PandoraPartyProject

SS詳細

ウサコトバネピ!

登場人物一覧

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
有栖川 卯月(p3p008551)
お茶会は毎日終わらない!

●今日はAの日

「ざっけんじゃねぇぞテメェ、どういうつもりだァ!?」

 練達のとあるカフェ近く、路上に若い男の怒号が響く。男の瞳は紅玉を宿し、髪は黒と赤の2色に分かれ、その派手な色に周囲の目が引き付けられる。彼の口から発せられるドスの利いた低い声が、この場の空気を震わせた。

「俺を騙したなァ!?」
「そんなに言う事無いじゃん……ひどい……」

それに対するのは、抹茶色の瞳を潤ませて縮こまる、うら若い乙女。彼女は男のジャケットの袖をきゅっと握ったまま、俯いてしまった。オレンジブラウンの髪はゆるく空気を含んでおり、内に隠れたロップイヤーが、僅かな風に小さく揺れて……その姿が一層、彼女のか弱さを印象づけただろう。

「だってさ……今じゃなきゃダメなの……間に合わないの……」

華奢な指先を震わせ、彼女が差したのは、店先に貼られた、一枚の張り紙。
その指先を追い、男が見た物は。

『カップル限定、シトリンクォーツ特別企画!』
『宝石よりもキラキラなひとときを☆』


ポップな書体と、色鮮やかな写真と、いい感じの画像加工で彩られた。
映えとパリピ感抜群の、スイーツフェアーのポスターだった。









●A in Wonderland Cafe

「クソ、テメェが死ぬ程シリアスな面で『早く来て、時間がないの!!』なんて言うからよォ、クッソ焦ったじゃねぇかヨ」
「いいじゃん、今日はうさてゃんとお茶会しましょ♡♡」

 テーブルの下で足を組みながら、小さく舌打ちを繰り返す彼……『赤羽』の様子を、ニコニコ見つめているのは有栖川 卯月。
そこに先程までの怒号や、今にも泣き出しそうだった彼女の姿は見られない。

 周囲の人も『ああ、あれが通常営業なんだな』『男の方口悪っ』『あの娘かわいい……』と思ったのか……たまにチラリとこちらの様子を窺う者がいるものの、別に迷惑行為となる事をしているわけでもなし、口出しする者など居よう筈もない。

「デ、『ウサ公』。お前は何にすル?どうせ食うなら別々のがいいだロ」
「うーん……アレと、コレと、こっちまでは絞ったんだけどぉ……迷っちゃうな〜!『ばねぴ』はどれがいいと思う?」
「だーかーらァ、『ばねぴ』はやめろっつったろうがヨ!……こっちにしナ。一皿に色々載ってて飽きねぇだロ。俺はそっちにすル。飲み物は紅茶でいいだロ?」
「もち!」

 テーブルに向い合せとはいえ、顔を寄せ合い、互いを何か親しげなあだ名で呼び、限定メニューを見つめ、同じ写真を指差している二人の身体は、とても近い位置にある。
しかし、口には出さずとも、こう思う者だって居るだろう。

……あの二人、よくあれで付き合ってられるな。釣り合い取れてなくない?

その点は、心配御無用だ。そもそもこのスイーツフェアは『カップル限定』と銘打ってこそいるが、それを証明することは求められないし、実際に付き合っていなくとも問題はないのだ。実際、今いる客も、友人同士で誘い合わせて来店したものも多い。何よりも、それ以前に。

「つーかヨ、お茶会なラ、もっと相応しい相手がいるだろうガ。お前がご執心の『帽子屋』とかサ」
「推しピに三月うさぎてゃんのためにスケ合わせて〜とか、傲慢が過ぎるっしょ。あの方はもうとてつもなく多忙な上にいつ来てくださるかわかんなくって……かと思いきや気まぐれに心を掻き乱してきてああもう無理マヂ尊いホント無理ぃ〜……!」
「あっもう良いワ。弁えてるファンで何よりダ」

尊みが溢れ感情が溢れ、言葉がとめどなく流れ出そうになる卯月を、赤羽はそっと手で制した。

「っていうか、あたしのこと言うならさぁ、ばねぴこそ大丈夫なの?ほら、彼ピ」
「アイツならしばらく興行で帰ってこねぇヨ、心配すんナ。美味かったラ、今度はアイツを連れてきてやるサ。不味きゃあお前と地獄行きだがナ」
「ばねぴひどーい!」

そう。彼等は別に、付き合っていないばかりか。
他に『本命』が居るのである。

方や、臆面なく自らの『番』を公言する……『今は』ただの大道芸人、ダイヤモンド・セブン。
目の前の卯月も、彼女(?)と髪色は似ていないこともないし……確かアイドルをしていたと言っていたか?
そういうだけあって、顔も良い方だとは、認めてもいい。
彼女に惚れる者が居ても、理解はできよう。
しかしそれと彼女が赤羽的にストライクゾーンであるかは全く別問題であるし、ウン億万が一『別れて』と言われたとて、自分が何か法を犯したと言うならいざ知らず。情的な理由ならば、そうする理由が一ミリも無い。

