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Re:『UNION』

登場人物一覧

エディ・ワイルダー(p3n000008)
狗刃
レッド・ミハリル・アストルフォーン(p3p000395)
赤々靴
アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)
航空猟兵
アルヴァ=ラドスラフの関係者
→ イラスト

 その日もアルヴァ=ラドスラフは悪い夢を見た。
 日に日にこの悪夢を見る頻度が増して、現実の悪寒とリンクしていく。記憶に残らない夢だ。
 だけど、その日は違った。
『だから、ねぇ、アルヴィ。そんな顔をしないで』
 何者かが自分の名を呼びかける。つい先日に部下となったヘドウィンか? いや、この声は女性のものだ。それも若くて、自分と近しい間柄の――

「アルヴァさん、大丈夫っすか?!」
 そこにいたのは友人のレッド。先日の一件で背中に傷を負ったアルヴァは、清潔な寝床で休むという理由でレッドの家に泊まらせてもらっていた。
「あ……ご、ごめん。大丈夫……」
「物凄いうなされようだったっすよ」
 そういってやたら心配そうに顔を覗き込まれる。近い。
「うん、ちょっと背中が痒かっただけ」
 頬を赤らめてときめきたいシチュエーションであるが、いかんせん直前に見た夢のせいで顔は真っ青に染まっている。レッドの方もアルヴァの様態に気付いているのか、よろよろと立ち上がるアルヴァを受け止めるように支えた。
「何か力になれる事があるなら、教えて欲しいっす」
 アルヴァは「本当になんでもない」と拒もうとしたが、彼(女?)がしおらしく顔をくしゃくしゃにしているのを見て、慌てて考えを変えた。
「わ、わかった。話す。話すよ」

 そもそもの問題は記憶に残らない悪夢にあった。その残滓は親しい人間が自分を裏切り、見捨てるような不安と錯覚を生じさせている。
「自分はアルヴァさんを見捨てたりしないっすよ!」
 それを聞いたレッドは話の最中にえへんと胸を張った。アルヴァはクスリと笑みを浮かべながら話を続ける。
「先日、投降してきたヘドウィンが俺の事を『アルヴィ』って呼んだよね」
「あぁ、そういえば。単に呼び間違えたのかと思ってたっすけど」
 アルヴァは首を振って、懐から取り出した布きれをレッドに見せた。
『Alvy=de=Lafs』
 血文字で書かれたそれを「記憶を失う前の、おそらく自分の名前」とアルヴァは語る。
「だったらヘドウィンさんは昔の知り合いっす?」
「いいや」
 アルヴァは力なく首を振った。あの後も詳しく事情を問いただす事は出来たが、やはり「青色の髪をした獣種に聞いた」以上の事は知らない様子だった。
「俺が気にかかっているのは、この姓を持っていた幻想貴族が拷問や暗殺というのを生業にしていた事」
 暗に自分がその家の息子かもしれないと仄めかした。上目遣いでレッドの表情を伺う。
「それでも、アルヴァさんはアルヴァさんっすよ。別に、アルヴァさんが他の人を拷問していたわけじゃないんでしょう?」
「……あぁ」
 記憶がハッキリしていないから、「自分はそんな事やってない」とは断言出来ない。
 誤魔化すように咳払いをするアルヴァは、続けてその貴族が「エディに殺された」と語る。
「エディさんが!?」
 レッドはそれを聞いて驚いた。そしてすぐに心配になった事がある。
「その、エディさんに復讐とか考えてないっすよね?」
「それは……」
 何とも言い切れない。今すぐにでもエディに斬りかかってやるといったつもりもないが、マイナス感情が無いといえば嘘になる。
「同士討ちなんて考えてないよ。だけど正直な事いえば……よくは思っていない」
 今の今まで信頼していた人間が、『お前の親は殺されて当然な人間だ』などという態度を取ってきたのだ。正論であってもそうでなくとも、アルヴァにとって屈辱であった。
 そんな風に落ち込んでいると、突然両頬をパシッと二つの手のひらで挟まれた。豆鉄砲を喰らった鳩のような顔をするアルヴァ。レッドは自分の顔を見せつけるようににかりと笑う。
「気分転換にでぇと行ってみないっすか?」

