PandoraPartyProject

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寝ても覚めても?

登場人物一覧

レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002)
蒼剣
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人

●華蓮ちゃん、がんばる。
 大人になるという事は寂しい事であるともいう。
 幸福な幼年期はあんなにも――そう時に泣きわめくという暴力的な達成の仕方を含めてだ――自由だった『望み』への最短距離を失ってしまう。例えばそれはしがらみだったり、例えばそれは分別だったり。そうでなくても細やかな感情の機微だったり、ちょっとした照れ臭さだったり。
 臆面もなく『直球』を投げ込むには勇気が要るものだ。
 150キロを投げられると分かっていたってそれは決して簡単ではない――
「おはようからおやすみまで――今日は一日、レオンさんの為に頑張るのだわ!!!」
 ――だから、その日。華蓮が余りにもまっすぐにそう言った時、レオンは思わず笑ってしまっていた。
「な、何故笑うのだわ!?」と慌てた顔を見せる華蓮は両手を腰に当てており、上記した頬を隠していない。
「は!? ひょ、ひょっとして――顔に何かついていたのだわ!?」
 何か思い当たる節でもあったのか柔らかそうな頬を自身の手でぺたぺたと触り始めた彼女はレオンの言葉を待っていない。赤くなったり、青くなったり。この上なく可愛らしく名前の通りの瑞々しさを全力で伝えて来るのであった。
「折角の休みなのにいいの?」
「勿論なのだわ! 折角の休みだからこそ今日はレオンさんとずっと一緒に――」
 ……彼女の感情など言うだけ野暮で、声のトーンは当然のように尻すぼまりだ。
「面白い事はないと思うけどね。ま、俺としちゃ歓迎だ。可愛い『秘書さん』よ」
「か、かわいい! 私、一生懸命頑張るのだわ!!!」
 あばたもえくぼと言うのなら――都合の良い言葉は何倍にも増幅されて聞こえるものである。レオンの声色はたっぷりとからかうような調子を含んでいたが、華蓮ちゃんにとって大事な情報は何より『かわいい』なのは間違いない。
 ともあれ、華蓮の申し出は彼女にとっては待ちに待った休日の、待ちに待った過ごし方に違いなかった。
 ……普段の姿でもたっぷり『補正付き』で輝いて見える位なのだ。真っ当に仕事をしている時の彼は、成る程――自滅の刃としおも認める100%のギルドマスターなのであろう。
「何でも任せておいて欲しいのだわ! レオンさんはコーヒー好きよね!」
「良く知ってるね、流石」
「ふふ! 意外とミルクたっぷりが好みなのだわ。お砂糖はなし!」
 やはりこちらも名の通りに華やぐ乙女に目を細め、レオンはふと思い出したように言った。
「そうそう。さっき、顔に何かついてるかって聞いたよな」
 彼はミルクよりもたっぷりと余裕を含んだ笑顔で、華蓮の頬に指を伸ばして言いやがる。
「お化粧して――やっぱ、お洒落してきてるじゃん。
 オマエって何時も可愛いけど、今日はちょっと美人寄りかな? 俺の為なら尚更だ」

