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SS詳細

彼と母の週末

登場人物一覧

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
イーハトーヴ・アーケイディアンの関係者
→ イラスト

名前:イーハトーヴ・アーケイディアン 及び “可愛いもの好き”のマルガ

 イーハトーヴの週末は早い。何故なら彼の第二の母――彼はもう彼女が実母ではないことを忘れかけているが――マルガの小屋は、深い奇妙な森の中にあるからだ。
 陽が昇る前に下宿先を出て、どんなに急いでも着くのは夕暮れ。マルガに「アタシのためにこんなに無理をして!」と抱きしめられて、旅でくたくたのところを介抱も同然に薬膳を振る舞われる。その際、イーハトーヴは、今週何があったのかを何もかも伝えようとして、マルガはそれに機嫌よさそうに耳を傾けるものだ。そしてイーハトーヴは旅の疲れからか、いつしか自分が何を話していたのかも判らなくなりマルガに寝かしつけられてしまう。
 次にイーハトーヴが気付くのは、台所から漂う朝餉の匂いだ。彼がマルガの名を呼ぶと、彼女は薬草粥を寝床まで持ってきてくれる。そして本当の母と幼子のように甲斐甲斐しく食べさせてくれる。
 この幸せな時間は永遠に続くようにも思われるが……うさぎのぬいぐるみのオフィーリアが叱咤することでイーハトーヴはそろそろ暇しないといけない時間だと思い出す。そうせねば、明日の朝までに帰り着けぬから。……帰る? ここ以外のどこに?
 オフィーリアにその後も何度か呼びかけられて、ようやくイーハトーヴは夢のような時間から醒める。そして名残惜しみながらマルガの小屋を後にする。別れ際、マルガが「なくなる前にまた来るんだよ」と薬の包みを手渡し、イーハトーヴは予定が入らなければまた来週も来ると約束するのが常だ。マルガよりも優先すべき予定なんてそうはないのだが。

おまけSS『週末の秘密』

 彼らの週末は、まさしく母と幼子のものである。イーハトーヴの身の回りの物事は全てマルガが面倒を見てくれるが、イーハトーヴ自身が望むのであればマルガは、彼女が見守る中でではあるが、マルガのお手伝いでも何でもやらせてくれる。
 もしもこのことについてマルガに尋ねる者がいれば、彼女は「生まれつき疎まれてきたイーハトーヴには、もう一度幼少期から遣り直す機会が必要なのさ」と答えるであろう。彼が心に負った傷を思えば、それは一理あるもののようにも思える。

 もっともそれも、マルガと一緒にいる間のイーハトーヴが、本当の幼子がそうであるようにマルガとのもの以外の思い出を忘れてしまっていると知れば、評価は変わるかもしれないが。

 忘却の原因は、マルガがイーハトーヴに出す夕食にある。夕食の薬膳には洗脳にも用いられる毒が使用されており、これが記憶の混濁と忘却を引き起こすのである。
 問われればマルガは「イーハトーヴが真の意味で『幼少期から遣り直す』には、余計な記憶なんて無い方が良いのさ」と答えるだろう。イーハトーヴがマルガの許から帰った後も記憶の混濁が続くことに対しては、「折角辛い記憶を忘れさせたのに、またはっきりと思い出して仕舞ったら元も子もないからね」と。
 マルガが本当にそのような治療の意図で薬を与えているのか、それともイーハトーヴを自分の“お人形さん”にするために与えているのかは、今のところ本人にしか判らない。少なくともイーハトーヴは前者だと信じている(あるいは考えることもなく受け容れている)し、オフィーリアは後者ではないかと警戒している。

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