PandoraPartyProject

SS詳細

二人で一緒の、幸せの夜に

登場人物一覧

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫

 グラオ・クローネの夜。二人の心が通い合った告白の時間から、ほんの少し後の話。
 二月の雪も、告白の熱を冷ますには至らない。どこかぽわぽわとした心地の中、「今日はこのまま、一緒に家で過ごさないかい?」と提案したのはマリアの方だった。
 ぽっ、と顔を赤らめながら、
「えっ、ええ! それも良いですわね!」
 と微笑むヴァレーリヤ。告白したその夜に即自宅連れ込みですの???? と一瞬思ったりしたが、もちろんマリアにそう言った意図がない事は、ヴァレーリヤも理解している。と言うか、マリアは純粋に、一緒に居たいだけなのだ。マリアはシンプルで、素直だ。そんな真っすぐな所にヴァレーリヤも惹かれたのだし、一緒に居て心地の良い性格でもある。……それに、今まで何度も、マリアの自宅で一緒に過ごしていたこともあるのだ。そう考えると、過剰に意識してしまっているのは自分の方で……なんだか告白の熱と言う奴は、本当に、冷めやらぬものである。
 そんなヴァレーリヤの葛藤には気づかず、マリアは嬉し気に目を細めた。宝物をもらった子供のようだ。宝物。マリアの宝物に、自分がなれたことが、ヴァレーリヤにとってとても嬉しい。
 マリアの自宅へと到着して、玄関のコート掛けに衣服をかける。
「ちょっと待ってね! すぐに暖房を用意するよ!」
 飛び跳ねるように奥へと向かって行くマリアをしり目に、ヴァレーリヤは、通いなれたはずの『恋人の家』に忙しなく視線を向けた。マリアの家。大切な人の家。愛する人の家。その言葉を思い浮かべるだけで、ヴァレーリヤがなんだかドキドキとしてしまう。
「……ちょっと待って、そう言えば一緒に住む、って言いませんでしたっけ?」
 小声でつぶやく。そうだ、同棲を、了承したのだ。同棲。どっせーいじゃなくて、同棲? 意識すればするほど、頬に熱がこもる。私なんてことを。頬に両手を当てて、わたわたと首を振った。それを自覚し、明確に思い浮かべれば思い浮かべるほど、楽しさと同時に気恥ずかしさが浮かんでくる。ヴァレーリヤにとっても、マリアは初めての恋人だったから、こういう初心な反応をとってしまうのも仕方あるまい。ヴァレーリヤだって、恋する乙女であることに違いは無いのだ。
「ヴァリューシャ、いいよ! おいで!」
 マリアの声で、ヴァレーリヤは現実に引き戻された。
「え、ええ。お邪魔しますわ」
 そう言ったヴァレーリヤに、マリアはぶんぶんと首を振った。
「違うよ、ヴァリューシャ。ただいまだよ!」
 その言葉に、思わず心臓が高鳴る。マリアの中では、つまりもう、そう言う事になっているらしい。
「ただいま、マリィ」
 すこし上ずった声でヴァレーリヤが言うのへ、マリアは満面の笑みを浮かべた。
「おかえり、ヴァリューシャ! ふふ、ちょっと照れるね!」
 ちょっとどころじゃありませんわよ! と内心おろおろとしながら、ヴァレーリヤは、何とか微笑を崩さずに頷いた。にやけてないかしら。そんな事を想いつつ。
「こっちだよ、ヴァリューシャ!」
 マリアはヴァレーリヤの手を引いて、廊下を進んでいく。いつもならば、リビングルームで二人は過ごしていたのだが、その扉を横目にさらに奥へ。シンプルな装飾の扉の前へと通される。
