SS詳細
ゴキゲンなFRIDAY
登場人物一覧
再現性東京1980年街に位置する繁華街。ネオンに彩られ、人々が慌ただしく闊歩する街。
アーリア・スピリッツ(p3p004400)が立つのは、賑々しい夜の街の片隅にある何の変哲も無いショットバー。その扉の前。年季の入った電飾看板があげる、ジジ……という唸り声が妙に耳に残った。
「ハァイ、アーリア・スピリッツ! よく来てくれた、時間ピッタリだ!」
微かに軋むような音と共に扉を開けば、カウンターに腰掛けながらにこやかに、そして酷く大袈裟に中年男性が迎えてくれた。フライデー松本、境界案内人だ。たまたま縁が繋がり、ここへ誘ってくれた張本人で、胡散臭さをつけすぎたコロンのように漂わせる男だ。
「あら、こんばんは。貴方が約束より早く居るだなんて……なんだか少し意外ねぇ?」
「ははは、心外だなァ、僕がそんな男に見えるかい??」
「ええ、とっても」
隣の席に腰掛けながら、麗かな笑顔でアーリア。何故かフライデーも満面の笑みで打ち返してきた。
ハートが強すぎる。
「失礼、フライデーさん」
「なんだい、マスター。遠慮はいらないぜ?」
「あちらのお客様からです」
シルバーグレイを綺麗に撫で付け、所作の節々まで洗練されたマスターに、淀みない手つきで頭からブランデーを浴びせられるフライデー。あちらのお客様の方も見てみれば、量産型サラリーマン風の男性がイイ笑顔で中指を立てていた。
「ははっ、サプラァイズ! 暑いと思ってたんだ! サンキュー、マンデー藤原!」
「ねえ待って? 彼マンデー藤原って言うの??」
「おや、冷房が弱すぎましたか?」
ノータイムでサムズアップするフライデーは流石だったが、びしょ濡れの彼を目の前にエアコンの温度を下げるマスターも大概だ。
おかげでマンデーの事は有耶無耶になってしまった。何者なんだマンデー。フライデーと何があったんだ。スッキリしたような顔で店を出てしまったが。
「見ての通りさ! ここは実にイイ店だろう!」
どう好意的に解釈すればいいのか、アーリアは無言で微笑んでおいた。きっと良いように解釈してくれるはず。
そうこうしていると、目の前にはスラッとした細いステムのグラスが。マスターの方を見てみれば、小さくお辞儀を返された。なるほど。悪くない。
「……あら、マティーニかしら? すっごく美味しい」
ウォッカベースで、ほのかな柑橘の風味。これはライムか?
そうそう出逢えないと確信できる仕上がり。マスターの腕前は勿論、ウォッカにしてもかなり上等な物に思える。
「値段は気にせず、フェイバリットを……とのオーダー。僭越ながら腕を振るわせて頂きました」
「マスターは元々練達の高級BARに勤めていた凄腕なのさ! 賓客のA級闘士をシバき倒したせいでクビになったんだけど!」
「シバき倒した、A級を!?」
「若気の至りです。お恥ずかしい」
ここの住人はみんな何かしらトんでるらしい。
「マスター、僕には?」
「こちらを」
見覚えのあるカクテルだ。たぶんジン&ビターズ。
カクテル言葉は確か、『自戒』だったか。アルコール度数も高く味わいも辛口と来ている。
「美味しいよ、これなんて言うんだい?」
「ジン&ビタニスです」
「へえ、洒落てるね。気に入ったよ!」
「
オリジナルのようだが、ぶぶ漬けにも等しい意味合い。薄々気づいていたが、なかなかに慇懃無礼な人物らしい。
「退屈はしなさそうなお店ねぇ」
いちいち一触即発でハラハラするけれど、次の瞬間何が起こるか分からないという点では楽し……。
「そっか。ホントに楽しいのが好きなのね?」
一瞬キョトンとしたフライデー。けれどすぐにニヤリと微笑んだ。大袈裟に作った笑みとは違う、今日初めてみた自然な笑顔。
「時間は有限だ。機会を逃したくないだけさ、僕ぁね!」
「有限かぁ。なら楽しまなきゃ損、かしらね?」
「賞味期限が切れる前にね!」
「なんで私をじっと見ながら言うのかしらぶつわよ?」
ペースを掴めばこちらのもの。会話はよく弾み、気づいた頃には日付が変わる前。
「さあて、僕はそろそろお暇! 8時間の睡眠に差し障るからね、ははっ! じゃ、またね!」
いやにあっさりとフライデーは引き上げていった。
「じゃあ私も……」
「お代がまだのようですが?」
えっ。
「お連れ様のお支払いと聞いておりますが?」
「値段は気にせずって」
「僕は払わないから気にせず、という意味でしょう。こちら代金になります」
0が見たことないほど並んでいる。
「先程のカクテルは飲む宝石とも呼ばれるモノでして」
「フライデーェ……!」
「1時間ならお待ちします」
時間は有限。フライデーの言う通りだった。あの男絶対ゆるさない。必ずや捕らえる……と、しかし店を飛び出してみれば。
「貴方は……!」
ボコボコにされたフライデー。その首根っこを掴みサムズアップする男の名は!
「マンデー藤原!」
おまけSS『末路』
朝日清々しく。夜が明け、街に人通りが戻ってきた頃のこと。
晴々とした蒼天の下。ゴミ捨て場にて、パンツ一枚のナマモノが一つ。胡散臭さを放っていた。
「ねえママ……あれなぁに〜?」
「しっ! あんなの見ちゃいけません!」