PandoraPartyProject

SS詳細

共に在るために乗り越えるモノ

登場人物一覧

射タ風 レン(p3p004728)
コスプレ同好会名誉会員
清(p3p007087)
あなたを想う


 暖かなそのぬくもりに清(p3p007087)は優しく銀の目を細め、無意識にふかふかとした尻尾を揺らす。暖かいのはぱちぱちと爆ぜる暖炉の炎か、それとも抱きしめてくれる愛しい人の温もりか。
 腕の中で無防備に身を委ねる愛しい恋人の耳を撫でながら、射タ風 レン(p3p004728)が話の続きを促す。
「それで、どうなったのでござる?」
「迷子さんの、お父さんが……見つけて、くれました……。迷子さん……お父さんに抱き上げられて……大喜び、でした……!」
「そうでござったか……。泣いていた女の子を守ってあげるとは、清は優しいでござるな」
 微笑みながら頬を撫でれば、清の白い頬が一瞬でピンクに染まる。
「そ、そんな……! 褒めすぎ、です……っ!」
 迷子になって泣いていた女の子を見つけて、一緒にいただけだと必死になって言う清の姿に、レンの心が温かくなる。
「清は本当に可愛いでござるなぁ」
 ふかふかの耳を撫でながら微笑みかければ、清は真っ赤になって俯いてしまう。
 最も、そんな姿もレンにとっては可愛くて仕方がないのだけど。
「清は、随分と柔らかくなったものだな」
「柔らか……です、か……?」
「あぁ。こう……雰囲気や、表情が柔らかく可愛らしくなったでござる」
 初めて出会った時は暗く警戒に満ちた眼差しをしていた少女が、今はレンに身を委ねて甘えてくれるのが嬉しい。
「はわ……は、恥ずかしいですっ! で、でも……いっぱいギュッてするの、好きになりました……っ!」
 恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑みを浮かべて抱き着いてくる清の耳を撫でると、ぴくぴくと揺れるのが楽しい。
「清は撫でられるのが好きでござるな」
「レ、レン様に撫でられるのは……その……大好き、です……っ!」
 もっと撫でてとパタパタと尻尾を揺らすと、レンはその言葉に応えるように清の頭を撫でる。
「えへへへ……」
 撫でられ喜ぶ姿は可愛らしいが、レンは気になる点があった。
 レンに撫でて貰うのは好き。ということは、レン以外に撫でられるのは嫌いという事か。だとしたら、何故そうなったのか。
 大体の事情を察してこれまで清の過去や家族について踏み込むのは避けていたが、そろそろ家族のことや、家名を聞いてみても良いだろうか。
「清が答えたくないなら言わなくていいでござるが……清の家名を、聞いても良いだろうか?」
 躊躇いがちに言われたその一言に、清の動きが一瞬止まった。
 家名。
 それは生まれた時から清を縛り、暗い道を歩ませてきた物。
 家族だった者たちは、きっと今も家名の下に、暗く汚れた道を歩んでいる。
 あの家にいた頃は、家業に対しておかしい、嫌だと思った自分がおかしいのだと思っていた。だけど今は違う。今は、あの家から逃げ出して、家族と訣別して良かったと思っている。
 だって、あの家から逃げ出したおかげでレンと出会い、あたたかな日の下を歩くことが出来るのだから。
 だけどそれはまだレンに何も話していないから。
 もし話して、レンが清を拒絶したら――。
「清」
 浅い呼吸を繰り返す清の頬に、レンの手が触れる。
「無理に話さなくても良いで」
「いえ……」
 労わろうとしたレンの言葉を、小さいが、しっかりとした声で遮る。
「……本当は……凄く、怖いです、けど…… ……聞いて下さい……。私の……嘉月のこと……」
 震えながらも真っすぐ立ち向かおうとする清の姿に、レンは静かに頷いた。


