PandoraPartyProject

SS詳細

刃渡り21cmの憧憬

登場人物一覧

ヴォルペ(p3p007135)
満月の緋狐
望月 凛太郎(p3p009109)
誰がための光


 とうさん、とうさん。

 どうしたんだ、凛太郎。

 おれ、どうやったらもっとつよくなれるかなぁ。

 凛太郎は強くなりたいのかい?

 うん。そしたら、もっといろんなひとが、なかなくてすむだろ?

 はは、そうだねえ。そうしたら、そうだなぁ。泣いてる人の、味方になってあげなさい。

 みかた?

 そうだ。怖いときには、一緒に居てくれる人が居た方が、いいだろう?

 きっと、そうだね!

 嗚呼、そうさ。

 ありがとう、おとうさん!

●傲慢。故に正義
 帰りたい。
 妹は無事だろうか。
 俺には戦うことなんてできない。
 でも、俺以外にも戦えない人だっているんだ。
 俺は、どうすれば。
 其の瞳のオニキスは淀み、影を宿していた。

 帰りたいと思った。只、ずうっと昔の日々に。
 なんてことないありふれた物語、其のひとつ。
 アルコール漬けの父とかわいそうな二人の兄妹の物語だ。
 ギャンブル。クビになったと泥酔の果てに笑って。其の原因たる母は写真越しに俺達に微笑みかけていた。
 母さんが死んでしまったあの日からすべては変わってしまった。お金持ちなんかじゃあないけれど。でも屹度、あの時俺達は一番、幸せだったんだ。
 癌だった。俺と父さんはありとあらゆる伝手を辿り働き、学校も中退して、只母さんの為に働いた。
 新聞配りしかできなかった俺は、あまりにも無力だったけれど。父さんは、朝も昼も夜も、ずっとずっと働いていた。だから俺も俺にできることをしようと、必死で足掻いた。
 皿洗い。ご飯の用意。妹の送り迎え。
 いいことを積み重ねれば、良い子にしていれば。
 けれど。奇跡など起きることがないと、現実は嗤った。母さんは死んでしまった。
 俺達に残されたのは、母さんの為に借りた手術費、入院代、薬代、葬式代。
 金を。もっと金を。
「……凛太郎。父さんは、」
「ううん。ぜんぶ、癌が悪いんだよ」
「……悪いな」
「ううん。仕方ないんだ。俺ももっと頑張ればよかったんだ」
 家族葬も儘ならなかった。金がなかった。只其れだけの理由で、俺達は母さんに手厚く供養をしてやることも叶わなかった。
 其れでも、まだなんとかなると思っていた。
 ひび割れたこころ。失ってしまったかけがえのないひと。
 其れでも、まだ、俺達は終わってなんかいないと。
「ねえ、おにいちゃん」
「……どうしたんだい」
 歳幼い妹は寝ぼけ眼で笑った。俺達の光だと思っていた。
 せめて此の子は幸せにしてあげようと。父さんと語っていた。
 純粋さは、罪だ。
「おかあさんねぇ、ずっとずっと、とおくへいきたいって言っていたから、」
「え、」
「おねがいごと、かなってよかったねぇ」

 ぱりん。

 妹は泣きながら笑っていた。
 幼い。故に、純粋。だからこそ。
 だからこそ、父の前で告げたのだ。母さんは、死にたがっていたのだと。屹度俺達が身を削って働く姿を見たくなかったのだろう。
 其のやさしさ。幼いが故に汲み取ることの出来なかった言葉の裏。
 余裕のない父にとって。最愛の妻を失ったばかりの父にとって。
 其の言葉は、ナイフのように鋭く心を貫いて。
「凛太郎、」
「何、父さん」
「もう、無理だ」
 父さんは初めて、妹のまんまるなほっぺを殴った。
「う、う、うわあぁぁぁぁん!!!!」
「父さん!!!?」
「あ、あ……ごめん、ごめん凛花」
 黒い喪服。妹の号哭。始まりはいつだって、惨いほどに胸が痛むのだ。


