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PsychedeliC TechnO

登場人物一覧

アラン・アークライト(p3p000365)
太陽の勇者
アラン・アークライトの関係者
→ イラスト
アラン・アークライトの関係者
→ イラスト

●「Are you ready,my lady?」
 アランが混沌に召喚されてから早三年。時というのは何とも目まぐるしく過ぎていくもので、気が付けば秋、それももうすぐPhantom Night。人の生はあまりにも短い。その事実を痛感している今日この頃、である。
 今日アランが居るのは練達、大型のライブができるコンサートホールである。
 元の世界では音楽を嗜み談笑する時間などなく、青年らしい時間を得ることもなく、そうして男は二十八。そろそろ熟し始め、良い男と呼ばれる頃合いである。
 そんな彼に音楽を教えたのは誰だっただろうか。その答えは簡単、誰でもない。彼自身だ。例えば戦闘シーン、駆け抜けた風の音。ごうごうと鳴る風の合間を縫い、土埃のビートで駆け抜け、切る。キィン、キィンと美しい剣の腹が奏でる旋律、合間に入る呼吸音。
 アランにとって音楽とは戦闘であり、生活の一部であった。が、故に。
「――C¥b3r @d€9tサイバーアデプトだァ?」
 馴染みの店で流れ始めた軽快な機械音に眉を顰め。けれど不快なわけではない、あら不思議。気が付けば彼女たちの音楽を聴き始め――もっとも、アランにとって始めてのな音楽だったが――そうして彼女たちのファンになった、というわけである。
 世界を救った勇者サマが別世界でテクノにハマり、そしてライブにまで顔を出すとはお笑い種だろうか。けれども嗚呼、好きになった気持ちに嘘をつけるほどアランは馬鹿ではない。真っ直ぐな男である。
 そんなこんなで快晴、アラン・アークライトはこの度人生初ライブ参戦なのである。
「……来ちまったけどよォ」
 ライブ会場に不釣り合いではないだろうかと再現性東京での装いに近いスタイルで会場の扉を潜り。座席指定のない、立ってみるタイプのコンサートホールであった。
 護身用に背負った大剣、星界剣〈アルファード〉を出来るだけ下げ、けれど盗まれぬように抱きかかえ。今か今かと彼女らを待つファンたちの喧騒、荒い呼吸、きゃらきゃらと耳を擽る声にぼんやりと、けれど高揚した気持ちを隠しはせず。

「Ladies and gentlemen! お待たせ。僕らの音楽を、今日も楽しんでいってくれると嬉しいな」
「――Are you ready, my dear fans?」

 熱狂。
 歓声。
 声援。

 現れた二人の機械仕掛けの歌姫デウス・エクス・マキナ。元々は人間種の女性達であったが、過去に不慮の事故に巻き込まれ、身体の大部分を失う大怪我を負ったのだと。
 練達にて身体の大部分を機械化することにより一命は取り留め――そうして彼女たちは、テクノに出会う。彼女たちの人生を変えた、テクノに。
 ギュイン、とギターを握った電気を孕んだ手が揺れ、搔き乱す。空気を震わせ、電子を響かせ、そうして彼女たちのライブは始まった。



 そう。始まったのだ。



 彼女たちは――魔種だった。
 故に。彼女たちが放つ音楽が、ビートが、メロディが。
 『原罪の呼び声』を孕んでいることなど、特異運命座標イレギュラーズでもなければ。或いは魔種でなければ。気付くはずもないのだから。
 しかし、もっとも質が悪いのはことであり、かつというところだった。
 つまりはそう。このライブを止めたくば、聴き、耐え、忍ぶしかないというのだ。
 それに、今このライブを止めたなら、アラン一人では背負いきれないほどの多額の負債やファンの怒号に苛まれることだろう。となると自然に練達の悪名は伴うわけで。折角依頼を頑張っているのに、ライブを一つ潰したからと覆されるのはたまったものではない。
 ので、暫くは潜伏し、そしてライブ終了後に申し訳ないが彼女らを倒すことにしようと決めた。幸いなことに武器はあるし、アーティストであるならば戦闘も得意ではないだろう。と、そう踏んで。
 けれどもせっかく金を払ってライブチケットを購入したのだ、少しくらいならば楽しんだっていいだろう。アランは旅人なのだから、反転することもない。何らかの影響は受けるだろうから、人の流れに逆らって遠ざかっていったけれど。呼び声に応えた人々達が、せめて安らかに眠れるように。
 アランは袋を取り払い、大剣を構えた。
 聞き馴染みのある曲。人々を熱狂の海に落とす曲。
 それはそう、例えるならば、真夏の灼熱の日射し。
 空気が変わった。音波が、熱を、色を、形を纏い――、
「?!」
 吹く。
 風のように。猛烈な熱気を含んだ炎が、来る。
「ぐ、っ」
 剣ではじき返すのが精いっぱいだった。ふと辺りを見ると、他の観客は、聴衆は、誰も炎に包まれることはなく、彼女らに声援を送っていた。
「どういうことだ……?」
 次のサビ、また熱気が来る。でもまずは音楽を聴きたい。ファンとしての感情と特異運命座標イレギュラーズとしての感情が混在し、そしてアランは――、
(金も払ってんだ、俺にも聞かせろやァ!!!)
 曲に耳を傾けることを優先した。戦闘態勢も解き、何度も聞いて耳に馴染ませ、口遊んだ彼女たちの歌を。
 すると、どうだろう。
 曲の最高潮、サビに入る。ぐっと目を瞑り、衝撃に備えた。
 けれど、その衝撃がアランを襲うことはなかった。恐る恐る目を開けば、ステージに炎が吹き荒れ、観客は拳を上に振り上げているところだった。
「……なる、ほど」
 冷静に思考を働かせ、そうしてある結論にたどり着く。



