PandoraPartyProject

SS詳細

貴方を抱かせて欲しい

登場人物一覧

エディ・ワイルダー(p3n000008)
狗刃
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
グレイル・テンペスタ(p3p001964)
青混じる氷狼
天狼 カナタ(p3p007224)
夜砂の彼方に

某日某日
『ブルーブラッドの男性を抱かせて下さい。○○の牧場主』
「……なんだこの誤解を招きそうな依頼書は」
 掲示板に張り出された依頼書を目の前にして苦い顔をするエディ・ワイルダー。
 単にブルーブラッドの抱き心地を気に入った動物好きのカオスシード達がその味わい深さをまた体験したいという依頼なのだが、事情を知らなければなんとも如何(いかが)わしい。ローレットは『そういう仕事』の斡旋所ではないのだぞ。と、エディがそんな風に表情を曇らせている。彼が依頼書を見つめて悩んでいるといつものごとく女性ギルド員のひそひそとしたウワサ話が聞こえた。
 苦い顔をしながら片手で顔を覆うエディ。十数秒ほど悩んでから、以前この牧場に関する依頼を担当したイレギュラーズの名前を呼びつけた。
「……ぐーれーいーるー。先日の人たちから追加依頼だ」
 ちょうど近くで報酬の精算を行っていたグレイルが振り返る。マジメな会計話を前に耳が少し倒れていたが、エディが呼びつける声を聞いてその耳がぴょこんとまっすぐ立った。
「あ……エディさん……どうしたの……? あの街で似た事件……起きたとか……」
 また困っている人が居るのだと思い、大真面目に依頼の内容を聞き出そうとするグレイル・テンペスタ。その様子を見て、なお更苦い顔で黙り込むエディ・ワイルダー。
「あいつら他人気遣う分、必要以上に苦労してるよなぁ」
「俺たちも人の事言えないかもしれないが」
 報酬の分配を一緒に行っていたカナタとウェール。エディの様子からおおよそ察しがついて、いつ二人に助け舟を出そうかと苦笑しながら見守っていた。

「それで、結局全員で行くわけか」
 ブルーブラッド達(正確には獣人のウォーカーを含む)は男性四人で向かう事を決め、目的地である牧場街にたどり着いた。
「仕方無いだろう。万が一の事があってもかなわん」
「まぁ、エディさんの心配には同意するが……」
 ウェールとエディが複雑な顔をしながら話しているのを聞いて「……万が一の事?」と不思議そうに首をかしげるグレイル。
「おおよそ前に退治した魔物の仕返しを危惧してるんじゃあないかな。くはは」
 カナタはミソジ二人の心配事を理解しつつも、適当な事を言いながら一笑に付す。そうやって余裕を保っていたのであるが、直後に一瞬たじろいだ。
 待ち合わせの場所に到着すると老若男女問わず大勢の人間が屯(たむろ)している光景が見えたからだ。グレイル、ウェール、エディも同様に。
 ……イヤな予感がする。
 それでも、何事かあったのかと思いウェールが「何か事件でも?」と紳士的に問いかけた。その声に牧場主の男性は振り返って、イレギュラーズたちの顔を見るやいなや、喜んだ顔で大声をあげた。
「皆のもの、来たぞ、我らのもふもふが!」
「……皆のもの? え??」
 四人とも戸惑いながら、どういう事なのかと尋ねようとする。しかし多勢に無勢。一般市民たちに取り囲まれて、そのまま屋内に担ぎ込まれる事となった。

