。昨日のこと。明日のこと。
『ともだち』同士、秘密の場所で秘密の会話をして、お互いのことをたくさん知った。
――仲良くなれてよかった。
星の海と柔らかな草原に包まれた2人の会話は止まらない。
おまけSS『かえりみち。』
「……っ……」
暗闇の中、カルウェットは同じようにエドワードに手を引かれて街へと戻っていた。
……しかし、行きと違って帰り道もなんだか怖い。
行きも帰りも同じ道を辿っているはずなのに、同じようにエドワードに手を引かれているのに、帰り道を歩いているとドキドキが止まらない。
何故だろうと思っていた矢先、がくん、と足が坂に取られて転びそうになった。
「危ない!」
倒れそうになった途端、エドワードが支えてくれたから地面に倒れることはなかった。
小さく感謝の言葉を述べたカルウェットは、なんで転んだんだろう、と首を傾げていた。
「行きと違って、帰り道は足元が見えなくなっちまうからなぁ。怖かったか?」
「……ちょっとだけ」
暗闇の中を歩くというのは、怖いものだ。
今まではなんともなかったけれど、隣に誰かいると少し怖くなるんだなと学習したカルウェットだった。