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或る患者の診療に於ける備忘録
登場人物一覧
名前:『カルテ参照、このメモに於いては秘匿』
一人称:『「僕」。記述式であるため、発声した際の一人称は不明』
二人称:『「~さん」。この部分も前述と同じ』
口調:『「です、ます、ですか?」。この部分も前述参照』
特徴:
『今回の診療目的である傷は喉の負傷。
発声ができないほど深く傷つけられているものの、患者はあくまで「傷の痛みに対する治療」だけを依頼してきた。
そのほかにも両腕の肘下から手首に大きな切り傷、その上に重なる打撲痕。また肩にも矢傷など在り』
設定:
――――――某日、幻想内の診療所にて、とある患者のカルテに張り付けられたメモ書き。
『12/20日。患者の容態を記録しておく。
診療する傷は首元。スキル等による治療で治しきれない、特に深度が重い傷である。
現時点で傷自体が常に痛むことはないものの、食事等を飲み込む際に痛みが走ることがあると患者は言っていた。
これに対しては暫く食事を流動食にすることなどを伝え、此方からも液体の栄養剤を処方しておいた』
――メモ書き2枚目。
『ここから先は、医者としてではなく、私個人としての見解を交えた話になる。
処方した栄養剤が強い苦みを伴うものであると伝えた際、患者はそれでも構わないと言った。
その理由が、自身の味覚が極めて薄いものであるがゆえ、とのことだ。
聞けば、患者は幼少時に食事を与えられることが無く、味覚が発達する期間を過ぎてから十分な食事を得られる生活に着いたらしい。(虐待を受けていたのかと聞くと、「似たようなものです」と記述し、苦笑していた)。
私的な推測だが、此度の患者が傷を負った原因は其処に在るのではないかと思われる。
今回の傷もそうだが、患者にはそのほかにも数多くの傷跡があり、その中には「避けられた傷」「避けなければならなかった傷」と思える位置、深度のものも見られていたためだ。
このことから患者は、ある種の自傷癖、そうでなくとも、他と比較した際の自身の立ち位置が極めて低い序列に在ると予想できる。
現在の傷に於いても、あくまで患者は「痛みの治療」だけを目的とし、「傷そのものの治療」を申し出ることは無かった。それが治せる傷であっても、だ。
……叶う事なら。
患者が――彼女が。その傷を、傷跡を癒せる日が来ることを、私は望んで止まない。
傷跡に因らずとも、その痛みを振り返るだけの強さ、若しくはその拠り所を得ることを』