PandoraPartyProject

SS詳細

愛しき日々よ永遠に

登場人物一覧

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

 ――マリアさん、助けてくださいなのです!
 この依頼は……この依頼はマリアさんじゃないと出来ないのです!

 そんな感じの事をユリーカに言われて『そうなのかい? 任せたまえ!』と胸を叩いて即承諾したマリア・レイシスであったが――よくよく依頼の内容を見ると、山奥に出てくる服を溶かすスライムを倒してほしいとかいう、ないない情報屋の陰謀だった。
「ユリーカ君、何故……」
 困った。いや依頼であれば行くが、うーむ。
 依頼の詳細書類を眺めながら頭を捻る。只の変なスライムというだけであれば、まぁ百歩譲って良しとしてもいいが……なんかやたら強い上に分身もするとかいう情報があって、一筋縄ではいかなさそうだ。
 なんとか真正面から打ち倒してみるか? それとも何か策を練ってみるか?
 しかしどうにも一人では限界がありそうだ……どうしたものか。
 ついに抱えた頭――の上から。

「――あら。貴女どうしましたの、随分と悩まれている様子で」

 言葉が降りてくる。
 その時現れた人物の顔を眺めた時から――
 きっと彼女の世界は始まったのだ。



「いぇーい! 乾杯ですわ、かんぱーい!」
 そして――夜
 依頼を見事に終えたマリアはヴァレーリヤと共にとある酒場に祝勝会に来ていた。
「いや助かったよヴァレーリヤ君。私一人だけじゃああも上手くは行かなかった筈……」
「それほどでもありませんわ! 私はちょーとお手伝いをした程度ですから!
 あっ。店員の方、とりあえずメニューここからここまで書いてあるお酒お願いしますわ」
 あの後――事情を聴いたヴァレーリヤがマリアの依頼に同行し、二人で事に当たったのだ。出てきたスライムを交互に打ち、奥の手として一斉分裂した際も二人いれば逃さず全て倒すことが出来て……
 最後はハイタッチ。なんの犠牲も左程の苦労もなく依頼は完遂出来た。
 そうしたらヴァレーリヤの方が誘ってきたのだ。
「折角ですから飲みに行きません事? あぁいいお店を知っているんですの、私!」
 正直マリアにとってはありがたい申し出だった。
 マリアは混沌に着てまだ日が浅い故に知り合いもそう多くないが……別に彼女は排他的な性格をしている訳ではない。ただ機会が中々に掴めなかったというだけで。だからこそヴァレーリヤの方からお誘いがあれば喜んで共に。
 早速来たグラスで乾杯し――あれ? なんか予想以上に沢山のお酒が来るんだけど?
「ぷはっー! やっぱりここのお酒は最高ですわね……! あ、じゃあ次のページの分のお酒もお願いしますわ。ええ、書いてるの全部」
「ヴ、ヴァレーリヤ君? そんなに頼んで飲み切れるのかい?」
「平気ですわ平気! 私、普段から伊達に肝臓を育てておりませんわ!」
 肝臓って育てる事が出来るものだったっけ?
 疑問符を思い浮かべながら、しかし。彼女はこちらに無理強いしてくることはない。
 ――明るく親切な女性。
 どこかに暖かみを感じる……それがヴァレーリヤに対するマリアの第一印象だった。
「ところで……ええと、マリアでしたわね。察するに混沌に来た旅人の方でしょうか?」
「――え? あ、ああうん。よく分かったものだね?」
「まぁマリアの様な人も多いので、見ただけでもなんとなーく分かりますわ」
 よくある事だ。異世界から訪れた者は総じて慣れていない。
 マリアに会ったのは偶然であるが……しかし。

