PandoraPartyProject

SS詳細

自主的にぺちぺちする簡単な復讐

登場人物一覧

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
すずな(p3p005307)
一人前


 ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり。
 断続的に続くその音が、半覚醒した焔の意識を現実へと引き上げた。
 目を開けば、時間は夜であったかと思うほどに暗い。しかしそれは日の差さない地下であるが故の暗さであり、僅かな証明だけが視界を支えているのだと気づいた。
 記憶が曖昧だ。ここに自ら訪れたという経緯情報が存在しない。そう思い立った直後、立ち上がり行動に移そうとしたのはやはり積み重ねた戦闘経験による賜であろうが、それは叶わなかった。
 拘束されてる。椅子に縛り上げられ、まるで身動きを取ることができない。
 ぴちゃり、ぴちゃり、ぴちゃり。
 どこかで水滴の垂れる音が聞こえてくる。
 暗い地下室。椅子に拘束。まるで拷問でも始まるようだ。そう考えると、途端に恐ろしくなってきた。なにせ、焔に気づかれずに意識を刈り取り、拉致できるような相手である。誰か、自分を助けてくれるだろうか。このような場所では声も届くまい。嫌な想像は膨らんでいく。心臓が早鐘を打ち始め、視線はきょろきょろと狭い視界を彷徨い始めた頃、背後から声がかかった。
「ほむらさぁん……」
「ひぃッ!!?」
 縛られたまま、身が飛び上がるのを感じた。誰だ、誰だ。この底冷えするような声は。恨みと辛みを練り硬め、この世の絶望の淵を覗いてきたかのような声は誰のものだ。
 首を巡らすことも出来ない。得体のしれぬその相手が恐ろしくてたまらない。しかし、それは以外にも見知った人物だった。
「ほむらさぁあん」
 後ろから抱きしめられる。自分の顔のすぐ隣に、彼女の顔が来る。
「……あれ、すずなちゃん?」
 きっと自分はきょとんとした顔をしているだろう。自分を抱きしめるすずなの声は相変わらず深淵を覗き返したような声色をしていたが、焔はほっと安堵のため息を漏らした。
 彼女が来てくれたならもう安心だ。このような拘束はさっさと解いて、脱出することができるだろう。なんだか怖い声をしているのも、不安がっていた自分を驚かすためのイタズラに違いない。まったく、意地悪な友人だ。
「ありがとう、助けに着てくれたんだね。さあ、早くこんなところから……すずなちゃん?」
 なんだるう。何やら様子がおかしい。すずなは縛られている自分を解放してくれないのだ。もう驚かせることは十分に味わっただろうに。
「あ、あの、どうしたの? 早くこれ、解いてくれると嬉しいんだけど。ね、ねえ、すずなちゃん?」
「…………どうして、解く必要があるんですか? せっかく、捕まえたのに」
 そう言いながら、すずなは自分の前に歩いていくる。その手には早馬で使うような短い鞭があり、瞳には光がない。その姿で焔は理解した。なんということだ、拷問吏はすずなであったのだ。自分の意識を不明にさせ、拉致し、ここに拘束し、今まさに鞭を振るおうとしているのはすずなであったのである。
「そんな、どうして……!?」
 自分たちは良い友人であったはずだ。彼女に恨まれるようなことをした覚えはない。いや、もしかしたら違うのかもしれない。覚えがないだけで、無自覚であるだけで、自分は彼女に、ずっとひどいことをしてきたのかもしれない。
「ボク達、友達じゃないか!!」
「ええ、ええ、友達です。友達だと思っていました。あんな依頼に置き去りにされるまでは……」
「あ、あんな依頼?」
 どんな依頼だろう。焔は考える。状況からヒントを探し出そうとする。地下室。椅子。拘束。鞭。なんだか露出した太もも。太もも?
「…………ち、ちがうんだよ」
 目線を彷徨わせながら言い訳を始めた。確かに、覚えがある。太ももを延々とぺちぺちされ、そのうち変な、なんていうかその、えっちな声が出てしまうというお仕事。そこに彼女を誘って、うん、そう、焔自身は抽選に漏れて行かなかったのである。
 すずながお仕事に向かう後ろ姿を、こっそりと両手合わせてなむなむ言いながら見送った記憶が、確かにあった。
「ほら、ボクもまさかすずなちゃんだけが選ばれるなんてさ。まったく、まるで……ちょっとそんな気はしてたけど」
「そんな気は、してたけど?」
「ちがう、ちがうんだよ! う、うん、悪いなあとは思ってたんだ! ……面白いことになったなあとも思ってたけど」
「…………」
 すずなの手元で、鞭がぺしん。その音にびくんってして跳ね上がる焔。
「……不公平ですよね?」
「…………え?」
「不公平ですよね。私だけ、叩かれたなんて。だから、ほむらさんの太もももぺちぺちしてあげるんです。ねえ、だって、お友達、ですし?」
「ま、待って、待って! ボクだって望んだわけじゃひゃうっ!」
 ぺしーん。すずなの鞭が焔の太もも目掛けて振り下ろされる。力は入っていないため、痛くはない。寧ろくすぐったくすらある。
 依頼では、鞭に叩かれると変な声が出たと聞いた。しかし今叩いているのはそんな不思議な効果を持った拷問マシーンではなく、すずなである。
 当然、変な声などでなければ、ましてや気持ちよくなど成るはずもないのだ。
「ね、ねえ、やめようよ。こんなのずっと続けたって、ひゃっ」
 ぴしゃりと小気味の良い音が響き、声が出る。しかしそれは微かな痛みとくすぐったさから来るものだ。
 こんな行為に意味はない。意味はないのだと、思っていた。初めのうちは。


