PandoraPartyProject

SS詳細

エーニュ調査記録Ⅰ

登場人物一覧

リリィ=クロハネ(p3n000023)
黒耀の夢
アト・サイン(p3p001394)
観光客

●アルティオ=エルム民族主義者同盟
 ラサで商人を付け狙うハーモニア達の集団。
 その一人を捕縛した『観光客』アト・サイン(p3p001394)は、その組織について調査していた。
 わかっているのは、組織名『アルティオ=エルム民族主義者同盟』――エーニュと呼ばれる組織だということ。そして、奇妙な道具を使うということだけだ。
 だが、アトの直感が彼の組織の危険性を訴えていた。
 この組織にはなにかある。そうアトは考え、情報屋でありハーモニアでもあるリリィ・クロハネに調査を依頼していた。
 数日後、ローレット近くの酒場にいくと、奥まったテーブルにリリィが待っていた。
「やあ、リリィ。首尾はどうだい?」
「ぼちぼちってところかしら。アトちゃんがお気に召す情報だと良いけれど」
「ふむ、それじゃ話を聞こうか」
 リリィはエーニュの表だった情報だけだけど、と前置きをする。
 まずは、話を聞いてみよう。アトはいつも頼む飲み物を注文をしてリリィの話に耳を傾けた。
「アルティオ=エルム民族主義者同盟。
 混沌にはいくつもの組織が存在しているけれど、このエーニュという組織はその中でもかなり珍しい部類の組織ね」
「というと?」
「まず組織自体が政治的思想をもつ政治結社ということね。
 しかもその主体が深緑のハーモニアなのだから、尚更珍しいと言えるわね」
「たしかに……ハーモニアは温厚で受動的、あまり自分から動くタイプには思えないね。深緑の外で見かけることも多くなったけど、本来は珍しいと思うべきか」
「そうね、私なんかもある意味異端みたいなものですもの。ハーモニアは全体でみればまだまだ閉鎖的なところがあるのが普通よね」
「そんなハーモニアが政治結社、ね。どんな思想を掲げているんだい?」
 アトが尋ねると、リリィは眉根を寄せる。
「表向きの題目も結構過激な感じね。
 ”ハーモニア至上主義”を唱えていて、深緑を侵略者から守るということを宣言しているわ」
「なるほど、確かに過激だ。温厚で通っていたハーモニアとは思えない」
「エーニュが言うには、ハーモニアは長命かつ知に長け、端麗な種族であり、深緑で平和に暮らしているだけ――それが例のザントマン事件で他種族がハーモニアを商品として扱うことがわかったと言う事ね。
 故に、ハーモニアたちも立ち上がり、自分たち自身の身を守らなければならない。ということなのよ。
 ハーモニアが言うから珍しいけれど、たしかに掲げてる思想は当たり前のことではあるわね」
「なるほどね。たしかにあの事件を経験した以上、自身の種族を守ろうと動き出すのは理解できるところだ」
「そうね。ザントマン事件で大きく問題になったわけだけど、元々ハーモニアに価値を見出していた連中もいたわよね。特徴の一つである長耳を御守りにしたりとか……」
「ザントマン事件が契機だったとはいえ、そうしたハーモニアへの侵略行為は起こる可能性は十分あったということだね」
「ええ。そういったことからエーニュが産まれ、ハーモニアの尊厳を守ろうと動き出しているようね。とはいえ、同じ思想を持つ者達が集まった政治結社。口論で正義を謳っている限りは特に問題も起きないように思えたけれど……」
 リリィが一枚の資料をテーブルに滑らせる。
「前にアトちゃんが遭遇したエーニュの構成員と奇妙な道具もそうだけれど、ラサの商人を狙ったり、時にはいまだ奴隷として売られているハーモニアを実力行使で奪還したりと、政治結社とひとくくりにはできない行動を起こしているようね」
「これは、結構な事件だね……奴隷商人と関係者がまとめて殺害されている。奪還するにしても表向き政治結社としての体面があるのだから、普通は隠そうとしそうなものだが……」
「エーニュの仕業とわかっていても、違法に奴隷にされたハーモニアを救い出しているのだから、国の代表でもあるリュミエ様も公には非難し辛い立場にありそうよね」
「話を聞けば聞くほど、過激で行動的な組織に思えてくるね。本当にハーモニアによって運営されているのかい?」
