PandoraPartyProject

SS詳細

草刈る日 すべては思い出となる

登場人物一覧

ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593)
キールで乾杯
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯

 1階の談話スペースに柔らかな声が聞こえた。此処は、Apartments du cidreアパルトマン・ドゥ・シドル。ヨーロッパの煉瓦造りのアパルトマン。朗らかな表情を浮かべた紫色の髪の美女と、彼女の恋人である穏やかな獣種の少年が二人だけの会話をしている。昨日、訪れた博物館の話を──思い出に買った魚を模したガラスの香立てを仲良くテーブルに二つ並べながら。

 夕暮れ時、オーナー婦人がフルーツタルトを持って訪ねたのはアーリア・スピリッツ (p3p004400)の部屋だった。
「こんな時間にごめんなさいね。突然で悪いのだけど……明日、裏庭の草むしりをお願いできないかしら?」
「裏庭?」
 呟き、アーリアは思い出す。裏庭の伸びきった草のことを。
「ええ。勿論、大丈夫よぉ! ね、ミディーくんも」
「アーリアさん。日差しというのは、ひどくわたしを痛めつけるのです。お師匠さまも嫌っていました」
 ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク (p3p003593)は至極、真っ当な顔で不参加の意思を示せば、断られるとは思わなかったのだろう。アーリアは目を見開いた。
「えっ!? ミディーくん、ほら……え、ええとぉ……運動の後はお酒とご飯が美味しいって言うじゃない?」
「アーリアさん」
「はい」
 身構えるアーリア。ミディーセラはくすりと笑う。
「運動でしたら、べつの運動の方がわたしはとても、とくいですけれど」
「ミディーくん!?」
「でも、アーリアさんがどうしてもということでしたらわたしもそばで、頑張らないといけませんわ。ね、アーリアさん?」
 ミディーセラは目を細め、楽しそうにぺろりと舌を出した。

 昨日より暑い日だった。
 「アーリアさん。わたしはもう、とけてしまいそうです」
 先端の曲がったとんがり帽子を被りなおしながらミディーセラはアーリアを見上げる。
「ミディーくん、頑張りましょ! 今日は魔法もほうきも封印よぉ!」
 オーナー婦人から借りたお揃いの軍手をつけ、アーリアは裏庭を眺めた。草は腰まで生え、かくれんぼに最適だった。
「ええ、ええ……頑張りますとも」
 閉じかけた瞳を雑草に向けミディーセラが屈めば、アーリアはミディーセラの隣で長く伸びた草の根元を掴んだ。
「ぐっ!? お、重い! でも、容赦なく抜くわぁ!」
 アーリアが豪快に雑草を引っこ抜き、ミディーセラは時間をかけながらゆっくりと草を引き抜く。
「わたしは、困ってしまいます。狂暴な日差しが、わたしのうごきを止めるのです」
 ミディーセラの汗がぽたぽたと地面に落ちた。
「このあつさに……誰がたえれるのでしょう……」
 息を吐き、どうにか草をむしりとっていると──
「みでぃーくん! 見て、見て! 根っこ凄くない?」
 土が付いたままの雑草をぶらぶらと得意気に浮かせ、アーリアがにっと笑う。額に汗が浮かんでいる。
「まあまあ。久方ぶりに、そんなにながい根を見ました」
 ミディーセラは眩しそうにアーリアと根を眺める。
「でしょう? あっ! ミディーくん、バッタ! バッタがいるわぁ!」
 はしゃぎ、アーリアが指差す。
「それは見なくてはいけませんわ」
 草の間にを想像させるような、小さなバッタが一匹。太陽の光を浴び、輝いている。
「アーリアさん。しっかりと見えました。これは宝石のような、いろあいなのです」
 ミディーセラが呟けば、バッタはすぐに何処かに消えていった。
「綺麗でワクワクしちゃったけどバッタもお引っ越しよねぇ……きっと」
 少しだけ、しんみりする貴女をわたしはいとおしいと思うのです。気が付けば、見惚れ、心がおおきく揺れています。手を伸ばし、宝物のようにたいせつに、誰にも知られずに、しまっておきたいとわたしは不意に思うのです。アーリアさん。特別で、かわいらしいひと。手を引いてくれる綺麗なひと。かわいらしい一面を見せてくれるひと。
「きっと、良いすみかに移動できますわ」
 貴女を元気にしたくて。ミディーセラは真っ直ぐ、アーリアを見つめる。
「ふふ、そうよねぇ! じゃあ、草むしり再開! ……と言いたいところだけど、みでぃーくん、少し日陰で休まない? 熱くなっちゃった」
 アーリアは舌を出し笑った。汗が宝石のように零れていく。
「ええ、アーリアさん。わたしもおなじことを考えていました」
 ミディーセラは目を細める。風に触れた途端、その風からアーリアの香りがした。

