SS詳細
幸せ笑顔の作り方
登場人物一覧
ベアトリーチェとの戦いの後、リゲルは暇さえあれば天義復興のために動き回っていた。
残っている瓦礫を見つければ瓦礫を片付け、破損している建物があれば修復を行う。
何か困っていることがないかと一軒一軒訪問しては、どんな些細なことでも全力で解決に当たる。
一つ一つは小さくても、積み重なれば天義復興の大きな一歩になる。それに、困っていた人達が笑顔になってくれることが嬉しかった。
笑顔と言えば、孤児院の子供達は元気だろうか。
ふとそう思ったリゲルは、愛馬のアルタイルに乗って孤児院に向かった。
「あ、リゲルお兄ちゃん!」
「兄ちゃん久しぶりー!」
リゲルの姿を見つけるなり元気な声を上げる子供達の姿に、リゲルも自然と笑顔になる。
「みんな元気そうだな」
アルタイルから降りて子供達と視線を合わせると、年長の少年が肩を竦めた。
「俺達は元気だけど、シスターがドジって怪我した」
「怪我って、大丈夫なのかい? 手当は?」
「左手首捻っただけだし、手当てして貰ったから大丈夫。ただ、今日の夕飯作るのすげぇ大変そうなんだ」
利き手の右手首でなかったのは幸いだが、片手が使えなければ料理は難しい。
「俺達も手伝おうとしたけど、逆に邪魔になってさ……」
片手でも夕飯を作ろうと頑張っているシスターに、邪魔になってしまったがシスターを手伝おうと頑張った子供達。そんな人達をリゲルが放っておけるわけがない。
「なら俺が夕飯作りを手伝うよ。凝った料理は無理だけど、簡単な料理ならそれなりに作れるし」
その申し出に、子供たちはリゲルを台所に連れて行った。
リゲルが台所に入った時、シスターはスープを作ろうとしているのか、片手鍋で大鍋に水を入れていた。
「後は俺がやりますから、シスターは休んでいてください」
「ですが……」
「ここで無理をすれば悪化してしまいます。この子達も手伝ってくれますし、今日は子供達の為にも休んでください」
リゲルの言葉にシスターは台所にやってきた二人の子供を見た。
二人共シスターを心配そうに見ている。
「……わかりました。今日はゆっくり休ませて貰います。ちゃんとリゲルさんの言うことを守るよ? 夕飯楽しみにしているわ」
優しく微笑むシスターの言葉に子供達の表情が輝く。
「任せて! すっごく美味しいの作るわ!」
「それは楽しみね」
意気込む子供の頭を撫でると、シスターは遊んでいる子供達の様子を見て来ると言って台所を出て行った。
残されたリゲルと子供達はエプロンを付けて何があるか確認していく。
「パン、牛乳、卵、日持ちする根野菜に肉が少しか……」
リゲルの得意なサンドイッチを作るには材料が微妙だ。それに夕飯にサンドイッチはきっと物足りない。でも物足りないなら工夫すれば良い。幸いジャガイモは沢山ある。
「今日はコロッケにしよう!」
以前家族で一緒に作ったコロッケ。そのまま食べても美味しかったし、パンに挟んでも美味しかった。パンとスープも合わせれば、きっとみんな満足してくれるだろう。
「刃物と火を使う所は俺がやるよ。二人はジャガイモを潰して混ぜてくれるかい?」
ジャガイモを潰したり成形したりするのは子供達でも出来る。実際家族で作った時にノーラが嬉々としてやっていたから大丈夫。たとえ形が個性的になったとしても、それも自分達で作った証だ。
「ジャガイモ潰して混ぜるんだな! それぐらいなら俺でも出来そうだ!」
「あたしも! それでシスターにとびっきり美味しいコロッケ作ってあげるの!」
自分達にも出来ることがあると聞いて子供達がやる気を出す。リゲルも腕まくりをして準備万端だ。
「みんなで美味しい夕飯作ろう!」
