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初めての魔物討伐依頼 ~情報屋ユリーカから本日のおススメ~
登場人物一覧
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冒険者ギルドの活気溢れるローレットは本日も沢山の依頼募集で賑わって居る。
多様な特異運命座標の面子は情報屋からの依頼説明詳細に傾聴して居る様だ。
――働かなくちゃいけないのが普通なことはわかってる。世界にある貧者の飢餓も財産の窃盗も武力の闘争も、そして詐欺事件も魔種との戦争も全ての悪意は現実だ。だけど……。
召喚直後で先立つ物もない特異運命座標で在る『よく食べる』トスト・クェント(p3p009132)は独りで円卓に座し乍ら熱い珈琲を寂しそうに啜って居た。
トストは依頼掲示板前で熱心に依頼案内に励む『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)や先輩の特異運命座標達を遠目で羨まし気に只々眺めるが……。
「……今回の依頼は『鉄帝』で武器を運ぶ隊商の護衛なのです」
「ところで、質問ですが……」
――この一杯を飲み終わったら、おれもあの席に加わらなくては……。
焦燥感に駆られる内心では心気を静め様と試みるが、中々勇気が沸かずに円卓の下で脚が竦む。珈琲を飲み干しては既に空のカップを虚しく弄り、無気なしのゴールドでお代わりを注文して居た。だが、彼は漏れ聞こえる会話に耳を傾けて参加の機会を密かに窺って居る様だ。
「こんにちは、情報屋のユリーカなのです! もしかして新しく入った特異運命座標さんなのですか? よろしかったら、依頼の相談をしても良いのでしょうか? 実は本日、おススメしたい依頼が山ほどあって、皆さんに依頼の引き受けをお願いしているのですよ!」
「う、うん、新入りのトストというんだ、よろしく、ははは。今日はどんな依頼があるのかな?」
もう一歩前に進む勇気が出ないトストを気に掛けた情報屋の方から依頼を持ち掛けて来てくれた様だ。トストも流石に黙り込む訳にもいかず、むしろ初めての依頼を受けるチャンスだと前向きに捉えて、困った様な笑顔を浮かべる。
そして、山の様に積る束を抱えるユリーカから初めての依頼案内を受けてみる事を決心した。
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トストが珈琲を喫む円卓の真向いにユリーカが着席すると依頼書を並べる。
トスト目線ではどれも難儀な依頼に見える様である為かたじろいでしまう。
「各種依頼を取りそろえているのですが、どういうのがご希望なのでしょうか?」
「へぇ……。色んな依頼があるんだね? ユリーカくん、初心者向けのあるかな?」
トストは今回が初依頼である事情を伝えるとユリーカも斟酌した上で案内する。
ユリーカ選りすぐりの四つの依頼書を円卓に提示してトストに解説を施す。
「初心者向けなのでしたら……。『練達』首都の方で美味しいラーメン屋さんを発見してローレットに投稿する依頼があるのですよね。報酬額は低いですが、その分、とても簡単に出来る依頼である上にラーメンが無料で食べられるのです」
トストはVERYEASYのタグとラーメン印が付く依頼書を笑顔で眺め乍ら質問する。
「そうか……。ラーメンを食べてラーメン屋情報を開拓する依頼か……。楽しそうで良い依頼みたいだけれど、できれば戦闘して稼げる依頼の方がいいかな? 実はおれ、金欠なんだよね」
所謂与太依頼の類はトストの関心を惹くが明日以降の飯代は切に欲しい所だ。
其れならば、とユリーカは取って置きの戦闘依頼を提案してくれる。
「戦闘で稼げる依頼なのでしたら……。『傭兵』辺境の火山地帯で巨大蜥蜴の魔物討伐が近々行われるのです。情報によるとかなりの大物魔物が相手となるので殺伐とした依頼になると予想されるのです」