「あ、は。俺達三人、此処で死ねば、いいんだな」
「父さん!!」
「い、いやぁっ!!!」
「凛花、逃げろ、隣の家に入れてもらえ」
「でもお兄ちゃんは、」
「早くッ!!!」
「う、ッ……あぁぁぁぁぁ!!!!」
 割れた酒瓶。妹の号哭。血走った目。
「凛花?!!!!」
「お父さん、やめて――ッ!!」

 もう、誰も失いたく、ないんだ。

 腹に通る鋭い痛み。冷たさ。
 其処から熱を失っていくようだと、思った。
 二度目。今度は肺を通ったのかもしれない。呼吸が苦しくなった。
「お兄ちゃん?! お兄ちゃん!!!!!」
「あ、あああ、あはははは、凛太郎、良い子だなぁ」
「に、げろ、」
「いやぁ、お兄ちゃん、お兄ちゃん……!!!」
 凛花の手に握られた白い紙が赤く染まっていく。
 怪我をしたのか、凛花。お兄ちゃんが手当てをしてやる。嗚呼、違う。俺の血だ。
「いいか、凛花、」
「だめ、だめだよ、」
「聞いてくれ」
「嫌」
「俺の口座に、凛花の学費が入って、る、から、」
「嫌ぁ……」
「大学、心配しなくて、いい、よ」
「お兄ちゃんも一緒がいいよぉ……」
「ごめ……逃げ、ろ」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!!!」
 声が。遠くなる。
 どうしてそんなに泣くんだ。嗚呼、大丈夫。俺は死なないよ。だから逃げてくれ。凛花。大好きだ。


 ねえ、母さん。

 ごめんね、凛太郎。

 ううん。それよりもさ。母さんは、死にたかったのか?

 ……そうねえ。もっと凛太郎に、学校に行ってほしかったな。

 ……そっか。

 凛太郎。

 なあに?

 もしものことがあったら、凛花と、

 凛花を護るのは、俺の使命だよ。

 ……そう、ね。

 ごめんね、母さん。俺、もっと頑張るから。



 凛花と、逃げなさい。
 そう、もっと早く云っておけば、よかった。

●愚直、故に勇敢
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
 声が聞こえた。妹の号哭に似ていたような気がして、俺は走った。
 俺が解決できることならば、どんなことだってやり遂げて見せるから。だから。
 もう誰も、悲しみませんように。
「た、助けてッ!!!」
「其の子を、は、離せ」
 声が震えた。足も震えた。情けないことに、俺は丸腰で挑んだ。
 結果。
「おーい、聞こえてまちゅか~?」
「ギャハハ、なっさけねえの」
「おい、コイツどうするよ」
「バラして売ろうぜ。あの女みたいに使い道があるわけじゃあねえが、幸いなことに若いからな……」
 値踏みの眼。嗚呼、死んでしまうのだろか。
 石畳を舐める。後ろで組まれた腕は強い力で掴まれていて、あらがうことすら叶いそうにない。
 銀の切っ先が首に宛がわれた其の時だった。
「よくやった、少年」
「ガァッ?!」
 男が壁にめり込む。流麗なる一蹴り。其の甘ったるい声とマスクとは裏腹に、瞳に煌めくルビーと洒落た口元、其の三日月。笑い方は一輪の花に笑いかける、端正な男――尤も、端正な顔立ちなのは事実なのだが――のようだった。
「勇気ある少年に敬意を表して、ここはおにーさんが換わろうか。護る事がお仕事だけど、弱いってほどじゃあないんだぜ?」
 『ん?』と伺うように黒のコートを翻しながら、男は俺の方へと近づいてきた。
「クソが、イキッてんじゃねェ――、」
「おにーさんは今、少年と話をしているんだ。煩いよ」
 くすくす。優しく、甘い笑い声と共に伸びる長い脚。
 美しい戦い方と云うのは、屹度彼の其れを云うのだろう。
「クソ、クソ!! こうなったらお前ら、殺っちまえ!!!!」
「あは。おにーさん、案外強いんだよ?」
 パチン、と軽快に指を慣らし。もう片方の手――人差し指で己の唇をなぞってから、ほう、と息を吹きかける。
 悪党たちの刃に炎が宿る。嗚呼、危ない!
「お、お兄さん、逃げて!!」
「嗚呼坊や、云っただろう。おにーさんはね、」