 アトの疑問はもっともだろう。温厚で受動的、閉鎖的なハーモニアの印象の真逆に位置するような組織だ。裏で操る外部種族がいるように思えてならない。
「表だってわかってる情報はそう多くないのよね、一応調べたのだけれど、詳しいことはわからなかったわ。一応分かってる範囲の情報はまとめたけれど……」
 アトはリリィから新しい資料を受け取る。
 そこには三名の名前と練達の技術で撮られた容姿の写真が添付されていた。
「盟主リッセ・ケネドリル……この人物が中心人物か。意外だな、思ったより若く――男のように見えるけれど、この骨格……女性だね。いやザントマン事件を考えれば女性であるのは頷ける話か」
「彼女が出てきたときの演説は、それは熱のこもったもので、多くの血気盛んな若者が賛同していたそうよ」
「ふむ……カリスマ性を持っているのかもしれないね。あるいは別の何かか……?」
 資料をめくる。次に記されていたのは義足のハーモニアだった。
「ベーレン・マルホルン。軍事顧問。元は森林警備隊の部隊長の一人か」
「ザントマン事件の時に魔種となった奴隷商人や傭兵達と戦って右足を失ったそうね。その後は森林警備隊からも引退していたようだけど……どういうわけかエーニュに入っていた見たいね」
「経歴は思った以上に優秀だね。なるほど、こんな男が軍事顧問についていたのならば、戦闘技能を持たないような者でも戦えるようになるのかもしれない」
 そして、最後の資料を見る。
「この男は?」
「ペニンド・パーマランベ。名前以外は詳しいことはわかっていないわ。ただ、以前ファルカウでマジックアイテムの開発をしていたそうなのだけれど……追放されたとかなんとか」
「マジックアイテムか……」
 そこでアトは自分が調査していた奇妙な物体のことを思い出す。
「実は君にエーニュの調査をしてもらっていた間に、僕も手に入れたこいつを調べていたんだ」
 アトは角砂糖ほどの大きさの粘土状の物体を見せる。
「それは?」
「ラサでエーニュと遭遇したときに手に入れたものさ。恐らくエーニュによって生み出されたものだろう。
 こいつはアイテムの鑑定士にみせてもわからず、闇市にも流れてない代物だ。まぁまずは見てくれ」
 アトは飲み終えた木のコップを店員から買い取ると、粘土状の物体をテーブルにおいた。そして一枚の破れた紙を紙縒り状に巻く。
「これはある魔導書のページだ。この魔導書は燃えるとわずかにマナの火花を散らす性質をもっている。
 こいつをこの粘土状の奴に差して――このコップを被せる」
「えっと……危ないことはないわよね? 痛いのとか怖いのはいやよ?」
「心配ないさ、まぁ心の準備だけは頼むよ。さて、このコップからはみ出た魔導書に火を付けると……」
 魔導書が僅かな火花を撒き散らしながら燃えていく。
 やがてコップの中の方まで燃えていき――破裂音とともにコップが飛び上がり床に落ちた。
「きゃっ……もう、やっぱり怖い奴じゃないの!」
「失礼、思った以上に飛んだよ。まあでもこれで、この物体の危険性が理解出来たと思う」
 アトが落ちたコップを拾い上げ中をリリィに見せる。
「これは……焼け焦げて、ううん、それ以上に中がズタズタになってるわね」
「そうさ、指の先に乗る角砂糖サイズでこの威力。極めて危険性の高いものだ」
 アトは自身の調査の結果、この粘土状の物体がある種の火薬であると断定した。
 そして、それを手に入れたときに目にした時計との組み合わせ。あれはつまり――時限爆弾だったのではないかと推定した。
「時限爆弾……そんなものが仕掛けられていたというのね」
「そうさ、そしてそれはエーニュが用意したもので間違い無い」
「過激なんてことばじゃ済まないわね。危険過ぎるアイテムだと思うわ」
「同意する。しかもこいつは普通の火で炙っても、金槌で叩いても一切反応を起こさない。特定の魔力にしか反応しないアイテムなんだ」
「端から見ればただの粘土にしか見えないという事ね。隠密性も、安全性も……それに粘土なのだから形状の変化も容易なのね」
「そういうことだ。極めて便利な、そして威力の高い優秀な爆薬だ。
 僕は自由に変形できるという意味を込めて、便宜上これをプラスチック爆薬と呼ぶことにした」