次にユリーカから手渡された案件はHARDのタグと魔物印が付く依頼書である。
報酬額の高さにトストは目を見張ったが内容を確認すると肩を落としてしまう。
「ううん……。とてもレベルが高そうな依頼で儲かりそうだけれど……。この巨大蜥蜴というボス魔物とその配下達がやばいぐらい強そうな上に情報精度もかなり悪いね? せっかくだけれど、もうちょっと楽な戦闘依頼はないかな?」
トストが残念そうに項垂れて居る姿を受けて、では此れならとユリーカが再提案する。
今度の依頼はNORMALの難易度だが悪属性依頼の印付きの胡乱な依頼書である。
「はい、これはどうなのでしょうか? 一風変わった依頼でおススメなのですがね?」
「うん、難易度的に報酬額的にもちょうど良い感じがするけれど……。えっ!? うそ……貴族の要人を暗殺しに行く依頼って……」
『幻想』王都郊外で敵対中の因縁ある貴族同士の陰謀に加担する泥沼の依頼な様だ。
此の手の依頼に免疫の弱いトストは好条件で在るものの辞退せざるを得なかった。
「でしたら……。おススメはコレなのですね! トストさんは海種ですし、水場で実力を活かせる戦闘依頼がベストかと思うのです。それなりに報酬額も良い依頼としても本当におススメなのですが……」
トストは幾度も依頼書を選び直す為に段々と情報屋に対して申し訳なく思い始めた。
だが、やはり最初の依頼と云う事もあり今の自分に適切な依頼を受理したい様である。
「おおっ、これは!? 沼地でスライム討伐の依頼……うん、これならできそうだね!」
最後に提案された依頼は正にトスト向きの『海洋』での難易度NORMAL戦闘依頼だ。
弱肉強食の世界で生きて来た彼には此の様な純戦の魔物討伐は分かり易い依頼である。
「では、これで決定ということでよろしいのですね! 何か質問はあるのでしょうか?」
「うん、決定だね。依頼の紹介を本当にありがとう。ええと、質問は……」
トストは筆記用具を取り出して情報屋からの丁寧な回答をメモ帳に精細に記す。
当日は浅い沼地での戦闘が主な仕事なので水着着用が推奨とお弁当持参との事。
「ユリーカくん、色々と親切に案内してくれて本当に助かるよ。当日は頑張るからね」
「いえいえ、こちらこそ依頼に参加してくれて大変助かるのです。今後もよろしくなのですね!」
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初依頼当日を迎えるとトストは海洋浪漫溢れる沼地へ仲間と共に出航する。
最初の依頼であるだけに英気を充分に養い万全の態勢で臨むのである。
トスト達が島の密林に在る巨大な沼地へ案内されると蒼のスライム共が屯して居た。
「すごい数のスライム……。敵意の刃を向けられたら、おれは立ち向かえるだろうか?」
錚々たる数の魔物を目前にするとトストは後退りするが今日は頼もしい同志も居る。
「頑張ろうぜ、トスト! 相談での予定通り、俺の剣を後衛から援護してな!」
「トスト君、怪我をしたらいつでも教えてね。治癒の魔法で助けるから」
他、トスト以外の五名と共に計八名で共闘して魔物討伐と云う仕事完遂を目指す。
「沼地奥の水場は任せて。おれがスライムを誘き出しに行くから援護を頼むね?」
「助かるね。僕ら水場苦手で海種ではないから頼む」
オオサンショウウオの海種である彼は率先して水場攻略で仲間を支える。
神秘の術を特技とする彼は後衛からアタッカーとして敵勢を討って活躍した。
「皆、お疲れ様。討伐後のご飯の味は最高だね?」
「トストもお疲れ。初依頼だったんだ? お前が来てくれて助かったぜ」
討伐事後には仲間達と共に平地でお弁当を広げて仲良く食事を楽しむ。
勝利後に皆で食べたバンブーショットの幻想煮は忘れ難い味と成る。
――ふぅ、大変だったけれど、どうにか初依頼を成し遂げたね。明日の飯代も無事に確保。今後もローレットの仕事で頑張って行こうか。
了