PandoraPartyProject

SS詳細

お祝いの日

登場人物一覧

ニャムリ(p3p008365)
繋げる夢
コスモ・フォルトゥナ(p3p008396)
また、いつか

●今日は何の日?
 街に出てみたら、何故だかとても賑やかで。
 どこへ行っても、何故だか特異運命座標イレギュラーズたちで溢れていた。
「ねえ、コスモ。なんでだろう?」
 ふああと眠たげに欠伸をしながら目元をコシコシこすった『繋げる夢』ニャムリ(p3p008365)の問いに、『また、いつか』コスモ・フォルトゥナ(p3p008396)はわかりませんと首を傾げた。
 わかるのは――すん、と匂いを嗅げば、街中にたくさんの食べ物の香りが溢れていることくらいだ。
「たくさんの、良い香りがします、ね。ニャムリ様」
「……うん、いい匂いがたくさんだ。……少し、見て回るのはどう?」
「お供いたします」
 魔法で浮かばせた枕に乗ってふよふよと移動するニャムリの後に、コスモが続いた。
「……そういえば、ここも色々増えたよね……」
「そう、ですね」
 コスモが領地を持つ豊穣の地は、イレギュラーズたちとの交流を切っ掛けに他国の食材や文化が入ってくるようになった。まだまだ洋菓子は珍しい方だが、市場を覗けば鮮やかな色彩がニャムリの視界に飛び込んでくる。瞳を閉ざしているコスモの代わりに、ニャムリは何が売っているかを口頭で説明する。
「スパイスの香り……たぶん、タンドリーチキンだ」
「たんどりぃちきん……」
 コスモはすかさずメモを取る。たんどりぃちきん、スパイシー。
 タンドリーチキンの隣には強いにんにくの香りの鶏肉があり、店主にこれはと尋ねれば山賊焼きだと答えが返ってくる。異国――ラサ風のタンドリーチキンか、豊穣でよく見られる山賊焼き。どちらにしようか少し悩み、ふたりは折角だから珍しいものを、とタンドリーチキンを選択した。
 ニャムリの魔法でぷかぷか浮かぶチキンを携えて、ふたりは市場を覗いていく。本当に今日はいつも以上に珍しい食べ物で溢れているようだ。
『幻想』の文字を見つけたニャムリは店に近付き、店主へと尋ねてみることにした。
「……ねえ、今日は何かあるの?」
「わからないけれど、何かめでたいそうだよ」
「わからない、のですか……」
「こういうのは楽しんだモン勝ちだからねぇ」
 アッハッハと豪快に笑う店主のところで、幻想野菜和えサラダを買い上げた。
 お店のひともわかっている人とわかっていないけど乗っかっているひとがいるのかも?
 ふたりを首を傾げて、また店々を覗いていく。と――。
「おや、アンタたち、神使様かい?」
「……そう、だけど……」
「それじゃあ、おめでとう」
「やあ、おめでとう」
「……? ありがとう、ございます?」
 どうやらこのお祝い事は神使イレギュラーズに関することらしい。
 けれども当事者であるはずのふたりにはとんと身に覚えがない。
「……あ、ケーキも売ってるみたいだ」
「ケーキ、よろしいですね」
 甘くてふわふわで、優しい味のお菓子。
 豊穣では珍しいそれが、この街で食べられるのかと、コスモの頬が緩んだ。
「これは、おまけです」
 ケーキを買ったら、『4』の形の蝋燭をもらった。何か意味があるのだろうか。
「4?」
「はい、四回目の節目だと伺っておりますので」
 思わず顔を見合わせたコスモとニャムリは、まあ厚意だからと蝋燭も受け取った。
 すれ違う人々はコスモとニャムリが神使イレギュラーズと分かる度に祝いを口にするし、おまけをくれたりする。けれどもやっぱりコスモとニャムリにはわからなくて、ただただ首を傾げるばかりだ。
「なんでお祝いされているのでしょう、ね」
「……わからなぁい……」
 ニャムリがふあっと欠伸を零した。

