PandoraPartyProject

SS詳細

Falling in Love with Love.

登場人物一覧

イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)
キラキラを守って
黒影 鬼灯(p3p007949)
やさしき愛妻家

●I fell in love with love, With love everlasting.
「嗚呼、嗚呼。良いなあ、私。オフィーリアさんの様に
 美しき空。眞實の空。滔々と途絶えず湧き出づる噴水で水の精が游ぎ、鳥達は口を漱いだ。花々は繚亂と咲き匂い、微風にゆらゆらと揺らぐ百合に薔薇さうびアーチ、絡み合う天人花ミルトの木叢に花影。色に満ちた世界で、寥亮に響く濃綠の葉摩れの音で眼を醒ました、ふたりのおひめさま。
 確りと地面に根を下ろした篠懸プラタナスの大樹は光耀く遥か高みまで届くかと見紛う程で、其の横の真白いガゼボの天井にちょんと留まった風見鶏を靡く風が轉し弄んでいる。
 初夏の陽気に青々しい草花の生命力に溢れた空気の中、梢で殻を破り孵った雛が高らかに産声を挙げたのを聴き乍ら――そんな今日には爽やかな味わいの桜桃のアイスティーに馥郁たる薔薇のジャムを一匙。銀の匙で掻き混ぜて喉を潤して、白磁の様な滑らかな頬をぷっくり愛らしく膨らませた彼女の形の良い脣から漏れ出たのは苦々しく重い溜息であった。

「あら、凄く突然ね。急に如何したの? お嬢さん」
 対面の兎のおひめさまは、仕立てて貰ったばかりの花束ブーケの様な虹色の洋服ドレスに白いレェスのサッシュベルトを締めて、お茶会に相応しいフォーマルな装い。三段のケーキトレーから器用にフォークとナイフでサンドイッチを取り分けて口へと運び、其れから首を傾げれば。
 甘く熟れた苹果や紅玉ルビーを憶わせる天鵞絨をふんだんに使った御召し物に、揃いのボンネット。燦燦と輝ける太陽を一身に浴びる黄金色ブロンドの髪が美しいもうひとりのおひめさまは、亦も見る見る内に口に空気をいっぱいに貯め込んで『其れなのよ!』と口を尖らせた。
「私は『嫁殿』でも、『お嬢さん』でも無くて。『オフィーリア』みたいに名前が欲しくって」
「確かに『嫁殿』は立場であって名前では無い……のかしら。わたしはお嫁さんって一寸憧れるけどね」
 ブルーベリーのスコーンにクロテッドクリィムを塗ってぱくりと一口。口に広がる甘酸っぱさで漸く頬を綻ばせれば眼が合って、何だかお互い、無いもの強請りね、なんて微笑い合う。
「お嬢さんはどんな名前が良いの?」
「なぁんでも良いのだわ! オフィーリアさんみたいなのも素敵だし、鬼灯くんみたいな難しい文字も憧れちゃう。もーっと、うんと長い名前でも良いの。あ、そうねっ! 綽名で呼ばれてみたりしたいかもなのよ!」
「成る程、成る程。でも、気を悪くしないで聴いて頂戴」
「なぁに?」
「名前は勿論、素敵な贈り物よ。其の反面、……――『呪い』だと、そうも考えられない?」
「……うん」

「「だって【私/わたし】達【お人形/ぬいぐるみ】なんですもの」



 ――少女問答在り方について――

 蒼空を仰ぎて兎は斯く語りき――→
 ――若し、持ち主『彼』が居なくなってしまったら。其の時は誰もわたし達の聲に耳を傾けてくれる人は、居なくなる。わたし、考えてみた事があるの。後悔したわ!
 今際の時にお医者さんを呼ぶ事も、誰かに助けを求める事も出来ないのね。
 貰った名前だって、一番呼んで欲しい人を喪った後は――如何なると、云えば。
 聲を求めて、只管に心は、彷徨い続けるのでしょう。屹度何時か――毀れてしまう。
 棄てるには惜しくて。そして前提条件として無論、いとおしい相手を呪おうと意図する人は居ない――
 其れが名前よ。

 ――――
 ――
 
 焦がれし處女兒おとめごはこう答えた――→
 假令たとひ、どんなに苦しくたって――考える事すら恐ろしいけれど、生きているからにはお別れは付き物よ。でも、想うの!
 天国でも奈落でも、鬼灯くんが何処に行ったって。その時は私、無理矢理にでも着いて行くわ!
 神様に怒られても、冥府の王様に脅かされたって、其の頬っぺたを引っ叩いて一緒に居てやるんだから。
 確かに名前は呪いだわ。いましめだわ。名前を与えられないのは『縛られぬ愛』と云うひとつの愛の形よ。其れは重々承知の上。
 けれど私、彼がくれるのと同じ位、戀してしまったの。如何しようも無い程、愛してしまっているの!