 ――――――彼女たちの歌は、彼女たちと、その歌に敵意を持つものに対して、『呼びかける』のだ、と。


●「It's an uninvited guest」
「クソが!! 見失うわけにはいかねえのに……」
 場所は変わり摩天楼。ライブをすっかり堪能したころには魅了され、恍惚のままに家に帰ろうとしていたけれど。
 アランはC¥b3r @d€9tサイバーアデプトのファンである前に特異運命座標イレギュラーズなのだ。この世界では魔種を不倶戴天の仇とみているところがある。無論、魔種の中には善良なものもいるのだが――ほとんどは、世界に絶望し、世界を壊し、滅びのアークのままに、生きて、壊す。そんな魔種デモニアとなってしまうのだ。
 特異運命座標イレギュラーズにとって魔種はまず間違いなく倒すべき敵であるのだから。
 一ファンとして。一特異運命座標イレギュラーズとして――そして、アラン・アークライトとして。
 善良な民を護るために、夜の練達を駆けた。

 ビビッドなネオンのライトがアランの目を刺激し、まるで追うのを撒かれているような心地さえした。彼女たちの独特の呼吸音を、声を逃すまいと、アランは必死に夜のおにごっこを続け、そして。
「見つけたぞ――C¥b3r @d€9tサイバーアデプト
「――おや。スカイ、これは久々だ。僕たちの熱烈なファン――或いは、ストーカーのお出ましだよ」
「手荒なことはしたくなのだけれど。私達、これからラジオの収録があるんだよね。
 サインだけで勘弁してあげるから、今回はかえってくれないかな?」
「あ? 何舐めたこと言ってんだテメェ、お前たちを倒しに来たんだよ」
 矛盾している。
 夜の摩天楼。屋上。吹いた風。聞こえる電子音。
 好きなアーティストに向けた最初の声はじめましてが殺害予告とは、とんだジョークだ。
「俺はアラン。アラン・アークライト。アンタ達のファンで、ローレットの特異運命座標イレギュラーズで――アンタ達のセレナーデを聞きに来た」

●Psychedelic Radio
 結果から言おう。
 逃げられた。
「アラン君、ね。覚えたよ」
「ああスターリー、ずるいじゃないの。私のことは?」
「もちろん。脳が焼かれようと覚えているさ」
「ふふ、嬉しい!」
 電子音の男女の声にプログラミングされているはずのない愛情の音が、響く。アランはうげ、と顔を顰めた後に助走を踏み、斬りかかった。
 しかし。
 侮るなかれ、彼女たちは魔種である。
 堕ちる代わりに強大な力をその身に宿したのだ。
「おっと。失敬するよ」
 スカイの長い脚がアランの頬を蹴る。とがった鋼鉄のピンヒール。頬の肉を抉ったそれは、アランの頬に青あざをお見舞いしてくれた。
「っ、クソが……」
「サインだけじゃ足りないなら、ちょこっとだけお仕置きもしなきゃなんだけどなあ」
「お前たちが呼び声を放ってんのが悪いだろうがよ!! そのせいで……そのせいで、何人の人が死ぬかわからねえんだぞ?!!」
 再び構え、そうして剣を振りかざす。けれどもスターリーには届かず、スカイがかわし、腕を蹴り、愛しいひとには近づけさせまいとその身を奮う。
「あ、時間だ。そろそろだよ、スカイ」
「本当? オーケー、アラン」
「「アデュウ!」」
「は?」
 轟音。
 空から降ってきたのは――、


「そんなのアリかよ!!!!」


 ヘリコプター。
 次の収録場所に向かうのだろうが、アランはそのヘリコプターを眺めて、追うことすら叶わなかった。


C¥b3r @d€9tサイバーアデプトのサイケデリック・レディオ。本日のトークテーマは最近あったびっくりしたこと、だって、スカイ』
『それなら、此処に来るまでの事が一番びっくりかな』
『僕もそう思う。すっごい大きな大剣を構えた青年がこちらに切りかかってきたんだ』
『それも、殺害予告つきでね。あ、一曲思い浮かびそう!』
『帰ったら作ってみようか』
『そうだね! 熱烈なファンくん、次に会うときはもう少し楽しませてくれるかな?』
『そのときまで、楽しみにしているよ』

 ――――狂気は、伝搬されていく。

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