 青い空に真っ白な雲が浮かび、何処からか風鈴の音が凛と響いている。恋人達は日陰に並んで座りカラフルな棒アイスを食べながら、もう片方の手はしっかりと互いの指に触れ、絡み合う。
「ああ、冷たくて生き返るわぁ!」
 アーリアは棒アイスをかじり、唸った。ハイボールに棒アイスを入れて、ごくごくと飲み干したいと思った。
「はい。アイスがわたしの尖りかけた心を、救ってくださいました……」
 ミディーセラは棒アイスの残りを口に含んだ後、アーリアの肩に自らの頭をゆっくりと乗せ、指先に力を込めた。あつくとも、離れようとは思わなかった。
「ふふ。ね、みでぃーくん。とっても幸せね……」
 アーリアは笑う。あついことが、なによりも嬉しいと思った。

 魔法もほうきもない草むしりは、驚くほど時間がかかった。熱くなった身体は冷たい海を求めている。
「ということで、みでぃーくん」
 心の声を伝えぬまま、アーリアはミディーセラを見つめる。
「アーリアさん?」
 ミディーセラは小首を傾げ、きょとんとする。
「物置からビニールプールを持ってきちゃった! へへ、これをこうしてこうするのよぉ!」
 ビニールプールの空気穴に練達製のドライヤーで、冷風をそそぎ込む。
「もこもこ、ビニールプールなのです」
「そうよぉ。夏はビニールプール!」
「ええ、ええ。そのようです。わたしはホースを持ってきますわ」
 それからすぐに、綺麗な水がプールに満ちホースがプールの中で踊っている。服が濡れぬよう、慎重に足を入れ、冷たさに声を上げた。
「最の高だわぁ!」
「ひんやり、やはりとてもすばらしい存在……ほら、ばしゃばしゃとお裾分けですとも」
 ミディーセラは水を手ですくい、アーリアの足に水をかけていく。
「もぉ、みでぃーくんってばぁ……お返し!」 
 アーリアは屈み、両手でミディーセラの足に冷たい水をかけ続ける。
「アーリアさん、アーリアさん。もっと、さっぱり、すっきりしませんか?」
「え? やっ、ちょっと!? え、ミディーくん!? ひゃっ、つめた!」
 アーリアが驚く。ミディーセラがホースを掴み、アーリアの身体に水をかけたのだ。
「……今日、ご飯の材料何にも買ってないんだけどぉ。ああもう! ほら、ホースを貸してちょうだい!」
 アーリアは水を滴らせ、ホースを引ったくるように掴み、ホースの口をミディーセラに向ける。
「アーリアさん……あっという間に、びしょびしょになりましたわ」
 濡れそぼった尾と身体から水滴が垂れていく。
「これでお揃い!」
 楽しそうなアーリア。ミディーセラは口を開いた。彼女が何も心配しなくてもいいように。
「アーリアさん、そんなときのために、実は、作っておいたものがあるのです」
「いつの間に!?」
「それは、ひみつです」
「えぇ~教えてよ、みでぃーくん!」
 アーリアはミディーセラに抱きつき、プールに倒れ込む。水飛沫とともに唇が重なりあった。
「アーリアさん、今日は、わたしのへやで……」

  • 草刈る日 すべては思い出となる完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2021年07月27日
  • ・ミディーセラ・ドナム・ゾーンブルク(p3p003593
    ・アーリア・スピリッツ(p3p004400
    ※ おまけSS『お部屋またはお風呂でのやりとり』付き

おまけSS『お部屋またはお風呂でのやりとり』

「アーリアさん、愛しています」
「えへへ……私も!」
「いえ」
「いえ?」
「わたしの方が……アーリアさんを、測定できないほどに……愛していますわ」
「──!! む、負けないわよぉ! 私もみでぃーくんが想像する以上に愛してるんだからぁ!」

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