PandoraPartyProject

SS詳細

出来ないことがあるのなら、出来ることをふたりで

登場人物一覧

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク

 愛がゆっくりと近づいている。ある晴れた日のこと、ノリア・ソーリア(p3p000062)は、恋人である、ゴリョウ・クートン (p3p002081)と海辺を散歩している。
「ん?」
 ゴリョウが立ち止まる。
「どうしましたの?」
 ノリアは小首を傾げる。些細な動作すら眩しく愛おしい。
「良いもん見つけたぜ! ノリア、シーグラスだ!」
 ゴリョウは屈み、レモンイエローのガラスを掴み、ふぅと息をかける。砂がぱらぱらと綺麗に落ちていく。ノリアは知る、ゴリョウが目を輝かせたことを。
「やる!」
 ノリアの手に、ゴリョウは一枚のガラスをそっと落とす。手に感じる僅かな重み。
「綺麗ですの」
 息を吐き、ノリアは宝物のようにシーグラスに視線を落とした。その仕草にゴリョウは無意識に目を細める。
「だろう? 海はすげぇな、ガラスを丸くしちまうんだから!」
 ゴリョウは嬉しそうに笑う。ノリアが想像以上に、喜んでくれたのだ。
「嬉しい、大切にしますの」
 胸が幸福で苦しくなる。
「ああ!」
 頷き、ゴリョウは豪快に叫ぶ。
(どうしてこんなにも、ゴリョウさんは素敵ですの。ただ……)
 押し寄せる幸福に浸りながら、ノリアはふと、思ってしまう。受けとるばかりで、何も贈ることが出来ないと。
「ゴリョウさん」
 ノリアは不安げに見つめる。海風が髪を揺らし、カモメが鳴いている。こんなに海は穏やかなのに──
「ん?」
 ゴリョウは優しい眼差しを向ける。ノリアは息を吸う。伝えられる、そう、思った。波の音。熱い風がその背中を押す。
「……せっかく、恋人になったというのに、わたしの部屋は、海の中にあって、ゴリョウさんを、お誘いすることが、できませんの……」
 もどかしさを吐露し、ノリアはゴリョウを見つめる。とても長い時間が過ぎたように思えた。だが、長い沈黙を破ったのは、いや、そもそも、長い沈黙だと思っていたのはノリアだけかもしれない。ゴリョウは大きな口を開き、目を細めた。
「ぶはは! 誰だって出来ないことはあるさ!」
 豪快な笑い声が響き渡り、腹部が大きく揺れる。それでも、ノリアは呆然とゴリョウを見つめていて──
「ノリア、俺だって海の中には入れねぇんだ!」
 ゴリョウは笑い、ハッとするノリアを、自らの部屋に誘う。