 マリアがその扉を開いて、ヴァレーリヤを中へと招き入れた。そこは、マリアの私室である。以前にも、もしかしたら見たことがあったかもしれない。元々はシンプルな、飾り気のない部屋だったと思わしきそこには、今は装飾品や小物などの可愛らしいグッズが確認できる。それは、マリアが混沌世界で得た心の成長や変化、そして多くの友人たちの好影響によるものなのだろう……いや、それは今は、どうでもいい。
 ここは恋人の部屋である。
 恋人の、部屋。
 マリアの、部屋。
 昨日までは、ここが勝手知ったるマリアの部屋だったとしても、今日からは違うのだ。此処は恋人の部屋なのだ! そう意識すればするほど、そこにあるすべてが輝いて見える。そして、改めて自室と言うプライベートな空間に招いてくれたことに、たまらない幸せを感じてしまうのだ。
 マリアに促されるままに、ヴァレーリヤはマリアのベッドに腰かけた。二人で横に並んで、壁に目を向ける。こち、こち、と言う時計の秒針の音が、妙に響いた。マリアがおずおずと伸ばしてきた手を、ヴァレーリヤはゆっくりと握り返す。熱い。マリアもまた、恋の熱に浮かされているのだろう、とヴァレーリヤは理解した。
「さ、さっきはおかえり、なんて……えへへ。思い出したら、もっと、ずっとどきどきする」
 マリアは顔を真っ赤にして、笑った。
「そう、一緒に住む、って、言ったんだよね! こ、ここに一緒に住むかい? 何度も一緒にこの家で過ごしてるから、ヴァレーリヤも落ち着くかもだし……あ、でも、やっぱりプライベートな私室はあった方がいいのかな!? となると、やっぱり新しい部屋を借りるか、それとも、いっそ一緒に、お家を建てようか! そうすると、引っ越しは、いつがいいかな!」
 矢継ぎ早に繰り出される言葉に、やっぱりマリアも意識して、緊張しているんだろうな、とヴァレーリヤは理解する。マリアのそんな姿を見れば、多少でも年上であるのだから、自分がリードしてあげなくちゃ、と言う気持も湧いてくる。そうなれば、今までよりも少しだけ、冷静になれた。マリアがわたわたと慌てる様子を、愛おしいと楽しめるようになったのだ。
「どちらが良いかしら……ここに住むのも素敵だけれど。今度、良さそうな場所がないか見て回ってみて、それから決めるのも良いかも知れませんわね?」
 くすり、と微笑してみる。マリアはぱあ、と顔輝かせて、何度もうんうんと頷いた。ぎゅう、と、つないだ手に力が込められる。ヴァレーリヤも、ぎゅ、と手を握り。
「……」
「……」
 お互い、少し沈黙してしまう。心地よい沈黙だったけれど、マリアの脳内は、この時猛回転していた。恋人。恋人。ヴァリューシャと一緒。恋人と一緒の時って、何をすればいいんだろ? どんなことを話して、どんな顔でいればいいんだろう?
 恋に熟達しているものが居れば、「いつも通りでいいんだよ」とアドバイスもされようが、しかしこの場にいるのは恋愛初心者の二人である。答えは手探りで行くしかない。
「えっと、えっと」
 マリアはそう呟いてから、「あっ」と声をあげた。バッグをガサゴソと探って、プレゼントされたチョコレートを取り出す。
「そうだ! お互い渡し合ったチョコでも食べるかい?」
「そうですわね。せっかくですから、一緒に食べましょう?」