 キィン、

「結構、強いんだ」
 弾かれる刃。炎の鱗片だけが無残に散り、そうして崩れる戦闘態勢。悪党の姿勢はスローモーションのままに崩れ、
「悪い子にはお仕置き、だよね」
 『ばぁん』と手で鉄砲の形を作り、打ち抜く。強かに、無慈悲に貫くその技、反抗し砕く――レジストクラッシュ。緋色の瞳が煌めいた。逃がしはしないのだと、不敵に笑いながら。


 ねぇねぇ、おにいちゃん。

 どうしたの、りんか。

 あのね、こまってるひとがいたら、りんかにはなにができるかなぁ。

 りんかはおんなのこだから、そのひとのけがをてあてしてあげるんだ。あ、あとね、それから、

 それから?

 よくがんばりました、って、ほめてあげるんだよ。

 ほめる?

 うん。こわいときにひとは、がんばっているんだ。

 うん。

 だからね、たちむかったゆうきを、ほめてあげるんだよ。

 わぁ……うん!

●嘘吐き、故に偽善
 黒いコートのお兄さんは、俺の方へと近づいてしゃがむと、手を差し伸べてくれた。
「大丈夫かい、坊や」
「あ……はい、ありがとうございました」
 残酷なまでに、其の路地裏には赤が広がっていた。
 『おっかしいなあ、手加減はしたんだけれど。美しくない……残念だ』と、手を払いながら云った其の人は、丁寧に磨かれた革靴についた血を手袋で拭うと、手袋ごと投げ捨てて。
「君の勇気は今はまだ無謀でしかない。護るっていうのはね、気持ちだけじゃあ務まらないんもんさ」
「……は、はい。すみません」
 目頭が熱くなる。
 此の人の云う通りだ。だって、此の人が来なかったら、俺は屹度死んでいただろうから。
「助けてくれて、ありがとう、ございました」
「うん。いいよ。お礼もちゃんと言えるなんて、偉い子じゃないか。
 其れに、さっきの女の子も、ちゃんと逃がせていたね。はじめてにしちゃ上出来だとおにーさんは思うよ」
 暖かい掌が俺の頭に乗った。そのまま乱雑に撫でられる。
「おにーさんはヴォルペというよ」
 『君は?』と、優しくルビーが瞬いた。なんて優しい瞳なんだろう。
 俺もこんな風になりたい。
 熱く胸を突いた思いのままに吐き出した名前は、酷く上擦って響いた。
「お、俺はっ、望月、凛太郎、ですっ……!!」
「凛太郎。凛太郎くんね。綺麗な響きじゃないか。嗚呼そうだ、頑張ったご褒美にどこかでご馳走してあげるよ!」
「え、そ、そんな!?」
「ふふ。甘えていいんだよ」
 此の人の笑顔と云うのは、なんとも人の心の内側に入る力があるようで。ゆっくりと頷いた俺の手をぐいっと引いて、立ち上がらせたヴォルペさんは、光溢れる街の方へと、俺を連れて行ってくれた。

 此れが、俺のはじまりの物語。


 だから。どうして敵なんかになったんだよ、ヴォルペさん。

  • 刃渡り21cmの憧憬完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2020年10月11日
  • ・ヴォルペ(p3p007135
    ・望月 凛太郎(p3p009109

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