 数奇な運命といえば、レッドに関してもそうである。
 物語の世界から転移してきた寝たきりの子供。そんな幼子が何の因果か、混沌世界を救う為の一柱となって赤い靴と共に駆け出す事になった。赤い靴が少女を駆け出したともいえるか、それはともかく。
「ほら、アルヴァさん。パルスちゃんのおまけつきチョコっすよ」
「は、はぁ」
 レッドは推しの事についてアルヴァと共におおいに楽しんだ。
 ラドバウ闘士のファングッズが幻想で売られているというのはいかんとも奇妙なものだが、レッドや他の一般人がそれらを買い求めている辺りに納得の需要を感じる。
「こう、まわりを見ると中身のおまけだけもらってチョコレートは捨てていく人が多いみたいだけど……」
「そんな行儀の悪い事はしないっすよ?」
 いつの間にかレッドはパリポリとチョコレートを食んでいた。甘物を溜め込んだ頬はハムスターのように膨らませている。
 アルヴァはその幼げな様子に思わず吹き出す。レッドを見ていてアルヴァは幾分か気が楽になってた。

 そういう流れで、チョコの貪りで盛大に口内が乾いたレッドを喫茶店へ誘った。
 なんだかんだあの一件で山賊退治した事で報奨金が手に入ったのだ。ここは一つケーキやティーをレッドへおごって男らしいところを――
「アルヴァも男らしくなったな」
 聞き覚えがある声が聞こえて、身構えた。親の仇であるエディだ。話題からして自分達を見つけたと思ったのだが、そうではない。色彩の魔女という異名を持つ情報屋、プルーとお茶を飲み合っていた。
「貴方からお茶のお誘いなんて、パーチメントに色づいたのだと思ったのだけど」
 男女の密会? いやプルーの余裕ぶった口振りから違うらしい。
「……どっちにしろ邪魔をしない方がいいっすかね?」
 レッドは耳をそばだてながらそう提言する。アルヴァも「そうしよう」と肯定しかけたが。
「彼の両親を殺したのはやはり俺だったのだるう」
 エディが神妙にそのような言葉を発する。レッドとアルヴァは思わず声を押し殺し、目を白黒とさせながら会話の続きに耳を傾けた。
「どうしてそう思うの?」
「悪人の暗殺なんて数え切れないほど受けたが、手にかけた相手の姓名や容姿を微塵も覚えてないほど俺は馬鹿じゃない」
 アルヴァの生い立ちをいくらか調べている内に、それは確信に変わった述べる。
 プルーはティーカップを女性的な所作で持ち上げる。
「オリーブ色に染まった考え方ね。ローレットは大きい組織だからそういう因縁もあるのかもしれないけれど」
 彼女は「情報屋として知るべき事は知っている」といった態度で飄々と笑っていた。自分が茶に誘われた理由についてもその悩みを吐露出来る相手が欲しかったのだろうと理解して、迷える犬の懺悔を待っていた。
 眉間の皺があらん限りに深まるアルヴァ。それを慌てたような仕草で宥めるレッド。
 ともかくとして、三人はただ黙って各々の席に座ったままエディの懺悔を聞き出そうとした。
「俺は、アルヴァに『お前の両親を殺した』と告白した」
 エディが懺悔を始めた途端、今まで余裕に振る舞っていたプルーが咳き込んだ。そしてすぐ呆れたような目でエディを見る。
「貴方、七色に輪をかけたが如く真面目よね」
「仇として憎しみを受け止めるのが俺の責任の取り方だと思った」
「そういう事じゃないのよ。いえ、わざわざ仲間同士でマゼンタな間柄を形成するのも褒められた事じゃないとは思うけれど、件の暗殺依頼は――」
 プルーは額に手を当てて何から指摘すればいいのかと考え込むが、情報屋として機密にすべき事柄とそうでない事柄が彼女の口を歯切れの悪い形に縫い付ける。
 彼女は『そうでない事柄』のみをどうにか考え出して、出口がない人間関係に迷い込んでいた犬に道を示した。

