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アーマデルとイシュミルの話~ハントユアハート~

登場人物一覧

アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
冬隣
アーマデル・アル・アマルの関係者
→ イラスト

「だあああああ! 止まれ、この! お手! おかわり! おすわり! いいから、じっとしてろおおおおおおおおおお!!!」
 大草原を走り回りながら、アーマデルは血管ブチ切れそうになっていた。エネミーは六ツ足でしっぽが二本の、犬に似た大型動物の群れ。オオカミほどはシャープさがなく、猛犬と言えるほど獰猛でもないまぬけな風貌。普段のアーマデルなら一撃で倒せる相手だ。だが状況が悪かった。
(こいつ犬のくせに連携とってきやがる!)
 犬のくせに、いや犬だから、か。狙いを一頭に定めて襲いかかれば横合いから別の個体が挟撃してくる。ならばとカウンターを狙えば今度は遠巻きに観察される。狙いがそれれば最初の一頭が強烈な頭突きを食らわしてくる。つかず離れずの群れでの行動、着実にこちらの体力を削ってくるその動き。負っているのは擦り傷程度だが、とにかくめんどくさいのでメンタルにクル。
「イシュミル! すこしは手伝え!」
「んー? 技官に無理を言うかね、ふつう。まあ回復くらいはしてあげるよ。あとはそうだな、応援でもするかね。がんばれーがんばれー」
「その気のない応援ほど腹が立つものはないんだぞ!」
 彼の保護者兼かかりつけ医はのんびりと草原に座り、銀の髪を風にあそばせながら野草を愛でていた。正確には愛でるふりをしている、といったところか。結局のところ、アーマデルが大犬の群れのおもちゃになっているのをおもしろがって見つめている。その黒い目隠しの下から。

 ことの経緯は単純だ。イシュミルが薬剤の原料がほしいと、アーマデルの腕を頼ったのだ。それを聞いたアーマデルの反応は「今度は何をやらかすつもりだ」だった。
 イシュミルは薄い笑みを浮かべ、情報屋のごとく地図をとりだし草地の一角を指差した。
「人聞きの悪い。薬の素材の採取だと言っただろう? なに、キミに採取なんて繊細な作業は期待していないよ。この辺りにはヒトを襲うモノが出るそうだから、そちらを頼むよ?」
「だからその結果できあがるものが……もういい。いつものことか」
「わかっているじゃないか」
「なぜそこでふんぞり返るんだ、嫌味だからな今のは」
「キミ程度の嫌味でへこむほど繊細ではないのでね」
「ああそうだな。そうだったな。まったくだ」
 わざとらしいため息をイシュミルの前でついてみせ、アーマデルは目的地へ向かった。そこはちょっとした丘を越えたところにある広い草原だった。風にそよぐ草がよせては返す波のよう。ところどころに立っている木々には果実が鈴なりになっている。まったくの手つかずの大自然の恵みが眼前に。アーマデルの故郷からすれば贅沢な風景だった。
「ピクニックにでも誘ってくれたのか?」
「だと思ってくれてもかまわないよ」
「……そうか」
 皮肉のつもりが、からぶりしたらしい。アーマデルはぷいと顔をそらした。頼られたのは、素直にうれしい。そのうえこんな言葉が聞けるなんて……。つんと尖らせた唇からぶっきらぼうな「ありがとう」が、こぼれそうになったその時だった、最初の大犬が現れたのが。
「……あれか」
 アーマデルは奮起した。簡単な言葉でいうと「よし、やるぞ!」と思った。イシュミルから期待されている。それがひどくうれしい。くすぐったい。なあにこの程度の魔物、一撃くれてやれば消し飛ぶだろう。そう考えた瞬間だった。
「そうそう、あれも素材のひとつだ。損なわないよう倒してくれるね?」
 イシュミルがそう言ったのは。

「そういうのは先に言え……!」
 おかげでアーマデルは無意味に走り回っている。このめんどうな動きをする魔物へ近づき、手加減した攻撃を当てねばならないのだ。頭にくるってものだ。
「スタミナが切れそうならこの薬草ポーションを飲むといいよ」
「走りながら飲めるかぁ!」
「立ち止まればいいじゃないか」
「総攻撃が来るだろ、ちょっと考えればわかるだろ!」
 もういい! と、アーマデルは中距離から正面にいる大犬相手に享楽のボルジアをぶつけた。死へ到る毒を流し込まれた大犬が音を立てて崩れ落ちる。時計回りにかたっぱしからボルジアを当てていくアーマデルに、イシュミルはおおげさに顔を覆った。
「ああなんてことを。倒せばいいというものじゃないとだね」
「最後の一頭はイシュミルの望みどおりにしてやるから待て!」
 宣言どおりアーマデルは双蛇剣を収めると大犬へ飛びかかった。藪にひそんだ蛇が飛び出たかのような素早さ。するどい手刀が大犬の頚椎を砕く。断末魔をあげて大犬は倒れた。
「まさかこれを草カフェまで持って帰れなんて言わないだろうな」
「そのまさかだが?」
 ああやっぱりこいつは……!
「もうイシュミルの頼みなんか聞かない」
「そう言わずに」
「これが言わずにいられるか」
 アーマデルは草地へどっかりと腰を下ろした。イシュミルへ背を向け、ふてくされているのを隠そうともしない。そんな態度をとるのは自分にだけだとイシュミルは知っていた。

