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互いに求め、求められて
登場人物一覧
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ある日、幻想某所の街角にて。
人間種である長い金髪ストレートの少女、『夜天の光』ミラーカ・マギノ(p3p005124)は、街で楽しげに他のイレギュラーズの女性達と楽しげに語っていた。
「……ええ、そうなの。このボディソープ、とてもすべすべになるからおすすめでね」
年頃の女の子達の話題は、美に関することで持ち切りだ。
お肌がつるつるになる方法とか、使っている石鹸や化粧品の話とか、可愛らしい洋服を販売している店とか。
それらの話が途切れることなんてなく、女の子達は楽しそうに情報を交換したり、誰かの所持品を実際に試してみたり。
「すごいわね! 今度あたしも買いに行ってみるわ!」
楽しげに語らうミラーカは、街で皆の人気者。
そこに通りかかった狼のブルーブラッドの少女、茶色の長い髪を揺らす『白い稲妻』シエラ バレスティ(p3p000604)がその女性達を……ミラーカの姿を見て、何気なく会話へと参加する。
「ねえ、何の話してるの?」
美に関する話なら、ちょっとフツーでない霊に憑りつかれただけのシエラも参加はしやすい。
シエラもメモ帳を取り出して、自分の知っているコスメ販売店などをこの場のメンバー達へと紹介する。
逆に、シエラもすでに出ていたこの場の女性達のおすすめをしっかりメモしていく。
「ミラーカさん! 初めまして、私はシエラって言います!」
「あら、初めましてね! 宜しくね、シエラ!」
その最中、挨拶をし合うミラーカとシエラ。
彼女達はそのまま、自分達が語り合った化粧品、コスメを買いに街を巡っていく。
集団で語り合う形ではあったが、すでに2人は、互いに感じ合う何かがあったようである。
翌日、2人は同じ場所でばったりと出会って。
「ミラちゃん~! 昨日はありがとう、一緒に遊べて楽しかった……!」
「私も楽しかったわ。もし良かったら……、また一緒に遊びましょう?」
ミラーカ、シエラはそれぞれ別の用事があったらしく、しばし立ち話をした後で別れていった。
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その後、ミラーカとシエラは度々会うようになって。
イレギュラーズとしての活動の合間に立ち話したり、お茶したりして、親交を深めていく。
見た目は全く違う2人だが、相手にどこか似た雰囲気を感じていた彼女達は互いに惹かれ合う。
ちょっとした時間に出会い、楽しく語り合ううちに2人は少しずつ互いの距離を縮めて。
「シエラ! おはよう。きょうもいい天気ね!」
ミラーカはシエラのその明るい笑顔に見とれることが増えた。
出会ってすぐ、彼女の赤い瞳はシエラへと釘付けになっていた。
「ミラ様、お、おはよう……」
一方のシエラは、ミラーカと話し、彼女のことを知れば知るほど神格化していたようで。
次第にミラーカの前では、態度をしおらしくしていたようである。
(ミラ様って、とても素敵な方だな……)
シエラから見たミラ様ことミラーカは、皆に対して優しい人。
ポジティブで社交的に振舞うシエラではあるが、本当は根が暗くて引っ込み思案な部分のある彼女としてはミラーカの姿が眩しく見えていた。
シエラのミラーカに対する羨望の感情が恋慕の念に変わるのに、さほど時間はかからなかった。
その日も、街中でばったりと出会った2人。
ミラーカとこうした交流の一時は、シエラにとってとても楽しい。
「ミラ様」
呼び止めた彼女のお顔を見つめるだけで、シエラは思わず。
「お慕いしています。ずっと、そばにいたい……」
それは、あまりにも直情的な告白の言葉。
「ええっ!? あ、ありがとう……」
思わぬシエラからの一言に、ミラーカはオーバーリアクションしてしまう。
だが、シエラは冗談を言っているようには見えない。
そんな彼女の真っ直ぐな視線に、心の奥底から湧き上がる感情をミラーカも刺激される。
……いや、ミラーカも最初から、シエラを注視し続けていることを自覚し始めて。
(ああ、シエラ……)
2人はしばし、互いの顔を見つめ合う。
「「…………!」」
しばらくして、我を取り戻した2人は顔を真っ赤にして、テーブルの上の飲み物を飲み始める。
気を取り直し、他愛ない世間話を再開するミラーカとシエラ。
だが、時が経ち、陽が落ちて周囲が赤く染まり始める。
(ああ、ミラ様……できるなら、ずっと一緒に……)
折角、楽しくお話できているのに、過ぎ行く時間がミラ様と私を引き離してしまう……。
そう考えると、シエラの表情が沈み込んでしまう。
「それじゃ、そろそろ今日は……」
席を立とうとするミラーカの手を、シエラが咄嗟につかんで。
「ミラ様……! 今日もお家に行っていいかな……?」
「え、えぇ……いいわよ? じゃあ、一緒に帰ろうかしら……?」
