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SS詳細

夏と秋の境目に

登場人物一覧

ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし

 茹だるような暑さも、日が落ちれば少しは和らいで。街の中はまだ生ぬるい空気が流れるけれど、シャルル(p3n000032)が足を踏み入れた森の中は涼しい空気に満たされていた。
 どこか安心するようにほぅ、と小さく息をつき。シャルルの歩みとともにランタンが小さく揺れる。
 散歩もこんな時間なら悪くない──そう思った矢先、シャルルのすぐ目の前を"何か"が横切った。
「……っ!?」
 きゃらきゃらと小さな笑い声。月のカケラを思わせる金色の砂を振りまいたそれは、楽しそうにくるりとシャルルの周りを回った。
「妖精……?」
 シャルルの呟きへ答えるかのように、妖精は彼女の頭上へ金の煌めきをぱっと落とし。またくるくると回ると、シャルルから離れて──止まった。
 首を傾げれば、妖精はまたシャルルの元へやってきて、周りを飛ぶと離れていく。まるで、付いて来いと言うかのように。
 シャルルが足を踏み出せば、妖精は同じだけの距離を保って先導する。そうして付いて行くこと暫し、不意にシャルルの頭へ声が響いた。
『あら、シャルル』
「……!?」
 思わず頭へ手をやり、辺りを見回すシャルル。のんびりふんわりした声は、何やら聞き覚えのあるものだ。
『こっち、こっちよ』
 声のみで示されても──そう思った矢先、先導していた妖精がシャルルの視線を攫っていく。誘われるように視線を滑らせると、そこには真白な鹿が佇んでいた。
『ごきげんよ、鹿よ。ワタシ、ワタシ。ポシェティケト』
「……え。ポシェティケト……?」
 脳内に響くポシェティケト・フルートゥフル (p3p001802)の声に、シャルルは戸惑いを隠せない。見たことがあるのは可憐でふわふわな少女の姿ばかりだ。
 けれどもかの鹿がポシェティケト──ただの鹿でないと分かれば、この声にも納得がいく。おそらくテレパス系統のそれだ。
 シャルルの様子に、ポシェティケトのくすくすと笑う声が響く。
『ほら、ワタシ、鹿だから。こちらのほうが、落ち着くの。召喚を受けるまでは、ずっと、鹿ぐらしを、してたのよ』
 新芽と共に、心地よい場所を転々と移動する生活。地衣類の絨毯で日向ぼっこをして、夜の森も歩き回って。彼女が持つふわふわのあしは、そんな移動の最中に植物を傷つけてしまわぬように足跡を残すのだ。
「もしかして……ローレットにいる時以外は、こうして?」
『ずっとでは、ないけれど。森も、街も、時間が経つと、変わるから』
 どちらも少しずつ。でないと、変わった様相に驚いてしまう。
 街は何もかもが魅力的で、賑やかな人も品物を売る店も新鮮で。森は時間が経つほどにその表情を変えて、1度たりとも同じものはない。
『シャルルも、ぼーっと、なさる?』
 ここが空いている、と告げられたそこは、座ったポシェティケトのお腹のあたり。目を瞬かせたシャルルは、その言葉に甘えて腰掛けた。
「……立派だね」
『ふふ、そう? ありがと、シャルル』
 顔を上げれば、ポシェティケトの立派なツノが目に入る。素直に口に出せば、少し顔を向けたポシェティケトが笑う気配がした。
 妖精がくるりくるりと周囲を周り、ポシェティケトのツノで一休み。かと思えば、シャルルの髪先で遊び始める。
 背中越しに伝わるポシェティケトの様子にシャルルも倣って、ぼうっと妖精を眺め見て。
「……ポシェティケト」
『なあに、シャルル』
 のんびりとした口調に、ほんの少しの眠気を感じながら。シャルルは再び口を開く。
「こういう時間も、いいね」
 地面を感じ、自然を感じ、天候を感じる。邪魔するものはなく、時折風が顔を撫ぜていくのだ。
 ポシェティケトはシャルルの言葉に肯定すると、首を巡らせて彼女を見る。
『ワタシね、どの季節も、好きよ』
 春はあちらこちらから、新芽がぴょこぴょこと生えてくる。そんな新芽を追いかけていると、やがて夏の──新芽が成長した匂いを、胸いっぱいに吸い込むのだ。
「秋は……紅葉かな」
『ええ。鹿ね、新芽や、地衣類や、花畑を。潰さないように、そっと歩くの。でも、』
 1度言葉を切ったポシェティケトは視線を周りの木々へ移した。今は生き生きとした緑で彩られているが、あと少しすればこれまた鮮やかな赤や黄で染まるのだろう。そして、はらはらと落ちていく。
 落ち葉ばかりはポシェティケトの足でもどうにもならない。だからさくさくと音を立てて、けれどその下にいるだろう小さき命を潰してしまわぬように、落ち葉の上を進んでいくのだ。

 夏と秋の境目も、もうすぐ。

 ふと、シャルルの体が重たくなったように感じた。最もポシェティケトの姿では、大した負担ではないのだけれど。
『──シャルル?』
 そう呼びかけてみるも、応えはない。代わりに聞こえるのはすぅすぅと空気の動く音。
 寝息、である。
 再び首を巡らせれば、やや体を丸めたシャルルが寄りかかっている姿が見えた。頬をポシェティケトの体へつけた姿勢は寝息を感じるものだから、ほんの少しばかりくすぐったい。
 眠る彼女へ身を寄せるようにして、ポシェティケトもまた目を閉じる。
『鹿が、温めてあげましょう』
 夏といえど、夜の森は少し冷えるから。鹿の姿であるポシェティケトはまだしも、ヒトの姿を取るシャルルは体調を崩してしまうかもしれない。
 真っ暗になった視界。ふわりと漂う香りに小さく鼻をひくつかせる。
(シャルルの、匂いね)
 そう思いながら、ポシェティケトの思考もまた眠りの淵へ落ちていった。

 彼女らが目覚めるのは、世界が眠りに包まれる時刻か。それとも世界が目覚めを迎える時刻か。或いは。
 それはその瞬間が来るまで知り得ないこと。だから、それまで──おやすみなさい。

  • 夏と秋の境目に完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2019年08月25日
  • ・ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802

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