方や、何よりも尊みが溢れるし顔も何もかもがいい最高最強の推しピ『マッドハッター』。
彼の方と比べて眼前の赤羽は、態度も口も悪いし、声も荒げるし、さっきもめちゃくちゃ激おこぷんぷん丸。こあい。
少なくとも、卯月がマッドハッターの前でそのように振る舞う筈もないし、もし何者かの手により操られてそういう言動を取ろうものなら、自ら舌を噛み切って死ぬかもしれない(でもあの方に『生きろ』と言われたのならそれはもう全力で蘇るだって推しピの悲しい顔なんてヤだもん)。

なので、彼らのこれは、恋愛等では無く。不倫などではもっと無く。
ただの友人同士の一コマなのだ。

「お待たせしました、クイーンオブハート・キャッスルとクロックラビットになります」
「あっはい、それはこっちですー」

ドリンクとともに、店員が注文したものを運んできた。それを、にこやかに卯月が誘導。テーブルの上にそれぞれの注文品が並んだ。

卯月の前には、レアチーズタルトを土台に、女王の王冠を思わせるふんわりスフレとクリームが載せられ、その周辺にはハートに切られた真っ赤な苺が貼り付けられた、威厳と豪華さの感じられる色鮮やかなスイーツ。

赤羽のオーダーは、チョコソースで描かれた文字盤で懐中時計を表した、兎のパンケーキだ。
周りは大急ぎの兎の足跡を示すようにバナナやらが並んでおり、そこに兎の尻尾のごとく、丸く絞られたホイップが添えられている。

「じャ、いただきま……」
「まってばねぴっ!」

ナイフとフォークに手を伸ばした赤羽を卯月が止める。

「ねねっ、一緒に写真撮ろっ。ツーショ!」
「なんデ」
「だって、せっかくの限定メニューだよ?記念だよ?」
「食いモンを撮るのは良イ。デ、お前が自撮りすんのは構わなイ。若い女はそうするらしいからナ。だがナ、俺まで撮ってどうするんダ。映えも何もねぇだろうがヨ」
「えー……ここまで来といて、付き合ってくんないのぉー……?」

不満気に赤羽を見る卯月。それをじいっと見つめ返す赤羽。折れたのは、赤羽の方だった。

「……ああクソ、わかったよウサ公!代わりに変顔になっても撮り直させてやんねぇからナ!」
「やったーありがと、大好きばねぴ!」

頬を寄せて、肩を組んで、自撮り棒をバッチリ構えて。

ーーカシャン。

撮影タイムが終わったなら、いざ、実食タイムだ。

「あっ、ばねぴのもちょっとちょうだ〜い!」
「ン」

口をもふもふ動かしたまま、皿を卯月の方へと押す。卯月は遠慮なく、大きめの一切れにクリームをつけて、小さな口へと運んだ。

「あっウサ公お前っ、一口がでけぇゾ!」
「んー美味しーい!あっ、うさてゃんのも食べていいよお」
「ったくよォ」

容赦なく悪態をつく青年。それを甘い声で笑う少女。
一見、性格も何もかも噛み合わない二人。

それでもお茶会は、また繰り返されるのだろう。
少なくとも、彼らがそれを望むならば。いつでも、何度でも。

  • ウサコトバネピ!完了
  • NM名ななななな
  • 種別SS
  • 納品日2021年05月03日
  • ・赤羽・大地(p3p004151
    ・有栖川 卯月(p3p008551
    ※ おまけSS『『ウサ公』と『ばねぴ』と』付き

おまけSS『『ウサ公』と『ばねぴ』と』

●今日はDの日

 黒赤の髪を持つ青年が、ベッドに一人、横たわっている。
やがてアラームの音が響けば、彼は静かに、目を覚ました。。
青年の名は『大地』と言った。

……ああ、丸一日、とてもよく眠れた。
相方はどうだったろうか。良い一日を過ごせたのだろうか。

現在時刻を確かめようと、探り探り伸ばした手。それがaPhoneを手繰り寄せると、その画面に、彼の目は大きく見開かれた。

その目が捉えたのは、画面に表示された一枚の画像。
そこに映る、二人の人物。

一人は、有栖川卯月。
以前ローレットの仕事で一緒になったのを、何となく覚えている。知り合いのJKともまた違う、独特なテンションの持ち主だ。

もう一人は、大地と同じ顔立ちでいて、けして彼の浮かべぬ表情をした男……『赤羽』。

否、同じ顔なのではない。彼は、大地の身体に住まう片割れ。有事の際に、もしくは互いが定めた『休日』に、入れ代わり立ち代わり、この身を共有する者。
青年の体には、青年本人たる『大地』と死霊術師たる『赤羽』、二つの魂が宿っているのだ。

 赤羽は、何かと態度も誇張も大きい。すぐ人を馬鹿にするし、大地が困っている時も、面白そうに笑ってばかりで、すぐに助けてはくれない。大地からみれば、口も性格も最悪な男だ。

そんな天の邪鬼が。大風呂敷の悪魔が。
卯月とともに、顔を寄せ、肩を組み、上目遣いにカメラを見て。

 方や、愛らしい決めウィンクとともに。方や、眉間にシワを寄せて、今にも人を殺しそうな、凶悪な表情ではあったが。

……二人で、笑っていたのだ。

「またあいつ、断りきれなかったのか」

そう呟く大地の頬は、いつの間にか緩んでいた。

赤羽にも卯月にも負けぬよう、自分も、なんてことない日常を謳歌しよう。
aPhoneの画面を消し、大地は静かに、身を起こした。

今日の朝日は、とても美しく思えた。

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