PandoraPartyProject

SS詳細

Treat Birthday

登場人物一覧

道子 幽魅(p3p006660)
成長中
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー

 街がオレンジや紫色で飾られ、きらめく夜。
 楽しい楽しい魔法のかかるこの一日。
 人々は思い思いの仮想や姿でこのファントム・ナイト。収穫祭を祝い、騒ぎ、楽しむのだ。
 そして。
 此処にも祝われるべき影がふたつ──。

「ごめーーーん!! 待った!!!???」
 ぴゅーん、と足をうずまきみたいに駆けてくるのはクイック・シルバーのハッピー・クラッカー。
 足ないけど。
「いえ……わたしも今、来たところですよ……ハッピーさん」
 そう返したのは可愛らしい三角帽子にシックな黒いロングドレスを纏う幽魅だ。
 二人が待ち合わせをしたここ、『笑う魔女のおんぼろ亭』は知る人ぞ知る酒場である。
 今日は仮装をして来店したお客さんに小鉢一品をサービスを行っており、彼女たち二人もそれを目当てに仮装を約束したのだが……。
「あれ……ハッピーさん……? あれ、仮装……私だけ……?」
 ふと幽魅が気づく。
 魔女の仮装をしてきている幽魅と違い、ハッピーは普段着のドレスだ。
「や、私存在自体が幽霊のコスプレですしおすし。おすしはうまい!!!」
 下手な口笛をふきながらテキトーな事を言ってはぐらかすハッピーに、騙されたことにぷくっと頬をふくらませる幽魅。
「一緒にしようって……言ったのに……」
「ごめんて!! でもお蔭さまでサービス受けられるし! ありがとう!!!!」
「もう……いいですよ、ふふ」

 ──本当はやっても良かったんだけどね。仮装。
 口には出さないまま、ハッピーは彼女の横顔を見る。
 ちょっとした悪戯だ。何せ、今日はファントム・ナイトなのだから。気を引くくらい、許してくれるよね?
 そんな信頼と期待を胸に。

 来店した二人を出迎えたのは、明るく騒がしい店内。
「いらっしゃいませ、こちらのお席にどうぞ」
 店員に勧められるまま、テーブル席につく二人。
「やー、ごめんね! 私がうるさくなきゃ、もっとおしゃれなお店とか行けたと思うんだけどさ」
「ううん……良いんです。そういうバーやレストランって……緊張しちゃいますし……」
 本心だ。幽魅は、こういう気さくな店の方がよいと感じている。
 黙っていたが、幽魅はハッピーと一緒であれば、何処でもいいとも思っていた。
「はい、魔女のお姉さんと幽霊のお姉さんにサービスね」
「コンポタ……!!」
 テーブルに置かれたのはコーンポタージュだった。何を隠そう幽魅の大好物である。
 このお店の看板メニューはシチューであり、今回のこれはハッピーや幽魅の予想を大きく外してきた。
「そんなピンポイントなことある??? ほんまや!!!!」
 マジだった。
 ふうふうと冷ましながら、ご機嫌でコンポタをすする幽魅。
 つかみはオッケーとばかりに、がんがん注文をしていくハッピー。
 そして、テーブルの上にはごちそうとお酒がどどんと並んでいく。
「っっっしゃおらぁー!!!!! ハッピ~~ハロウィン!!!! ア~~ンドハッピーバースデー!!!!!!ミ☆」
「はい……ハッピー……バースデー……です」
 カクテルを頼んだ幽魅に、お茶のグラスを高らかに掲げるハッピー。
 ごちそうをつつきながら、たわいもない話で盛り上げるハッピーと、小さく頷きながら相槌をうつ幽魅。
「ハッピーさんは……お酒、飲まないんですか……?」
 ふと、投げかける疑問。
「私はな~~~、お酒飲んだことないし。まーそんなの無くてもテンション大爆発だから!!」
「……飲んでみます?」
「……ん」
 幽魅から差し出されるグラスを両手でかかえて、舌で舐める程度に飲んでみるハッピー。
「ん~~~。ハッピーちゃんはお茶でいいや!!!!」
 どう思ったかは、分からない。
 甘いお酒だったはずだけれど──と幽魅は首をかしげた。
 そうしていく内、お酒も進んできて、まったりとした時間が流れていく。
「ふふふふん」
「ひゃっ……ハッピーさん……!?」
「いたずらいたずら~! 酔っちゃったし許してね!!ミ☆」
「お酒……ぜんぜん飲んでないじゃないですか……」
 後ろから抱き着くハッピーに、驚きながらも嫌がるそぶりを見せない幽魅。
 お酒の力を借りないと、こういうスキンシップが出来ないのがもどかしい。
 本当はいつでもしたくてたまらない──あなたの体温をずっと感じたいと思うのはずるいのかな?

