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ギルドマスターのユウワク個人授業(プレイングウィズラヴ)
登場人物一覧
●何書いてるか訳分からん
「うん、似合ってるじゃん」
甘いマスクに要らねぇ流し目を乗せて、無駄に上手いウィンクなんてして来やがる――
「本当に次から次へと……」
私が心底呆れて思わず呟いたのは致し方なかった事だと思う。
私の視線の先でわざとらしく目をぱちくりとさせたレオン――さんは如何にも「訳が分からない」といった顔をしているが、勘のいい彼の事だ。そんなものはポーズに決まっている。やぶからぼうにはやぶからぼうの理由があるのだから。
「……これ、絶対仕事と関係ありませんよね?」
私の名前は(貴方の好きな名前を入れてね★ デフォルトネームはモブ子だよ!)。
数か月前からこのギルド――世界的に有名な特異運命座標の集まりでローレットという――の世話になっている、駆け出し冒険者だ。何の因果か空中神殿に呼ばれ、ざんげさん(とっても可愛かった!)から改めて神託の説明を受けた私は、細かい事も分からないままにこのギルドまで導かれる事になった。緊張と不安の中、ギルド・ローレットのマスターであるこのレオンさんに出会ったのはそれからの事なのだが……(前巻を参照してね!)
「――ぜっっっったい、仕事と関係ありませんよね!?」
私は自身の声に力が入りまくってしまった事に気付き、咳払いした。
いけない、いけない。この人はそういう人なのだ。この世の男の性質の悪さを煮詰めて
「いやいや、モブ子君。世の中はそんなに簡単に出来ちゃあいない。
風が吹けば桶屋が儲かるし――蝶のはばたきの一つで時に世界は変わり得る。
つまり、君の『それ』は風や蝶のはばたきよりは確実に大きな事柄なのだから、十分に世界を変え得るという事だよ。
だから、ひょっとしたらそれは仕事に関係するかも知れない。いや、するんだろうね。きっと」
「する訳無いでしょうが!!!」
……ダメだ、と気付いた時には既に地団駄を踏んでいた。
こうすると如何にも私がダメに見えるかも知れないけど、実際の所、ダメなのは確実に私じゃない。
私が今朝、ギルドマスターから受け取った特別指令は――
――この衣装着て執務室まで来てね――
「百歩譲って何か用があったとして!
千歩譲ってここに私が呼び出されたのは道理の内であるとして!
どうして、あなたは、わたしに、
……昔から今に至るまで。これまでに『ちんちくりん』と呼ばれた回数は覚えていない。
それは人生で何枚パンを食べたか問う位愚かな事で、人生っていうのは時に苦み走るものなのだ。
(絶対に無いと思ったが一万歩譲ってレオンさんの要請が私が昔憧れた物語の『蒼剣』の真剣な理由を帯びているのだとしたら困るから)一応着てみた艶のある黒いエナメルのバニースーツの胸元はぶかぶかに余っており、我ながら貧相な胸部装甲を嫌な感じに引き立てている。
「この格好の何処が仕事に関わるのだか、説明出来るもんならして下さいよ!」
「いや? 結構簡単だぞ、それ」
「……へ?」
「例えば潜入任務とか。
『罪もない一般市民の人達』が
悪徳カジノの元締めのやらかしてる『証拠』を掴んで来いとかさ。
中に入り込んでディーラーやバニーの振りしてね。隙を伺う訳。
奴さん、中々尻尾を見せない古狸だからね。やっつけるにはちったあ思い切りが要る。
幸いにオマエは駆け出しだし、そう顔も売れてない。普段の格好と大きくイメージを変えればバレるもんもバレなくなるさ――そういう寸法っておかしくないだろう?」
「……け、結構すごい任務じゃないですか!」
少し声のトーンを落としたレオンさんの表情が気付けば引き締まっていた。
ローレットは特異運命座標の活動を支援する大ギルドだ。
清濁併せ呑み、総ゆる勢力からの依頼を請け負うここは『パンドラ』を集める為ならなんでもやる。
禁じ手はローレット同士で仲間割れをする事と、魔種に与する位のものだ。
……でも、私は知っている。口では露悪的に「パンドラさえ溜まるならいいさ」とか何とか言うレオンさんが、意外と優しくて。出来れば誰にとっても後味のいいハッピーエンドを望んでるって事を。悪い依頼や危険な依頼も顔色一つ変えずに請け負う彼が、難しい舵取りの中で責任を感じたり、悩んだりする事も。
「それで、依頼についてなんですが! 細かい事を教えて貰えますか!?」
私はもう何だか胸が熱くなってしまっていた。
駆け出しで仕事をはじめて数か月――レオンさんに信頼されて……そんな難しい仕事を頼まれる事が嬉しかった。
よしやってやる、と彼の執務机に身を乗り出して椅子に座ったままの彼に顔をぐっと寄せた。
「例え話なんだけどね」
「……は?」
今、一体、何と、言いやがりました、でしょうか???
「説明出来るもんならしてみただけで――
ただ、実際の所。仕事に無関係って訳じゃないよ」
「はあ???」
「オマエ、朝飯食うでしょ。食った方が元気出るでしょ?
俺はこのローレットを取り仕切らないといけない立場だから、元気はちゃんと出さないといけない。
しっかりした目覚めで、今日という一日を乗り切る為には心の栄養は大事だからね」
「はああああああああああ!?」
「要するに朝一でオマエのその顔が見たかっただけだよ。ご馳走様。可愛かったぜ」
……もう一度、無駄に器用なウィンクをしたレオン(呼び捨てで十分だこんなやつ!)に私の顔は熱くなる。
コイツ、ホントにもう何とかしろよ!?
●どうせ発注文四行(実質一行)だしな!
