PandoraPartyProject

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都合のいい夢は幸せと色を敷き詰めて

登場人物一覧

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
山賊

●色鮮やかな世界で

 私達は街から遠く離れた、花畑に居た。
 何故此処にやって来たかは、あまり思い出せないけれど──。
「見て。兄さん、リゴールさん。一面の花畑!」
 凄いわ──と、カティの楽しそうな声に、私は思わず笑みを零してしまった。
 今は、どうだっていいか。そんなことは。
「そんなに走ったら、また転んでしまうよ。カティ」
 私がそういって嗜めるけれど、彼女はくすくすと笑う。
「もう。いつまでも子ども扱いして。わたし、15歳になったのよ。立派な大人だわ」
「んー? その割には、随分はしゃいでるな?」
 親友──リゴールが、悪戯っぽい笑顔でそう言った。
 カティは赤く染まった頬を隠すようにして、視線を逸らした。
 私の親友も……嗚呼、表情こそ変わらないが、耳が真っ赤じゃないか。
「明日はお祭りなんだもの。少しくらいはしゃいだって良いじゃない」
「祭り……? ああ、そう言えば、そうだった気がする」
「おいおい、しっかりしてくれよ。アラン」
 祭り──何の祭りだったか。
 私には思い出せないが、まあ二人が言うのなら、そうなんだろう。

 私達の元を離れ、花畑の中を駆ける少女。
 太陽の光と、舞い散る花弁の中に咲く彼女の笑顔は──嗚呼、我が妹ながら、美しかった。
「カティはまだまだ子供だ。俺たちが付いてやらなくちゃな」
 私は気付いていた。
 私の唯一の親友は、私の大切な妹を、愛してしまった事に。
 そしてきっと──
「リゴールさんっ。こっちこっち!」
「うおっ、と!」
 カティも、彼を愛しているのだと。
 リゴールの手を引くカティの姿を見て、私は深く悩むようになった。
 聖職者は神に仕える者。結婚どころか、恋愛も厳しく禁じられている。
 正直に言うと──私は、親友と妹の仲を取り持ちたいとすら思っていた。
 私は大切な妹の為なら、何だってする覚悟があったつもりだ。
 そして、この親友になら、彼女を任せてもいいと、そうも思っていた。
 ──しかしそれは、『不正義』なのだ。 
 国に、神に見放されたら、私たちは今度こそ、生きてはいけないだろう。
「──ほらっ、兄さんも!」
「うわっ!?」
 不意に、カティに手を引かれ、私は思わず倒れ込んだ。
 三人、川の字で花畑に寝転ぶ。
 深く息を吸い込むと、甘酸っぱいような、濃い草花の香りがいっぱいに広がった。
 青空に転々とある雲をぼやりと眺め、子供の時を思い出していた。
「昔もさ」
「ああ」
「こうやってたよね。わたしたち」
 三人で遊び疲れて、原っぱで寝ころび、こうして流れる雲を目で追いかけた。
 いつしかグッスリと寝てしまい、シスターに怒られながら連れ帰られたっけ──。
 私達が起き上がると同時に、ひときわ大きな風が吹いて。
「綺麗……」
 風に乗って舞う花弁が、私達の視界を散りばめて彩った。
 嗚呼、このまま、この時が永遠に続けばいいと願って。

 ──あの日、私達の見る世界には、確かに『色』があった。

●モノクロの世界で

「あぁ……?」
 ガンガンと痛みが響く頭を押さえつけ、身を起こした。
 俺、どうしたんだ。酒場で死ぬほど酒を飲んで、それから──。
 サイフ代わりの麻袋には、一銭のカネも無い。ついでにその時の記憶も無い。
 辺りを見渡す。夜。裏路地。冷たい石床。ドブ臭い。
 先程の夢で寝ころんだ花畑とは大違いの、ゴミ溜め同然の場所。
 随分都合のいい夢だった。胸糞が悪い。
 今更、何を。あんな世界は、もう二度と。二度とは。
「ウッ……」
 飲み過ぎだ。
 思い切り吐いた。ぶちまけた。胃の内容物を、幸せな夢の内容と共に。
 足元を走り去る子鼠も、すれ違う薄汚い野良犬も。俺を避けて通りやがる。
 どいつもこいつも、道端で吐く俺を、ゴミのような眼で見る。
 当然か。当然だ。何処から見たって、俺は惨めなクズ野郎だ。
 糸の切れた人形のように、ごろりと地面に転がった。
 疲れた。何もする気が起きない。
 出来るなら、また、あの夢の中に逃げ込みたい。
 俺は日々の戦いの中で、何度も都合のいい夢を見せて来る存在に出会ってきた。
 だが、それらを悉く跳ね返して潰してきた。
 結局、夢から覚めてしまえば、辛い現実が待っている事が分かっているから。
 永遠なんて、この世界には存在しない。
 夢も、酒も同じだ。
 こうして人を狂わせる。求めても、浸っても。後が辛いだけなのに。
 分かってる。分かってるのに──。
「また、三人で……か」
 そう思わずに居られないのは、俺の弱さなのだろう。
 ポケットに入れたロケットを握りしめて、目を閉じた。
 嗚呼、もう二度と、幸せな夢を与えないでくれと願って。

 ──あの日から俺の見る世界に、『色』は無い。

  • 都合のいい夢は幸せと色を敷き詰めて完了
  • NM名りばくる
  • 種別SS
  • 難易度
  • 冒険終了日時2019年08月04日 21時30分
  • 登場人物1人

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