PandoraPartyProject

SS詳細

Colorless blue

登場人物一覧

シャルル(p3n000032)
Blue Rose
リヴィエラ・アーシェ・キングストン(p3p006628)
水晶角の龍

 ――これは、とある春の日のこと。

 その日はとても、とてもよく晴れた空が見えた。
(……いい天気)
 瞳にその色を映し込み、涼やかな水色を深めたシャルル(p3n000032)は窓越しに呆けていた。ローレットは今日も――年末年始も関係ないくらい――毎日賑やかであったが、その喧騒からは少し外れ、端の方に座って眺めていたのである。
「ねえ、お隣いいかしら?」
 そんな声にシャルルは視線を向けた。同じくらい、いやもう少し年上だろうか――少女を過ぎ、女性へ変わる頃合いのウォーカーが1人、にこやかに佇んでいる。彼女が声の主のようで、声をかけたのは紛れもなく自分だろう。近くに人はいないから。
「……どうぞ」
「ありがとう!」
 そっけないだろうひと言に、けれど彼女は嬉しそうな笑みを見せる。あまりにも純粋なその表情は第一印象の雰囲気よりも幼く見せた。
「何を見ていたの? ずっと外を見ていたわよね」
「空。……それが気になって声をかけたの?」
「ふふ、少しあなた自身が気になっていたのもあるけれど。あ、まだ名乗っていなかったわね?」
 リヴィエラ・アーシェ・キングストン(p3p006628)と名乗った彼女は、元の世界で『鉱龍』と呼ばれる希少な種族だったのだと言う。手首から見えているものも身に着けているのではなく生えているそうで、なにより目立つのは頭の――。
「その角も?」
 シャルルが視線を上げると、彼女の頭には他の者――人間種と呼ばれる者――とは異なる、紫水晶の角が生えていた。それは角というよりも宝石、アクセサリーのようにすら見えるかもしれない。ほう、と束の間見惚れてしまったシャルルは自らも名乗っていなかったことに気付く。
「ボクはシャルル。……分かるとは思うけれど、同じ旅人だよ」
「薔薇が生えているなんて不思議ね? シャルルさんもそういう種族なの?」
 純真な瞳で問いかけてくるリヴィエラにシャルルは視線を伏せ、そして首を横に振った。恐らく自分のような存在は稀であり、彼女のような『種族』とはまた別だろう。
「ええと……元々は、花の精霊だったんだけれど。こっちの召喚された時には体があって。だから花が生えている以外は普通の人間……のハズ」
 花が生えている人間を普通というかどうかは、分からないが。
「まあ、花の精霊さん。それじゃあ今の季節は心躍るのかしら」
 春だものね、とリヴィエラは先ほどのシャルルと同じように視線を窓の向こうへ向ける。建物で空は狭く区切られてしまっているけれど、その陽気は窓越しだって感じられる。もう少し視線を落とせばプランターで育てられた花々が小さく揺れているのだ。きっと町を散策すれば春らしい小物だとか、季節限定のデザートだとかが売っているのだろうけれど。
「そうだわ。シャルルさん、折角だからピクニックなんてどうかしら。空がもっと見える……花畑とか」
 リヴィエラが提案したお出かけにシャルルは首を傾げる。そりゃあ空がもっと広く見えたのなら素敵だろうけれど、一体何をするのだろう。
「ピクニック……?」
「そう。お弁当を持って出かけるのよ。お昼寝してもいいし、動物たちと遊んでもいいかもしれないわね」
 どうかしらとその視線が問いかけている。シャルルは無表情の下で考え込んだ。
 別のこれからの予定はない。会ったばかりのリヴィエラだが怪しい者ではなさそう――むしろ怪しい者に連れて行かれてもおかしくない純粋さだとシャルルでも思う。彼女がシャルルと出かけたいと思っている気持ちにも疑いようはなく。
「……いつ行く?」
「準備できるならすぐにでも行きましょう? だって、こんなにいいお天気なんですもの!」
 シャルルの言葉へ目を輝かせたリヴィエラに手を取られ、シャルルは目を瞬かせる。それからくすりと笑ってリヴィエラを見上げた。
「それじゃあ、どこに行こうか。お弁当も作っていたら日が暮れるだろうし……どこかで買っていかないとね」
「そうね! 情報屋さんにお勧めの場所を聞いてみましょうか」
「うん。お弁当も美味しいとこ知ってそうだ」
 2人は揃ってローレットのカウンター、その先に居る情報屋たちを見る。普段から忙しくしている彼らだが、だからこそ色々な場所を知っているだろう。イレギュラーズではない者も多く、空中庭園を介さず移動できない不便さもそのような情報入手の一端になっているはず。
 2人はカウンターに人がいない合間を狙い、情報屋の元へ向かったのだった。