「まぁ、ステキなブルーブラッドさんね。大きくて抱き心地もよさそう!」
 俺はブルーブラッドではないんだが。
 カナタはそんな事を内心でつぶやくが、自分より若そうな女性が初々しく喜んでいる仕草を見て、わざわざ興をそぐ事もないかとその点については何も言わない事にした。
 周囲を見回してみると、ウェールやグレイルは相手が違えど同じような形でカオスシードの牧場関係者たちに抱かれそうになっている。言い方を変えると“純粋な意味”で抱き枕扱い寸前。エディは珍しく抗議を申し出たせいで物の見事に別室行きだ。
「この時期に抱きつかれたら暑くてかなわないというのは理解するが……」
 慌てた様子で抗議を続けるエディを見送りつつカバンから自前のブラシを取り出して、身だしなみを整える。
 カナタはこの中でも、他人に抱きつかれる事に抵抗がない。とはいうのも、彼の出身世界では獣人という存在は一般的なものではない。だから獣人の姿を押し隠すように過ごしてきた。
「トリミングも自分もしてるのね。えぇっと、この毛並みなら使っているシャンプーは……」
 それがこの世界はどうだ。同じ獣人が居るどころか、こんな風に歓迎されるのだ。自分の存在をおおいに認められているようで、カナタは悪い気分はしなかった。
「毛並みよりも香りが少ないのを選んでいるな。香水とかもキツくてな。アンタも若い内から気にしといたほうがいいぞ」
 相手の女性は「そうね、家畜の毛並みは子供の時期から大事だものね」と大きくうなずいてから、数秒たってその言葉の意味を理解し、自分の腕に鼻を当てている。
「……私ってオオカミさんにとって臭くないかしら?」
 カナタは、茶化(ちゃか)すようにくつくつと喉を鳴らした。気取った香水を付けてないこういう女性の方が、嗅覚が敏感な獣人にとって気が楽だ。
「もう! …………ねぇ、ブルーブラッドって服の下まで体毛が生えてるのかしら。ちょっと脱いでみせてよ」
「服を脱いで欲しい? まあ、見せて恥ずかしい体はしてないつもりだから構わんが」

 上半身裸になったカナタを見て、とてつもなく不安な表情をする者がいた。グレイルである。
 先方に下心が無いのは分かっているが、女性の手前で脱ぐというのはグレイルの価値観としては強い抵抗がある。
「どうかしたのかい?」
 男性の相手でもそれは同じだ。表情をこわばらせている内に、カオスシードの男性に心配そうに尋ねられた。
「……いえ……なんでも……」
 グレイルは口籠もりがちに応える。自身よりも随分と大柄で筋肉質な男性。そもそも見知らぬ相手に抱きしめられる時点で少々の抵抗があり、無遠慮に羽交い締めされるのではとも考えを巡らせる。
 だが、想像に反してカオスシードの男性は理性的に答えた。
「職業柄、動物の表情を視るのは得意でね。ウチの子たちにも抱きつかれるのに抵抗ある子は多いさ」
「…………」
 ここにおいて抵抗があるのを見抜かれたのであろう。獣種を抱きしめたいという依頼を受けた手前、グレイルはどうにもバツが悪い気がした。カオスシードの男性はグレイルと目線を合わせるように膝を突いてから「優しくするから、どうかキミを抱かせてくれないか?」と申し出た。
 …………言葉だけ受け取ればすさまじい誤解が生じそうなのだが、男性の表情を見るに、まぁ、下心は無いのだろう。
 とりあえず害意は無いと判断したグレイルは腕を大きく広げて「……どうぞ」と待機したが。
 その瞬間にエディが連れて行かれたはずの別室で「やめろ。やめてくれ!」と穏やかでない叫び声が聞こえた。グレイルの毛が思わずぶわっと逆立つ。
「はっはっは、あっちはあっちで楽しんでるようだね。では私も遠慮なく」
「……っ! ……っ!!!」
 とっさにエディを助けに行く暇もなく、グレイルはカオスシードの男性に力強く抱擁されるのであった。

