シナリオ詳細
<アンゲリオンの跫音>聖者のエピゴウネン
オープニング
●天球儀を回せ
アーリア・スピリッツ(p3p004400)の領地、サン・サヴォア領へめざし『星灯聖典』の一軍が迫っている。
そんなニュースをもたらしたのは『星光騎士』アンバー・キリードーン。そして彼女と連れだって現れたピリア(p3p010939)であった。
さて、どこから語るべきだろうか?
ぽちゃん――と角砂糖が紅茶のカップへ落ちた。一個、二個、三個、四個目が落ちた所で水面がカップの縁と重なる。
純粋なる黒衣を纏った少女メディカは『まだ不満だ』という顔をしながらもスプーンでカップをかき混ぜ、口をつける。
濃厚すぎるほどの甘さが紅茶の味を殺し尽くしていることは、そのカップを味わわなくてもわかるだろう。
「あなたが齎した情報がたしかなら……」
メディカはカップを置いてからすこしだけ身を乗り出す。
彼女のポケットからは一枚の写真が……いや、厳密には写真を斜めにカットしたものの断片が取り出された。
「軍団を率いているのはこの女ではありませんか?」
対して、カップに何も入れずに両手を行儀良く膝に揃えていた少女アンバーは『失礼します』といって写真を受け取った。
隣に座って紅茶をちびちびと飲んでいたピリアが写真を覗き込む。
どうやら本当に写真の切れ端らしく、元は三人くらいが映っていた写真を無理矢理一部分だけ切り取ったものであるように見えた。深くは……問うまい。
「はい、この人物で間違いありません」
そう応えたのはアンバーだった。
「この人は?」
そして問いかけたのは、ピリアであった。
頷いて説明を始めるアンバー。
「ルスト派『星灯聖典』の遂行者、洗礼名トゥールーン。最近天義国内でいくつかのテロ活動を行い、我々騎士団にも指名手配がかかっています。ですが……なぜおわかりに?」
アンバーの尋ねに、メディカはため息をついてからカップを手に取りなおした。
「あの女の考えそうなことだからですよ」
●誰かに譲るくらいなら最初から手に取るんじゃない
シェアキム六世にある天啓がおりた。
――第一の預言、天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう。
――第二の預言、死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼすでしょう。
――第三の預言、水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう事でしょう。
その直後というべきか、予言にちなんだ事件が天義各地で同時多発的に発生したのである。
今回起きているのはそのうちの事件の一つ、つまりは『第二の予言』である。
第二の予言とは、聖痕をもたぬ者たちをルスト派が襲撃するという事件だ。
「その聖痕というのは……どんなものなのです?」
ピリアが当然の疑問を口にすると、今度もまたアンバーが説明を加えてくれた。
「いわば『正しき歴史修復への誘い』です。この天義で言うなら、ローレット・イレギュラーズの皆さんがベアトリーチェを倒さなかった世界。あるいはそもそもイレギュラーズの助けがなかった世界です。
ルスト派が行っている活動の根本は、そんな世界の再現……彼らに言わせれば『修正』なんです。けど……」
アンバーはそこで口ごもった。
「私の場合は、少し異常でした。ベアトリーチェとの戦いで失った仲間たちが生きている世界が、『神の国』に再現されていたのですから。もしそんな世界を作るとするなら、それは修正ではなく願望の顕現です。多くのルスト派と『星灯聖典』の決定的な違いは、きっとそこでしょう」
「在るべき世界に、自らの願望を混ぜ込ませる……なるほど、彼女の考えそうなことです。ねえ、お姉様?」
「えっ?」
それまでお上品にしていたアーリア。急に話をふられたことで手にしていたカップが揺れた。
見上げてくるメディカは糸目を少しだけ開き、目の奥にある破壊的な光を覗かせていた。
「ねえ、お姉様?」
くり返される言葉に、アーリアは『ええ』とだけ応えた。
「あの子は……そうね。少し変わった子だったわ。極端に言えば、私の『妹』になりたがっていた。私への独占欲で一杯になっていた。昔は、どんな子供にでもあることだと思っていたのだけれど……」
最近になって彼女は『爆発』した。
理想のお姉ちゃんを手に入れる手段が『星灯聖典』からもたらされたと知るや、洗礼名まで手に入れてその活動に従事し始めたのである。
「だから、彼女の狙いはお姉様。お姉様に聖痕を刻みつけるのが狙いでしょう。勿論、そうはさせませんけれど」
にっこりと笑ってみせるメディカ。
アンバーもピリアも、それは同意だとばかりに頷いて見せる。
「まずは防衛網を築きましょう。領の兵力を展開して、雑兵を抑えます。敵の主力は……」
「はい。ピリアたちが! いっしょに、がんばろう! なの!」
手に入らないものを手に入れたい。そんな気持ちが、わからないわけじゃない。
けれど――それは間違いだ。
「止めてあげなきゃ、いけないのです」
- <アンゲリオンの跫音>聖者のエピゴウネン完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年08月23日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●
「早く逃げて、逃げてください!」
影の天使による突然の襲撃を受けたサン・サヴォア領町外れ。騎士アンバーは剣を振り抜いて天使を牽制すると、周囲の人々へと呼びかけた。
「ピリア、しゅうせいってきらい! そうやって、いろんな人にめーわくかけてきてるの!
