PandoraPartyProject

SS詳細

エーニュとの邂逅

登場人物一覧

アト・サイン(p3p001394)
観光客

●護衛依頼
 その商人――アブドゥルは、ラサの中で特別目立つような者ではなかった。
 よくある運送業を主軸に生計をたてているようなものだ。
 そういった商人はラサには五万といるが、その商人が他と違ったのは扱う商品にある。
 彼は特に盗賊などに知られると襲撃されかねない希少な品を、隠密に輸送することを得意としていた。
 そうした能力はコレクターなどから高く評価される類いのものだ。アブドゥルもそれなりに繁盛していたと言う。
 そんな中、ザントマン事件が起こった。
 あの当時、ラサでは人員輸送の依頼が増えていたという。依頼料も破格で、運送に携わる商人達は皆飛びついた。
 アブドゥルも例に漏れず、依頼を請け負ったが、いくつかの依頼をこなしている内に気がついた。
 ――これは奴隷売買なのではないか、と。
 非合法の品を運ぶ。
 正道を外れる道を選んでしまうということは、以後の活動が邪道に落ちると同義だ。一度手に着けてしまえばもう後戻りはできない。
 ただ、そのときアブドゥルは、運んでる品が奴隷だと薄々に気がつきつつも、見て見ぬ振りをした。
 これは同業他社も同じものを運んでいたこともあるし、本人達は何も知らされていない体でいれば、見逃してもらえるのではないかと考えていたからだ。
 高めに設定された報酬は満額頂き、あとは知らぬ存ぜぬを貫き通す。なるほど、商魂たくましいと言えなくもない。
 そうして多くの運送事業主がザントマン事件で一定の儲けを手に入れた。
 だが当然、それを見過ごすラサの赤犬ではなかった。
 商人達が運んでいるものの性質に気づかぬわけがないと、見抜かれていたのだ。
 ただ、利用されていたことは十分に酌量の余地はある。
 結果的に、商人達は多額の罰金を支払うことで、ラサからの追放を免れたそうだ。
 アブドゥルもまた、儲け以上の罰則金を支払い、邪道に手を染めるべからずと己を戒めたと言う。

「……それで? 正道に戻った商人がどうしてローレットに依頼をだしたんだい?」
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)が依頼書を手にするリリィ・クロハネに尋ねる。
「職業柄からアブドゥルさんが恨みを買いやすく、狙われることが多いようなのだけれど、ここ最近、異常なまでに誰かに付きまとわれてる感じがするそうなの」
「強い恨みでも買ったのかな……でもラサの商人だよね? 傭兵を雇う方が懐にも優しいんじゃないの?」
「護衛だけならね。アブドゥルさん的には姿を見せない追跡者《ストーカー》に強い恐怖を覚えていてね。これの捜索も同時にお願いしたいそうよ」
 それはもう、そういったことにも手慣れているイレギュラーズにね、とリリィは薄く笑う。
「その点、アトちゃんなら護衛よし、探索よしだし申し分ないわよね! いやー最初から頼もうと思っていたのよ!」
「いや、君、僕の顔を見つけた時、丁度良さそうな奴が来たみたいな顔していたよね」
「あら、うふふ。気のせいよ、ええ、気のせいに違いないわ」
 結局、アトはこの依頼を受けることにした。
 長らくローレットで斥候を務めてきたこともあって、依頼内容に自身の能力が見合っていたこともあった。
 そう難しい依頼にはならないだろうと考え、ラサへと急行するのであった。

