PandoraPartyProject

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雪解けて、空へ

あの日には、戻れなくとも

登場人物一覧

赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
赤羽・大地の関係者
→ イラスト

●再会の日は突然に
 ギルド・ローレット近く。
 依頼受注の手続きをするために足を運んでいた彼は、ローレットでの依頼受注手続きを終えたら本屋にでも寄ろうかと算段を立てていた。
 秋晴れの空。肌を撫でる風は少しずつ寒さを増し、青年の身体を少しずつ冷やしていく。
 魔術回路を増築したとはいえ、寒いものは寒いのだ。今年の秋服は新調するべきだろうか、などと考えながら、彼は足を動かして。
 街沿いを歩んでいた赤羽と大地は、大地にとっての懐かしい声を聴くことになる。

「みっひー? みっひーじゃん? みっひーーーーー!!!!」
「ア?」

 羽切響。JK。明るい少女である。
 そして、大地の元の世界での友人の一人。
 しかしこの時表に出ていたのは赤羽であった。それは彼女の呼んでいる『三船大地』ではない。
 故に。
「みっひー……だよね? それにしてはなんか雰囲気違いすぎてウケるんですけど!」
「誰だお前……おい、大地」
「ああ……俺の知り合いだ」
 一人で二人分の話口。纏う雰囲気は異なるもので。
「みっひー……?」
「……久しぶり、羽切」
 その声は穏やかに。
 かつてあの世界で過ごした友へと向けられていた優しい響き。
 内側に帰った赤羽にとってそれは初めての音色。
「ええと……とりあえず、軽く説明するけど。時間、いいか」
 声をかけたのは大地の方。もちろん響は頷いて。
 こうして三人の自己紹介と、これまでの説明が始まった。

●赤羽と大地
「ええと……じゃあまずは俺から」
「うん」
「俺は……初詣の帰り道に死んだ」
「え?」
 死を雪で隠した日のことを思い出す。遠きあの日。
 隠さぬ首の傷がうずいたような気がして、そっと撫でれば。ああ、こんなにも歪な傷が、まだ残っているじゃあないか。
「首を。切られたんだ。だから……きっと。俺は、冬休み明け、ずっといなかっただろ?」
「うん……え、じゃあさ」
 響は目をらんらんと輝かせて、大地に問うた。
 長年の勘から、大地は余計なスイッチを押してしまったことを察し、心の中で赤羽に向けて小さく『ごめん』と呟いたのだった。
「その髪の毛どうなってんの?! 地毛? 染めなきゃこんな綺麗な……あーーーーでもこれそっかあ、地毛だからこんなに発色良いんじゃん?! なるほど、え、すご~~!! アタシも死んだらこんな綺麗な髪の毛になれるなら死にたい~~~!」
「「やめとけ」」
「え、めっちゃ声でかいじゃん……? 痛いのは嫌だから好き好んで死にたくはないし?」
 『ないわー』と首を横に振る響。赤羽はピキピキと青筋を浮かべ、大地は肩を竦めてため息を吐く。
「その目は何? カラコン? こっちにカラコンあるならバリテンションあがんだけど!」
「これも地、だな……」
 髪を弄んでみたり、目の横をつんつんとしてみたり。死んだことで大きく変わってしまった大地の身体に、響は大きく興味を示して見せる。そんな様子がくすぐったくて、大地は苦笑しつつもほほえましく思うのだけれど。
「じゃあその、死んだときって言うのがその首の傷なんだろうけど……これ、何で切られたの? 特殊メイクみたいで信じらんない」
 じい、と首元を見つめながら話す響にからかいの様子はなく、成程理解を示していてくれるのだろうと思った。彼女のこういう真っすぐさは、時に大地を感心させる。
「鋏で、ちょきんと。思い出したくもないけど……鏡もあると、見えたりするし。なんだかんだ慣れた、かな」
「そっかぁ……いつか男の勲章ってやつになるといいね!」
「そうだな。で、あと、その死んだあとなんだけど」
「ウン?」
 こればかりはなんとも説明のし難い事象であり他に同じ人がいるかもわからないため、大地はろくろを回しながらその言葉を、紡いだ。
「首がまぁ、切られたんだけど」
「だろうね」
「そのとき、俺の身体を貸す代わりに、俺の身体をよみがえらせてくれるっていう人に、出会って」
「……」
 ぱちぱちと目を瞬かせる響。どうやらぴんとは来ていない様子。ならば致し方あるまいと、赤羽の名を呼んだ。
「俺の身体の中に、そいつは住んでる」
『そいつってひでぇナ。……羽切とか言ったっケカ。俺は赤羽ダ、宜しく頼むゼ』
「ぉぉぉ……?! みっひーのなかに別のひとがいるんじゃん?! やっば、未来じゃん神秘じゃ~~~~ん?!!」
「……」
『なァ』
「なんだよ」
『コイツっていつもこうなのか』
「……ああ」
『ちょっとお前のこと見直したワ』
「失敬な」
「赤羽……うーーーんじゃあバネっちね!」
『ハア?!!!!』
「ふっ」
『笑うナ!!!!!!』
「じゃあ次は、俺達が聞いてもいいか」
『流すナ』
「ウン? アタシのこと? みっひーならいいよ!」
 頷いて人のいい笑みを浮かべた響の言葉に頷いて、赤羽と大地は、此方に来た経緯を聞くことにした。