「――貴方の殺したその二人、全く別の人間よ」

 エディとアルヴァは呆気に取られ、歯が抜き去られたような顔をした。
「俺は依頼に全く関係ない人間を暗殺したのか? それとも姿形を似せた影武者だったのか?」
「それについては、是非とも俺も聞かせて欲しいね」
 ついに我慢しきれず、そのやり取りにアルヴァが踏み込んだ。椅子から転び落ちかけるエディ。対して、行儀の良い所作でお茶を飲んでいたように振る舞うプルー。
「あら、偶然ねレッドさん。コーラルピンクに逢瀬中?」
「え、いや。まぁ、はい」
「ふふ、御洒落なカフェに誘ってもらえるなんて羨ましい。彼ったら、休日の昼間から武器屋へ私を連れて行こうとするのだもの。ネイビーブルーにも程があるわ」
 流れ矢が飛んできたエディは乾いた笑いを浮かべ、レッドは微妙な気まずさに頬を掻く。……まずい、話題がすり替えられてる。
 致し方なし。アルヴァは懐から『Alvy=de=Lafs』と書かれた布きれを取りだし、プルーの目の前に突き付けた。
 彼女は何処かトボけた微笑みから、依頼を頼んで来る時のような真面目な顔付きになる。そうしてプルーは――エディやレッドも見据えながら――ハッキリと言い放った。
「少しでも関わりがある人に、先ほど以上に教えられる事は一つもないわ」

 ……エディが殺したのは、俺の両親ではない?
 帰路についたアルヴァは、レッドを送り届けた後にその事について改めて考え込んだ。
 あの状況でわざわざプルーが嘘をつく必要はないから、あの発言は『真』だろう。
 エディが人違いをやらかした? いや、そうなれば依頼人がすぐさま気付くはずだ。そしてエディやローレットを批難するか、暗殺を再度要請するか――

 そこに考えが及んで、アルヴァは口を覆った。
『そもそもあの暗殺依頼の実態はどういうものだ?』
 だれが、いつ、どこで、なにを、なぜ、どのように?5W1H
 エディから今まで告げられた事は、あの様子だと「世間に対しての建前」だろう。よくよく考えてみればその依頼主が誰かの代行で、全く別の目論見があったと否定する証拠が一つたりともない。
 そう、たとえば、『容姿的特徴が似た、別の誰か殺す為の依頼だった』とか――『de=Lafsの人間が、世間から姿を隠す為に自作自演で影武者を殺させた』とか――……

 ……背筋が鳥肌で泡立つ。
 今まで、「暗殺や拷問を生業とする両親がそういう末路を辿った」と思っていて、心の内の何処か哀れんでいた部分もあった。
 少し前まで好き好んで読んでいた騎士道物語だったら、そういうお約束で満ち溢れていたからだ。もしかしたら両親を信頼して頭の内から自然と排除していたのかもしれない。