 ゴリョウは、緊張しているノリアを招き入れる。
「お邪魔しますの」
 無意識に声が震えてしまう。
「ああ!」
 ゴリョウは玄関で自らの靴を揃え、廊下をノリアと進み、扉を開ける。
「さぁ、入ってくれ!」
 ゴリョウはノリアを促す。促されたノリアは遠慮ぎみに一歩、浮遊し──
「素敵なお部屋ですの!」
 視界にぱっと部屋が映りこむ。
「ぶはは! あんがとよ!」
 ゴリョウは嬉しそうに笑う。招かれたゴリョウの部屋は、木製の家具が並び、落ち着いた雰囲気である。
(此処がゴリョウさんのお部屋ですの)
 ノリアは、ぼんやりしてしまう。大好きな人の部屋に招かれるなんて、夢のよう。正直、どうしていいか解らない。ぎこちない笑みを浮かべ、ノリアは息を吐く。
(お部屋に入っただけで、もう、満足してしまいますの)
「じゃあ、作るぜ! ノリア、少し待っててくれ!」
 ゴリョウは気合いを入れ、台所に向かう。
「あっ、ゴリョウさん、わたしも何かお手伝いしますの」
 引き留めるノリアにゴリョウはにっと笑う。腹部が揺れ、ノリアはどきどきしてしまう。
「いや、誘ったのは俺のほうだ! ゆっくり寛いでくれ!」
 ゴリョウは笑い、台所へと消えていった。
「ゴリョウさん……」
 ノリアは遠ざかる、ゴリョウの後ろ姿を見つめ、ふぅと息を吐く。
(ゆっくり…………どうすればいいんですの……?)
 ゴリョウの言葉に従い、ノリアは席に着くが、落ち着かない。初めて、ゴリョウの部屋を訪れたのだ。心なしか、ゴリョウの匂いがするような気がして、ノリアはどぎまぎする。
(初めてのおうちデートで、そわそわしてしまいますの……あ、ゴリョウさん……)
 そんな中、軽快な音が流れ始める。米を研ぎ、水を注ぐ音。食材を刻む音。ガスを捻る音。ゴリョウは慣れた手つきで、料理を作っているのだろう。心地よいリズムが耳に触れ、ノリアは目を閉じる。
(……とっても、幸せですの)
 ゴリョウが自らのために料理を振る舞う。それが、至極、嬉しくて、同時にノリアはそわそわしてしまうのだ。
(お手伝いに……いえ……)
 何度も台所を覗きそうになるのをノリアは必死に堪える。
「この匂い……お味噌汁ですの」
 香る、味噌の甘い香り。ゴリョウの手際のよさを感じながら、やっぱり、落ち着かない。時計の針をちらちらと見てしまう。そして、部屋の中さえも。
(あまり、色々と見てはいけないと思いつつ、つい、気になって見てしまいますの……)
 水色の瞳が揺れ、ゴリョウの防具が映りこむ。ノリアは目を細める。防具は、太陽のように輝きながら、細かな傷や深い傷が残っている。戦いの証。
(ゴリョウさんとともに歩み、ゴリョウさんを沢山、守ってきたんですの)
 ノリアが胸を熱くさせていると、台所から、油が僅かに跳ねる音がし、卵の焼けた香りがふんわりと漂う。
(良い香りですの、ゴリョウさんは本当にお料理がお得意ですの)
 木目調の本棚には、様々な料理本が並び、机には手書きのレシピ帳が何冊も重ねられている。どんなレシピが書いてあるのだろう。ゴリョウの話とともに一緒にレシピ帳を見たら、どんなに楽しいのだろう。大好きな人の想い出と料理を両方、知ることが出来る。
(胸が踊ってしまいますの……)
「あれは……?」
 ノリアはソファに気が付く。
(柔らかなそうな見た目ですの)
 浮遊で移動しながら、ノリアはソファに触れ、声を漏らす。この質感と柔らかさは、正しく──
「ゴリョウさん、ですの……」
 ノリアは息をゆるゆると吐き、ソファに心を奪われてしまう。軽く触れてみたり、恐る恐る座ってみたり、巻き付いたり、両腕をソファに回す。その度に、ノリアは堪らなくなる。無意識に瞳が濡れる。
(このソファは、わたしを駄目にするソファですの……)
「ゴリョウさん……」
 震え、うっとりと甘い息を吐く。いつまでも、触れていたい。
「ノリア! 待たせたな、料理が出来た! 王道和食膳だ! ん?」
 足音とともに、木製のトレーを手にゴリョウが現れたが、すぐに立ち止まり、ノリアを見つめる。
「あっ、ゴリョウさん……!」
 ソファに頬を寄せていた、ノリアは瞬時に顔を赤く染める。気恥ずかしさと、ばつの悪さにそろりと席に戻る。勝手に色んなものを見てしまっていた。
「ごめんなさいですの」
「ぶはは! 今日はノリアに家を見せるために誘ったんだから、好きなだけ見ていって貰わなきゃ逆に俺が困る!」
 ゴリョウはノリアの気持ちを察し、ノリアのばつの悪さを吹き飛ばすような、豪快な笑い声をたてる。
「ノリア、そのソファ、俺みてぇにもっちもちだろ?」
 そう、ゴリョウは自分の腹肉の触感に近いソファを選んだのだ。ノリアは頷き、「でも、わたしはゴリョウさんのお腹の方が好きですの」と目を細めた。その瞬間、ゴリョウの両耳がさっと染まる。
「……ぶはは! そうだな、俺の腹肉以上のモンはねぇよなぁ!」
 ノリアが座るのを見てから、ゴリョウは正面に座る。両耳はまだ赤い。
「わっ、凄く美味しそうですの! これを………全部食べていいんですの!?」
 優しい湯気を立てる味噌汁、ぴかぴかと光るおにぎり、綺麗な卵焼き、浅漬けが並ぶ。ノリアは驚き、ゴリョウを見た。
「ああ、ノリアに食べて貰うために作った飯だ! どんどん食ってくれ! それに、味噌汁は昆布で出汁を取ったんだ! だから、遠慮せずに飲んでくれ!」
 ゴリョウは笑う。ノリアは「昆布でですの……」と呟く。いとおしそうに、ノリアは味噌汁を見つめる。マアナゴの、レプトケファルス幼生の人魚である、ノリアのことを考え、作ってくれた味噌汁。飲む前から、ノリアはゴリョウの愛情を知り、ゴリョウの腹部に巻き付きたくなる。
「温かいうちに食べてくれ!」
 ノリアの様子を見つめながら、ゴリョウは目を細める。ゴリョウは信じている、凝ったものや派手な料理よりも、毎日、食べても飽きない、温かい料理こそ、きっと二人に相応しいと。
「いただきますの!」
 ノリアはそんな想いを受けとるかのように頷き、味噌汁を一口。
「どうだ?」
「とっても、幸せな味がしますの」
「だろうよ!」
「ええ……」
 ノリアは今度、おにぎりを掴む。そう、緊張で手を震わせながら。ゴリョウは、おにぎりを口に含むノリアをそっと見つめる。大切な人に、料理を食べてもらう、とても穏やかで、特別な時間。
(これを当たり前だと思わないようにしなくちゃいけねぇんだ!)
 ゴリョウは息を吐く。いつもの部屋も、恋人がいるだけで、別の空間に思える。ゴリョウはノリアとの未来を想う。
「ゴリョウさん、美味しいですの!」
 にこりと笑うノリア。ゴリョウは笑い、太い指をぎこちなく伸ばし、ノリアの口元に付いた米粒を、恥ずかしそうに口に含み、ノリアをひどく赤面させる。

 それから、満腹になったノリアはゴリョウの腹の上で、すやすやと眠っている。
「ゴリョウ、さん……」
 ノリアは寝言を言い、ぎゅっとゴリョウの腹部を抱き締める。びくりと震えるゴリョウ。
「……」
 ゴリョウは目を閉じているが眠っていない。ノリアを感じなから、ゴリョウは思い出す。ノリアは緊張でがちがちになりながら、何度もおかわりをし、ゴリョウを喜ばせたことを。ただ、ゴリョウは知らない。ノリアはそれがどんな味だったのかも、食卓でどんな会話をしたかもよく憶えていないことを。
「また、ご馳走してくださいです、の……」
 寝言が聞こえる。それでも、今まで食べたものの中で、何よりも美味しかったことと、この時間が何よりも嬉しいものになったことだけは、間違いない。ノリアの寝顔がそう、語っている。

  • 出来ないことがあるのなら、出来ることをふたりで完了
  • GM名青砥文佳
  • 種別SS
  • 納品日2019年07月20日
  • ・ノリア・ソーリア(p3p000062
    ・ゴリョウ・クートン(p3p002081

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