せいこんも、つかわせないの! 今回もみんなといっしょにがんばろうね、アンバーさん! むん!」
同じくかけつけた『欠けない月』ピリア(p3p010939)が影の天使を押しのけ、人々の逃げる隙を作り始める。
エコーロケーションを起動してみると、あちこちで人が声をあげているのがわかる。ここからの逃走一番近い経路もだ。
どうやら影の天使たちはシンプルに固まって移動しているらしく、町そのものやその住民への被害はあまり興味が無いらしい。
まるで何かを探しているような散り方ではあるものの、それは徐々に狭まっているように思えた。
そう教えてくれたのは、ドラネコのリーちゃん召喚によって空からの様子を観察してくれた『相賀の弟子』ユーフォニー(p3p010323)である。
「そろそろ影の天使の攻撃範囲に入っちゃいそう。リーちゃんを逃がしますね!」
逃がしたリーちゃんを攻撃しない代わりに、術者であるユーフォニーを狙ってきたらしい。影の天使がずだんと豪快に空から着地してくる。
ハッとして身構えるユーフォニー。それを庇うように前に出て書類に魔力を込める今井さん。
「今の歴史は誰かが、みんなが、掴み取って切り拓いたもの……それを奪うのはだめです」
ピリピリとした敵意。それに乗じるようにして、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)もまた『星灯の書』をそっと撫でた。
「信じたいものを信じて好きなように信仰する。
それだけなら誰だって許容も共生も出来るでしょう。
でもそうやって外に牙を剥いた時点でアウトだ。
ましてや利己的な理由が乗っているあたり救いようがない。
殴って目を覚ましてくれるならそれに越したことはないけど、さあどうだろうね?」
ルーキスはファミリアーを走らせることで視界を増やし、人々が逃げるルートを導き出していた。
彼女の飛ばす青い鳥を追いかけるようにして人々が逃げていく。
逃げ遅れた人はユーフォニーが見つけてハイテレパスで呼びかけるという形でピックできている。今のところ取りこぼしはないようだ。
「安全なルートがハッキリしていてくれたおかげで、逃がしやすくなったね」
「はい……けど、敵は抑えておいと、ですね」
ピリア、アンバー、ユーフォニー、ルーキス。彼女たちは皆影の天使たちとの戦闘へ突入した。
影の天使たちは大きく分けて二つのグループで攻め入っていた。
町の中心を目指すグループと、アーリアを探し出そうとするグループだ。
「欲しいものは何としてでも欲しい。
そういう感覚って私よくわからないのよねぇ。
だって何をしても手に入らないものを強請るより自分にあるものを大切にした方がいいじゃない?
