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    生転の霹靂
  
登場人物一覧
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 其の問いに答える
 屠り、貪り、斬り捨てど。
 殴り、蹴り、貫けど。
 嗚呼、足りない。足りないのです。
 此の仕打ちは仲間の怒り。
 此の戦は我らの嘆き。
 
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 剣の巫女。嘗てそう呼ばれていた乙女はもういない。
 怒りに身を染めた剣鬼。剣軍の統率者。
 誰も救われることは無い。
 孤児となった子を。異能者であるというだけで殺した世界を、許さない。
 生、転ずる儘に。堕つ。今生へ別れを告げませう。
 2---年、日本、都市名『東京』。
 其処で起こった『大災害』の話。
 
 剣の巫女は笑うことを止めた。
 安寧を。永遠に交わらぬ昼と夜のように、違う世界に生き続けようと。静かで閉鎖的であろうとも、どうか彼らの未来にさいわいあれかしと願い続けた
 正しき者の唇は、叡智を陳べ、その舌は正義を物語る。
 ――
 ――
 誰も教えてくれやしない。誰も興味がないからだ。
 誰も興味をもちやしない。誰も解ってないからだ。
 名前の無い手記のは未だ綴られることは無い。
 滅びでしょうか。救いでしょうか。其れすらも解らない。
(
 干渉せず。
 奪わず。
 殺さず。
 そう慎ましく、静かに、穏やかに生きることを求めたのは
 交差した横断歩道の中央に、武器を握った。或いは独特の髪を、瞳をした数名が固まり、立っていた。
 点滅。
 違和感を感じた人々がざわめきを生み、どよめき、囁いた。
「
 剣の巫女の
 中年の異能者も、まだ七つになったばかりの異能者もいた。
 想いは一つだった。
 ――
●
 踏み出した一歩は疾風、煌めく銀刃に悲鳴混じりの叫喚奔る。
 蜘蛛の子を散らすように四方八方へ逃げゆく
 ぐん、と頭を下げ踏み込み、深呼吸。
 襲撃だ、反乱だと叫ぶ声。ものを投げてでも、車でぶつかってでも逃げようと必死で。血走った眼が異能者たちを見つめる。
 能力を持っていること以外は普通の人間と何ら変わりない。
 友も、両親も、きょうだいも、先生もいた。
 そんな当たり前を脅かしたのは、お前たちだというのに。
 呼吸と同時に動く肺。痛み、痛み、痛み。握った剣越しに伝わる『肉を断っている』という心地に吐き気を堪えた。口内を噛めば、じわりと血の味がして。じんじんとした痛みが、怒りに飽和していく。
 えいゆうとうたわれたもの。
 蓮杖綾姫と名のついた
 優しくまじめで、誰にも分け隔てなく接し。
 刀で。剣で。七支刀で。握らずとも其れらが踊って。でもやっぱり憎いから此の手で殺したくて。
 斬って。斬って。斬って。斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って。
 そうしてもそうしても沸いて出てくる人の数に、嫌気がさした。
 嗚呼、私達の何倍も居る癖に。
 男も女も子供も老人も皆斬った。首を裂き腹を断ち腕を飛ばし足を斬り。それでもそれでもまだまだ足りない。横断歩道は告げる。
 きゃあきゃあと喚く声が五月蠅い。虫だってもう少し上手く死ねるのに。
 ――
 ――
 頭の中でぐるぐる巡って。解らない。解らないったら。だから、『こう』しているのに。
 嗚呼そうだ、声帯を切ってみよう。それから殺せば、静かかもしれない。
 でも手間だな、一人に割く時間は少なくしておきたい。
 首事飛ばせば簡単だ。『そう』しよう。
 剣軍の統率者は瞬いた。権能。刃を従えるもの。神の御業とも呼べる其のわざを。
「愛しい刃たち。どうか其の鋭き刃で
 愛しい剣の巫女の為ならば。
 どうか泣くのをおやめなさい。
 どうかえづくのはおやめなさい。
 どうか、どうか。
 私たちはお前に笑顔になって欲しいのです。
「……有難う」
 剣が舞う。踊る。
 刀が断つ。斬る。
 鋏が別つ。屠る。
 全ての刃が。彼女の味方をしているようだった。
 加えて。
 彼女が手を翳せば。塵が凝固し、空立つ刃となって。即席の刀剣として、彼女の僕となる。
 彼女は笑わない。笑うことは無い。けして。
 唯黙々と作業をこなすかのように、斬って断って切って絶ってを繰り返していた。其れで救われることは無いと知っていても。
 返り血が彼女の和装を赤く染めた。黒い服に段々と死の匂いが刻まれていく。血の匂いが染みついていく。
「こんなことをしていいの?」
「殺して殺して殺して殺して殺して殺し続けて」
「『皆』もこんなこと望んでないかもしれない」
「ゆるせない。
「痛いって。やめてって」
「あんな小さな子に爆弾をのませておいて」
「こんなの
「やられたら、おなじようにかえさなきゃ」
 ――
 ――
「――――わからないから、殺さなきゃいけない」
 愚かなイキモノがいるからこそ、くだらない争いが起きるのだ。
 
 其れから、
 飛び降りれば。
 燃えれば。
 溺れれば。
 首を吊れば。
 血を失えば。
 身を内側から散り散りにすれば。
 死ぬことも、叶いましょう。
 だから殺せばよいのです。死ねば、よいのです。
 何も考えずに。ただ殲滅すれば、よいのです。
「おねがいします、」
 なにも
「どうか」
 かんがえ、
「このこだけはッ、」
 ず、に。
「××××××」
 鮮血。赤。
 どうしようもない程に心を揺さぶってくるものだから『つい』酷く斬ってしまった。
 ぐちゅぐちゅと臓器が汚い音を立てる。蹴っても蹴っても反応はしない。嗚呼、死んだのか。
 命乞いをできる立場でもない癖に。
 奪った側の癖に。
「先に子供の命を奪ったのは、どちらだったか。解りますか」
●
 其の剣は空を薙ぎ
 夜のネオンが消え、聳え立つビル群は崩壊し、硝子の雨が降り注ぐ。
 信号は
 迷いはないと言えば嘘になる。口に残る胃液の味も、噛み締めた口内の痛みも、未だ引くことは無い。唯、其れは私だけが知っていればいいものだ。『そう』思えば心は幾分か軽くなって、立ち止まることも気にならなかった。殺戮をしたとて、其れは
 望んだ先が其処に在ると、解っていたから。
 七支刀煌めき、世界は滅びを刻む。
 剣の巫女の権能をもってすれば。逸話顕現や伝承再誕を行えば。局地的な滅びを齎すことができる。
 ならば、逸話を再現しよう。
 ならば、伝承を再誕しよう。
 剣の英雄よ。百戦錬磨の達人よ。
 刀の勇者よ。世界を救った超人よ。
 どうか其の力を我が身に貸し給へ。どうか、其の力で世界を、壊し給へ。
 剣の巫女は、『神剣を奉ずる』ことにより、世界の繋がりを断ち斬った。
 此れが、滅びの物語『絶滅戦争』の第一頁。
 報われることのなかった、少女の涙の物語。
おまけSS『とある誰かの小さな願い』
 つぎにあやひめがみるけしきが、どうかうつくしいものでありますように。