●華蓮ちゃん、がんばるのだ。
 華蓮・ナーサリー・瑞稀は彼女を良く知る誰もが認める『良妻賢母タイプ』である。
 非常に真面目で、非常に一途で。『女の子の可愛らしさが服を着て歩いているような』彼女は裏も表もほとんどなく、一緒に居ればほっと一息つける――何とも包容力のある乙女なのだ。
 でも。
(――今日のお手伝いは、その実! 唯のお手伝いに非ず、なのだわ!)
 貴重な休日をレオンの――主にローレットのになろう――お手伝いに当てると決めた今日の華蓮は何時にも増して『策略家』なのである。
(とにかくレオンさんの近くに居て役に立ちたいのが一番なのだけど……
 イレギュラーズとして、以外の面でもローレットでお仕事とか出来たら……これはもう奥さんみたいなものなのでは!
 レオンさんが嫌いそうなお仕事もどんどん手伝って、さっきみたいにコーヒーを淹れたり、肩が凝ったとか言われたら一生懸命マッサージとかもしてあげたりして……レオンさんあれで鍛えてるから腕とか肩とかもたくましくてがっちりしてて、私の力じゃ上手く出来なくて「こうだよ」なんて言って私が逆にされちゃって、きゃー!!!)
 長いモノローグの割に思考時間は僅か一秒にも満たず、華蓮ちゃんの中のレオンは何割か増しにいい男になっていて、まぁそんな事は兎も角何はともあれ彼女に言わせれば。
(――うん、お仕事でも私的な用事でも! 一日一緒に居るのなら、事実上デートなのだわ!
 おはようからおやすみまで完璧にお世話をすればレオンさんもきっと――)
 さぞかし喜ぶだろうし、謂わば外堀埋めの意味合いも持つかも知れない。

 ともあれ、余人にとってどうあれ今日という日は華蓮の見せ場で決戦なのだった。
 これから何度あるか分からないその一ページだが、
(レオンさんはモテるけど、私も絶対負けないのだわ!)
 ……最近の華蓮ちゃんはやきもち位は妬くのだ。そしてそんなのもそんなに嫌いでもなくなっていた。

●華蓮ちゃん、がんばった!
「――おつかれ」
「あ、レオンさん――」
 不慣れな仕事に一日たっぷり付き合って、疲労の見えた華蓮にレオンがコップを差し出した。
 一日の始まりは華蓮がカフェオレを渡したが、最後はレオンから戻ってきたという訳だ。
「……あ、これ。美味しいのだわ」
「あったかいレモネードね。そういうの好きかと思った」
 執務室の窓の外はとっくに暗くなっていた。
 日が落ちれば気温はぐっと下がり、如何にも冬の風情が強くなる。
 つまり、人心地つくには温かいものが一番という訳だ。
「大変だったでしょ。俺は助かったけどね」
「ううん」と華蓮は首を振った。その所作と裏腹に改めて一日付き合った『レオンの仕事』ローレットは、華蓮の思った以上に大変だった。日頃不真面目に見えるレオンだが、書類に向かう彼の横顔は中々に凛々しく――贔屓目も入れば華蓮にとっては最高の時間だったのだが、それでも大変は大変だった。
「私、あんまり役に立てなかったのだわ……」
 意気揚々としていた午前中に比べ、少ししょんぼりとした調子の華蓮にレオンは笑う。
「また、そんな事を気にして」
「気にするのだわ。だって、上手くお手伝い出来ないと――」
「――レオンさんのお嫁さんになれないし」は口の中でもごもごと言っている。
「気が紛れるだけで真面目に結構最高なんだけどね」
「でも、あんなに忙しかったのだわ」
「いや? 結構楽しかっただろ。よーく思い出してみな」
「むう」
 華蓮は少しだけ唇を尖らせて、言われた通り意地悪なレオンとの一日のやり取りを思い返した。

 サインをしながらほっぺをぐにーっと伸ばされたり。
 ランチの時にご飯粒をとってあげたり。
 休憩時間に買い出しにいって二人で並んでお散歩したり――

(――デートだったのだわ!!! 本当に! 無意識の内に!)

 瞳を輝かせた華蓮を見てレオンは「ほら、な」と笑う。
「嬉しかったし、助かったよ」
「ど、どういたしまして――なのだわ」
 途端にもじもじと照れ始めた華蓮にレオンは『また』思い出したように言った。
「そういや、これって事実上、デートじゃん?」
「――――」
「――これから、延長戦ってありな訳?」
 嗚呼。そんな風に、言いやがった――

  • 寝ても覚めても?完了
  • GM名YAMIDEITEI
  • 種別SS
  • 納品日2020年12月09日
  • ・レオン・ドナーツ・バルトロメイ(p3n000002
    ・華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864

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