「……」
 甘いアルコールがこくりと喉奥を鳴らすたび。かっと熱くなる頬を、むにっとつまむ。なんだか頬が緩んでしまいそうで。
 おいしい!!!! と叫びながらもりもりエビフライを平らげるハッピーを見ながら、幽魅は笑みを隠さない。
 そんな幽魅の視線に気づいて、ハッピーは困ったように眉をさげて、顔を上げた。
「……騒ぎ過ぎた?」
「……ううん。違うんです……本当に、楽しいの」
 人が怖い。うまくしゃべれなくて、もどかしい気持ちを抱えて生きてきた幽魅。
 でも、底抜けに明るい彼女と一緒に居ると、そんな不安も消し飛ばして、元気をたくさんもらえた。
 何かを返してあげたくて。でも思いつかなくて。
 きっと彼女はそんなのいらない! って言うだろうけれど──。

「出会えてよかった」
 この世界に飛ばされてきて、不安しかない毎日に光をくれたハッピーに。
「私もそう思うよ」
 性格と言動のせいで避けられがちだった自分の話を、ずっと頷きながら聞いてくれた幽魅に。

 その瞬間、ハッピーがうずうずとむず痒そうにしはじめる。
「ど、どうしたんですか……?」
「あーーーー、なんっっっか、叫びたくなってきた!!!!!」
「え……?」
 おもむろに立ち上がるハッピー。
「ハッピーハロウィーーーーン!!!!!! アーーーンド、ハッピーーーーーバーーーーースデーーーー!!!!!!」
 叫ぶ。騒がしい店内でも、ひときわ目立つ彼女の声。
 なんだなんだとざわめく客たち。
「もーーー、最高、嬉しすぎて止めらんない!!! すたんだっぷ!!! 幽魅さん!!!!」
「え、え、私も……???」
「私たちが今日の主役でーーーーーす!!! 祝えーーーーー!!!!!!」
 パチパチパチ──と大きな拍手が飛ぶ。
 店内の客に、迷惑がる者たちはいない。
 むしろ、この盛大にめでたい一瞬一瞬を逃すまいとしている。
 恥ずかしそうに店内を見回す幽魅。
 ハッピーはまだまだ、やいのやいのと叫び続ける。
「では、お誕生日ということで。店からのサービスです」
「コ、コンポタ……たくさん……!」
 先ほどの小さなカップではなく、しっかりと深いお皿にのってやってきたコーンポタージュ。
 それを見て、指でブイをつくるハッピー。
 目立つのってお得だよ。そう言いたげに。誇らしげに。
 お酒を飲んだ後にやさしいコーンポタージュを楽しむ二人。
「お嬢ちゃんたち、誕生日なのかい」
 と、二人の背から声が掛かる。
 ピエロの恰好をした男性だ。随分ご機嫌で、酔っぱらっている様子である。
「ふぇっ。あの……えと」
「イエス!!! 祝ってよおじさん!!!!」
 まごつく幽魅の前にハッピーがずずいと食いついた。
「そりゃめでてえ! 俺は楽団引っ張っててよ。いっちょうダイナミックなヤツ、演ってやるよ」
「よおし。かわい子ちゃんのためだ、一肌脱いでやるか!」
 角のテーブルに座っている、思い思いに仮装した楽団の面々が楽器を手にした。
 突発的なバースデー・アンド・ハロウィンゲリラライブ。
 ハッピーがノリノリにぶちあがる音楽も。幽魅が聞きほれるしっとり魅せる音楽も自由自在に奏でる。
「よおし。じゃあ俺もとびきりのマジックを見せてやるぜ!」
 曲芸師が素晴らしい手品を披露する。
 ハッピーと幽魅はハラハラと彼の指先を見守って──驚きと感動を生み出した。
「私達、流れのダンサーも黙ってはられないね!」
 二人組の踊り子が店内を華麗に舞う。
 情熱を感じる彼女たちのダンスは、ハッピーですら一瞬言葉を飲んだくらいに。

 ──店内には笑顔が咲く。
 ハッピーの一声で、店内のムードがより一体化したのだ。
 二人の誕生日だったはずが、いつしか店内のみんなが二人を囲んでいる。

 幽魅は、ハッピーの横顔を見た。
 きれいに笑う彼女が、輝いて見えた。

 振り向いたハッピーは、幽魅の瞳を覗いた。
 昔は逸らされ続けていた視線がぶつかって。

「この夜が、ずっと続けばいいな……」
 幽魅のこぼした言葉に、ハッピーがにやっと笑う。
「っっっしゃあーー!!! そんなら、朝まで行くぜおまえらーーーー!!!!ミ☆」
「え、あ、朝まで……!?」
「オーーーー!!!」
 
 今宵の『笑う魔女のおんぼろ亭』は一味違う。
 騒がしくも暖かい二人の誕生日よるは、まだ終わらない!
 
 - Happy Halloween & Birthday ! -

  • Treat Birthday完了
  • NM名りばくる
  • 種別SS
  • 納品日2020年10月31日
  • ・道子 幽魅(p3p006660
    ・ハッピー・クラッカー(p3p006706

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