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美味しい幸せ笑顔を添えて
登場人物一覧
●お一人様よりお二人様で
乙女心は秋心。
ころころ変わる、空みたい。
「やっぱりこっちも美味しい……!」
頬をふっくらと膨らませて、幸せそうに口元を緩めているのはレイリ―=シュタイン (p3p007270)。その手には揚げたて熱々の串カツが。
その隣ではアイリス・アニェラ・クラリッサ(p3p002159)が大きな肉まんを両手に持っていた。
「熱々美味しー」
口元には運んでいないのに、両手に持った肉まんはあっという間に消えていく。最後にぺろりと舐める舌が見えたのは気のせいか。
「レイリーのお勧め外れがないね~」
「そう言って貰えると嬉しいわ。あ、こっちに美味しいお茶のお店があるの」
凛々しい騎士も今日はお休み。
キラキラ輝く虹色の瞳を瞬かせて、次は何を食べようと心躍らせる。
二人の出会いは十数分程前。
買い物ついでに新しいメニューが出ていないかと見て回っていたレイリーは、お気に入りの店で新しい味の唐揚げを売っているのに気づいて迷うことなく買いに行った。
揚げたての唐揚げを白ごまがたっぷり入った甘めのたれにつけた唐揚げは、さくっとした衣の食感と、トロリとしたたれが絡みあって新しい風味を作り出す。そこにぷちぷちとした胡麻の食感と香り、じゅわりと溢れ出る肉汁が幸せのハーモニーを作り出す。
「んー……!」
レースたっぷりの服にたれが付かないように気を付けながら二つ目を串から引き抜いたところで、じっと自分を見つめる眼差しに気づいた。
「何かご用ですか?」
もぐもぐごっくん。唐揚げを飲み込んで視線を下げると、そこには虹色に輝く目を、更にきらきらと輝かせるアイリスが。
「あの~。それ、どこで売ってますか~?」
限界を知らない大食い娘であるアイリスだが、食べるなら美味しい物が良い。そしてレイリーが食べている物は、良い香りがして、食べているレイリーも凄く幸せそう。
絶対に美味しい。
そう確信したアイリスは、迷うことなくレイリーと同じ物を買いに行った。
「アイリス殿の食べっぷりは見ていて気持ちが良いね」
「そうですか~? どれだけ食べてもお腹いっぱいにならないので、いつもお腹ぺこぺこなんですよ~」
普段は安くて沢山食べる方が優先だけど、偶には味重視でいっぱい食べたいのだと嘆く。
「あら、じゃぁ今日は一緒に食べ歩きします?」
一人で気ままに食べ歩きもいいけれど、女同士で仲良く食べ歩きも楽しいものだ。
「良いんですか~?」
「えぇ。一緒におしゃべりしながらの食べ歩きも楽しいもの」
そう笑うレイリーは、誰かを守る騎士でもヒーローでもなく、年頃の女性そのものだった。
●乙女の悩みは尽きません!
熱々揚げたての揚げ物に、すっきりとした香りのお茶。口休めに野菜も食べつつ、ついつい目が行ってしまうのは美味しそうなお肉。
「アイリス殿は、お酒は行ける口かな?」
「生憎、まだお酒はダメなんですよね~」
「そうか……」
炭火で焼けていく分厚いお肉を見ながら、レイリーはついアルコールを見てしまう。
しっかりと塩胡椒を利かせた物なら良く冷えたエールだろうか。それともしっかりと煮込んだソースをかけてワインと一緒に。その場合ワインは赤と白、どちらが良いだろう。
これが一人であれば迷うことなくアルコールも頼むのだが、アイリスが未成年ならここは我慢するべきだろう。
内心しょんぼりしつつ諦めようとしたとき、アイリスがアルコールのメニューを差し出してきた。
「飲みたいならどうぞですよ~。私はジュースを頂きますね~」
楽しそうにどのジュースにしようか考えるアイリスに、レイリーは有難く良く冷えたエールを頼むのだった。
「いただきま~す」
薄く焼いたクレープに、レイリーは塩胡椒を利かせた牛肉と玉ねぎを炒めた物。アイリスはハムとチーズ、たっぷり海鮮を炒めた物を乗せて巻いた物をそれぞれ齧り付く。
ほんのり甘いクリープ生地と、塩気の効いた具材が口の中で混ざり合う。少し味が濃いけど、それをそれぞれエールと炭酸で流し込めばまた次が欲しくなる。
「アイリス殿の海鮮も美味しそう! 一口頂戴!」
「良いですよ~。代わりにレイリーの、一口下さいね~」
お肉と海鮮を交換すれば、先ほどまでと違う味わいと食感に舌が喜ぶ。
「お肉が大きいから、結構食べ応えありますね~」
なんていいながら、半分ほどあったクレープを大きなお口でペロリと一口!