他人を羨んでいてもしかたないのよ」
影の天使に『足払い』をかけ無理矢理転倒させると、『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)は見せから飛び出してきた肉屋の店主に似てるようジェスチャーした。
「それにしても、天邪鬼なのかしらねぇ。『正しい歴史』だなんて如何にも賢しらで苦手な感じだわ?」
逃げ出す人々に掴みかかろうとする天使が現れるも、それを槍のひとつきによって牽制する『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)。
ぐるりと槍を回し、立ちはだかるようにして逃げ道を作る。
槍を構えたゼファーと義足をすらりとみせるヴィリスを前にせめあぐねた影の天使たち。一方で、市民たちは礼を言って逃げ出していく。
(憧れの人を手に入れたい、喪った人たちを生き返らせたい…その願い自体は、間違っているだなんて思わない。
でも……それを叶えるために『今』を犠牲にしていいわけないわ。
アタシたちにだって、掴み取れなかった希望がある。救えなかった命がある。たくさん泣いて、傷ついて、後悔して……それでも、確かに選んだ今を生きているのよ)
逃げ遅れた子供を見つけ出し、手を引いて走る『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)。
それを見つけた影の天使が槍を手に襲いかかるも、振り向いたジルーシャは黄金瞳がギラリと輝かせた。
魔術障壁が展開し、天使の槍を眼前で停止させる。
「それが正しくない歴史だなんて、誰にも――神様にだって、言わせるもんですか」
そこへ駆けつけたのは巨大なハンマーを手にしたメディカだった。
強烈な打撃が影の天使を叩き潰し、黒い影の飛沫を散らせる。
「それにしても、『また』攻めてくるなんて……どう思います、お姉様?」
話をふられ、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)は振り返る。
広域俯瞰によって逃げ遅れた人がいないかを確認していたアーリアだったが、安全が確認されたことでこくりと頷いた。
「小さな頃の彼女は「お姉ちゃん」に憧れていた少女だと思っていたのに
まさかこんなに熱烈に愛されてるなんて、まだまだ私も捨てたものじゃないわねぇ」
「追っかけもここまで来ると壮大だな。イイオンナってえのはモテモテで大変だねえ!」
ゲハハ! と笑いながらやってくる『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)。
彼はのしのしと歩きながら、その手にした斧で影の天使をぶった切った。たったの一撃である。
それを横目に、メディカはアーリアに向き直った。
「前回は『私が』追い払ったのですけれど?」
「んもぅ」
頬を膨らませて怒ってみせるメディカに、アーリアは微笑みで返した。これは怒っているのではなくて、構ってほしいメディカなのである。
「ごめんねメディカ。ケーキビュッフェ奢るから」
「言質は取りましたからね?」
お菓子でいっぱいの時間を想像してか、メディカの様子が少し明るそうだ。
「ま、そうと決まれば……邪魔者たちはさっさと排除しなくてはいけませんね」
●
避難は概ね完了したようだ。となれば、あとは影の天使たちを足止め――もとい倒すのみである。
「ピリアさん!」
「うん!」
アンバーは剣に星の光を宿すと、天使の繰り出す剣を強烈に跳ね上げた。
そこへピリアが詠唱(歌唱)を始める。彼女を中心として舞い上がるオパールの煌めきは、剣を跳ね上げた天使のみならず周囲の天使たちを巻き込んで派手な爆発を起こし始める。
自らのエネルギーの暴発によってダメージをおった天使が攻撃範囲から逃れようと飛び退くが、それを逃すユーフォニーたちではない。
「今井さん!」
「は――」
万能課長今井は両手にピッと複数の契約書類を握ると、腕ごとクロスさせ魔力を込める。
契約書はその文言に従い攻撃力へとそのまま変換され、彼の周囲に複数のカービン銃が生成された。
キャッチし、発砲。マガジンに込められた30発を全て撃ち尽くすと更にもう一丁を掴んで発砲を開始。ピリアの攻撃範囲からは逃れた天使だが、今井の攻撃範囲からは逃れられなかったようだ。激しい銃弾の雨を受けて四散した。不思議と血しぶきも上がらなければ爆発もない。影でできた身体が散って消えただけだ。
「これは、まけていられないね」
