PandoraPartyProject

SS詳細

逆境の連鎖

登場人物一覧

ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
鏡(p3p008705)

 人気もなく逃げ道もない夜の路地。ピリムはその日もまた美しい脚を持つ人を一人殺めていた。
「ふーむ、前々から思っていましたが良い脚ですねー。今日に限って近くにあの男もいなかったですし、本当にラッキーでごぜーますー」
 ピリムは殺した女の脚だけを抱えてどこかに去っていく。元々女は恋人関係であった男のもとへ向かおうとしたが、事情があって遅れそうになり、焦って道に迷った結果この逃げ道のない路地に迷い込んでしまったことでピリムに見つかって殺されたのであった。それからしばらくして、殺された女の恋人であった男が女が来るのが遅いことから探し始め、そのことがきっかけで男は足だけがなくなった恋人の死体を目撃することとなる。男は強く悲しみ、怒り、大切な人を奪った者に対して復讐を誓う。そしてありとあらゆる手段、それこそ裏社会の住民などとも取引をして、ついに復讐相手であるピリムに近づくことに成功した。

 男たちの話の通り、ピリムもその視線には薄々勘付いており、その状況を彼女は想い人と戯れるきっかけに利用した。彼女にとっては、男の怒りすらも格好の餌なのである。
「……ということで、その男が近々現れそうなので、もしよろしければご一緒にいただけませんかー?」
 食事にでも誘うように、ピリムは想い人である鏡に声をかけた。
「活きのいい獲物が目の前にあるのに、それを独り占めするのは申し訳なくって……もちろん脚は頂きますが、メインデッシュは鏡ちゃんに譲りますよー」
「そうですかぁ……いいでしょう。たまには誰かと一緒にするのもありですからねぇ」
 ピリムの提案を鏡は受け入れ、これより復讐者の悪夢が始まっていった。

「それにしても兄貴、あんな奴に貴重な情報を渡して大丈夫だったんすか?」
 小柄な男が巨体の男に声をかける。巨体の男だが、彼が復讐者の男にピリムの情報を渡した張本人だ。
「ふん、脚だけがなくなった死体がピリムの犯行の証拠なんてここいらじゃ当たり前の情報だしな。それに、ああいう金だけある力の弱いやつはすぐにやられるさ」
 巨体の男はなんでもなさそうに答える。
「そうっすね……ピリムはうちの頭の脚を一瞬で持っていったことがありましたし、そう考えるとむしろあの男が気の毒になりますね」
 小柄な男は笑いながら返す。
「まあ、男が気の毒になるのもそうだが……金はむしり取れるうちに取っておいたほうがいいさ。それに、案外ピリムのやつもあいつの視線には気づいて……」
 瞬間、小柄な男が巨体の男の目の前から消えた。そして、気づいた時には大きな腹から貫通した刃の先が……
「……やっぱり貴方でしたかぁ。まあ、前菜にはちょうどいいでしょう。それではいただくとしますかぁ」
 男は刀で無残に斬られていき、終いには顔や体の原型が残らないほど斬られてしまった。男を殺した者は舌なめずりをしてその場を去っていく。そうして今宵、この男の死から血で血を洗う復讐劇が幕を開けた。


 人気もなく逃げ道もない夜の路地。そう、この場所は奇しくもピリムが復讐者の恋人を殺害した現場と同じ場所であった。偶然か必然か、ピリムはまたこの場所で一人の獲物に襲い掛かろうとしていた。獲物は外套を目深に羽織っているため誰かはわからない。そしてまたこの場所には復讐者である男もついてきていた。男は両手で握った包丁を、獲物を襲おうとして無防備になっているピリムの背中に突き立てようとして、腕を振るいあげた。だが……

「残念、ハズレです」

 そんな声とともに避けるピリムの顔が、身体が崩れ落ちる。そう、男が襲おうとした人物はピリム本人ではなく、自身のギフト《写し鏡》でピリムに変装していた鏡だったのだ。そして、襲われようとしていた獲物こそが本物のピリムである。変身が解除されて一糸まとわぬ姿となった鏡に、ピリムは羽織っていた外套を渡して男に近づく。鏡は観客として、悲劇を愉しむために適当な場所に腰を掛けて男とピリムを観ていた。

