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みらこみ! ー天義編ー
登場人物一覧
-ナレーション-
聖教国ネメシスにおける、国を揺るがす程の事件。
魔種ベアトリーチェの起こした騒乱は、この混沌世界に生きる者達の記憶に新しい事だろう。
──先の決戦の内容は、一夜にして市民にまで広まった。
英雄達の物語は吟遊詩人を通して広がるのが常だが、『冠位強欲』との決戦においては、それより圧倒的に早く広範囲に広まった。
見る者すべてに臨場感たっぷりに迫力と感動を伝え、子供から大人まで市民達を熱狂させたという。
その『媒体』は、ウォーカーが持ち込んだ文化──『漫画』というものだった。
ーとある青年ー
俺は、自分で言うのも何だが、何の取り柄も無い天義の民の一人だ。
食うに困らぬ程度に質素な生活を送り、何の情熱も、熱く打ち込める物もなく。
ただ『神』と『正義』に逆らわぬよう、漫然と生きていた。
そしてそれは、今までも、これからも、ずっと変わらないのだろうと思っていた。
相次ぐ魔種の襲撃事件が起きるまでは。
幸い俺は避難に成功し事なきを得たが、戻ってこない奴も多かった。
隣に住む夫妻も、向かいのメシ屋のおやじも……。
「やれやれ……」
ついダウナーになってしまうのは、俺の悪い癖だ。
気分も上がらないまま街をブラつくと、普段は余り馴染みのない騒々しさを感じ取った。
「何だ?」
声につられて街角を曲がると──俺が目にしたのは、老若男女問わずズラリと並ぶひと、ヒト、人──。
こういった行列が生まれるのは、いささか『天義』という国柄においては珍しい。
興味を惹かれ、俺は最後尾に並ぶ老父に尋ねる。
「すみません。この行列は一体……?」
「ああ。此処に並べば、この国を救った英雄、イレギュラーズの活躍が書かれた本が買えるんだと。これを逃せば、次はいつ手に入るか、わからないぞ」
……成程。
俺は剣を振るう腕力も無く、戦いとは無縁な、どこまでも一般市民だ。
興味はある。
それに──何か胸を打たれるような『何か』を、無意識に欲していたのかもしれない。
早速俺は行列に並ぶ。2時間も待った甲斐あり、俺は無事に『漫画』と呼ばれる本を手に入れる事が出来た。
その表紙は、売り子をしていた金髪の少女と同じ姿の少女と、黒服の女がデカデカと描かれたものだった。
そのタイトルは──『冥刻のエクリプス』。
俺は公園のベンチに腰掛け、さっそく本を開いた。
ー冥刻のエクリプスー
聖教国ネメシスに忍び寄った黒い影。
異端査問の檻をすり抜け、国を破滅に導かんとする魔の者。
名を、ベアトリーチェ・ラ・レーテ。
『冠位強欲』。最も力を持つ魔種の一人に数えられる女。
それが、ついに動き出したのだ。
しかし、影が陽や月を蝕もうと、いつか影を払い再びその姿を取り戻すものだ。
──そう、イレギュラーズ。
それは神が遣わし救世主。
彼らが居る限り──この世界に光は潰えない!
そもそもイレギュラーズとは……
~中略~
「うおおお──!」
魔種でありながらも、最期まで天義の騎士であり続けた騎士シリウス。
彼から力と意思を受け継いだその息子が、死力の聖剣を女の身に叩きこんだ。
「ぐううう……おのれ、おのれェエエエ!!」
その美貌を苦痛と怒りに歪ませ、ベアトリーチェは叫んだ。
背後に鎮座する巨大な人骨が呼応するように、武骨な右手で薙ぎ払う。
その無慈悲な攻撃に、何人ものイレギュラーズや勇敢な騎士が倒れた。
「そんな、まだ届かないのか……」
青年騎士は膝付き、息も絶え絶えにぼやける視界を凝らした。
ベアトリーチェは、絶望的な状況にあって尚、嗤っていた。
「ふふふ、ふふふふふ。ええ、ええ──いいわ。私の真の姿。見せてあげましょう」
──剛ッ! と闇が、黒が、女の身を包んだ。
吹き荒れる黒雷と暴風。誰もが恐怖に慄いた。
まだ、まだ──彼女は力を隠し持っていたなんて!