「思い悩んでいる以外にも――緊張しているみたいでしたもの」

 分からない事ばかりで不安な人物の特徴だ。
 肩に力が。全身に緊張が走っていて、常にリラックスしていない様子。
 それは緊張している本人には自覚し辛いものだ……しかし人々に寄り添う司祭として思わず声をかけてしまった程にヴァレーリヤには『見えて』いた。
 なんとも放って置きがたいと。
 服装からして軍人――だけれども一見して剣呑な雰囲気はなく、優しそうな人だなぁと思っていたのだ。そういう人物は尚に見過ごしがたい。どうにかリラックスしてほしいと願って……
「折角だから混沌の事を軽く紹介いたしますわ! ふふふ、北の方には私の故郷もあるんですのよ」
「北――ていうと、ああ。鉄帝の事かい?」
「あら、名前はご存知でしたか?」
「うん。なんでも先日ギア・バシリカ事件なるモノがあったんだろう? だからね」
 瞬間。
 ヴァレーリヤに一瞬だけ妙な間があった。
「……? ヴァレーリヤ君?」
「あ、いえ。なんでもありませんのよ。そう……鉄帝は北の方にあって、経済的に貧しい地なんです――その代わりというか、民の皆さんには極寒を乗り切る身体と、何者にも負けぬとする魂を宿しています」
「そして優秀な肝臓もかい?」
 それは私の、神に対する敬遠なる信仰の賜物ですわ!
 にっこりとした笑顔で紡ぎながらビールの入ったグラスを一気に傾ける。さすれば先程生じた刹那の間はどこぞへと消え去って――その時の事の意味を知るのは、もう少し仲良くなってからの……別の物語。
 ともあれ和気藹々と話が進む二人。
 海洋、天義、ラサ、深緑、竜住まう地……色々話した。
「ああでも国だけじゃないんですわよ。そうですわね……私の経験した事で言うと、冬に成ったら混沌同人誌即売会なんてのも開かれますし……ふふふ、あの時は知り合いのシスターとちょっとばかり『あくどい』ハムスターになってしまいましたわ……」
「あ、あくどいハムスター? なんだいそれ。一体何が……!」
「こういうのは経験してみないと分からない事でしょうし……いつか機会があったら一緒に行きましょうね! あ、同人誌がどうこうではなく、つまり色んな依頼に一緒に――ということですわよ! 店員さん次のページのお酒をお願いしますわ!」
 世の中面白い事で溢れているからと。
 更には己れが体験した依頼の事や旅のトラブル。
 各地に住まう己が友人の事や、依頼で向かう度に突入する酒場の美味しいお酒や食べ物の説明。海洋の海の幸は絶品だし、ラサでは豪快な肉を頬張った事もあったか――
 アルコールが進む度に高揚する精神は互いに口を軽くして弾みとなり。
「あら、そういえば私ばかり。マリアの話も聞きたいですわ」
「――私かい? と言ってもなぁ……来たばかりでなんとも……」
 離すとすればかつての世界の事だろうか。
 ガイアズユニオン。神と人とが争う世界で、軍人の一人であった事。
 十二の神盾(イージス)の部隊に属し――多くの責務を担っていた事。多くの……
「表情が硬くなってますわよ」
 瞬間。頬を突かれるマリア。
「思い出話はもっと楽しくしませんと。ほら! もっと飲んで陽気になりましょう、ほら!」
「わ、わ! 零れる、零れるよヴァリューシャ君!」
 かつての世界にいい思い出が無かった――訳ではないが。
 しかし軍人として務める歴史が長かった故にどうしても『固く』なっていたか。
 ……よく見ている人だとマリアは感じていた。
 今の己の心の顔など、自分では気づいてもいなかったのに。
「はー……いい感じに温まってきましたわね……じゃあ次に行きましょうか!」
「ん――二軒目かい? いいよ、よし、行こうか!」
 ともあれ。お口直しにと二軒目突入――そしたら。
「おぅ……ぐふ……これは……うぐ……まさか、私がこのような……」
「だ、大丈夫かいヴァレーリヤ君……!? やっぱり飲みすぎだったんじゃ……」
 並み居る敵すら寄せ付けなかったヴァレーリヤがアルコールにやられている……!
 路地裏。誰もいない所で口を押えて座り込めば、マリアは背中をさすって落ち着かせる。


 ああもうやはりあれだけ飲むのは無茶だったのだと、体を冷やしてはいけないと外套もかけて……
「いいえ、大丈夫! 少し休んだら元気になりましたわっ!
 さあ、次のお酒を頼みましょう! 近くにいーいお店があるんですわ!」
「ええっ!? ほ、本当に大丈夫なのかい!?
 いや、ヴァレーリヤ君が大丈夫なら付き合うけれど……」
「ええ。こんな不覚を取った日には――次なる店で飲み直す他ありませんわ!」
 何を言っているのかちょっとよく分からないけれど、独特の混沌語かな?
 意気揚々と三軒目に突入し、出てくる頃にはやがて――ヴァレーリヤは何故か全快し。
 今度はマリアがダウンして……その顔は真っ赤に染まっている。
「さぁどうしたんですのマリア! 四軒目が待っていますわよ!! 次のお店は老夫婦が経営されておりましてね! 非常に美味しいおつまみが豊富で、香ばしい焼き鳥が特に……」
「ひょえー……ちがうよ、待ってるのはさかばじゃないよ……せかいが、せかいが回ってるよ……」
 おめめぐるぐる襟首掴まれずるずると。