了承の返事に、シエラの表情が明るくなる。
「本当!? 嬉しい……」
そんな破願するシエラが実に愛おしく、ミラーカは彼女を自宅へと招くことにしたのだった。
ミラーカは自宅で、客人であるシエラを丁重にもてなす。
「わあ、ここがミラ様の部屋……」
憧れのミラーカの部屋で目を輝かせるシエラ。
魔法や使い魔に関するものの他、ぬいぐるみやファンシーグッズなど女の子らしい物がちらほら。
そんな中、本棚にはゆりんゆりんな書物があることを、シエラは見逃さない。
(私も、ミラ様と一緒にあんなことを……)
想像したシエラは、顔を真っ赤にしてしまう。
そんな彼女から、ミラーカは目を離せなくなってしまって。
こうして、彼女を自分の家に招待したのは、シエラが心からそう望んだからだが、それだけではない。
(ああ、あたし、シエラが望むことを何でもしたいって思ってる)
意識すればするほど、この思いは止められなくなっていく。
ミラーカの目には、シエラしか入らなくなってしまう。
彼女はとても明るい笑顔を振りまいているが、その裏ではどこか危うさも感じさせる。
(シエラを、支えてあげたい)
これまで、可愛いなと思う女の子はいた。
ミラーカも彼女達にいいなと思って、手を出すこともしばしばありはした。
だが、シエラはそんな女の子達とは違う。
彼女の求める事、喜ぶ事なら、何でもしてあげたい。
――確か、シエラはさっき、街で何て言っていたかしら。
高まる鼓動。もう、ミラーカも我慢ができずに……。
「いいわよ、シエラ」
「えっ?」
徐に言われたその言葉にシエラも戸惑ってしまうが、そんな彼女の手をミラーカは優しくとって。
「慕ってくれるんでしょう、あたしのこと」
昼間、街角でシエラは自分のことを求め、告白してくれた。
だから、これはその返事。
「……いいよ。シエラが望むなら」
「ミラ様。……嬉しい」
手を繋ぎ合う2人はそっと顔を寄せ合って。
また少しだけ、その距離を縮めていくのだった。
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始まる2人の交際。
恋人同士になったシエラとミラーカはイレギュラーズとしての活動の合間に会うといった形から、時間が合えば常に一緒というくらいにまで関係性を深めて。
お茶する際に対面していた席も、隣同士になるくらいに近づいて、互いの顔を間近で見つめ合う。
(ミラ様賢い、可愛い、優しい、愛情深い、一途、いい匂い)
近づいたときに漂う甘い香り、その髪も肌も、他者に対する慈しみも、自分に対する思いやりの気持ちも全て、何もかも。
シエラはミラーカと接する度に、自らの中に占めるミラーカのウェイトが急激に大きくなっていくことを実感する。
ミラーカもまた、その瞳にはもうシエラのことしか映ってはいない。
(もう、この気持ちは抑えられない。……抑える必要なんてない)
だって、こんなにもシエラのことがどうしようもなく大好きになってしまったのだから。
他の子なんて、もういらない。シエラだけいればそれでいい。
恋人になってまだ数日だというのに、すでに2人は互いを思う気持ちをどんどん高めていく。
2人の思いはもう誰にも止められない。
互いに求め合う彼女達の関係は、恋人になってすぐ変化が見え始める。
常に求め続けるシエラ。そして、そんな彼女へと与え続けたいミラーカ。
吸血鬼の血を引くミラーカは、シエラを自分のものへと。
シエラはそんなミラーカを羨望し、彼女が与えてくれるもの全てを許容しようとしていた。
たった数日であっても、2人はとても濃密な時を過ごして。
ミラーカが主、シエラが従となり、彼女達は主従恋人関係となっていたのである。
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それからすぐに、彼女達はデートの日取りを決めていた。
初めて出会ってからこれまでも、合間にお茶したり、お泊りしたりしてはいる。
しかし、改めてデートとなれば、話は別。
デートという言葉の響きだけで、ミラーカはドキドキしてしまう。
彼女に今日という一時をいっぱい楽しんでもらいたい。
そして、2人のこれからの為に。
ミラーカの心臓はトクトクとその時を待ち望み、鼓動を高まらせていく。
「シエラ、待たせたわね」
「全然。ミラ様の為なら、私、何時間でも待つよ」
そんなけなげなシエラの態度に、ミラーカは頬を緩める。
シエラの表情、仕草、その一つ一つ全てが可愛らしい。
そのシエラは、ミラーカが自分を求めてくれることに喜びを感じ、どこまでも彼女についていこうと感じさせる。
――今日は、ミラ様と一緒に思い出を作ることができる。
それがシエラには純粋に、この上なく、嬉しい。
ともあれ、2人は幻想の街を楽しく一緒に歩き回り、ドキドキしながらも楽しくデート。
この間、買い損ねたお洋服などにも興味はあったが、ミラーカが最初に向かったのは、アクセサリー店。
