PandoraPartyProject

SS詳細

薔薇を辿り

登場人物一覧

フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)
灰薔薇の司教
シラス(p3p004421)
超える者

「ベルナデット・クロエ・モンティセリという名に聞き覚えは?」
 そう切り出したシラスへとフランツェル・ロア・ヘクセンハウスは「あると言ったら?」と返した。
 幻想勇者としてその名を轟かせた『スラムの少年』がフィッツバルディ派に属する存在で在る事は有名だ。現に、此度のパレードとてフィッツバルディ公直々に彼を引き立てたようなものである。しかし、そんな事では満足しない。フィッツバルディ公直々の依頼としてローレットに秘密裏に送られた監獄島で何としても手柄を上げておきたいのだ。
 だが、監獄島とて一筋縄ではいかない。気紛れに訪れる島からの依頼の受諾を運に任せるばかりでは何時まで経っても『取り入ること』が出来ない。急いて居る訳ではないが、これ以上焦れるのも身が持たぬのだ。何とかしてベルナデット――『ローザミスティカ』にアプローチする足掛かりが欲しい。
 そんな『打算』も全て何もかも。隠して居ては意味が無いとシラスはフランツェルへ洗い浚い話した。彼女に話したのは『元幻想貴族』でありながら、現在はその柵から解放され深緑で司教をして居るからである。
「フランツェルなら何か知ってるんじゃないか、と思って」
「どうかしら。知っていることは知っているけれど。貴方が満足するほどのことかは分からないわ?」
「……それでもいいよ。ローザミスティカのことは調べようと思った。けど、幻想国内では『モンティセリ家の事件』に関しての記録はほぼ残っていない。
 伝聞で知る事しかできなければ、納得いく答えまでの道のりが長すぎる。どうして公は監獄島を己の手勢をもって治めないのか。そもそも『幻想国の事件』で彼女を賓客として迎え入れられるなら、二人の間で話がつけれる筈だろう?」
 その見解を静かに聞いていたフランツェルは唇を尖らせて悩ましげな表情を見せる。自身が監獄島にアプローチする上で知っておきたいのはローザミスティカの事、そして『監獄島』の立ち位置という事だろう。
 外部に話が漏れないように。ローレット内でも静かな場所を選んでテーブルを挟んで会話は何ともムードも何もかもが無いものだ。吹く風が窓を小さく揺らし、固く閉じられた扉はびくとも動かない。埃っぽい室内に蝋燭の灯りがゆらゆらと揺れていた。
「そうね」
 影を伸ばすようにフランツェルはテーブルの上のカップを手に取った。湯気の立ったブラックコーヒーを見下ろしながら「何から話そうかしら」と視線を揺らがせる。
「まあ、先ずは簡単なことだけれど。どうしてローレットが『監獄島』で取引をさせられているか――というのは簡単なことでね。
 実質的な支配権を求めるフィッツバルディ公。けれど、あの島は幻想王国が所有する物だわ。いくらこの国では貴族派閥が大きくともおいそれと手出しできないもの。
 だからこそ、王の覚えよく、且つ『何処の国家にも所属しない依頼で動く』スタンスのローレットの仲介が求められた」
「ああ……直々に手出しできないから、だろうけれど。けどローザミスティカと『話すことが出来る』なら、彼女と直接的に取引すれば良い」
 そもそも、ベルナデット・クロエ・モンティセリは嫁いだ後の名前だ。生を受けた時の彼女は『ベルナデット・クロエ・フィッツバルディ』であるという噂まであるのだから。
「ローザミスティカは、確かにフィッツバルディ家のご令嬢であったわ。私も……小さな頃にね、父に連れられて一度だけ王家主催のパーティーに行ったことがあるの。
 そこでお見かけしたことがあるわ。あの時の私には、遠い場所に居る人としてしか認識が無かったけれどね?」