きっと、本当は。
見える世界が全部滲んで、胸の下からせりあがってくる熱い何かが止められない。
頭がぼんやりして息が苦しい。ぐすぐすと鳴る鼻と
(当たり前じゃん。何考えてたんだ、私は)
……ギルドマスターはすごくモテる。
華やかで社交的で人当たりが良くて、誰にでも優しい。
……そりゃあちょっと意地悪な所もあるけど、
伝説的な冒険者で――それこそ世界中の人から尊敬を集めてもおかしくない位の人なのに、
「……っ……」
また、ぐすんと鼻が鳴った。
ボタボタと落ちる
あんな
彼が何を言っても私は憎まれ口ばかり叩いて――当然にいつも可愛くない顔ばかりしていたのに。
「ばかやろぉ……」
漏れた言葉の行く先は私自身にも分からなかった。
それは多分レオンさんに言ってやりたい一言で、同時に自分自身に言ってやりたい言葉でもあった。
あの人が寝言でステラちゃんの事を言った時は、その顔に落書きをしてやった。
耳がすぐピクピク動く幻想種の子がキラキラ光る宝石のような目をあの人に向けていた時も気にはしなかった。
あの人の周りに甲斐甲斐しく世話を焼く天使のような子が居ても、飲み仲間の色っぽいお姉さんとデートの話をしていても(そのお姉さんは可愛い男の子に悲鳴を上げながら連行されていった)、ドーベルマンに骨をあげていたって私は別に構わなかった!
ただ、ただ――私は。私は、短い間だけど、本当に短い間だったけど。
空中神殿であの二人を見た時、全てを理解してしまったのだ。
――レオンさん、一つ聞いてもいいですか?
――スリーサイズとか?
――そんなの興味ありませんよ! ローレットについての真面目な質問です!
――つまんねぇなあ。そんなんどうでもいいのに。
――どうでも良くないです! ……レオンさんはどうしてローレットを作ったんです?
――どうしてって、これは俺の仕事だぜ。
――それはそうですけど、特異運命座標がパンドラを集めてもレオンさん得しなくないですか?
利己的じゃないレオンさんとか何かすごい気持ち悪いんですけど。
――オマエ、俺を何だと思ってンの?
「レオンさんだと思っています」なんて答えた時の彼の何とも言えない表情に胸がすくようだった。
……でもあれは。茶化した雰囲気はきっと。
――教えて下さいよ!
――しつこいね。世界が滅んだら俺も困るだろーが。
まぁ、それで気に入らないなら『賭けをしたから』とかそんなので納得しなよ。
(……女の子の気持ちで、賭けなんてしないでよ……)
私の恋は自覚と同時に終わった。
レオン・ドナーツ・バルトロメイはどうしようもなく『あの人』の事を××××している。
全ての方向に傷を付け、今をときめくTOPのクズに負けず劣らず、傍迷惑に。
ぽつりぽつりと。私の気持ちと同じように、地面にまで水滴が落ちていた。
「……雨か」
見上げた空は暗く厚曇りで、色の無い雫が髪を濡らす。服を濡らす。
鉛のように沈んだ心と重い足を引きずって、私はローレットに帰らなければならない。
あの盗み見は無かった事にしないといけない。
今夜だけは一人ベッドで眠らせて。
でも明日からは――無邪気にからかう貴方に、私は頬を膨らめて。きっとうまくやってみせるから。
「……おい、こら」
「……………」
突然に背中から掛けられた声に私の足は止まっていた。
酷い顔をしているのは分かり切っているから、絶対に振り向いたりはしない。
「無視するなって」
「してません。でもだいきらいなので近付かないで下さい」
「……オマエ、どうした。何かあっただろ」
「女の敵。悪魔。クズ。最低。馬鹿。アホ。エッチ。向こういって下さい」
「子供かよ」
柔らかいバリトンを聞いたら抑えていたものが溢れ出してしまった。
上手くやる心算だったのに、もう無茶苦茶で。それでも私は心配してくれる彼の声色が嬉しくて仕方なかった。
「兎に角、落ち着け。何があったのかは知らねぇが――」
レオンさんは恐らくあの人の前で自分がどんな顔をしているのか自覚していない。
心底から分からずに聞いているのは分かる。でも、それとこれとは別問題で――私は兎に角走り出す。
顔を見られたらおしまいだ。この人は器用で不器用な人だから、そしたらもうあんな時間もおしまいなのだ。
だから、私は――
「――――ッ!?」
「俺を誰だと思ってやがる、ドシロート」
少し苛立ったようなレオンさんの声は私の耳元で響いていた。
駆け出した瞬間にそれ以上のスピードで距離を詰めたレオンさんは私の右手を引いていた。
「俺が何とかしてやるから、兎に角落ち着けよ」
そのまま腕を引いて私を振り返らせてしまう。
「――――」
……私のひっどい顔が彼の青い目に映ってしまう。
「……何とか、してくれますか?」
もう、我慢は出来なかった。胸の奥から競り上がるどうしようもない感情が私の唇を勝手に動かすだけだった。
「じゃあ、
―――――マグダレーナ・オットカキンポイントガツキテシマッタ・ティーメ著『ギルドマスターのユウワク個人授業』より
●それはそうと
「この本、出た直後からローレットの一部情緒がおかしくなっててさ」
「ふんふん」
「何か全く関係ない人が大量に被弾して熱を出したとか聞いたんだけど」
「ほうほう」
「それは仕様であってるの?」
「……さあ?」
「フィクションだよね」
「間違いなく」
- ギルドマスターのユウワク個人授業(プレイングウィズラヴ)完了
- GM名YAMIDEITEI
- 種別SS
- 納品日2020年10月10日
- ・マグダレーナ・ティーメ(p3p007397)