 ヴァレーリヤはそう言って、自身もマリアからのプレゼントであるチョコレートを取り出した。チョコレートを食べるとなると、紅茶でも入れてきた方がよいかしら? そんなことを考え、提案しようとしたヴァレーリヤの目に飛び込んできたものは、自身の膝をポンポンと叩く、マリアの姿だった。
「お、おいで、ヴァリューシャ!」
 ぽんぽん。
 膝を叩く。
 刹那、ヴァレーリヤの思考は停止した。
 え、どういうことですの? 私には、膝の上に座って、と言うふうに取れますわねええそれ以外ですと膝枕? いえいえ、でもこれからチョコレートを食べるのに寝るのはおかしいですから膝の上に座るのですかしら。え、すわるの? マリィの膝の上に? 私が? え? え?
 高速回転する思考。徐々に熱を持っていく頬。断るという選択肢はない。断ったらきっと、マリアはしょんぼりしてしまうだろう。それは避けたい。さけたい、がとても恥ずかしい!
「え、えーと、良いんですの?」
 かろうじて絞り出した言葉に、マリアは顔を真っ赤にして、うんうんと頷く。ヴァレーリヤは若干わたわたとしながら、マリアの膝の上に、ゆっくりとその腰を落とした。
 近い。
 顔が近い。
 それはそうだろう、相手の膝の上に腰かけて……見つめ合っているのだから。
 目が潤んでいる気がする。頬が真っ赤になっている気がする。それはマリアもヴァレーリヤも思っていたことだが、しかし想い人が目の前にいる、触れあっているという事実だけで、そんなどうでもいい事は吹き飛んだ。
「……やってからなんだけど、この体勢結構照れるね!?」
 ええまったく! とヴァレーリヤは思ったが、顔を真っ赤にすることで返事に代えた。マリアも顔を赤らめて、えへへ、と笑っている。
 ああ、可愛いなぁ、とヴァレーリヤは思った。そして、そんな彼女を独占できる地位にいることに、なんだかたまらない幸せを感じていた。
「えーと、じゃ、じゃあ……あ~ん!」
 マリアが、その手にした一口大のチョコレートを、ヴァレーリヤの口元へと運ぶ。ここまでくれば、もう恥ずかしいものなどなしだ。ヴァレーリヤは差し出されたチョコレートを啄むように、口の中に転がした。
 幸せな甘味が、口中に広がった。頭がしびれそうなほどの幸せと喜び。マリアがえへへ、と笑顔を見せてくれる。
「えへへ、ありがとう……私もお返しでございますわー!」
 照れ隠し半分、ヴァレーリヤもマリアの口元に、チョコレートを差し出す。マリアは、あーん、と口を開けて、チョコレートを啄んだ。
「ふふ、美味しい! とってもおいしいよ、ヴァリューシャ!」
「如何ですこと? マリィのために、頑張って作りましたのよ!」
 マリアの満面の笑顔に、ヴァレーリヤもたまらなく嬉しくなって、少し得意げな顔になってしまう。それからしばらく、二人は向き合って、お互いの口にチョコレートを運び合った。一口食べては、その甘さに身も心も蕩けそうになる。その甘さに身を委ねながら、二人はずっと、幸せな会話の時間を続けていた。
 これまでの思い出を語り、チョコレートを相手の口に運ぶ。これから起こるであろう事を語り合い、チョコレートを相手の口に運ぶ。
 そうやってチョコレートがすっかり空になるまで、甘い二人の時を楽しんだ。次のチョコレートを探す指が、空っぽの箱に触れて、マリアは、ヴァレーリヤは、少し残念そうに目を細めた。甘い時間も、終わりの時だった。