 ――――
 ――



 沈黙は、刹那。
 羞恥はじらいかんばせを炎ゆるが如く赤らめた少女が、花瞼と頬に影を落とす長い睫ををふるふる震わせて『今言った事は忘れて頂戴』なんて云うものだから、不安を吐露した兎のおひめさまも緩々と口端を緩め『じゃあ、貴女だったら大丈夫だわ』と頷けば、其の戀愛を祝福する様に静寂な泉の水面の光澤の上に惡戯な水波女ナンフが高高と飛沫を騰げて大地を潤し、虫の聲は一層姦しく。手元ではグラスの氷が溶け崩れて『カランッ』と鳴った。
「でも、でも、オフィーリアさんだって、さっき『お嫁さんって憧れる』って云ったわ。詰まりは――」
「んんん、其れ、訊いちゃう?」
「ええ、私ばっかりでは狡いじゃない! ねえ、ねえ。本当の所、職人さんの事、如何想っているの?」
「『彼』が素敵な純白のドレスと、花束を差し出して跪いてくれたら考えてあげない事もない、かしら?」
「まあ、ロマンティック! あんな赫い大輪の薔薇を百本とか?」
「ふふ。そんなの、抱え切れないわ。折角なら、枯れない布の薔薇を十二本ね」
「其れから、其れから、やっぱり――」

「「金剛石ダイヤモンドの指輪!」」

 ――――
 ――

 是迄の全ては夜半、閉ぢられた男達の眼の上に眩く燦やく祕密であった。
 生気漂う白い群鳥の聲と、カーテンの合間から硝子を熱して横切る太陽の光の中で、纔か微かに擽ったのは果實このみと花々の甘い香り。
 其れから、彼等には身に覚えの無い美しい銀の匙――

『鬼灯へ

 おはよう。俺、何だか不思議な夢を見て、朝から筆を取っているよ。
 笑わないで聞いてくれるかい? オフィーリアとお嫁さんがお茶会をしていてさ。
 余りにリアルで、もしかして…… ひょっとして本当にあった事なんじゃないかって!
 何だか良い香りがした気がするんだもの。
 だから今日は、サクランボの紅茶を探してアイスティーを淹れてみようと思います。
 屹度、爽やかで美味しいだろうから、今度ローレットで会った時にでもお裾分けするよ。

 イーハトーヴより

 P.S.
 夢の中でオフィーリアがぼくのお嫁さんになっても良い、だなんて言ってくれて居たんだけれど。
 其れは怖くて本人に訊けてないや。内緒にしておいてね?』

 ――→

 ←――

『拝啓

 梅雨明けて息つく間もなくこの暑さ、イーハトーヴ殿は如何お過ごしだろうか。
 有り体に云うとだな、此方は少し死に掛けた。
 其れよりも嫁殿の事なのだが。俺もそんな不思議な夢を見た後に――何と申せば良いか。
 自我を持って動く様に為った。何を云ってるんだと思われるかも識れないが……
 名前が欲しいと云ってくれた彼女に『章姫』と名付ける事が決まったのだ。
 暫くは章殿も伏せって居たのだが…… 此ればかりは俺の肝も冷えた――兎に角。
 起きて直ぐオフィーリア殿に手紙を送りたいと書き始めたのでな、其方も同封する。どうか渡してやって欲しい。

 敬具
 黒影鬼灯』

 ――――
 ――

『おちゃかいのおさそい

 Nどめとなるおちゃかいをかいさいします。
 おはなししたいことがたくさんあるの、ぜひ、いらしね!



 じかん:まよなか、にじすぎ――

 あきひめより』

  • Falling in Love with Love.完了
  • NM名しらね葵
  • 種別SS
  • 納品日2020年12月23日
  • ・イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934
    ・黒影 鬼灯(p3p007949

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