●お祝いの日
 たくさんの食べ物を抱えて、ふたりは竹のお城へ戻ってきた。
 今日はお祝いの日だから、香ばしく食欲を刺激するスパイシーな香りのする大きなタンドリーチキンに、いくつもの色鮮やかな野菜が彩る新鮮サラダ。トマトソースのかかった、食めば中からとろぉりとチーズの溢れる一口サイズのハンバーグ。そしてそして、主役は――!
「ふふー、ケーキだ」
 いつもは食欲より睡眠欲を優先するニャムリだが、お祝いの料理が揃うとなんだか嬉しい。洋風机テーブルの中央にドーンっと置かれたケーキに、いつもは眠そうに垂れている尾だってちょっぴり上がってしまう。
 真っ白の生クリームは、たっぷりと。
 レースを描くようにデコレーションされたクリームは愛らしい。
 その上にちょんちょんと乗る赤いイチゴは、おめかししたお姫様みたいで可愛い。
 ことは出来るけれどことの出来ないコスモのためにニャムリは眠たげながらもしっかりと説明をし、コスモもまた、しっかりとメモに綴っていく。
「コスモ、座って、座って」
 ぼくが眠たさに負けてしまう前にね。
 ニャムリの言葉に背を押されてコスモが席に着くと、それじゃあと一緒に街で買い求めてきたもうひとつの小包を開いた。
 中からころり、ころり。転がってくるのは、キラキラとしたマーブル模様の描かれた円錐形に紐がヒョロリとついたもの。それぞれの手にひとつ持ち、片手を紐へと添えたなら、準備は万端。
「おめでとうございます」
「……ん、おめでとう」
 何のお祝いかはわからないけれど、めでたいらしいから。
 言葉を言い終えると同時に紐を引く。

 ――パァァン!!

 重なったふたつの破裂音とともに、紙吹雪と紙のリボンが舞った。
 ひらひらと舞う紙吹雪を追いかけたくなるニャムリだけれど、今日はガマン。
 コスモといっしょに『お祝い』をするのだ。
 何のお祝いかはわからないけれど、きっとふたりでこうすることが大事なんだ。
「……ふぁ……っと、寝ちゃう前に食べなくちゃだ……」
「いただいてしまいましょう」
「いただきまぁす」
 食べたい分だけ取り分けて、ふたりは買ってきた料理を口にする。
 ピリリとしっかり香辛料の効いた鶏肉は美味しく、サラダだって引けを取らない。ドレッシングは何味かなぁと悩みながらあれやこれやと思いつく味を呟くニャムリの言葉をコスモがメモを取り、今度また同じ店を見つけたら尋ねてみようと心に決めて。
 そうして、訪れるケーキのターン。
 ホールケーキに蝋燭を立ててもう一度おめでとうを言い合ったら、豪快に1/4ずつお皿に乗せた。
「ニャムリ様のお口にも合いますか?」
「ん~~~、おいしい……コスモは?」
「私も、口に合い幸せ――そうですね、こういうことが幸せなのかもしれません」
 嬉しいを重ねて、楽しいを重ねて、好きを重ねて。
 ひとつずつ、コスモは『ヒト』になっていく。
「ニャムリ様とお祝いできるひとときは、幸せ、です」
 甘くて柔らかい幸せのかたちケーキを口へと運び、コスモは頬を綻ばせる。
「……四回目の節目ってことは、来年もあるんだよね?」
「はい、きっと、そうでしょう、ね」
「来年も……いっしょにお祝い、できるといいな」
「それはもう、是非」
 ご一緒させてください。
 生クリームのように、甘く。
 スポンジのように、柔らかく。
 紡がれる言葉はどこまでも倖いに満ちて。
 ふたりはおいしいね、と『お祝いの日』を楽しんだ。

 何のお祝いごとかはわからずじまいだったけれど、毎日がお祭りだったらいいのにね。

  • お祝いの日完了
  • GM名壱花
  • 種別SS
  • 納品日2021年08月25日
  • ・ニャムリ(p3p008365
    ・コスモ・フォルトゥナ(p3p008396

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