「まったく、おとなたちはさわがしいのだわさ」
「おとーさんたち、ブルーブラッドのひとすきだもんねー」
 ウェールを抱きしめている数人の子供が、多少オトナぶった振る舞いでその惨状を眺めている。
「そういうキミたちもブルーブラッドが好きなのかい」
 尻尾を口で喰(は)まれたり、ヒゲをぐいぐいと引っ張られたりして困った顔で笑っているウェール。二、三歳の幼児も混じっているこのグループは物理的に一番大変だったが、父親としての経験がいくらかある分、子供相手は気が楽である。
「ブルーブラッドじゃないわ。もふもふが好きなの」
「おとーさんたち、あぶないってちかづけさせてくれないもん」
 内心で納得するウェール。馬や牛に蹴られて大怪我をする事故は想像に容易い。手慣れた大人ですら動物相手の抱擁は慎重になるであろう。だからこそ自分達でおおいに欲求を解消、というのは理解出来るが……。
「顎の下やめ……グルル……」
 カナタが上半身裸で喉元を愛撫(あいぶ)され、若い女性に良いようにやられているのはなんと表現したものか。横で眺めていたグレイルも少々恥ずかしそうな、気まずそうな、そういう形で顔を伏せた。
「お前ら、そんな顔で見るな、そして言い触らすなよ!」
「安心しろ。お互いサマだ」
 カナタの頼みに顔を背けて、幼児の方に手をやるウェール。
「生え変わりの時期だからな。あまりしゃぶっちゃダメだぞ」
 そう言いながら幼児を抱きかかえて、ポンと膝の上に乗せてやった。『とても大柄な動物』の体毛に囲まれてあって、膝上の彼は御満悦そうに笑っている。
 だがしかし、面倒な事に周囲の子供たちはそれをヨシとしなかった。「この子だけずるいわ!! わたしもすわらせてよ!」「ぼくも!」と、あれやこれやウェールにせがみ始めたのである。
 ウェールにとってはほほえましいやら騒がしいやら。ともかく、大げさに腕を組んで彼らに告げた。
「逃げないから俺を奪い合わずに順番を守れよ。前から抱いてる間、いい子にしてるなら
特別に俺の後ろの尻尾ももふらせてやるからな」
 そう聞いて行儀良く並び始める子供たち。彼らだってモフモフしたものが好きなのだ。わいの、わいの。

「換毛期ってもな、俺はまあ、人間……種ベースの人狼だ」
 牧場関係者たちも抱擁に満足したのか、その余韻を楽しみながらブルーブラッド(とウォーカー)たちの日常について尋ねている。
 今話しているのはカナタだ。彼は人狼という種族であり、ブルーブラッドとも体毛事情が違う。こういった世間話も、獣人好きにとっては興味深い案件だ。
「人寄りの性質なのか年中余り変わらんな。この時期暑くて鬱陶しいがな……」
 それを聞いて、ウェールとグレイルは少々羨ましそうにした。
「俺は身体が大きいから抜け毛でぬいぐるみがいっぱい作れそうなぐらい抜けるし」
「僕も……時期になると……床の掃除が大変……」
 獣人たちにとって換毛というのは悩ましい問題であった。それこそ野生の動物であればあまり気にする事はないが、屋内に寝泊まりするとなれば事情は一変。グレイルの言っている通り気づいたら床が毛まみれだ。だから掃除の手間が減るというのは、純粋に利点だ。
「普段からブラッシングを心がけるしかないな。二人とも毛がボサボサだぞ」
 カナタにそういわれ、自分たちの姿を見た。グレイルは力強くなで回されたのであらぬ方向に癖が付いて。ウェールにおいてはヨダレまみれでぐちゃぐちゃだ。
「……ウェールさんのは……手入れが大変だね……」
「グレイルの方も……いや、俺はシャンプーで洗わないとな。息子と同じヤツとか今思うと使いたかっ――」
 世間話で笑いあっているところで。三人はハッと思い出した。
 そうだ、エディはどうした? 心配して依頼者たちに尋ねようとしたところで、エディ自らは別室の扉を開けて現れた。
「……エディさん……よかった、無じ――」
 彼の姿を見てグレイルは絶句する。カナタは耐えきれず大笑いを始め、ウェールは「南無三」と同情した。

「……なぜ俺は女性モノの服着せられているんだ?」
「この前の事件で、女モノがとてもお似合いでしたから……」
 げっそりとした表情でそんなやり取りを婦人と行うエディ。カオスシードからしてみればブルーブラッドの性別は分かりにくい側面だが、同族たちからしてみれば非常に滑稽(グレイルにとっては戦々恐々)な一場面であった……。

  • 貴方を抱かせて欲しい完了
  • GM名稗田 ケロ子
  • 種別SS
  • 納品日2019年08月26日
  • ・エディ・ワイルダー(p3n000008
    ・ウェール=ナイトボート(p3p000561
    ・グレイル・テンペスタ(p3p001964
    ・天狼 カナタ(p3p007224

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