PandoraPartyProject

SS詳細

妖精姫に手を伸ばす

登場人物一覧

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ツリー・ロドの関係者
→ イラスト

●依頼
「は……?」
「だから、サイズさんは抽選の結果落選になったから、今日のお仕事はお留守番なの。ごめんね」
 申し訳なさそうに語るポルックスは積み上げられた本の中からいつものように白い表紙の本を取り出して手渡すと、ぱたぱたと境界図書館の奥へと駆けて行った。
 物語の世界には、足を運ぶことができる。
 たとえそれが顔馴染みの仲間とではなくとも。
 届かないなら無理やりにでも届ければいい。
 何度だってこの手を伸ばすのだと、そう決めたから。
 接着剤ですべてのページを張り付けたかのように、びくともしない本を見る。
 その本の名前はブルーム・ブルーム。
 妖精女王の愛した世界の物語。
 今、サイズは何としてもこの本の内部に入る必要があった。
「くそ……かたいな……」
 手で開こうとしてもびくともしない。本としての扱いならどうかと思うが、ぶつけてみたりしてもうんともすんともびくともしなかったのが、ブルーム・ブルームからの、世界からの拒絶のように思えて、サイズは己自身を取り出して、勢いよく振り下ろした。

 キィン。

 どうやら魔力で封をされていたらしい、ゆっくりゆっくりと開いていったその本は、まだ見たことのないページと、これから綴られるであろう物語のためのページを残していた。けれど、そのこれから、の部分はあまりにも不確か。世界が滅びに落ちてしまうかもしれないことを暗に示していた。
「……フローラ様。俺は……!」
 これからのページを無理やり開く。

『――サイズ、助けて!!!』

 フローラの、声。
 それがどういう原理かはわからなかった。幻聴かもしれない。
 けれど、もしそれが本当の叫びであるとしたのならば。
「ッ、今行きます」
 手を伸ばす。
 考える余裕などなかった。
 いつものように、淡い光がサイズを包み込み、ブルーム・ブルームの世界へとサイズは吸い込まれていった。

●機械仕掛けの妖精
 いつものように降り立ったのは、見慣れた妖精城の近くではなく、かつてひと時を共にしたあの小屋の近くだった。
(フローラ様……皆がいるから大丈夫とかはない、俺も探しに行こう……)
 話によると、大事に手入れしていたあの若草の長髪が切られてしまったのだとか。そんなことフローラが望んでいるとは思えなかった。心の傷だって深いだろうに。
 こういうときに抽選に落選してしまう自分の運が心底憎たらしかった。
 いつもならば妖精の何人かがサイズを見つけ飛んでくるものなのだが、今日はとても静かだった。それが嵐の前の静けさに思えて、あえてサイズは豪快に足音を鳴らし、森に落ちている枝を踏みつけ、そうしていつも通りを取り戻すためにフローラの捜索を開始した。
(フローラ様に何かあったら、俺は……)
 きっと。
 彼女は生きていると。
 彼女はまた自分に笑いかけてくれると。
 そう。
 信じたかった。
 だからこそあの固く閉ざされた本を力づくでこじ開けて、怒られるとしてもこの世界にやってきたのだから。
 レプリカとはいえ、自身にそっくりな鎌も託したのだから、仮に自分が見つけられなかったとしても、それでももう一人のサイズが見つけたことにはなる。
 それだけ必死に、半ばやけになっている自分が馬鹿らしく思えて仕方なかった。
 森を進めど進めど、あの小さくてふわふわと飛んでいる妖精たちがその姿を現すことはなかった。

 ガサガサ

 震える草木。
 サイズは己自身を構え、敵との遭遇に備える。
「……まだあの時の魔物が残ってたのか? なんにせよ今の俺に優しく見逃してやる選択肢はない……」
「その声は、サイズお兄ちゃん?」
「……フェル?」
 ひょっこりと現れた銀髪、フェアリーブック・ウェポンルーラー――愛称フェル。
 サイズと同じ製作者から生まれた実質妹型の魔剣であり、性別不明のサイズとは違って性別を持った魔剣だった。
 周りに敵がいないことを確認したフェルは、ぱらぱらと服についた草木を払うと、サイズの周りをくるくる見てから、サイズの身体を様子見して、『あっそうだ』と付け足して、何をするかの説明をした。
「探したよ、お兄ちゃん。健康診断の時間だよ」
「最初会ったときにデータは全部渡しただろ……俺も今少し忙しいからそんなことに付き合ってる時間はない……。
 これ以上邪魔するならためらいなく斬り捨てる」
「……ッ、なら、力づくで!!」
 サイズの鎌はみるみる血の色に染まりゆく。
 それをみたフェルは、己自身――抱きしめていた本を構えて。
 それが、戦闘の始まりの合図だった。