確かに、装飾品ではあるのだが、ミラーカが選んだのは、イヤリングやペンダント、腕輪といった女性らしさ、可愛らしさを際立させるものではなく。
「これなんて、どうかしら?」
「これって……」
それを目にしたシエラは感激のあまり涙すら浮かべて。
それは、『Millarca's Ciera』と刻印されたプレートがついた銀製の装飾首輪。
自分のものになりなさいという、ミラーカの意思表示なのだと、シエラはすぐに察する。
すでにミラーカは特注で、その首輪を頼んでいたのだろう。
首輪についていた青紫色の石は、シエラが生まれた12月の誕生石でもあるタンザナイト。
その石言葉は『幸福な夜明け』、『甘美な愛』だ。
ミラーカは己の独占欲を、この首輪で示す。
「わあっ……」
うっとりとした表情で首輪を見つめる愛おしいシエラの為にと、ミラーカは彼女の手を引いて。
「少し待って。その前に……」
この首輪にふさわしい衣装の選定を。
ミラーカは嬉しそうに、次の店へとシエラと共に向かっていく。
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2人は次に訪れたのは、とあるブティック。
最初、彼女達が出会った際に集まった女性達が語らっていた店の1つだ。
比較的、可愛らしい洋服が多く、利用客も10代から20代前半が多めの印象だ。
ここでは、ミラーカがシエラの分を選ぶだけではなく、シエラもミラーカの衣装を見繕っていた。
「あっ、これなんてどう?」
シエラは自信をもって差し出したのは、黒いゴスロリ服。
――気品を感じさせるミラ様が纏えば、きっと似合うはず。
頬を赤らめるシエラはすでに、この衣装を着用したミラーカを想像したのだろう。
「ふふ、ありがとう」
それを手に、ミラーカは嬉しそうに店内を舞う。
自らに酔って、オーバーリアクションに振舞うミラーカ。
その姿に目を細めるシエラ。いつの間にか、ミラーカはその衣装を纏い、彼女へと白いゴスロリ服を差し出す。
「それでは、試着してみるね」
今度は、シエラが試着室へと入っていき、そのゴスロリ服を着てみようとすると……。
「ちょっといいかしら?」
着替え途中の中、入ってきたミラーカ。
その手には、先程の首輪が握られていて。
「さ、シエラ。つけてみて」
ゴスロリ服を纏う前に、その首へとひんやりとした感覚が。
ただ、シエラにとっては、待ち望んでいた枷。
じゃらりと鳴る鎖が一層、拘束を実感させる。
――これで、わたしはミラさまのものに……。
ミラーカから『証』をもらえることに、シエラは並々ならぬ期待を寄せて。
――これからずっと、ミラ様に心から尽くして、私の全てを……。
その先を想像したシエラは、体の芯から恥ずかしさを感じて全身真っ赤になってしまう。
「その……すっごく似合ってる。可愛いわ」
首輪だけでなく、純白のゴスロリ衣装を纏ったシエラの姿を、ミラーカは絶賛する。
その姿を自ら鏡で確認したシエラは、恍惚と感情で身震いしてしまって。
「ミラ様、私、ミラ様の物になれた……嬉しいよぅ……」
――これで、ずっとミラ様の生涯尽くすことができる。
その首輪はさながら、ペットを思わせる。
しかし、服従し、忠誠を捧げることができる喜びに、シエラはその身を打ち振るわせてしまう。
「シエラ、貴女を大切にするわ。ずっと、ずっと……」
好きなモノを拘束する背徳感に、ミラーカは悦びを見出す。
彼女もまたペットのように愛らしいシエラを溺愛するからこそ、首輪を装着させたのだ。
それはミラーカにとってちょっとした意地悪ではあったのだが、シエラはそれすらも全て、ミラーカの愛だと許容してみせる。
その首輪は2人の特別な関係を示すもの。
例えるなら、彼女達にとっては結婚指輪にも似ていて。
2人だけの儀式はそのままその空間で続き、互いの想いを募らせていく。
シエラのゴスロリ服の肩の部分をそっとはだけさせたミラーカ。
彼女はそっと吸血鬼の牙を、シエラのきれいな白い肌、鎖骨の上へと突き立てる。
「あ、ミラ様……ミラ様ぁ……」
シエラの体内に流れる赤い血を、ミラーカは美味しそうに喉へと流し込む。
その衝動は、彼女に抱く恋愛感情と直結している。
愛しい人に求めるキスと同等、いや、ミラーカにとってはそれ以上のこと。
シエラの血がミラーカの為に。
何をされても、シエラにはミラーカの行いの全てが歓喜に変わる。
互いを求め、求められ、刹那とも永遠とも思える夢心地のような時間が流れて。
「シエラ、あたしの愛しい人。もう離さないわ」
「嬉しい……こんなにも、私のことを……。ミラ様ぁ……」
あまりに好きすぎて、その肌が触れ合うだけで。互いをぬくもりを感じるだけで。互いの存在を確認し合うだけで、満たされる。
血を吸うのを止めたミラーカ。
その味を一通り堪能した彼女は、少しだけ寂しそうな顔をしたシエラの口へと自らの唇を重ねていく。
黒と白のゴスロリ服を着用したまま、2人はお会計を済ませて店の外へ。
歩く度に鳴る銀の首輪に繋がれた鎖。
その日、シエラはミラーカの家へと招かれて。
鎖で繋がれた愛を、ゆっくりと育んでいくのである。