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似た者同士
登場人物一覧
●レンセット・ロンド
俺はレンセット・ロンド。これは、俺の物語。
俺が君と幸せになるまでの、物語。
●Renset Rondo
彼は天才的な才能を持つ魔術師であった。
天才とは非凡で。故に、彼が苛められるのも、除け者にされるのもある意味では因果だとも言えよう。それを理解するには、彼は優しすぎた。
「どうしてあの娘を虐げる? あの子を捨てた産みの親が悪いでしょう」
「え、ああ、俺の口が悪い……? 気にしたことなかったな。ちょっと、気を使ってみます」
「おれ……いや、私が彼女を庇う理由は特にないけど。だって、種族が違うだけ、だなんて、理不尽だと思うから」
内向的な深緑に反して、異端児にも友好的で。
伝統を重んじる一族を半ば裏切るように、彼は更なる高みを求め続けていた。
結論から言うと。彼が孤立してしまうのは必然とも言えた。
そして、その傷を互いに舐め合うように彼は彼女の近くに居ることを好んだ。彼女は、傍にある体温を手放しはしなかった。
彼女の好意に、彼は気付いていた。
そして、己への悪意が日に日に増していることも、同様に。
彼女が恋人を作ったというのは、後から考えれば疑うべきだった。人間である彼女を孤独にしていた彼らが、彼女と付き合うはずもないのに。
……結果。彼女が傷ついてしまった。それを、わかっていて止められなかった自分にも、責任を感じていた。
「君とは、付き合えない」
痛む心は踏みつけにしてしまおう。
俺は、君を傷つけた幻想種と同じだから。
苦しみに耐えながら愛を謳う彼女に負けて、結局レンセットは彼女と結ばれることになる。
心臓の呪縛。超えることすらできない寿命差。
医者が告げたのだという。彼女の心臓には病巣が巣食っているのだと。
そして、それは治すことはできないのだと。
生きたいと望んでいるのなら、それを与えてあげたい。
俺を好きになってくれた、君だから。
彼は禁忌に手を染める。
甘い悪魔のささやき。
「彼女の病、治せるんだよね」
彼はある秘宝種から入手した魔術書を媒介として、彼女の病を魔術で塗り替えた。
天才であった。
常にそれは、彼を苛む。
魔法の結果は『大成功』。彼女は魔種として生きることで延命が可能になり、その呼び声を彼が拒絶するはずもなく。
禁忌が禁忌である理由を理解しながら、彼は堕ちた。
目が覚めた時、其処に居たのは幸せそうに微笑む恋人の姿だった。
「ねえレンセット。君のおかげで、わたし、生きられる!」
それは、間違っていないという証明。
彼女の存在こそが、彼にとっての正義。彼女が幸せだと。生きているのだと声を挙げている!
「そっか、良かった。私のティアは、今日も可愛いね」
「やだもーレンったら!」
同じ色をした黒髪も、綺麗な青い瞳も変わってしまった。それでも、彼女は生きている。
ならば、それでいいじゃないか。
彼女が幸せだと、そう思えるならば。
彼女が夢を叶えて、笑って明日を迎えられる世界になるならば。
「愛してるよ、ユースティティア。世界で一番。君だけを、ね」
「私は、魔術師だもの。可愛くて若い恋人をサポートしてあげるのも、年長者たる私の役目だよ」
「まーた食べ過ぎて。太っちゃうよ? 運動嫌いなんだからさ、少しくらい加減も大事だよ? おやつ? なら仕方ないね」
「ティアが世界を愛するなら。私も、この世界を愛していたい、かな」
「ティアを傷つける人間も、世界も。大嫌いだし、許すつもりもないけどね」
普段は幻想種を装って薬屋を営んでいる。攻撃されない限りは、彼も世界を滅ぼすつもりはない。
攻撃的な妻とは違い、彼の本性は酷く臆病なのである。
ただし、最愛のひとが傷つけられた場合は別である。
娘に関してはどう接するか悩んでいる様子。はじめての子供は、君が産むものだと思っていたから。
ただ、嫌いではないのだけれど。
●???
違う。彼女は俺の傲慢で、魔種にしてしまったんだ。
彼女を救わなきゃいけない。
彼女を解き放たなくちゃいけない。
ユースティティアを愛しているなら、たとえつらくとも死を拒絶しなくてはいけなかった。
ごめんね、ユースティティア。
――それは彼の中に残る僅かな理性。後悔の記憶。
彼が好んで人を食べないのは、彼のストッパーが働いているからだ。