SS詳細
きっとまた巡り会えたなら
登場人物一覧
●待ってた
「いーさん?」
「絢さん!」
濃々淡々にて、二人は再会を果たす。夏を帯びた街の色。晴れやかな青の街。
最後に来たときは赤だっただろうか、それとも黄色だっただろうか。ぼんやりと街を見渡せば、向日葵がつぼみをつけ、朝顔が芽を出して、夏の訪れを確と告げていた。
会ったのは偶然、約束もしていなければ特に予定もなかった。イーハトーヴは忙しかったし、絢は絢で飴の材料を探していたからだ。絢は暇にも思えるのだが、『此れは難しいんだからね?』とは本人の弁である。
イーハトーヴが
「ふふ、久しぶり。元気にしていたかい?」
「えへへ、俺は元気だよ。 そういう絢さんは元気だった?」
「おれ? ふふ、そうだね。いーさんと会えなかった以外は、元気だった……なんて。少し、意地悪かな」
「ほんとうに!」
顔を見合わせて、おかしくなって、眉根を寄せて、大声で笑って。
「嗚呼そうだ、いーさんは此れから予定はあるかい? 無かったら、一杯……なんて思ってるんだけど」
「俺は『たった今』予定が終わったところだから、勿論!」
「そうなんだ。じゃあ丁度良かったね」
当の本人は全く気付いていないようだが、また友人に会えたのは嬉しいのだとご機嫌に尻尾を揺らして。
さあ、いざ昼飲みへ参らん――
●酩酊
結果から言うならば、其れはもう大盛り上がりだった。
積もる話も多かったし、話したかったこと、聞きたかったこと、知りたいこと、すべてを飲み干してまた明日と割り切れるように、酒を飲むペースに合わせてゆっくりと語り合うのだ。
美しい飴の森があったことは知っているだろうけれど。じつは、其の森の奥には琥珀糖がなる木があったこと。
それから、桜の樹で花見をしたこと。
絵画を取り扱う不思議な店があったこと。
どれもどれも、イーハトーヴと見られたならば、もっと幸せだったろうと語る絢。酒気を帯びた頬は赤らんで、耳はぺたんと伏せていて。
「嗚呼、そうだ、いーさんがいいなら、今からみにいくのもいいかもしれないなあ」
「どこに? さくらもいいけど、飴のもりも、気になるなあ。また行きたいなあって、思ってたんだ」
「なら、森にいこう。お花見ができる気が、する」
温厚な男二人、外面はにこにこしているが酷く酔っている。もともと酒は強くはない方なのに調子になってべろべろの絢と、とろとろふわふわ、つついたら蕩けてしまいそうなイーハトーヴ。にこにこと並んで歩いているけれどイーハトーヴは結構な確率でつまづいてオフィーリアをぎゅっと抱いた腕を緩めることが出来ずにいたし、絢はちゃんとこけていた。千鳥足でふらふらな長身成人男性二人組はなかなかに見ものだっただろう。
「いーさん……んっと、あっちなんだけど、おれ、ちょっと今気持ち悪くてだめだ、ひっぱってくれない……?」
「あはは、いいよぉ」
絢が伸ばした手をイーハトーヴが掴み、引いて。右折して、左折して、と指示を出す絢は割と限界が近いのか飴を舐めて青い顔を何とかしていたが、イーハトーヴは酔いの感覚にふわふわと笑うばかり。オフィーリアが怒る声には『おさけ、おいしいよぉ』と返すばかり。屹度後で酷く怒られることだろう。
ぱりぱり、ぱり、ぱり。
懐かしい踏み心地に、イーハトーヴは『わあ』と声を漏らす。絢も痛み始めた頭を横に振って、顔をあげて。
「……おはなみ」
「だねえ」
「絢さんと、俺も、お花見したいもん……」
「うん、おれもしたい」
「あは、いっしょだねえ」
にぱーと笑う二人。緩やかな時は、琥珀色の木漏れ日と共に。夕が満ちて、藍がとけて。セピアの森に夜が来る。
「……あるこーる」
「ん?」
「お酒に、飴を溶かすと、美味しいかなって思ってさ」
濃々淡々はすっきりとした味わいの酒が多かった。絢がす、と差し出した柔らかい味わいの酒は透明。ぱちぱちと赤らんだ頬で酒を見つめるばかり。
いつの間に購入したのやら、瓶五本程を並べて飴の庭に座る。
「さっきも飲んだけど、飴を使って飲めたらたのしいかなっておもってて」
「うん」
「これを……」
すす、と新しく取り出したのは、持ち歩いているのだと語っていた幾つかの飴。不器用な形をしていて、色は綺麗だけれど、恐らくは練習用に作ったものであることを理解させた。
「とかしてのむと、楽しいとおもう、んだけど」
「うん」
ぽちゃん。
イーハトーヴは飴を落とした。
酒の中で、しゅわしゅわとはじけて溶けていく。
「一緒に、のもう」
●
しゅわしゅわ。
炭酸を仕込んでみたのだという絢が作った飴のお陰か否か、買ってきた酒瓶はすべて空に、そしてふたりはべろべろに。
琥珀の木の下で肩を寄せ合って、すうすうと眠っていた。
『――まったく。ふたりとも、警戒心が薄いんだから』
幸せそうに眠る二人の寝顔を、オフィーリアだけが見つめていた。
おまけSS『おくすり』
「ああ、そうだ、これ。先に渡しておくね」
「……これって、」
「ふふ。これがあるほうが、繋がりを感じるんだ、なんて。
それから……次に会うときは、もっとおいしいのを作れるように頑張るからさ。また、遊ぼうね」
「うん、勿論! オフィーリアも『喜んで』って言ってる」
「あはは、そっか。お酒も、また飲もうね。今度はおれの家で!」
「うん! 俺もお酒、次は持ってくるね!」