「あ、ずるいです!」
「一口ですよ~?」
うふふ~。と笑うアイリスに、レイリーは海鮮のクレープをもう一口頬張った。
「あら、レイリーも酷いですよ~」
「これで痛み分けね」
楽しそうに笑うと、予想外に早くなくなってしまったクレープの代わりを求めて歩き出す。アイリスの両手はとっくに空っぽだ。
「それにしても……今日は味を優先で量は控えめなのよね? それでも私の倍以上食べてるけどその体型は凄いね」
歩いているとは食べて食べて飲んで食べて。明らかに普通であれば消費カロリーと接種カロリーのバランスがあっていないけど、アイリスは小柄とは言え女性らしい魅力に溢れた体形をしている。
レイリーだって騎士として、ヒーローとして恥ずかしくないように鍛えているだけあって、引き締まったメリハリの効いた体形だが、アイリスは見るからに柔らかな肉付きをしている。それでいてあれだけ食べてあのボディラインを保っているのは、何か秘密があるのではと同じ女として気になってしまう。
「ん~……特に何もしてないんだよね〜。いっぱい食べていっぱい動いてるからかな〜?」
少し甘い物が欲しくなったアイリスは、シナモンシュガーをまぶした揚げパンを買う。
揚げたてでまだ熱い揚げパンは、たっぷりとシナモンシュガーをその身に纏わせる。乙女としてカロリーが気になる所だが、カロリーは気にしてはいけない。美味しい物は美味しく頂くのが礼儀なのだから。
「やっぱり日ごろの運動かぁ。私もしてるけど、まさか筋肉とかになってるのかなぁ……」
そっと自分の二の腕に触れると、ふに。と摘まめる。だが少し力を入れた瞬間柔らかく思えた二の腕も硬くなる。
鍛えているのだから仕方ない。騎士としては誉れだ。
そう思いながらも女としては切なくなる。
「アイリス殿は柔らかいね」
断りを入れて触れれば、アイリスの二の腕はふに。ではなくふにふにしていた。
「いっぱい動いているけど、レイリーみたいに鍛えているわけじゃないからね~」
「私も少し鍛錬を控えれば……?」
「そしたら美味しい物沢山食べられなくなるよ~?」
「それは困るなぁ……」
鍛錬も大事だけど女らしさも気になる。だけど女らしさを求めて鍛錬を減らせば、レイリーの場合食事も減らさないといけない。
真剣に悩むレイリーに、アイリスは近くの屋台で買ったローストビーフを差し出す。
「今のままでもレイリーは十分素敵だから、無理に変えなくても大丈夫~。それに、今日は楽しい食べ歩きだよ~? どうせ悩むなら、次は何を食べようか悩んだ方が楽しいよ~?」
たっぷりグレイビーソースがかかったローストビーフは柔らかくて美味しかった。
「そうね。次は何を食べようか」
お肉が続いたからそろそろあっさりにしようか。
そんな事を話しながら、二人は夜が更けるまで楽しい時間を過ごすのだった。
キラキラ光る星の下
今度は違う場所でとお約束
沢山笑って沢山喋って
沢山の、美味しい楽しい有難う