PandoraPartyProject

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美少女とは斯く在りけり

登場人物一覧

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
咲花・百合子の関係者
→ イラスト

 その世界は先史文明が崩壊し、なんやかんやあってエルフやドワーフやオーク等のファンタジー種族やサイボークなどのSFじみた種族、そして『美少女』『番長』『腐女子』が闊歩していた。
 美少女の名家『咲花』では特異な教育を行っていた。親という概念は希薄で在る。生まれた『美少女』を一カ所に集めて養育する『美少女教育機関』が存在して居たのだ。
 子等が10歳に至れば子同士で殺し合いをさせ間引き、最強の美少女を作り出す。
 ――これは、『百合子』が6つになったばかりの時の話あった。

「いい? 『ちぃちゃん』……これは昔々の話よ。戦国時代と呼ばれる戦武将が跋扈する驚異の時代が存在したの。
 主人公の名前は一尺八寸 遠臣かまつか おちおみ。わかる?」
「かまつか おちおみ!」
 頷いたのは『ちぃちゃん』と呼ばれた少女であった。美少女らしい容姿であり点描がふわふわと待っている彼女はこの世代でのエースである。大人達は彼女はレベル30位ではないかと噂する。対して、話しかけている側の少女はレベル10にも至らぬ平凡な容姿をしていた。
 この二人が後の百合子と百合華である――が、現時点ではこの二人には名は存在して居ない。咲花では子供は全て『美少女の幼体』として扱われている。名は、その名を有する大人を殺して奪い取るか、自身の実力を認めさせて『誰も使っていない』新たな名を与えられるかの二択で在る。
 そんなこと、『子供』である二人には出来なかった。だからこそ、百合華は百合子に『ちぃちゃん』と渾名を付けたのだろう。
「さあ、ちぃちゃん、お勉強をしましょう」
「……うむ!」
 二人は対照的な存在で合った。
 頭脳に優れた百合華に百合子は勉強を学ぶ機会が多かった。どちらかと言えば、『美少女』として秀でているのは外見からも分かるとおり百合子である。
 だが、百合子は『特異』な事情があった。通常、人が感知できない融合した世界のあわいを感じ取り、干渉する方法を演算することが出来る存在を『血統管理』で生み出そうとする試しみの唯一の成功作である。故に、百合華に相当するほどの知能を持っているはずであったが常に莫大な情報を浴びせかけられる状態から『一般的な成長』が著しく遅れることとなった。
 武に関しては最も秀で、美少女としては最高傑作だと大人が囃し立てる程ではあるが言語発達の分野が著しく遅延し、物知りであった百合華に言葉や常識を学ぶ事で遅れを取り戻そうとしていたのだ。

 ――どうしてあんな『失敗作』に構うのかしら。頭が良いばかりじゃ美少女らしくないじゃない。
 ――弱いのにねえ……学んだって死んだら意味が無いのに。

 そう、陰口も聞こえるが百合華は気にはしなかった――余談ではあるが、百合華はその後『軍師』としての才覚に優れ政略の天才として一目置かれることになるが今はまだ『蕾』の儘なのだ。
 百合華にとって容姿を揶揄われることは悩みであったが、誰かを無闇に傷付ける事は決して許せることではないと確固たる意思があったのだ。
 自身を慕い好いてくれる幼い同胞を無碍に扱うことを彼女はしない。知りたい、面白い、どうすればいい、と問うてくる彼女が新しいことを知ったときに見せる表情が愛おしい。同時に、そんな彼女一人が期待を背負い厳しい訓練に身を投じなければならない現状がどうしても恨めしい。
「ちぃちゃん……」
「む?」
「辛くはない?」
「つら――?」
 何もないわと首を振る。彼女に問うたところで自己満足に他ならない。
「さあ、ちぃちゃん。お勉強しましょうね。どこまで読んだかしら……」
 首を傾いだ百合子は百合華が頁を捲る指を追いかけてから「ここ!」と指さした。そうしてから辿々しく単語をひとつひとつと繰り返す。
「おちおみは?」
「それで、彼は『吾は天上天下唯我独尊なのである!』と堂々と語らった。勿論、武だけでは何人を救う事はできない。
『吾は諦めが悪い。故に歩みを止める事は無い。参る!』……そう叫び遠臣は敵陣へと走り出し……」
「おお!」
 百合子は歓喜した。
 彼女が語る戦国武将(咲花家に存在する本は戦記物ばかりなのだ。美少女の幼体を育てるならばやはり戦記物だ)はどれもコレも強そうだ。