●かぞくのかたち
「再現! Sの大太刀、Sの大剣……BSSナイフ!」
 彼女の言葉に呼応するように、現れたのは大きな太刀、剣、それから小さな刀。
 記憶した武器の再現、複製、使役を得意とする彼女の戦闘スタイル。
 サイズの元へと降り注いでくる数々の武器に、サイズは顔を顰めた。
「未来の製造者は何を考えてあっちの妖精じゃ使えこなせないでかい武器を……!」
 ガキィン、ガキィンと弾き飛ばしていたサイズ。
 しかし、日々の無理が祟った。
「ぐっ?!」
 背後から奇襲してきたナイフに気付くことなく、サイズは膝をつき、そのまま気を失った。

 生命維持に必要な血液を失っている。と、そう気づいたのは、サイズが次に目覚めた時だった。
「これ健康な人相手だと多少気だるさを覚える程度にしか血が抜けないのに……まあ、ちょっと調べさせてもらうよ」
 一瞬でついてしまった戦いにフェルはため息を吐いた。
「血が足りてない。血で回すところを、食事の時に得られるエネルギーで回してるから、身体もこんなにボロボロになるんだよ」
「……調べ終わったのなら血を返して、俺の目的の邪魔をするな」
 無理やり身体を起こして、サイズは立ち上がろうとする。
 のを引き留めるために、フェルはサイズの身体に拳を沈めた。
「ぐっ……?!」
「妖精の血は私の複製で何とかするから今は寝て!」
 半ば無理やり眠り……気絶させたともいうが、フェルはその疲労の色の滲んだ顔を見て、不安げに瞳を揺らした。
「全く……お姉ちゃんもお兄ちゃんも手間がかかる観察対象だよ……」

●そうしてサイズは目を覚ました
「……サイズ」
「ん……」
「ねぇ、サイズったら」
「ん……ぇ」
「ふふ、おはよう寝坊助さん」
「ふ、フローラ様?!」
 くすくすと笑うセミロングの髪のフローラ。の、膝の上で、サイズは眠っていた。
「え、ええと、あの、どうして俺はフローラ様の上に」
「サイズは森で強い化け物と戦い相打ちになって、妹に搬送された……みたいなの。私もさっき帰ってきたから、サイズに会いたくなっちゃって」
 『だめかしら』と笑った表情から、少しは元気そうなことに、サイズは安堵した。
(フィルは宣言通り何とかしたみたいだ…ナイフの力で奪った妖精の血を複製したのかな……)
 それにしても。
 短い髪のフローラは、少しだけ大人びて見えた。
「ねぇサイズ」
「ど、どうしました?」
 身体を起こしたサイズは、フローラの声に頷くと、首を傾けた。
「今から少し出かけない?」
「……俺に守れってことですか」
「ふふ、正解!」
「……まぁ、そういうことなら少しだけ」
 『やったぁ』と嬉しそうに立ち上がったフローラは、サイズの手を握ると、

「それじゃあ行くわよ!」
「えっ、ちょ、待っ」

 えい、とベランダの扉をあけて勢いよくジャンプしたフローラは、そのまま羽根を広げて、空へと大きく羽ばたいた。
「ねぇサイズ。助けに来てくれたのね」
「……まぁ、行けなかったんですけど」
「ふふ、そうみたいね」
 くすくすと笑って、フローラは飛び続ける。
「いつも来てくれるから、神様がお休みを与えたかったんじゃないかしら」
「……」
「だから、あんまり気にしないこと! いい?」
「……」
「いーいー????」
「……………………はい」
「ふふ、よくできました!」
 ぽんぽんと頭をなでたフローラは、サイズの両手を握ると、空中で止まった。
「ねえ、サイズ」
「どうしました?」
「……たぶん。これから、もっと、恐ろしいことに巻き込まれるわ、私」
 それはどこか察したような声で。
 それはどこか悲し気な表情で。
 『それでもね、』と、フローラは続けた。
「また、助けに来てくれる?」
「もちろん。だって、この世界では、まだまだやりたいこともありますから」
「……ふふ、そう。ありがとうサイズ、また、約束ね」
「……はい」
 嬉しそうに笑うフローラ。若草の髪は短くなってしまったけれど、そんなことを気にしている素振りをみせることはなかった。
 幸せそうに笑うフローラ。今はまだ少し元気がなくとも、それでも笑みを浮かべてくれたことにサイズは安堵した。
「……よかった」
 サイズの声は、風にかき消されて、蒼穹の果てに消えた。

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