「おー!」
用意されていた大鍋で湯を沸かす。その横でリゲルはトントンとリズミカルに野菜を切っていく。
その後ろでは子供達が小麦粉、溶いた卵、パン粉を用意していた。
「リゲル兄ちゃん準備出来た!」
「じゃぁこれを潰してくれるかい? 一人が器を抑えて、一人が潰すんだ。途中で交代するんだよ?」
茹でて皮を剥いたジャガイモをボールに入れて渡せば、どちらが先に潰すかで揉め始める。だけど大丈夫。
「一回でみんなの分をまとめて潰すのは無理だから、二回に分けて渡すよ」
リゲルの言葉に自分で全部潰せると分かり、二人はあっさり仲直り。
フォークでジャガイモを潰し始めた子供達の後ろでリゲルは料理を再開する。
大鍋に賽の目切りにした野菜を入れて野菜スープを作る。その横ではフライパンで叩いた肉を炒めて塩胡椒。
子供達は一回目のジャガイモを潰し終えたので新しいジャガイモを渡す。
交代して楽しそうにジャガイモを潰す様子を少しだけ見守ったら、塩胡椒でスープの味を調える。
「ジャガイモ潰せたわ!」
「じゃぁ今度は肉を混ぜてくれるかい?」
潰したジャガイモの上に炒めた肉を乗せれば、二人は嬉々として混ぜていく。
ジャガイモと肉が混ざれば次は成形。
「良いかい? こうやって中の空気を抜いてコロッケの形にするんだ」
二人の目の前でお手本を見せれば二人も早速真似をする。
形も大きさもばらばらだけど、二人は楽しそうに成形していく。
三人でやれば成形もあっという間。
「さぁ、次は衣だ! 衣は小麦粉、卵、パン粉の順でつけるんだ。一人でやると手が大変なことになるから三人で分担しよう」
協力すれば、衣付けだってあっという間に終わってしまった。
「出来た!」
揚げる前だが山盛りになったコロッケに子供達は目を輝かせる。
「お疲れ様。揚げるのは俺がやるから、テーブルの上を片付けてみんなを呼んできてくれるかい?」
「分かったわ!」
いそいそとテーブルの上を片付け始める子供達を微笑ましく見守りながら、リゲルはコロッケを揚げるために油を温め始めた。
その日の夕飯はパンに優しい味の野菜のスープ。そして揚げたてさくさくの手作りコロッケ。
「コロッケあたし達が作ったのよ!」
「凄く美味しいわ。二人とも有難う」
「コロッケもう一個取って!」
「スープおかわり!」
神への祈りを捧げ、頂きますと言った後の食卓は賑やかで、あっという間に料理がなくなっていく。
子供達もシスターも幸せそうで、リゲルは料理人冥利に尽きると思いながら見守っていた。
子供達の夕飯が終わり、片付けをしようとするリゲルを止めたのはシスターだった。
「片付けはみんなでしますから大丈夫です。奥さんと娘さんがお待ちでしょう?」
窓の外はもう日が暮れかけている。夜になるのも時間の問題だろう。
「片付けなら私達にも出来るから大丈夫!」
「ご飯美味かった!」
笑顔で言う子供達にリゲルも笑顔が零れる。
「良かった。また来るよ」
「やくそく!」
にこにこと笑顔で幼い子供達が折り紙を渡してくる。
「これは?」
「シスターとうさぎさんつくったの! おにいちゃんにあげる!」
「可愛い兎さん有難う」
折り紙を受け取って頭を撫でると、子供達は嬉しそうに笑ってくれた。
「思ったより遅くなったな」
孤児院を出たら既に日は落ち、街灯に灯が燈っていた。その明かりに指輪がきらりと光る。まるで早く帰ろうと言っているようだ。
帰りは遅くなるかもしれないと言っておいたが、夕飯を食べずに待っているかもしれない。それに貰った折り紙の兎も見て貰いたい。二人共きっと可愛いと喜んでくれるだろう。
家で待つ二人の笑顔を思い浮かべ、リゲルはアルタイルを走らせた。