 1時間後。
「……ッ! …………ッ!!」
 焔は懸命に食いしばり、声を出すのを抑えていた。
 くすぐったいだけである筈の鞭。それがどこか、自分の芯のようなものに響くようになったのはいつからだろう。
 身を捩りたくても捩ることができない。口を手で抑えたくても抑えることが出来ない。だから叩かれる度に抜けそうになる力で精一杯歯を食いしばり、耐えるしかないのだ。
 ぺしん、ぺしん。
「……ふっ! ……ひっ!!」
 恥ずかしい。こんな声を出していることが恥ずかしい。友達に、こんな声を聞かせたくはない。友達が振るう鞭に、自分がおかしな反応を見せていると、伝わってほしくない。
 だって、この鞭におかしな能力はないはずなのだ。すずなはただ、自分の太ももに普通の鞭を当てているだけなのだ。それなのに、変な声が出る。変な気持ちになる。それでは、おかしいのはまるで自分の方ではないか。
 ぺしぺしん。
「~~~~~~~~~~ッッ!!!!」
 連続で叩かれた。まさかの刺激に耐えきれず、足の爪先がピンと伸ばされる。全身を強張らせ、感触に蕩けそうになるのを我慢しているのに。
 ぺしん、ぺしん。
「ん~~~~~ッ! ん~~ん~~~~ッ!!!」
 待って、待って。少し休ませて。ほら、ばかりだから。なんていうかその、ばかりだから。


 当然、そのような体たらくで焔が自分の状況を隠し通せているはずもなく、すずなは現状を理解していた。
 自分の鞭におかしな効果はない。これは焔の拉致計画を決めた時に適当に購入したものだ。
 力も込めていない。ひたすらぺちぺちしているだけだ。それなのに焔はこの有様。つまりこれは……首を振り、考えるのをやめる。
 もう今さらあとには退けないのだ。これが終わったあと、なんていうかきっと気まずいことになる予感しかしないが、もう始まってしまったことなのだ。
「~~~~~~~~~~ッッ!!!!」
 ちょっと手元が狂ってぺしぺしんって連続で2回叩いてしまった。すると焔の爪先がピンと張り、なにかに懸命に耐えている。ああこれはうん、そうなったんだなと思ったが、心を鬼にしてまた叩き続けることにした。
 ぺしん、ぺしん。
「ん~~~~~ッ! ん~~ん~~~~ッ!!!」
 これは懸命に堪えている声か、それとも抗議の声なのか。
 焔は太ももを鞭で叩かれる度に体を震わせ、目尻に涙を浮かべ、涎を垂らしながら声を我慢している。我慢できている気になっている。
 逃げたくても、逃げられない。どれだけ焔が暴れても、ぎちぎちに拘束された椅子からは逃げることが出来ない。
 肩を大きく上下させながら、荒い呼吸を繰り返している。少しでも鞭のそれを身体の外に逃がそうと、背を反らせて全身を張っている。
 ふと気になって、その顔を覗き込んだ。その眼は今まさに自分がそうであるように光が失われ、自分がそうされた時のようにすこしとろんとしてきている。
 褐色の肌の上を汗が滑り落ち、床に跳ねた。わずかに痙攣しているそれはとても、とても、艶めかしい。
 ごくり、と。生唾を飲んだ音はふたりのうち、どちらが発したものであったのだろう。
 もう、いいのではないだろうか。そんなことを、すずなは思い始めた。
 始めてから、2時間が経過している。自分が受けた責め苦はこの3倍であったが、もう十分に恨みを晴らせたのではないだろうか。
 ほら、焔も自分と同じような感じになっているし、なんかこれ以上続けると、その、別の意味で危ない気もするし。
 だから、もういいのではないだろうか。肌を伝う汗を思わず指先で拭い取りそうになりながら、声をかける。
「ね、ねえ、ほむらさん」
 返事はない。身体を震わせたまま、眼を涙で滲ませたまま、焔は何かに抗っている。涎もまた、垂らしたままで。
「あの、ほむらさん……?」
 その瞳がこちらを向いた。果たしてそれが自分を写しているかは定かではなかったが、どうやら声は届いているようだ。ほっとして、もう終わりにしようと口を開いた時、先に声を発したのは、焔の方だった。
「ねえ……もっと」
 頭が真っ白になって、それからのことはあまり覚えていない。

  • 自主的にぺちぺちする簡単な復讐完了
  • GM名yakigote
  • 種別SS
  • 納品日2020年12月09日
  • ・すずな(p3p005307
    ・炎堂 焔(p3p004727

PAGETOPPAGEBOTTOM