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登場人物一覧
●フェルム
こん、にちは。ぼくは、フェルム。
あまり、おはなしは得意じゃない。
でも、知ってほしい。ぼくの、これまで。
●Ferrum
両親が死んだ。この世からいない。
理解したのは、いつの頃だったかなあ。
悲しいという気持ちもあったんです。苦しいという気持ちもあったんです。
でもそれ以上に、憎いという気持ちもありました。どうして、ぼくだけを残していってしまうの。
空を飛びたいと思ったのは、それからでした。
空の上には天国があるらしい。空の上まで飛んで、かあさんととうさんのほっぺたをひっぱたきたい。つよく、そう思いました。
「ぼくは、つばさがほしいとおもいました。そらにゆけるくらいの長いはしごをささえるには、ひとがたくさん、かたぐるまをしないといけないでしょうから」
ご飯はカビたパン、あとは賄いなんかがありました。食い繋ぐことはなんとかできていました。
最初はかけもちをしていました。でも、いちどだけ、熱になってしまいました。すると、迷惑をかけてしまったんです。だから、かけもちはやめました。
なぐる。ける。
このくにではあたりまえに行われています。それが、くるしかった。
ぼくはスラムのうまれです。おふろにだって、あまりはいることはできませんし、からだのメンテナンスもあまりおこなえないので、きたない。
わかっていました。それでも、働かなきゃ生きてけない。
こんなことをいうと、店長に笑われます。春を売れば楽だよ、とも。
春をうるってなんでしょうか。いたいでしょうか。つらいでしょうか。ぼくにはわかりません。
「どうせ、消耗品とおなじにみているんでしょう」
いちど、男の人がぼくにさわってきました。おうちにつれていって、おふろにいれてくれて、それからおふとんにもいれてくれました。
いたいことをされました。おとこのひとはたのしそうでした。
おしごとをさぼってしまうので、殴ると、おとこのひとはおこってしまいました。
よくわからないです。
ぼくはあなたをしらないのに。
「拒絶を拒絶と理解しない無能め」
鉄の融点。
いち ご さん はち
それくらいの温度で熱せば、なにもかも、溶けて消えるでしょうか。
ぼくのせなかにも、はねをつくることができるでしょうか。
おとこのひとはきらいです。おんなのひともきらい。その身体のメンテナンスのかいすうぶん、だれをふみつけにしてきたのでしょうか。
とって、ぼくのせなかに、はねがほしい。
「鉄屑は、リサイクル」
魔種にであいました。
やさしいひとでした。
ありがとうも、うれしいも、ちゃんといえる。あの人たちがおかしいなら、世界の方がおかしいとおもう。
けっか。ぼくは魔種になってみることにしました。
痛かったけど、どうでもよかった。
苦しかったけど、どうでもよかった。
きっと、らくになれる。そうおもえたから。
とうさんとかあさんにであったのはいい転機だったとおもっています。
おにくはまずいし、ごはんはふつうのがおいしいけど、かれらはぼくを愛してくれるから。
「知識は武器になる。父さんが、教えてくれました」
魔種になってしたいことを母さんに聞かれた。
何がしたいんだろう。母さんとはそんなに歳が変わらないような気がしているけど、ぼくは子供だから正直どうなのかもわからない。
父さんと母さんに子供ができたらぼくはお姉ちゃんになるらしい。
きょうだいなんてものはわからない。
もっと幸せになれるのは、きっと、確かなんだと思う。
母さんはいつもぼくに惜しみない愛をくれる。
父さんは不器用なりに、ぼくを愛そうとしてくれる。
なら、ぼくもふたりにこたえたいとおもう。
「ありがとう。ぼく、魔種になってよかった」
母さんの食べ残しを貰えば、ぼくの翼はもっと大きくなるらしい。
偽物の両親をひっぱたくために、もっともっと、がんばろう。
「もっと強くなるには、どうしたらいいんだろう」
「あれ。ぼく、」
「どうして、あいされたかったんだっけ」