 恋人の仇を目の前にして、復讐者は感情を爆発させて恨みを吐き出していた。
「お前か! お前が彼女を殺したんだな! なら、彼女が受けた苦しみを、今度は俺が……」
「彼女とはこれのことですかー?」
 しかしピリムは落ち着いた顔で男の前に一組の脚を差し出した。
「これは……」
「ええ、最初見たときは一目惚れでしたよー。ただ、なんでか今では思ったより興奮できないんですよねー。ってわけで、この脚はあなたに返して……」
「くぁwせdrftgyふlp」
 自身の恋人の脚を見せられて混乱し、錯乱しないはずもなく、男は狂乱状態でピリムに襲い掛かる。
「そう来ますかー。では、お揃いにしてあげますよー」
 ピリムは再度落ち着いた感じで事も無げに男の脚を刈り取った。目的である脚を手に入れたピリムは男に対して興味を失ったようで、痛みに悶えながら怨嗟の声を投げかける男を尻目にその場を後にする。
「あとは鏡ちゃんにあげます」
「じゃあ、ここからは私がぁ」
 入れ替わるように男に近づく鏡。男は立ち上がってその場から逃げようとするが脚がないため逃げることができない。その場で腕を振り回して暴れることしかできない男に馬乗りになるように押さえつけて、鏡は男に話しかける。
「お前は何者だ! あの猟奇殺人鬼とはどういう関係だ!」
「どういう関係、ですかぁ……そうですねぇ、あえて言うなら同じ神を信仰するもの、といったところでしょうかぁ」
 男の質問に答えながら鏡は男の脚があったところから血をふき取った。
「可哀そうに……こんなに血が出て、あとどれくらいですかねぇ」
 鏡は恍惚な表情で男に問いかける。
「今日は私もお腹が空いていないので、このままずっと見ていてあげます」
 鏡は言葉をつづける
「アナタの最期を私に見せて? ク、クフ……あははは!」
 鏡の高笑いに対して男はもう答えることはなかった。何故なら……
「あら、もう死んじゃいましたかぁ……まぁ、おそらくこの男は今まで殺しどころか戦闘もやったことがなさそうでしたから、足を切断されてあそこまで出血したら死んじゃいますよねぇ」
 こうして、若干の消化不良感を感じながら鏡もその場から去っていった。路地に残っていたのは脚がなくなった男の死体だけだった。

「おかえりでごぜーますー、鏡ちゃん。あの男、どうでしたかー?」
「そうですねぇ。想像以上に脆かった、ってところですかねぇ」
 帰り道、ピリムは今回の殺しの感想を鏡に聞いてみた。質問に対して鏡は不満そうに答える。
「まあ、そんなわけでこのまま帰るのもちょっと癪なわけで。それで死体を漁ってみたらこんなものを見つけましてね」
 鏡が見せたものは四つの白い石であった。四つの石は大事に隠されていたからか男の血を浴びずに、全くの穢れがない白さを保っていた。
「ふむ……おそろい……」
 ピリムが一瞬脳裏をよぎったのは、男とその恋人が並んだ姿だった。二人が並んでいる姿、そこから見えた女の脚。なぜか目を奪われたその脚と同じはずの手に持っている脚、違いは無いはずなのに感じられる魅力は違う。なら、その違いを感じるのは何だろうか……
「……ちゃん、ピリムちゃん」
「はっ、どうかしましたかー? 鏡ちゃん」
 鏡に呼び掛けられてピリムは気を取り戻す。
「その石が気になるのですかぁ? なら、渡してもいいですよぉ。どうせ私には売るくらいしか使いようがないですし」
 なぜか石をじっと見つめていたピリムを見て、鏡はピリムが石に興味があるのではと感じて石を渡すことにした。ピリムのほうもなにか考えていたものがあったのか、鏡から白い石を受け取り、その日はそのまま二人は別れていった。後日、鏡はピリムから白い小さなアクセサリーが渡されることになる。それは四つの白い石をそれぞれ加工して作られた耳飾りであり、ピリムと鏡とで二組作られたようだ。突然の贈り物に鏡は驚きながらも、少しだけ嬉しそうにその耳飾りを受け取るのであった。


 彼女たちは知ることはないだろうが、男が持っていた四つの白い石は元々男の恋人に贈るためのアクセサリーの素材であった。そして、その石はアクセサリーにすることでとある効果があることがあると信じられていた。その効果は、逆境を呼び寄せるというもの。そして、あらゆる逆境を乗り越えて結ばれたカップルが結ばれることでその愛は真実のものとなる。その考えから男はこの白い石を買ってきたわけだが、まさか結ばれたかった恋人が死ぬというのは男にとって予想だにしなかった『逆境』だっただろう。そして、その白い石はアクセサリーに加工されてピリムと鏡の手に渡った。この先彼女たちにどんな逆境が訪れるか。それを知るのは神のみ、それこそイーゼラー神のみぞ知るところかもしれない……

PAGETOPPAGEBOTTOM