「ふふ、ご馳走様。休憩に、紅茶を淹れてきますわ。ミルクティーでよろしくて――……」
 立ち上がろうとしたヴァレーリヤがそう言って立ち上がった時、思わずバランスを崩してしまった。
「ヴァリューシャ!」
 驚いたマリアが、その手を伸ばす。手が触れあい、ヴァレーリヤの身体がくるりと宙を踊った。そのまま、二人はもつれあうようにしてベッドに倒れ込んだ。
「あっ……」
 と、マリアが声をあげた。ベッドにあおむけに倒れるマリアの上に、ヴァレーリヤの身体が重なっていた。吐息すら感じられるほど近くに、お互いの顔があった。目と目が合う。マリアの瞳が、潤んでいる。
「そ、その…………ヴァリューシャ……?」


 マリアはどぎまぎとした様子を見せて、しかしすぐにやさしく微笑んだ。すべてを受け入れてくれるような、そんな笑顔だった。
 ぼん、と破裂したのはヴァレーリヤの頭である。マリア以上に顔を真っ赤にしたヴァレーリヤは、思考をミキサーでかき混ぜられたみたいに、もう訳の分からない状態になっていた! なんで、どうして、私何をしてますのええなにこれなにこれ! マリィもなんで全面受け入れOkみたいな顔してますの余計こっちが焦ってしまいますわ!? どどどど、どうしたらいいんですのこれあわわわわわ!?
「ごごごめんなさい! 私ったら……!」
 何とかどうにか、言葉を紡ぎ出す。それだって、何を言っているのか自分でもよくわからなかった。ただ、目の前にマリアの顔がある事だけは分った。その瞳が、自分の瞳を覗き込んでいることも。優しく微笑んでいる。愛しい人が、優しく。それだけでもう、ヴァレーリヤはたまらなくなってしまった。
 素直になろう、と、ヴァレーリヤは思った。大好きなマリアみたいに、もっと、自由に、素直に。だからゆっくりと、ヴァレーリヤはマリアの唇に、顔を近づけていった。マリアもゆっくりと、瞳を閉じる。
 唇が、触れあった。数時間前にも触れあった唇。何度触れ合っても、至上の心地になる様な、温かな感覚。ずっとずっと、触れあっていたい……。
 ヴァレーリヤはそんな誘惑を振り払って、唇を離した。顔が真っ赤になっているのだろうな、と自覚した。優しく微笑んでいるマリアも、未だ顔は真っ赤だ。
「も、もぅ……ずるいよ……。私も♪」
 マリアはそう言って笑うと、ヴァレーリヤのおでこに、優しく口づけた。額に柔らかな感触がして、幸福に包まれた。ゆっくりと唇を離して、えへへ、とマリアは笑った。ヴァレーリヤはそのまま、ゆっくりと身体の力を放した。マリアに覆いかぶさるように身体をのせて、その背中に自身の両腕を滑らせる。寝っ転がりながら、抱きしめた形だ。頬をすり合わせるように、ヴァレーリヤはマリアにくっついた。
「その……もう少し、このままで居てもよろしくて?」
 答えの代わりに、マリアはヴァレーリヤをぎゅう、と抱きしめた。そのままごろん、と横になった。抱きしめ合いながら、横になったベッドの上で、二人の視線が交差した。
「えへへ……じつは私もしばらくこうしてたいと思ってた」
 マリアはそう言って、
「あのね……お互いこういうふうに言い合える関係になれたのがまだ夢みたい……」
 ぎゅう、と抱きしめた腕に力を込めた。本当に、まったく夢のような心地だった。そして、それが現実であるという事が、たまらなく嬉しかった。
「大好き……」
 マリアがそう言って、瞳を閉じた。
「ありがとう。私も大好きでしてよ」
 ヴァレーリヤは瞳を細めてそう言ってから、目を閉じた。そのままゆっくりと、自身の唇をマリアのそれへと重ね合わせていた……。

 ……ベッドの上で抱き合ったまま、どれくらい時間が過ぎただろう? 一日中ずっとそうしていたような気もするし、それだけでは足りないような気持もしていた。でも現実にはわずかな時間しかたっていなくて、それが何だかもどかしかった。
「ふふ……そろそろ夕飯にする? 美味しいの作っちゃうよ!」
 そう言って、いつものようにマリアが笑った。そのまま、ちゅ、とヴァレーリヤの頬にキスをする。それをくすぐったそうに受けながら、ヴァレーリヤも微笑んだ。
「あら、マリィだけに作らせるつもりはなくってよ。苦労は二人で分かち合わないと、ね?」
 ヴァレーリヤは、その右手をマリアの頬にあてた。その手が、マリアの体温を、深く感じさせてくれるような気持だった。
「でも、もう少しだけ……こうして居たいですわ」
「うん。もう少しだけ、こうして居よう」
 そう言って二人は笑い合った。それからしばらくして、二人は起き上がると、一緒にキッチンへと向かって行った。
 幸せな二人が作る今日の食事は、きっと極上の味がするに違いなかった。

  • 二人で一緒の、幸せの夜に完了
  • GM名洗井落雲
  • 種別SS
  • 納品日2021年02月15日
  • ・ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837
    ・マリア・レイシス(p3p006685

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