 ――その後の事はあんまり記憶にない。
 意識がハッキリした時にはもう朝で、何故かヴァレーリヤの自宅のベッドで自分も寝ていて――隣には未だ深い深い眠りに付いている彼女がいた。
「無茶苦茶だなぁ……あんなに飲んで、満足したら寝て……あっちこっちに……ふふ」
 本来なら呆れる様な感覚を得ていたかもしれない。
 だけれども、どうしてだろう――
 彼女の有り様には、むしろ落ち着きを得る。
「はー……凄いなぁ」
 不思議だ。どうしてだろう。
 分からないけれど――なんだか彼女を見ていると今までの『悩み』が吹き飛ぶようだ。
 寝ているヴァレーリヤの頬を突いて。思考するは過去の事。

『――強くなれ』

 姉の言葉が今も胸の内に反芻している。でも……
「ふふ! 人間ってこんなに自由に生きていいんだね……」
 なんだかちょっと。ちょっとだけ――軽くなった気がするんだ。

 ああ……私は今までなにをしてたんだろう……

 ずっと姉の影を追っていた。あの様にならねば『ならぬ』と思っていた。
 ――強くなれ。
 ずっとずっと心の中に残っていた。ずっとずっと耳元で響いていた。
 どれだけ瞼を閉じてもあの日が浮かんで。
 どれだけ耳を塞いでも心の鼓膜を揺らして。
 ――だけど。
「君の様に生きても、いいのかな」
 ちょっと強引な所もあるけれど。
 でも思ったんだ――一緒に居たいって。

「思い立ったが吉日、ですわよ」

 その時。ヴァレーリヤの瞼がゆっくりと開かれる。
「わ、わわわ! 起きてたのかい!?」
「ええ――ちょっと頭がボヤけてる様な感じはしますけれど」
 背筋を伸ばして起きるヴァレーリヤ。何処から聞かれていたのか、初めからか?
 心臓の鼓動が急速に。
 顔が赤くなったのは――さてまだアルコールが抜けていないからか?
「人は誰しも自由です。束縛される事などなく……世界を闊歩して生きていいのですよ」
「――――」
「ですので昨日の私をご覧ください! 好きに飲んで、好きに食べていたでしょう!? あれも自由に在れという神の御啓示故であって……」
 好きに生きて良い――自由であれ――
 なんだか初めて言われた様な気がする。
 なんだか初めて――人に許された気がする。
 幻影に囚われていた己が心の楔に亀裂が走る。
 背負っていた荷物が重荷となっていた事に――
「あぁ……」
 やはり、だからだろうか。この日からマリア・レイシスの行動は変わり始める。
 ヴァレーリヤと共に過ごし、何をするにも楽しそうで凄まじく自由な彼女を見て。
「素敵な女性だなぁ」
「ええご存じありませんでした? 私――素敵なんですわよ?」
 こんな人もいるのだと切に感じた。
 自らとは全く異なる彼女の生き様に新鮮さをと同時に衝撃を。
 規律と姉の遺した言葉に縛られている自分がどうにも――馬鹿らしくなった。
「うん。ちょっとぐらいいいよね」
 自由に生きても……

 その日から彼女の世界は変わり始めた。
 純粋な同年代との付き合いという事もある。最初は友人の様に。
 楽しく過ごし、様々な出来事やイベントにも赴いて、そしてやがては……



「――ふふ。ヴァリューシャは本当に何をするにも楽しそうだよね」
「えっ? なにか言いましたマリィ?」
 時は過ぎ去り、自らの自宅。
 眠りに付こうとする前に――共に住まうヴァレーリヤ……
 いや、今や『マリィ』と呼ぶ彼女がこちらを向いてくる。
 今思えばあの時からだったのかもしれない。彼女の魂に惹かれていたのは。
「ヴァリューシャ、好きだよ!」
「ふふ、どうしましたのマリィ――ええ、勿論」
 私もですわよ。
 互いの笑顔はいつまでも。互いの結びつきはいつまでも。
 ああ――どうかこの愛しき日々よ永遠に。

 別つ事無く、どうかいつまでも――自由であれ。

  • 愛しき日々よ永遠に完了
  • GM名茶零四
  • 種別SS
  • 納品日2021年03月02日
  • ・ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837
    ・マリア・レイシス(p3p006685

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