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【新道風牙の食ノ道】月下のリンゴは背徳と罪の味

登場人物一覧

新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの

 ラサ傭兵商会連合の土地においてほとんどを占める砂漠地帯。昼は灼熱に燃え上がるほどの暑さを抱く空気が、月明かりが砂を照らす頃には一転して霜が降りるのではないかと見紛うほどの寒さをもたらす。この特殊な気候変動を上手にやり過ごす為、人々の多くは夕方と早朝に移動し、オアシスからオアシスへと渡り歩くことが多い。
 『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)は深い青色のターバンとローブを身に纏いながら、行商人の同士の護衛を兼ねたキャラバンに同行していた。

「イレギュラーズのがきんちょ、見張り番の相談があるってじっちゃんが呼んでたぞー」
「んぁ? なんだろ。行ってくる」

 『ラサ傭兵商会連合』という名前の通り、この地には沢山の傭兵がいる。彼らは利益を得る為に他の傭兵と力を合わせることもある。そんな彼らにとってイレギュラーズというのは親戚のような感覚なのかもしれない。キャラバンの旅への同行が決まってから、親しげに新道に話しかけるまでに時間はほとんどかからなかった。

 キャラバンの幌馬車の1つに新道が向かえば、老人が待っていたとばかりに水タバコを吐き出した。要件は簡単な話で、今晩の見張り番を予定していた若い傭兵が、明け方にサソリに刺されてしまい、重症になったらしい。魔術で持って毒は取り除かれたが、万が一の事を踏まえて新道に代役を頼みたいとの事であった。そういうことなら仕方ない、と新道は快く引き受ける。幌馬車を降りた後、何気なく目を向けた先。男が何やら焚き火の近くでゴソゴソと動いていた。

「……?」

 不審に思ったが、新道は特に何をするわけでもなく、心の中に留めておく。外部からの襲撃は依頼に含まれるが、内部犯についてのアレコレはオプションだ。何かが起きた時に依頼主に確認した方が良いだろう。
 傭兵として生き残る為には不必要な危機に身を侵さないことが重要なのである。



 深夜。明け方の移動に備えて、眠る面々を守るために見張り番として新道は焚き火へ向かう。深夜に備えて早寝をしたおかげか、睡魔はない。火は変わらず燃え続けており、男が枝を継ぎ足している。

「よぉ、起きたか」
「ん。……あっ」

 男が振り返り、話しかけた。新道はそこで、男が今日、焚き火に何かを仕込んでいた男であることに気がついた。2人1組であるこの当番制において、ある意味最悪、ある意味最高な結果となった。彼が少しでもこちらに殺意を向ければ、戦える。寝首をかかれずに済むのだ。

「どうした?」
「いや、べつに。……茶、もらっていい?」
「ああ、かまわんぞ。今日も冷えるな」

 あらかじめ焚き火で温めていたらしい湯を使い、茶葉を入れて、啜る。ティーカップなんてものはないので、カップにそのまま茶葉とお湯を入れており、茶葉が底に沈んだのを確認してから、上澄だけを啜るようにして飲む。冷えた身体に暖かい茶の温もりが広がった。

 しばらく、無言が続く。男は焚き火の扱いが上手いらしく、先ほどから絶妙な加減で枝を重ねている。……どうも、悪人には見えなかった。そこで、新道は思い切って問いかける。

「なぁ、昼間になんか仕込んでたろ。アレ、なんだ?」

 言えなかったら言わなくてもいいけど。その言葉より先に、男がニヤリと笑った。とても悪そうな笑みだったが、どこか子供っぽい印象も受けた。

「バレちまってたか。へへ。他には秘密にしてくれよ」

 そう言って、彼は埋めていたものを掘り出した。2つの包み紙の中に、何かがある。それはとても良い匂いを発していた。

「……これって、焼きリンゴ??」

 だが、確か前のオアシスでのバザールでこれでもかと積まれていたリンゴはどれも熟れておらず、酸っぱそうな印象を持っていた。

「そうさ! じっくりと遠火で温めたコレがめちゃくちゃに美味いんだ。蜂蜜酒にもあう! ……でも坊主に酒はまだ早いな。んじゃあこいつを足してやるよ」

 彼は箱の蓋を開けると、濃厚な蜂蜜の香りが広かった。スプーンでさくりさくりと削ったのをみるに、どうやら巣蜜(蜂の巣の過食部そのものを指す)らしい。思っていた以上の高級品が出てきたことに驚く新道に、男が笑う。

「実家が養蜂場をやっててな。蜂蜜だけはあるのさ。どうだ、これをのせて食べる焼きリンゴは美味いぞ?」
「もらう」

 即答だった。

 リンゴは焼かれたことで身を柔らかくしているのに対し、巣蜜がざくざくとした食感を口の中に与えてくれる。また、リンゴは甘味よりも酸味が強いのがよけいによかった。蜂蜜の甘さと相まってまた素晴らしい味わいを口の中に広げてくれる。これは、甘い熟れたリンゴでは味わえない代物だ。


「うわぁあ……めっちゃ美味い……」
「見張り番ってめちゃくちゃ嫌だけど、コレを仕込んでおくとやる気が出るんだよな。ご褒美ってやつだ。皆に秘密っていうのもまた、旨さを感じるスパイスなんだよなぁ」
「わかる気がする。深夜に甘いものを食べる背徳感もまた相まって、最高の贅沢を感じるなあ……」

  夜はさらに更けていく。背徳と罪による蜜の味は新道に活力を与え、その日は何事もなく朝を迎えた。

「見張り番ご苦労! それじゃあ今日も進むぞ!」

 キャラバンは進んでいく。次のオアシスを目指して。

  • 【新道風牙の食ノ道】月下のリンゴは背徳と罪の味完了
  • NM名蛇穴 典雅
  • 種別SS
  • 納品日2021年03月19日
  • ・新道 風牙(p3p005012

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