 だが、百合子は少しばかり腑に落ちない事があった。
 大人達は武術の才を発揮して人を傷付ける事を厭わず躊躇せず、『美少女らしく』戦えば喜んだ。
 だが、百合華が語る物語ではどれもが子等を慈しみ、傷付ける事は害で在ると言うのだ。強者は優しくあれと言う。
(……わたし わるいこと してる……?)
 人を傷付ける事は百合子にとって悪いことではなかった。
 それでも、百合華は「ちぃちゃん、だめよ」と首を振る。
 屹度、百合華が言うならばそれが正しいのだ。社交的で、仲間の中の誰よりも人気な彼女が言うのだから違いない。
「ねえ、ちぃちゃん。言ってみて? 新しく言葉を覚えられるかも」
「うむ! 吾は天上天下唯我独尊なのである!」
 凄いわ、と手をぱちぱちと叩いた。
 彼女が喜んでくれるのならばこれが『正解』なのだろう。
「吾は諦めぬ!」
「ふふ、ええ。そうね。諦めないわ」
「吾は皆を救う!」
「そう、その通り。救うと諦めるはまたお勉強しましょうね」
 こくり、と百合子は頷いた。ちぃちゃんと呼び慈しんでくれる彼女の言葉に間違いはきっと無い。
 そろそろ稽古の時間だと『大人』が声を掛けた時に、百合華は「いっていらっしゃい」と百合子を送り出そうとした。
「いや!」
「駄目。お稽古は大事」
「いっしょ!」
 百合子にとって、百合華は正しい存在であるから。出来損ないの自分と違って素晴らしいことを沢山知っている。言葉も、常識も、何もかもを。
 百合子という存在を作り上げる中で、百合華は重要なパーツであった。
 何も出来ない自分が、何か出来るようになるために。
「いや!」
「……私も稽古に参ります。少し準備の時間を頂きますね」
 穏やかに表情を変えることなくそう告げた百合華に時刻だけ伝えて『大人』は去って行く。百合子は百合華のワンピースをぎゅっと握りしめた。
「皺になるから」
「しわ?」
「……そう、ぐしゃっとなるの」
「なんで?」
「ぎゅっと握るから。ねえ、ちぃちゃん。武将の言葉を思い出しましょうね。何て言っていたかしら?」
「『吾は諦めぬ!』『故に歩みを止める事は無い。参る!』」
「ええ、そう。その通りよ。
 ……武将達みたいな、正しい人になりましょうね」
 褒めてくれる彼女にぱあ、と百合子は表情を華やがせた、その笑顔は『レベル』が高いだけ合って可愛らしい。
 自身のかんばせへのコンプレックスなど忘れるような明るい笑顔が愛おしくて百合華は「さあ、今日も頑張りましょう」と立ち上がった。
「うむ!」
 彼女が教えてくれたその話し言葉は、正しいが詰っているから。

 ――あなたがわらってくれるなら、わたしは『強い武将』にだってなってみせる。

 もしも、彼女が居なければ『普通の女の子』として話していたのかも知れない。
 けれど、それでは『人を傷付ける悪い美少女』になってしまうから。彼女の愛した『優しく気高い戦国武将』のような『わたし』になるために。

 それは幼いある日のお話――咲花 百合子が『言葉を覚える』までの……。

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