●邂逅
 アブドゥルは人の良さそうな笑みを浮かべる男だったが、なるほど職業柄というのもあるのだろう、かなり用心深い男であった。
 運送計画は緻密に練られ、リスクを出来る限り避ける行動を心がけていた。アトとしても護衛対象が埒外の動きをしないというのは、やりやすいものだった。
 そうして、数日護衛を続けている中で、アトは殺気を持った目でこちらを伺う複数の集団に気づいた。
(……殺気を隠さずに、身は潜める、か)
 威圧的な行動は、即座の襲撃を警戒させるが、待てども襲ってくる気配はない。
 護衛対象であるアブドゥルも薄々殺気に気づいてはいるが、アトを信じているようだった。
 視線は馬車の停留所周辺から動かない。
 このまま行けば、アブドゥルも停留所へ入り、休憩を取るところだが……。
「一度ここで待っててほしい。すこし気になることがあるんだ」
 アブドゥルにそう告げて、アトは行動に移った。
 殺気をばらまく襲撃者に気取られないよう気配を殺して停留所へ。隠密に周辺を捜索するスキルはアトの得意とするところだ。停留所に置かれているものを迅速に調べていく。
「これは……なんだろう……?」
 それは馬車の下に設置されていた。
 奇妙な物体。
 馬車の下に潜り込んだアトは、その物体に恐る恐る手を伸ばす。
「表面に時計と思われる機構、周囲にはいくつもの魔力回路……」
 どのような意図があって作られたものなのかわからない、が――そうこれは誰かの手によって作られたものだ。それも極めて危険な……アトは瞬間的にそう感じた。
 すぐにアトはこの物体の解体を始める。
 とにかく、この中央部に設置された時計が恐ろしい。定められた時刻になることで某かの効果を与えるようにも思えた。指針は決まる、時計を止めるのだ。
 手元にツールを用意し慎重に解体する。
 罠のようにも見える魔力回路を切断していき、小包程度の物体を解体すると、粘土状の塊がでてきた。構造自体は簡素。だが、それゆえにどのような効果をもたらすか。アトの額に冷や汗が流れた。
 仕組みとしては時計がゼロを示すと同時に、魔力が粘土状の物体へと流れる。そして某かの効果を齎すと言ったところだろうか。この小包程度の粘土がどのような力を有しているのかは不明だが、もし――もしも、想像の上を行くような結果がもたらされるとなれば、多大な被害を生み出したに違いなかった。
 アトが物体の解体を終え、時計を止める。秒針がゼロを示すまでまだ時間はあった。
 周囲の殺気を帯びた視線はまだ消えない。
(この物体の効果を確認するつもりなのかな……?)
 アトは少し考え、本来残されたであろう時間を逆手にとって襲撃者を捜索する決断をした。
 周囲に溶け込む気配遮断、そして音を立てずに歩行する忍び足を用いて、視線の内の一つの背後へと回り込んだ。
(外套で姿はハッキリと視認できないか……背丈から成人はしてそうだけど……)
 相手は身じろぎせずに停留所の方を見ている。
 アトは懐から小型のナイフを取り出し、音も無く襲撃者へ向け投げつける。
 ――麻沸扔刀。アトの得意とする刺された箇所を治癒し、痛みだけを残す技だ。
「あぐっ……!?」
 小さく悲鳴をあげた襲撃者。同時にアトは駆け出して襲撃者を抑え込んだ。
 有無を言わさず外套を剥ぎ取ると、出てきたのは奇妙な格好をしたハーモニアだった。
 暴れ逃げようとするハーモニアだが、アトの投げつけたナイフの痛みで身じろぎも困難だ。
 そんなハーモニアを検分していくと、アトは馬車の下で見つけた物体と同一の道具を隠し持っていることを確認した。
「君達は何者かな? なぜあの商人を狙う? それにその物騒な物は――」
 アトの質問に、ハーモニアは強い敵意を向けて吐き出すように答えた。
「私は……我々はアルティオ=エルム民族主義者同盟ッ! エーニュに属する誇り高きハーモニアだッ!」
 これがアトと、アルティオ=エルム民族主義者同盟――通称エーニュとの初めての邂逅であり、その存在を知ることになった経緯であった。

  • エーニュとの邂逅完了
  • GM名澤見夜行
  • 種別SS
  • 納品日2021年04月15日
  • ・アト・サイン(p3p001394

PAGETOPPAGEBOTTOM