PandoraPartyProject

SS詳細

融夏来たれり

登場人物一覧

美城・誠二(p3p006136)
元。
シュテルン(p3p006791)
ブルースターは枯れ果てて

 夏が来る。
 暑い暑い、夏が来る。
「シュルテン……はぐれないように気を付けて」
 誠司のそんな一言で、二人の手は繋がれた。



 今日の二人のお出かけは幻想の街へのお買い物。
 暑い夏を二人で楽しむために、二人でお祭りへ出かけるために。どんな文脈にせよ、一緒に浴衣を買いに行こうと話が弾んで──そういうことになったのだ。
 夏と呼ぶにはまだ早く、梅雨と呼ぶには日が照りすぎる。強い日差しに肌は湿り気を帯び、通り抜ける風に息を抜く。
「ね、誠司。きれい、見て!」
 楽しげに賑やかな街を見回す、いつまでも少女のような彼女。ガラス細工よりも煌めく瞳は、彼の目には余りに眩ゆい。
「……そうだな。買って行くか?」
「ううん……いい。きょう、あっち、かう、の」
 細めた緑に映る、道の先を指差す少女。先を辿れば御目当ての、浴衣を売り出す呉服屋がそこに。
 老舗というよりは先鋭的な佇まいのようにも見える。豊穣からの分店ではなく旅人ウォーカーの文化を取り入れた店だろうか。
【普段着から一夜の遊び着まで、貴方の生活を彩る一着取り揃えております】
 謳い文句に違わぬよう店先に並ぶ、色、色、色。ポップな色合いから洒落たデザインまで選り取り見取り。王道の赤、青、桃。パッと目を引く黄、緑、紫。パステルカラーは優しげに、ビビットカラーは華やかに。白に散った模様は鮮やかに、黒に集った柄は艶やかに。目まぐるしいまでの色の洪水へ、顔を見合わせ飛び込んだ。
「……かわい。どれ、に、しよう、かな」
 柔らかな手つきに優しい布地がさらりと流れ。ふふ、と笑う姿は年相応にすら見える。「どれでも似合うさ」なんて流して、尖らせた唇を笑うことで誤魔化して。
「じゃあ、誠司、選ぶ、して?」
「……俺が?」
 店内を見渡して、眼前の彼女に目を移して。また店内に視線を遣って、色、色、色。柄、柄、柄。形や組み合わせすら異なるそれらから、彼女に似合う最高の一着を見つけ出す……そこに至るまでの時間と労力と、少女の体力を鑑みて。青年は大人しく白旗を上げた。
「ふふ。いじわる、だった?」
 そうやって楽しそうに覗き込まれたら、苦笑で返すしかないわけで。

「ね。これ、にあう?」
 どこから見つけてくるのやら、次々と体にあてる浴衣はどれも似合っていたけれど。「脚が出過ぎているんじゃないか」だとか、「体のラインが出過ぎているんじゃないか」だとか、唸る姿は真剣そのもの。結局二人でああでもないこうでもないだの、あれが良いこれも良いだの選び合う。
 そうしている内に誠司の浴衣へまで話が飛んで、また二人であっちへ行ったりこっちへ来たり。自分のことはおざなりに、さくっと決めようとするけれど。少女が「シュテ、おそろい、が、いいな……」なんて呟くものだから、「仕方ないな」と棚に戻してまた選び直し。
 あんまり着替えすぎては疲れてしまうからと最低限に抑えた試着も何度か繰り返し、ようやく見つけた「これぞ」の一着。せーので見せ合うために、二人で同時に試着室の布を引いて。



 シュルテンの甘い体を引き立てるよう、白地の浴衣は軽すぎず重すぎず。裾の方へ目を移すにつれほんのりパステル・ブルーに色付いて。ゆらゆらり、水に浮かぶよう花を咲かせたピンクのダリア。
 浴衣の裾はフィッシュ・テール。ダリアと同じ色のレース・プリーツが白い脚を隠す。
 白い生地の裏地には柔らかい紅色がちらりと顔を出し、襟や袖から覗く薄い白レースでほんのりアクセント。
 帯は派手過ぎず、引き締めるように黒で巻いて。裏地と同じ紅の帯締めでさりげない統一感。兵児帯にパステル・ブルーを混ぜれば、柔らかさの中に遊び心のある浴衣姿の出来上がり。



 誠司の浴衣は爽やかな白地に明るすぎない紫紺が滲む。シュルテンと合わせるように、裾に移るにつれて黒が濃くなるグラデーション。浮かぶ模様は花ではなく、白く瞬く星のよう。
 黒い帯と紅の帯締めの間には、白とパステル・ブルーの、更に細いボーダーの帯が二重に巻かれ。右脇で結んだ端をそのまま長めに垂らして遊ばせている。
 帯留めや下駄の鼻緒に黒いダリアを小さく花咲かせ、隣に立てばさりげないお揃いコーデ。



 互いをよく見るためにと、一歩前に足を踏み出す。目を合わせ、隣に立って、鏡と相手を見比べる。
「誠司。……かっこいい、ね。……シュテも。にあう、かな?」
 何度も二人で吟味して選んだのだから、答えなんて分かってる。それでも聞きたい乙女心を、少女はまだ理解自覚していないけれど。
「……あぁ。よく似合ってる」
 そう答える己の胸に響く高鳴りを、青年は気のせいだと思い込もうとする懸命に抑えるけれど。
 まだ気付かない、まだ気付けない。けれど、その時はいつか必ず訪れるのだから。
「いっしょに、きて、行く、たのしみ」
 ね、と覗き込む少女の笑顔は、いつだって眩しいままなのだ。



 夏が来る。
 暑い暑い、夏が来る。
 湿った空気は肌を濡らし、照りつける日差しは心を焼いて。
 二人の距離をも融かしてしまうような。そんな暑い、夏が来る。

  • 融夏来たれり完了
  • NM名てん
  • 種別SS
  • 納品日2021年07月01日
  • ・美城・誠二(p3p006136
    ・シュテルン(p3p006791
    ※ おまけSS『デザイン解説』付き

おまけSS『デザイン解説』

◆シュルテン
メインカラー:白
サブカラー①:パステルブルー(淡い水色)、ピンク(明るすぎない方が◎)
サブカラー②:黒、紅色

・裾や袖の下半分にパステルブルーが入っているイメージ
・ダリアはそこそこの大きさのものが一輪ずつ、少数咲いている
・レースのプリーツは透けていても◎(白レースとの統一感が出るため)
・兵児帯に混ざるパステルブルーは一か所のみの方がアクセントになって◎

◆誠司
メインカラー:白
サブカラー①:紫紺(彩度抑え目)
サブカラー②:黒、紅色、パステルブルー(淡い水色)

・シュルテン同様、裾や袖の下半分に紫紺が入っているイメージ
・下に行くにつれ紫紺から黒が濃くなるグラデーション(シュルテンとは異なる部分)
・黒帯→ボーダー細帯→紅の帯締めの順に結ばれている
・ボーダーのパステルブルーはシュルテンと全く同色よりは、彩度を抑え目にすると浴衣と合って◎
・黒いダリアは小さいほどさりげなさがあって格好良いかも

◆お揃い部分
①浴衣の色付き方
②パステル・ブルーの差し色
③ダリアのアクセント
④黒い帯と紅色の帯締め
※イラストにすると、お揃い部分は結構さりげない感じになるかと思います。

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