「私は暗殺者一族……その一人として生を受け物心着いたその日から教育を受けて参りました……」
 嘉月――端的に言えば、それは暗殺者の一族。
 闇に潜み、目的を数多の方法で消し去る者達。
 清はそんな一族の長の娘として生まれ育った。
 玩具の代わりに暗器を与えられ、ぬいぐるみはどこに武器を突き刺せば良いか教えるための物。
 清の兄弟を含めて幼い子供は複数いたけど、子供らしい子供は一人としていなかった。
 感情を表すことの無い大人たちに育てられた子供は、情緒面が育つこともなくただ言われたことを熟すだけの存在となる。
 清も、小さな手で沢山の命を奪ってきた。命じられるままに沢山、数えきれない程沢山。
 初めは何も思わなかった。それが普通だと思っていたから。だけど、清が殺した男の遺体を清が現場を離れる前に男の家族が見つけてしまった。
 悲鳴を上げて泣き叫ぶその姿に、清の心に疑問が浮かぶ。
 どうしてあの人はあんな風に泣いているんだろう。
 初めは小さな疑問。だけど一度抱いた疑問は、大きくなって清の心を揺さぶっていく。
 どうして人を殺さないといけないのかと聞けば、悪人だから殺さなくてはいけないと言われた。だけど本当に彼らは悪人なのだろうか。それは誰にとって悪人なのだろうか。
 判断する材料は清の手元にはなかったけれど、人を殺すことが苦痛になるのに時間はかからなかった。
「私は……嘉月を抜け出しました……。勿論一族は……許して、くれませんでした……。父様の命令で……兄様や弟……見知った人達が……処分しに、来ました……」
 逃げ込んだ森の中で、安全な寝床を探し、その日食べる物を探して過ごす日々。
 そんな日々も清が空中庭園に召喚されたことで一転する。
 表情の変わらない女性――当時の清も似たり寄ったりだが――の説明によると、イレギュラーズとして働けば生活が保障される。活動は人によりけりだと言われて、人を殺す仕事ではないことにほっと肩の力が抜けた。
 そのままローレットに送り出された清は、名前を聞かれてただ一言「清」とだけ答えた。
 何も持たない、何も背負うものがない「清」と言う名前の少女が生まれた日だった。

「イレギュラーズに、なってからは……レン様と出会えて……凄く、幸せです……。でも……私は、人を沢山……悪い人達ばかり、でしたが……この手にかけたのです……。それが、とてもとても、辛かった……」
 絞りだすような小さな声と共に、清の白い頬を涙が零れ落ちる。
「……今まで、一人で良く頑張ったでござるな」
 その涙を拭い、そっと抱き寄せれば清は小さく頭を振る。
「私は……っ! レン様の隣に……いていいような存在じゃ」「拙者がいて欲しい」
 自らを否定しようとする清の言葉を言葉で押し止め、レンは優しく清を撫でながら言葉を紡ぐ。
「拙者も宇宙警察忍者として様々なことに手を染めてきたでござるよ。人の命も、数えきれない程奪ってきた。だけど……同じような道を歩めど、拙者のように堕ちることなく暖かい輝きを失っておらぬ」
「そんなこと、ありません……! レン様は……いつもあたたかくて眩しくて……!」
「そう見えるとしたら、それはきっと清が一緒だからでござるよ。拙者からすれば清のほうが暖かくて眩しいほどでござる。清のその姿に感銘を受けると共に癒されるがゆえに、拙者は清を守りたいとそう思うのでござるな、うむ」
 照れたように頬を掻くレンの姿に、清の顔が真っ赤になる。
「ほ、ほほほ、ほ褒めすぎですっ! は、恥ずかしいですーーっ!!」
「褒めすぎどころか褒め足りぬでござるよ?」
「はわ……!! も……っ! わ、私、またレン様を好きになってしまいますっ!」
 真っ赤になってぎゅっと抱き着く清からは、先ほどまでの暗く、苦しい物を抱え込んだ様子は欠片も見えない。
「拙者も清が好きでござるよ」
 自分だけに見てくれる可愛い姿に、レンは真っ赤な頬に口づけるのだった。

  • 共に在るために乗り越えるモノ完了
  • NM名ゆーき
  • 種別SS
  • 納品日2020年12月20日
  • ・射タ風 レン(p3p004728
    ・清(p3p007087

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