 それから凡そ数時間後――日がすっかり天上まで昇る頃。リヴィエラとシャルルは揃って深緑の地にいた。情報屋にお勧めの場所を聞いた結果である。ちなみに弁当の入ったバスケットはシャルルが、お茶の入った水筒はリヴィエラがちゃんと持っている。
「まあ、花畑と言ったらここだよね」
 緑豊かだもん、とシャルルは視線を上げる。青々とした葉を茂らせる木と木の間を小動物が素早く渡ってどこかへ消えて行く。全く危険がないというわけではないが、迷宮森林警備隊が普段巡回もしているのだろうし――長閑だ。
 花畑も楽しみだけれど、そこまでの向かう道のりもまたそれはそれで良いもので。ついつい歩みが遅くなってしまう2人は、途中小動物を観察したり、道端に見えた湖に立ち寄ったりと寄り道も経てようやく花畑まで辿り着いたのだった。
「まあ……!」
「すごい……」
 かなり広大な花畑である。季節も相まって鮮やかに咲き誇る花たちに、そしてどこまでも広く青い空に2人で揃って見惚れる。暫く動かずにいた2人は、ひらひらと舞う蝶の動きにようやく瞬きをひとつ。その間にも蝶はリヴィエラの周囲を舞い、そしてシャルルの周囲も舞ってその蔓薔薇へ留まった。羽休めされて逆に動けなくなったシャルルに、リヴィエラがくすくすと笑う。
「シャルルさん、甘い匂いがするものね」
「そういうことなのかな……?」
 怪訝そうな顔をしていれば、満足したのか蝶は再び花畑へ。リヴィエラとシャルルもまたその蝶を追いかけるように花畑の中へ足を踏み入れた。
「このあたりかしら?」
「いいんじゃないかな」
 花を潰さないような場所に腰を下ろし、2人はいそいそと持ってきた弁当の準備をする。サンドイッチは店頭でそれぞれ気になったものを。茶も店で淹れたてを水筒に詰めて貰ったのだ。
「シャルルさんのそれは何かしら。白くて……果物?」
「フルーツサンドって言ってたよ。こっちで見るサンドイッチって、あまりデザートみたいなものがなかったから珍しいなって」
 なんて言いながら、ひと口ずつ交換したりして。カップに口を付けたリヴィエラはほう、と頬を緩ませた。ぽかぽかの陽気はついつい眠気を誘ってしまいそうで、隣を見ればシャルルもまたうつらうつらとしている様だ。その手にはまだサンドイッチがあるけれど――食欲と睡眠欲、果たして勝つのはどちらだろう?
「ふふ、暖かいわね。シャルルさん、大丈夫?」
「んん……大丈夫……多分」
 水色の瞳は周囲の花畑の色を映してないまぜにして、とろりと柔らかに溶けてしまいそう。けれどその瞳が眠気に抗おうと上を向いた瞬間、ぱちりと開いた。
「……留まってる」
「え? あら」
 リヴィエラもそっと視線だけ上げてみると、そこにはいつの間にか小鳥の姿が。リヴィエラの角を枝のようにしてつかまる姿に笑みが漏れる。


「ご飯かな」
「かもしれないわね」
 チチ、という声にまた視線を向けると、足元の近くにも小鳥がいる。似た色合いの鳥たちだから兄妹姉妹か、親子か――血の繋がりがあるのかもしれない。ちょいちょいとパンくずを啄んだ小鳥はリヴィエラたちの方を見上げて小首を傾げた。
「平和な場所なんだね」
「ええ、こうして近づいてくれるくらい人懐っこいのだもの」
 深緑の集落が近いとは2人とも聞いていない。それでもこうして小鳥や――先ほどの蝶も――近づいてくるという事は危害を加える存在がおらず、もしかしたら遊びに来るような者もいるのかもしれない。
「そういえばシャルルさんは、もう眠気はいいの?」
 リヴィエラが尋ねるとシャルルは少し考えて「どうだろう」と呟く。眠気が完全に去ったわけではなさそうだが、さりとて眠れるほどに眠気があるというわけでもないらしく。
「それに……こう、勿体ないような気がして。1人で来ていたら寝たかもね」
「まあ。それじゃあ、寝る以外に何かしてみる?」
 どんな花があるか見て回ってもいいし、それらを使って花冠やブーケ、押し花を作ってもいい。勿論この場でこれまでの自身らの想い出だとか、そういうものを語っても良いだろう。
 そうだなあ、とシャルルが呟いた時、不意の風が花畑の花弁を巻き上げる。その風に乗って2羽の小鳥もまた羽ばたいていった。
 空の青に花弁の色と、小鳥の影を追いかけて。あっという間に遠くへ飛んで行ってしまったそれらを見送って、2人は顔を見合わせる。
「……すごかったわね」
「うん。綺麗だった」
 小さく笑い合って、花弁が水面に乗った茶へ口を付けて。さて――まだ時間はありそうだから、まずは花畑を散策してみようか?

  • Colorless blue完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年01月29日
  • ・シャルル(p3n000032
    ・リヴィエラ・アーシェ・キングストン(p3p006628

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