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正義のマスクドヒーロー、とっかり仮面参上!?
登場人物一覧
●美味しいイカと正義の味方
その日フランは大の仲良しであるワモンと一緒に海洋に遊びに来ていた。お目当ては新しくできたレストラン。
「そこのデザートすっごく美味しいんだって!」
「イカのパスタが美味いって話じゃなかったのか!?」
「イカのパスタも美味しいらしいよ!」
「なら問題ねえな!」
フランに抱きかかえられたまま尾をびちびちと動かすと、ワモンはまだ見ぬイカのパスタに想いを馳せる。
「どんなうまいもん出てくるか楽しみだなぁ」
「うんうん。きっとほっぺた落ちちゃうぐらい美味しい料理だよー」
ふへへ。と頬を緩める一人と一匹。
「今日はお昼ご飯いっぱい食べるために朝ごはん控えめにして来たんだー」
えっへん! と胸を張るフラン。
「お、奇遇だな! オイラもだ!」
その腕の中で同じように胸をはるワモン。
二人で笑いながらレストランに向かっていると――
「うひゃぁ!」
パン! と乾いた音と共に、フランの足元にめり込む弾丸。驚き手から落ちるワモン。
なんということだろう! 丁度フランは坂を上ってきていたので、ワモンはぼてんと落ちた後、起き上がる暇もなくころころころろと坂道を転がり始める。
抱きしめるのに丁度良いワモンは、フランのぺたんとした胸、ではなくほっそりとした腕と言うストッパーがなければとてもよく転がるのだ。
「うおぉぉぉぉぉ……!!!」
「ワモンさーん!」
ころころ転がっていくワモン。慌てて追いかけようとするフラン! 果たして二人は再会出来るのか……――!?
次回、魔法少女ぷりてぃ☆フラン「みるくるパフェと恋のときめき!?」お楽しみに!
ではなく。
「もー! なんなの一体!?」
慌てて追いかけようにもいつの間にか周囲は真っすぐあることさえ困難な状況に。フランが怒っている今も、現在進行形で周囲が悲惨なことになっていく。
原因は多分偶然遭遇してしまったのであろうエビとカニの海種。
「フハハハハハ! 先月とてエビの消費量はカニとは比べ物にならなかったぞ!」
「ほざけ! カニは寒い季節が本番よ! それにカニ一匹とエビ一匹の量と値段を比べて見ろ。カニのほうが圧倒的だ!」
エビが銃を乱射し、カニがハサミで襲い掛かる。
なんだこの状況。
「なんの話!?」
フランが叫ぶのも無理はない。ほんとなんなんだこの状況。
「簡単な話だ。俺たちエビ組とこいつらカニ組、どっちが有名かの戦いだ」
「あ、教えてくれるんだ」
新しい弾を詰めながらご丁寧に教えてくれるエビ。ちょっと良い奴かも知れない。
「カニとエビはよくエビカニなんて言われるが、カニのほうが先だろう!」
「エビは小さくとも親しまれているということだ! つまりエビ組のほうが有名!」
「ふざけんな!」
「ちょ、喧嘩するならもっと別の方法でしてよー!」
一度収まった銃撃と斬撃が再開される。銃はともかく、ハサミって斬……? うん、でも切るっていうし、多分斬。
話を戻して。
「丁度いい。そこの小僧。お前はエビとカニ、どちらが好きだ?」
逃げ遅れた5歳程度の子供に銃口を向けながら問うエビ。可哀そうに、子供は震えて涙目になっている。
そんな子を放っておけるわけがなく、フランが子供の所に向かうと、今度はカニがフランの頭を挟むようにハサミを広げる。
「そんなガキにカニの味が理解できるわけねぇだろう! 小娘、お前はどっちだ!」
「あ、あたしは……!」
震える子供を抱きしめ、フランがぐるぐると考え始める。
どうすれば無事にこの場を切り抜けられるだろうか。