●響と混沌
「アタシはね~、ハンバーガー食べに行った後に河川敷でぼーっと夕日見てたの」
「うん」
「んでね、なんか野球してる子たちがいたから、元気だなーって思ってあくびしたの」
『よく覚えてんナ』
「でしょ?! アタシすごいっしょ?! でねでね~、その野球の球がこっちに飛んできて頭に当たったんよね」
「うわ、痛そうだな……」
「みっひーには負ける! で、目が覚めたらクーチューテーエンってとこにいたの。マジウケる!
 帰ったら食べようと思って残しといたプリン無事かわかんないのだけバリだるいしテンサゲなんだけどね」
『諦めるんだナ』
「バネっちひどい!」
『バネっちはやめロ!!!!!!』
「やだ~! てかねてかね、こっちの世界なんかぶっ飛んでてバリ楽しいんだけど。皆にも見せてあげたいなあ、だって耳とんがってたりする種族とか魚とか鳥とか色々いるし、そんなのドラマとかラノベとかゲームの中みたいじゃん!
 クラスの男子たちならめちゃくちゃ喜びそうだしぃ、女子だってめちゃくちゃお洒落できるから楽しんでくれそうな気がするんだよね!」
「まぁ、楽しみはするだろうが、その分戦いも頑張らないといけないぞ」
「そこだけネック! あの子たち武器握るにはひ弱っていうか、嫌がりそうだしさぁ。あそうそう聞いてくれる? アタシね~」
 と延々と続くマシンガントークを華麗に半分聞き流す大地と、げんなりした顔で聞き続ける赤羽。話が終わったころには響はつやつやしていたけれど、赤羽はげっそり。なんでや。
「……俺がいない後の高校はどうなった?」
「ん?」
 大地が恐る恐る問いかけた、自分が居なくなった後の世界のこと。
 『うーん』と思い出しながら、響は笑顔で語ってくれた。
「んー……最初はクラスのみんなも、アタシも、困惑してたかな。だってみっひー、突然行方不明で、親御さんも誰も何にもわかんないんだもん。神社に行ったことだけはわかってたから、神隠しみたいだね、なんて話したりしてさ」
 懐かしむように目を細める響。
 どこかくすぐったいような、照れくさいような心地で、大地は話を促すように頷いて。
「寂しかったよ。あんなお別れもう二度としたくない」
「……俺も、二度目は良いかな」
「図書室の本借りるとき、詳しい人いないとアタシらが困るし!」
「……はは、そうかも」
「でしょ?! そうそう、購買にね、新しく親子丼が追加されたんよ。バリバリおいしい」
「食べてえな……食べたかったな……向こうに戻れたら食べられたらいいんだけど」
「ワンチャンあるっしょ!」
「あるか?」
「ある!」
 楽し気に笑い、遠き思い出に想いを馳せる。
 三年前。
 はるか昔のようにすら思えた、学生時代の記憶。
 再現性東京で送っている青春ではなく。本当に望んでいた、こころからの青春。
 もうあの日に戻れることはないのだけれど。
 たまに両親に会いたくなる。なんて、当たり前だけど認めてしまえばもろくなってしまいそうな、根底の自分をやけにあっさりと肯定して。
 大地は、笑みを浮かべた。
 赤羽は、遠き日の自分を思い出して、目を伏せた。
「こっちの世界でもなかよくしてくれるっしょ?」
「もちろん。こちらからも、宜しくお願いしたいくらいだ」
「もち! じゃあこれからもよろしくね、みっひー、それからバネっち!」
「ああ」
『ったク……オウ』

●そして幕引き
『おい大地、そろそろ依頼人との顔合わせの時間だゾ』
「おっと……じゃあそろそろ、俺達はいくよ。羽切は?」
「アタシはそのへんのカフェいくつもり。じゃあね!」
「ああ、また」
『オウ、じゃあナ』
 長くなった黒と赤の髪を翻し、ローレットの中に入っていく、学友の姿。
 もう会えないと思っていた。
 けれど、こうして会えた。
 響の頬は一歩歩みを進めるたびに、ゆるんでいった。
「……そっか、生きててくれたんだ」
 秋の空の青が、やけに懐かしく思えた。

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