 痩せた、しかし筋肉のついた均整の取れた背中。青年と少年の境目の危うさすら感じさせる肉体。心の病でガリガリに痩せていた頃に比べればなんと成長したことか。
 あの孵化器からこの子をとりあげた時、私は思った。それは予感だった。それは預言だった。『この子はきっと教団の教義からはずれるだろう』事実、キミは気づいた。自分が一振りの武器ではないことに。そこからは地獄だったな。キミは次々と生まれてくる感情のやり場をなくし、無理やり心を押し込めていた。その反動でついには食事も受け付けない体になり、投薬と点滴で生きながらえて。日に日に曇っていくそのこんじきのまなこが、いつ光を失うのかと私は気が気ではなかったよ。感情の暴風雨に巻き込まれ、言葉もなく涙を流し続けるキミ。だがそれを誰が責められようか。私たちの生まれは、きっと神の思し召しに違いない。
 あの神話にもあったじゃないか。我らの医神たる巨木の根本へ7つの卵を生んで力尽きた大蛇のくだり。キミが大きな殻の中で声なき悲鳴を上げ続けるのを、私は孵化器の世話をしていた頃から傍らでずっと見守ってきたんだ。ああ、まるで本当に神話のようだったな。大蛇の卵は次々と孵るも、原初のひとつだけがことりとも音をたてない。やがて大きな惑乱を経て第壱孵卵台の孵化器を割り、『一翼の蛇』の加護を魂に刻んだ者をとりあげたのが、『夕暮れの夜告鳥』の系譜である私だなんて。まるで出来すぎたおとぎ話のようじゃないか。
 それもまた『縁』なのだろうね。
 そんな言葉でごまかせはしないほど、私はキミへ思い入れが深すぎるようだよ。傷ついてもいい、悲しんでもいい、私がいるとも。体の傷は治せる。心の傷へは寄り添おう。キミにとっては苦しみだけだったあの世界の日々を思えば、キミはこの混沌へ召喚されてよかったのかもしれない。最初はてさぐりだったな。どこまで想いを示せばいいのかもわからなかったな。だが試練をくぐり抜けるたびに、キミは輝きを放つ。まるで抜き身の刃のように。最近はキミのあまりのまぶしさに、この目隠しがないと落ち着かないほどだよ。なんて、冗談にまぎらわせてしまおう。私はね、すこしばかり自信があるんだ。誰よりもキミの健やかなる未来を願っているとね。

「疲れたかね」
「べつに」
「では腹が減ったとか」
「べつに」
「青汁ジュース」
「いらん」
 アーマデルは首を振った。声をかけてもあいかわらず不機嫌の塊、そこがおもしろくてついついつつきたくなる。反抗期の少年ほど楽しいものはない。どうせ何を言ってもぶーたれるだろうからと、指示を後回しにしたのだ。だからこその。やっぱりというかなんというか。イシュミルは立ち上がり、アーマデルの近くへ寄った。
「飲んでご覧、体力を回復しておいたほうがいい」
 冷えた青汁ジュースをアーマデルの頬へぺとり。あまりのひやっこさにアーマデルの肩がすこし跳ねた。
「この奥へも行くからね。また護衛を頼むよ」
「だから頼みなんか聞きたくない」
「じゃあ置いていこう」
 イシュミルはさっさと歩き出した。背後でアーマデルがわたわたと準備をするのが聞こえてくる。
「俺なしじゃ危険だろ」
「さあどうだかね」
「さっき技官に無理をさせるなとか言っておいて!」
 アーマデルはぎりりと歯を食いしばった。いつもそうだ。いつもこんなふうに、イシュミルの飄々とした態度で煙に巻かれる。ほんとは肩を並べたい。隣へ並んでも見劣りしない自分でありたい。なのにうまくいかないフラストレーション。こっちへ来てから常に感じるようになった。教団に居た頃は、おんぶにだっこだったっけな。イシュミルは自分だけの医師でトレーナー、知らないことだってたくさん知っている。青汁ジュースだって、そんなに嫌いじゃない。ただなんというか、うまくいえないけれど、彼が与えてくれるものをそのまま享受するのは何かが間違っている気がするのだ。なんだかイシュミルに甘えている気がして……。
 ただ頼っていたあの頃とは違う、対等な関係になりたい。そう願っているのに。現実はきびしい。イシュミルと自分の間には、見えない溝がある。そんな気がしてたまらない。近くへ行きたい。甘えてばかりは嫌なんだ。なにかしてもらうだけじゃ物足りない。俺だって力をつけた。研鑽を積んだ。それでもまだイシュミルからすれば足りないというのか。
 もっと。
 もっと強くなりたい。まだまだ足りない。まだ成長したい。そう思うことこそが、若さだとアーマデルは気づいていない。
「休憩は終わりかね」
「へーへー、次はどこにいくんだ?」
「果物の採取をお願いするよ、あ、犬の魔物はちゃんと持ってきてくれてるだろうね」
「ああ、イシュミルの言う通りにしてる。文句ないだろ?」
 巨体のしっぽをずるずるひっぱり、アーマデルはどうだと胸を張った。

おまけSS

「おおっ、どうしたのね今日の朝ごはんは豪勢だな」
「ふふん、あの犬肉が余ってただろう。せっかくだから焼いてみた」
「……あれは後の研究のためにとっておいたんだが」
「あーあー聞こえない。食べろ、いいから食べろ」
「味見してみたかったんだな?」
「べ、べつにそんなんじゃない!」
 本日も思考回路は素通り読み取られ、パニック一歩手前の恥ずかしさ。いつかこいつを見返してやろうと、これで何回心に誓った?

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