深緑にいた頃は知らなかったけど、エビは美味しい。煮て良し、焼いて良し、揚げて良し。ぷりっぷりの身をがぶっと齧り付くのは幸せだ。
カニも美味しい。こちらも煮て良し、焼いて良し、揚げて良し。寒い時期しか食べられないけど、鍋にすると幸せだ。
どっちを選べばいいのか、ぐるぐるぐるぐる。
混乱しきったフランが出した答えは……――。
「あたしは、ワモン君とイカのパスタを食べるの!」
今日のお昼に食べるつもりだったイカだった。
「イカ……」
腕の中の子供も思わずぽかんとしている。
「そ、そう! だからこれで失礼しまーす!」
その隙にと子供を連れて逃げ出そうとしたフランだったが、ギャングたちはそこまで甘くなかった。
「第三勢力を出すとは良い根性だ!」
「ふざけんなごらぁ!」
「きゃー!!!!」
銃とハサミを向けられフランが悲鳴を上げた時だった。
「そこまでだ!」
突然聞こえた声に動きが止まる。
「誰だ!?」
「お前達、悪人に名乗る名はないぜ! とう!」
建物の上から飛び降りてきたのは、青いジャンプスーツにお揃いのマスクを被った人物。海洋のからっとした日差しと、白い建物に良く映える。
「正義のヒーローとっかり仮面参上だぜ! アザラシパワーで悪者はやっつけるぞー!」
いや、名乗ってるよね!? とっかり仮面って名乗ってるよね!?
思わず突っ込む子供だが、フランたちの耳には届いていない。
「助けを求める声がオイラには聞こえたぜ! こんな奴らすぐに倒してやる!」
構えられた武器は先ほどまでフランが抱きかかえていたワモンの物とよく似ている気がするが、きっと気のせいだろう。その証拠にフランはとっかり仮面の活躍に夢中だ。
ハサミをその手に持ったガトリングで抑え込み、その隙に関節を蹴り上げカニを抑え込む。それからエビの背後に回り込み、丸く曲がった腰を伸ばすようにガトリングで狙い撃つ!
鮮やかな一連の流れに、フランは大きな目をキラキラと輝かせている。
「有難うとっかり仮面様!」
「礼はいらねぇぜ! それより、今度から気を付けるんだぜ!」
そう言うととっかり仮面は地面を蹴って高く飛び上がり、颯爽と去っていったのだった。
その後家族を再開できた子供を見送っていると、べちんべちんとワモンがやって来た。
「おーい! フラン大丈夫かー?」
「あ、ワモンさん!」
抱きしめお互い無事を確認すると、予定通りレストランに向かうことに。
「それでね、突然かっこいいヒーローが来てぱぱー! ってやっつけてくれたんだ!」
美味しいイカのパスタを食べながら、先ほどのことを熱く語るフラン。
「へ、へー。それはオイラも見て見たかったな」
「凄かったよー。そう言えば、さっきのヒーロー名前なんていうんだろ、サイン貰えばよかったー!」
本気で悔しがるフランを前に、ワモンは必死で視線を逸らす。
フランを助けたとっかり仮面、その正体がワモンであることはばれてはいけない。正義のヒーローは正体がばれちゃいけないのだから!
「そう言えば、ヒーローもおっきい銃使ってたからワモンさん仲良くなれるかも!」
「土器!?」
確信に近いことを言われて思わず普段言わない効果音を言ってしまうワモン。せめてそこはカタカナでお願いしたい。
その後もとっかり仮面のことで盛り上がりながら、噂通り美味しいパスタとデザートを堪能する二人だった。
●その後の話、少しだけ。
二人で一緒に出掛けた先で、偶然助けた人に名前を聞かれたフランとワモン。
フランは普通に名乗ったのに、ワモンはアザラシ姿なのにうっかり「正義のヒーローとっかり仮面」なんて名乗ってしまって一人で大慌て。
「お、同じ名前のヒーローもいるんだな!」
「そうなんだ! 凄い偶然だね!」
とっても苦しい言い訳もあほの子もとい素直なフランはあっさり信じ、何とか事なきを得るワモンだった。