 フランツェルはその時のローザミスティカは年若い女であったように見えたという。姿を誤認させるという世界が与えた彼女のギフト。それが殺人事件のトリックであると言われれば、思わず笑いでもこみ上げそうな物だが。市中ではそれこそがローザミスティカが貴族殺しの犯人である決定的な証拠だと噂されているのだという。
「フランツェルはモンティセリ家の事件は?」
「ああ……犯人の痕跡、全くなかったんですってね。だから、『姿を誤認させる』上に、最も近い存在の妻であるベルナデットが疑われたと。
 まあ、本当のことは分からないわ。メイドの仕業だった、だとか、ベルナデットは嵌められただとか、……元から疎まれていた、とか。
 沢山の噂が蔓延って、それらは唯の話題として消費されていった。その時に語られていたのはベルナデットと辺境伯が不仲であったこと位。
 ……まあ、辺境伯もフィッツバルディ公に取り入りたくて娶ったとも噂されていたものね。
 本当は愛妻家で、他の誰かが彼を殺して、殺した相手を探すために監獄島でベルナデットは待っていたり――それは小説の読み過ぎかしら?」
 所詮は『三大貴族の筆頭』がもみ消した事件だ。誰にも事実など分からないのだとフランツェルは言った。所詮は彼女とて外野だ。
 シラスは小さく呻いた。フランツェルの知っている情報だけを纏めれば、チープなゴシップでしかない。そして、其れ等から推測しても確かに身内の殺しだと判断されやすい。しかも、貴族殺しだ。
 だが――
「フィッツバルディ家は庇わなかった?」
「ええ。それがフィッツバルディにとって弱点になりかねないものね。嫁いでいったベルナデットの存在そのものを無かったことにしたかったんじゃないかしら。
 彼女が監獄島に幽閉されているのは温情でしょうね。モンティセリ辺境伯を殺したんですもの、普通なら……まあ、断頭台まで一直線だったろうに」
 フィッツバルディの血族であった故に、断頭台を免れて監獄島での余生を過している。そこで一度『罪人への干渉』というカードを切ったフィッツバルディはそれ以上の手出しは不可能なのだろう。それ以上、手出しをすれば『姪を罪人に仕立て上げ、島へと送り、姪を使い島の支配権を手に入れようとした』とされる。監獄島が国の持ち物――国王の持ち物なのだというならば、国家への反逆とも言い出しかねない。それでも、あの島は治外法権だ。罪人達を利用するにはもってこいの場所でもある。故に、手中に収めたい。
「前王が崩御なされて、現王の治政だからこそ出来る無理矢理な干渉よね。イレギュラーズを送り込んで、イレギュラーズとローザミスティカの交友で島のコントロール権を手に入れるだなんて」
「と、言うと?」
「だって、何が有ったって『ローレットが勝手にやったことだ、自分は知らない』で言い逃れられるし、それを『そうか! ならローレットが罪人だ!』で済ます王だと認識しているって事でしょう? まあ、私もそうする国王陛下だと認識しているけれど。
 ああ……それから、幻想の奴隷事件の一件で『外』へと出てきている彼女だけれど。公的には誰も外に何て出ていないそうよ。幽霊とでも会った気分よね」
 可笑しそうにフランツェルはそう笑った。そんな事、公の場では口に出来る訳もない。可笑しそうに笑った彼女は「それじゃあ、これ位にしましょうか」と立ち上がる。
「あんまりレディと二人きりになる物じゃないわ。誰かにやきもちを焼かれても知らないんだから」
「やきもちって……」
「あら、熱い夜を過したのよ、って誰かさんに言ってみようかしら」
 嘘よ、と小さく笑ってからフランツェルは静かに扉を開いて出て行った。テーブルの上に残されたのは冷め切ったコーヒー二つだけ。

  • 薔薇を辿り完了
  • GM名夏あかね
  • 種別SS
  • 納品日2021年06月02日
  • ・シラス(p3p004421
    ・フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115

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