 プラスチック爆薬。
 様々な世界から旅人が召喚されるこの世界ならば、あるいは練達ならば存在を確立しているかもしれない技術だが、それをハーモニアで構成されたエーニュが所持していた。
 それはつまり、この技術を生み出したハーモニアが存在する可能性を示唆する。
「エーニュと名乗る連中は、恐らくこれと同一の物を大量に隠し持って歩いていることだろう。であれば、極めて危険と言うしかない」
「そうよね……特定の人物を狙うにも適しているし、量を増やせば大きな被害を起こすこともできるでしょう。もし、街中で使われでもしたら――」
「仕掛けられた場所を見つけるのも困難だ。ただの粘土みたいなものだしね。そして、これを使って奴隷の奪還以外にも実力行使を行っているのでないか――つまり、ザントマン関係者の暗殺にまで、エーニュは手を染めているのではないかと、そう僕は考えている」
「そうね……十分に考えられる話だとは思うわ。でもそこまでいってしまったら……」 
「うん、もはや政治結社などとは言えない。
 彼の組織エーニュは義憤に駆られた犯罪組織とも言えるし、特定人物に対する暗殺組織にもなる」
 そう、前回の依頼の護衛対象だったラサの商人だって、別にしたくて奴隷を運んだわけではない。
 そうした罪の軽い――あるいは罰を受けた者達すらも狙うような危険思想をもった組織であると考えると、近い将来大きな問題を――国を揺るがすような大問題を起こしかねないだろう。
 アトは、エーニュの調査を続けていくべきだと、そう結論づけるのであった。
「さて、とりあえずは情報の共有はできたところかな。調査は継続してもらうとして、リリィはこの組織についてどう思うかな?」
「それは、個人的な興味からかしら? それとも私がハーモニアだからかしら?」
 怪しく笑うリリィにアトは両手を広げて苦笑する。
「どちらも、と言いたいけれど、今回は個人的な興味の方が強いかな」
「あら、そうなのね。私のことを気にしてくれるなんて嬉しいわ」
 そう言って、リリィは今日話したエーニュについて思い出しながら自身の考えを口にしていく。
「アルティオ=エルム民族主義者同盟。
 ザントマン事件を背景におけば、その思想や考え方に同意はできるわ。深緑を出ているとはいえ、私もハーモニアだもの。同胞が虐げられる現実には何かしてあげたいと思うもの」
「まあ、それはそうだろうね」
「ただ、やり方が問題よね。
 演説を通して、ハーモニアの意識を変えるというのは構わないと思うわ。主体性をもって行動するのもいいでしょう。けれど、自分達の手で罪を裁くというのは行き過ぎよね。
 ザントマン事件の体面的な精算は終わっているもの。個人感情じゃまだ終わってないのかもしれないけれど、過去に引きずられて報復を行っているんじゃ、終わらない連鎖が続くだけよ」
「ふむ、大人な意見だ」
「ふふ、まあそう見せてるからね。
 まあでも、私もザントマン事件の被害者だったら……エーニュに賛同していたかもしれないわね。
 ハーモニアって種族は一種の共同体ですもの。近しい、親しいものが犠牲になったのなら、黙って見過ごせるような、そんな感情はもてないでしょうね」
 リリィは、「私は異端だからそういう意識も低いけれど」と付け加える。
「とはいえ、そういう感情を抜きにしても、組織としてエーニュが危険性を孕んでるのはよく理解したわ。
 それと同時に、組織全体をコントロール出来てないような印象をもつわね」
「それは同意する。組織の理念を各々が自由に解釈して行動しているような、そんな感じだ」
「ええ、それゆえにどこかが暴走すれば、組織として一気に瓦解するでしょうね。大きな傷痕と一緒にね」
「かもしれないな」
 リリィの意見を聞き終えたアトは、納得するように頷き、ズタズタになった木のコップを覗き込んだ。
 その傷痕が、世界に広がる、そんな予感がした。

  • エーニュ調査記録Ⅰ完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別SS
  • 納品日2021年05月04日
  • ・アト・サイン(p3p001394
    ・リリィ=クロハネ(p3n000023

PAGETOPPAGEBOTTOM