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それはベルのあたらしいものがたり
登場人物一覧
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『ふゆのこころ』エル・エ・ルーエ(p3p008216)はある本を開く。それは漫画化もされた事のある
エルもその本は何度も何度も読んでいて、思い入れの深い一冊となっている。
「……エルは、決めました」
彼女は唐突にそう呟くとその本を手にどこかへ向かう。
エルが最もこの小説で気になっていたキャラクターはデスゲームの失格者を殺すロボットの一体。これは処刑ロボット達を司令する為に『ゲームマスター』が直接操作する事ができるロボットだった。首根っこには、『Bear of Executioner's Leader』という正式名称の刻印が刻まれていて。
そんなロボットのこのホラー小説での運命は、逆襲されてゲームマスターに打ち捨てられる。その際のボロボロになった状態の挿絵までも存在していた。それがただ命令されるがまま失格者を殺してきた残酷で哀れなロボットの幕引きである。
エルはそれを見てとても可哀想だと……小説を初めて読んだ時からずっと思っていたが、此度
「
それはもう一つの現実。それはもうひとつの混沌。それはもうひとつの世界……」
──そんな案内アナウンスが流れる。
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界……エルはその案内所に辿り着いていた。
「エルは、アバターの見た目を決めました」
「エルは……この子に、なりたい……です!」
エルが見せたのは先程のホラー小説のあのロボットだった。
(とても、悲しい運命を辿ったロボット……とても、可哀想だと……エルは、思いました。だから……エルは、このロボットに新しい物語を、作りたいです……!)
滅びを辿ったこのロボットに新しい物語を。心優しいエルはそうして自分のアバターとして登録し、彼の為に新しい物語をこの仮想世界『ネクスト』で紡いでいく事を決めたのだった。
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『ちいさなくまのこ』ベル(p3x008216)は勇者を目指す小さな熊型ロボット。
昔ボロボロになっていたベルは、心優しいロボット技術者の夫婦に拾われ一命を取り留める。
傷は綺麗に修復され、首根っこの刻印を消して、ラベンダー色に塗り替えられたロボットは、老夫婦に自分達の子供のように育ててくれた。二人はベルにとって大切な愛する人達。
──そんなベルにも冒険の時が訪れる。
「ベル、これを」
「お父さん、お母さん……?」
ベルは『お父さん』からサークレットを、『お母さん』からマントを貰った。
「今度は皆を護って欲しいの」
「皆……?」
「そうよ、皆。その為に始まりの地へ向かって欲しいの」
「ベルならきっとやれるさ」
「お父さん、お母さん……っ」
ベルはとても寂しくて悲しくなったけど。
「勇者になったら、また会える」
夫婦はそう優しく微笑んだものだから。
「わかった……ベル、頑張ります!」
そんな微笑みを前に断る事の出来ないベルは、願いを託された勇者になって皆を護ろうと決意する。
夫婦から貰った勇気と新しい『ベル』という名前と共に、とてとて始まりの地へ進んでいく。
ベルはまだ敵を『殺す』技は持っていない。
何故なら、処刑ロボットだった
──それが、
「あの子はもうここにはいないわ」
「だから、他所を当ってくれ」
夫婦の目の前に居るのは
ベルの存在を知った『ゲームマスター』が、ベルを再び手駒にしようと狙いを定めこの場所を突き止めたのだ。
「始まりの地へ向かわせるとは、ね。これでは手詰まりになってしまいました……この責務をあなた方は取ってくれるのです?」
「せき、む……」
「…………っ」
そうして、ベルを始まりの地に送り出して間もなく、『両親』はゲームマスターに惨たらしく殺されてしまった。ベルがこの事を知るのはまだ先か、それとも……。
『ゲームマスター』は、始まりの地に行ってしまったベルを仕方なく手駒にすることを諦めた。その代わり……ベルとベルの大事な人達の為の『ゲーム』を考える事にした。
「お前だけ……悪から足を洗い、平和な道を歩めると思わない事です」
『ゲーム』を考えるゲームマスターの表情はニタリと怪しく笑っていた。
──
────
「エルは、勇者には試練があると、小説で知りました」
様々な小説を読んで来たエルは、ベルと言うキャラクターをそう説明して。
「試練を乗り越えて、エルは、ベルを……勇者にしたい、です」
「いいですね、頑張りましょう!」
そうしてベルと言うキャラクターが
おまけSS『おまけSS『さいしょのおしごと、その寄り道』』
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最初のお仕事は
これはその場所へ向かう途中での出来事である。
「きゃあああっ!!」
「! 悲鳴が、聞こえます……!」
『ちいさなくまのこ』ベル(p3x008216)は悲鳴が聞こえた方へ走り出す。すると、悪そうな男と助けを求める女の子がいた。
「彼女の手を、話して下さい!」
とて、とて。
「な、なんだァその気が抜ける足音は? んなこたァいい、邪魔すんじゃねぇ!」
「いや、です。勇者は困ってる人を助ける……お父さんとお母さんに学びました。ベルは、勇者になる為……彼女を助けます……!」
「ぐっ……その目ェやめろ!! ったく……足音は変だわクリクリした目でこっちを見てくるわ調子が狂っちまう!! 今日のところは引き上げだ!!」
ベルのとてとてと鳴る足音に気が抜け、その可愛らしいつぶらな瞳が効いたのか。
厳つい見た目の割にその男はすぐ立ち去って行った。
「ありがとう、勇者様。こんなに小さいのに……勇敢な方ね」
「ベルは、勇者になりたい、ですから。……これを食べて、元気になって、下さい」
褒められて嬉しくなったベルは去り際に不思議なポケットからキャンディを取り出して女の子に手渡した。
「ありがとう、小さな勇者様!」
女の子の笑顔を見たベルはとても嬉しくなって、また一歩勇者に近づけたような気がした。