「最終形態──超・ダークネス・ベアトリーチェッ!!!」
黒雷轟く砂煙から現れた『ソレ』は──まさに筆舌に尽し難い。
鴉の濡れ羽のような黒髪を、ハート型のリボンでツインテールにし。
美しい肢体を隠した妖艶なドレスではなく、フリルいっぱいのゴスロリミニスカ黒衣に。
後ろの骨太郎はどことなくマスコットぽい感じになっている。
「いいえ──魔種少女・ベアトリーチェと名乗った方がよろしいかしら?」
あまりにあんまりなふざけた格好だったが、この姿のベアトリーチェは超強かった。
「ベアベア★ツインテアタック!!」
「うわああーーっ!!」
圧倒的物量を持ったツインテールがうねりを上げ、騎士たちを蹴散らしていく。
後ろの骨は応援していた。
「あはははは──!」
誰もが高笑いするうわキツ女の前に倒れ伏したその時──。
「そこまでだよ。魔種少女ベアトリーチェ……ボクたちは絶対に負けない! 諦めない!!」
そこに現れたのは、『魔法騎士』セララその人であった。
「みんなの思い。みんなの願い。そして──明日を生きる為の希望があるかぎり!」
「うふふふ。誰が現れようと結果は同じ。そんなものはわたくしの前には塵芥。それを思い知らせて差し上げますわ!」
ベアトリーチェと骨太郎が繰り出すダークネスアタック。
さしものセララですら圧し負ける程の圧倒的コンビネーション。
「お願い……ボクに、力を……っ!!」
たまらず叫ぶと、応えるように、セララの身体を光が包んだ。
法王シェアキムが願った。
騎士団長レオパルが祈った。
不正義の騎士リンツァトルテが信じた。
イレギュラーズみんなが託した。
「頑張れ、セララーっ!!」
かっ、と目を開く。
聞こえた、声が。
届いた、思いが。
「託された希望を、今此処に──」
「なっ、これは、一体──!?」
ベアトリーチェの顔が驚愕に染まる。そして確信する。
『これを受け切る事は出来ない』──と。
セララの握る双剣、ラグナロクとライトブリンガーが今、ひとつになり──きらきら輝く一振りの剣となった。
光纏う大剣が天を割き、貫く光が黒雲を振り払い、青空と輝く太陽の光を取り戻した。
あとは何か知らないけどめっちゃ胸も身長も大きくなって美少女ぢから200%モードに成長したセララが光の大剣を振り下ろした。
「これがボクの全身全力っ! 絶対全壊っ!! セララ、ストラッシュだぁああ──!!!」
「──まさか、認められない、認められる筈が無い! こんな、こんな終わりが──っ!!」
ベアトリーチェとマスコットの骨もろとも、切り裂いた。
光の粒になって消えていくベアトリーチェ。
「ベアトリーチェ、キミは強かったよ……あともう少し若かったら、ボクたちが負けてたかもしれない」
天義の市民の『祈り』、イレギュラーズの『希望』を結集させ、少女の剣が魔種を討ち滅ぼした。
かくして聖教国ネメシスはイレギュラーズ達の活躍によって救われたのだ!
この物語は超絶ノンフィクション! 提供は魔法騎士セララより『みらこみ!』にてお送りしました!
ー青年の思いー
「……感動したっ! うおおおーーっ!!」
俺はあまりの読後感に噎び泣いた後、このアツさに耐えかねて服を脱ぎ捨てた。
そして魂の赴くまま、落ちていた枝を拾い上げ、「セララストラッシュ!」と虚を斬った。
「ハァハァ……セララ……うおおおお!!」
二度。三度振るう。まだだ、まだ足りない。
何が足りないんだ。
「俺はなれないのか……魔法騎士セララに……」
「何言ってるんだ、青年よ」
俺の肩に手が置かれる。
振り向くと、最後尾に並んでいたあの老父だ。
「俺が、俺達がセララだ」
見渡すと、子供たちが木の棒を振るっていた。
いや、違う。大人たちもだ。そこは貴族も貧民も関係なく、誰もがセララストラッシュの練習をしていた。
そこかしこに響き渡るセララコールとセララストラッシュのかけ声と。
「お前も、セララだ」
老父の言葉に、俺はまた泣いた。
ありがとう。魔法騎士セララ。君のおかげで、俺は失った何かを取り戻せた気がするよ──。
この日を境に、聖教国ネメシスにおいて『セララストラッシュ』が大流行し、騎士団の入団条件にも『セララストラッシュ』が追加されたと後から聞いた。
やっぱりセララサイコーッ!! この際ロリコンでもいいや!! ヒャッホーッ!!
ーうそですー
「本当、本当だってば! えーと、ちょっとだけ、ちょびっとだけ盛ったけどだいたい事実だから! あっ違う、全部真実ね!」
復興の進むフォン・ルーベルグのとある屋台。
ギフトで発行した漫画本を片手に、通りすがりの人々に力説するひとりの少女が居た、とか。
「あっ、ねえそこのキミ! キミは信じてくれるよね? ね?」