 ――『神算鬼謀の実力だけで貴族身分に成り上がれるほどの人間達が、先ほど思い浮かんだ以上に考えが及ばない保証が何処にある?』

 その一端に自分が組み込まれているのだと気付けば、途端に悪寒が走った。
 今の今まで有り触れていたものに過ぎなかった周囲の光景が、生き残っているde=Lafsの誰かに監視されているのではないかと気味の悪いものに見えて来た。
 実際、その危惧は正しかった。
「――――ッ!!」
 いつもならなんでもない事として街角の光景でも、その内にいる一人の人間の容姿的特徴を見逃さなかった。
 フードを被った胸の大きい、冒険者風の女性。フードの内側にほんの僅かに見えるのは自分と同じ髪色……獣種の耳……。
 自分の危惧が杞憂である事を確かめるべくその女性に声を掛けようと駆けた。女性は驚いたのか何なのか知れないが、アルヴァから逃げようと走り出す。
「人違いだったら悪いがっ――!!」
 ある程度追いかけたところで、女性は急に止まった。観念したのか?
 周囲を見渡せば、二人はいつの間にかひとけのない路地裏に踏み込んでいた。
「何もナンパしようってわけじゃないんだ。ちょーっと聞きたい事があって……」
「アルヴィ、ついに姉さんの事を思い出してくれたのね」
 会話のやり取りを試みようとして、いきなりデッドボールを投げつけられて一瞬混乱し、頭の血管が膨張と収縮を繰り返すような頭痛が生じる。
 しかし……「アルヴィ」という言葉からde=Lafsの人間だと確信し、痛みを堪えながら護身用の小刀を取り出した。
「俺の領地に山賊けしかけたのはてめぇか!!!」
「そうよ。貴方も領地の事で不満を漏らしてたでしょう」
「確かに不満はある……が、俺はあいつらの面倒見を放棄するつもりはねぇ!!」
「それでもお母さんとお父さんを殺した幻想の為に働くなんておかしいわ」
 ……?
「待ってくれ、俺の両親は死んでいるのか?」
「そうよ。貴方はその手紙をあのクソ犬から受け取ったじゃない」
 ……手紙の内容を知ってるって、何処まで俺の事をストーキングしてんだこの女。
 アルヴァはそう思うと、急に冷静になった。同時に、彼女を宥める事が出来るかもしれないと踏んだアルヴァは、先ほど聞いた事をありのまま打ち明けようとした。
「暗殺されたのは別の人間らしいぞ」
「どうしてそう言えるの」
「ローレットの情報屋が言ってた」
 アルヴァにとって、ローレットの情報屋ないしプルーという人間は一定の信頼出来る存在だ。だが対面の相手にとっては違う。
「それもあの犬を庇う為のデマカセに決まってるじゃない!!!」
 当然の反応か。やれやれと肩を竦めたアルヴァ。ともかく彼女を縛り上げてでも領地へ連れ帰るべきだとも考えた。de=Lafs家の人間なら聞きたい事はいくらでもある。

 ――頭の中が「思い出せ」あるいは「関わるのをやめろ」と警鐘を鳴らすが如く、木槌で何度も殴打されるように痛んだ。

「着いてきてもらう」
 構わず、女性に対して刃物の切っ先を向ける。やり手の傭兵なのかもしれないと警戒もしている。
 女性はアルヴァが自分に刃物を向けたのを見ると「スンッ」と表情を落ちつける。突き付けられた小刀のソリに人差し指を押しつけてくる。
「おい、そんな事したら怪我を――」
 ぺきゃり。
「――は?」
 アルヴァは何が起きたのか分からなかった。
「ローレットや幻想貴族と一緒にいるから、毒されちゃったのね」
 ……人差し指だけで刃物をへし折った?
「ねぇ、アルヴィ。ウソツキさん達とは決別して、お姉さんがいる“こちら側”に来ない?」
 アルヴァは、この者の正体を悟った。



 ――『魔種』だ。



 アルヴァが逃げ出すのが先だったろうか。魔種が一撃を繰り出すのが先だったろうか。
 その前に何者かがその間合いを鈍器で横薙ぎにした。
「レッド、さん!?」
「エディさんに目を離すなって――と、とにかく逃げるっすよ!」
 着いてきた理由も明かす暇もなく、二人は応援を呼ぶべくローレットの方に逃げ去る。
 魔種は凄まじい足の速さで追討しようともしたが、何を思うたのか途中で脚をピタリと止めた。
「……そうね。わかったわ。アルヴィ。まだその時じゃないものね」
 愛しい弟が勇者争いの戦功者として持て囃されてからでも遅くはない。
 自分に言い聞かせるようにして納得してから、魔種は路地の闇へと消えていく。
「レッド。レッド。れっど。れっど。レッド――」
 立ち去る魔種は、まるで気が狂ったように……まるで排除すべき仇の名前を記憶に刻み込むべく、何度も何度も復唱していた。

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