ルーキスは『歪曲銀鍵』の起動を行うと逃れようとした天使たちを纏めて射程にいれ足止め。そのまま急速に距離を詰め、『禍剣エダークス』を顕現させた。
高純度の魔力を凝縮。宝石を核として仮初の剣へ凝華。そして一閃と同時に暴走させるというその技は、極端なほどの破壊力となって影の天使を爆散させる。
空へと飛び上がったファミリアーが別の戦場を感知。同じく感知したユーフォニーと共に振り返る。
「トゥールーンを見つけた。――行くよ」
「観客が多いのは歓迎だけれどマナーが悪い人はお断りよ!」
踊るように繰り出されるヴィリスの蹴りによって天使たちが次々と切り裂かれる。
フィニッシュに繰り出された後ろ回し蹴りは、天使の首をスパンと切断して天空へ跳ね上げた。
かかかんっ、とリズミカルに足を慣らすヴィリス。
「けど、ちょっとわかるのよね」
ゼファーが影の天使を蹴り飛ばし、空いたリーチで槍を一閃。相手の首を切り落とす。
「わかるって?」
「『こんな姉がいたら』なんて気持ち」
「それ、本人に言ったらどんな顔するかしらね」
「きっと睨まれるわねえ」
二人は肩をすくめ合う。
そんな二人を、ザバンと大きな波にも似た衝撃が襲った。
ワールドイーターの繰り出す範囲攻撃魔法だ。
見上げれば、『上半身しかない天使像』が空を浮遊しているのが見える。
捧げるように両手を合わせ突き出すその先に立っているのは……。
「あらいらっしゃい、トゥールーン」
トゥールーンを見つけたのは何もゼファーたちばかりではない。
ジルーシャたちも発見し、町外れの中央公園へと走っていた。
噴水のあがる公園へ、華麗に着地するトゥールーン。
「皆様、ごきげんよう。けれど……邪魔な方が多いようですわね」
うわべを取り繕ったような口調に、駆けつけたジルーシャがシールドを展開。
「予言はご存じ? もうそれは実行されつつある――」
「預言なんか覆す。それがアタシたちイレギュラーズよ!」
ジルーシャとトゥールーンがにらみ合う。が、その視線はすぐにそらされた。
というのも、アーリアが追って公園へと駆けつけたためであった。
「アーリア……おねえちゃん」
「久しぶりねぇ、すっかり大人になっちゃって」
アーリアは微笑むが、しかし彼女をがっちりと守るようにグドルフとメディカが左右を固めている。
遂行者たちの刻む『聖痕』の噂は聞いていた。そしてトゥールーンの狙いも、今となれば明らかだ。
アーリアに聖痕を刻み、自らの仲間とし、そしてはれて『本物のおねえちゃん』を手に入れる。
ずさんで、こどもっぽくて、けれどまっすぐな……その計画。
「『また』なの? そこをどけよオッサン」
表情を険しくして犬のように吠えるトゥールーン。
対してグドルフは笑ってこたえた。
「よお。『麗しいイケメンお兄様』に乗り換えてみる気はねえか?
おれさまがタップリかわいがってやるぜえ? ゲハハハ!」
そんなグドルフに小さく投げキスを送るアーリア。何をふざけているんですかと肘で小突くメディカ。
「きゃは――潰す!」
目を見開いて突っ込んだトゥールーン。ジルーシャの選択は即座にアーリアの庇いに入ることだった。入れ替わるように前に出たグドルフとメディカ。
二人の斧とハンマーによる打撃を、しかしトゥールーンは強烈な魔力障壁によってはねのけてしまった。
衝撃が走り、逆に吹き飛ばされる形になる二人。
「何でもかんでも思い通りにいっちまったら面白くねえだろ?
壁は乗り越えてこそ盛りあがるってもんだ!
悪の大山賊から、オヒメサマを奪ってみな。
この略奪のプロを、出し抜けられればの話だがね!」
吹き飛ばされながらも挑発を忘れないグドルフ。
ふうふうと獣のように息をしていたトゥールーンは、短く早くため息をつくと姿勢を直した。
「アーリアお姉様? どうかしら、私と一緒に来ませんか?
星灯聖典はなくしたものを取り戻せる。あなたの妹メディカが『やらかした』月光人形なんか比じゃない。
楽しかった日々に戻れるのです。だって見たでしょう? 『神の国』が誰かの理想を具現化したのを。帳が現実の町を塗り替えたのを。私達星灯聖典はそれを局所的に制御することが出来る。
『在るべき世界』を作り出したその時に、私達だけには楽園が用意される。
絶対に取り戻せなかったはずのものを、とりものせるのです」
誘うように手招きするトゥールーンに――しかし、それ以上の時間は与えられなかった。
「トゥールーンさん、ワガママはダメダメ! なの! ピリアもワガママ言っちゃうときあるけど、かならずママにめってされたの! だから、トゥールーンさんも、めっ!」
オパールの煌めきが細く長い光線となって放たれる。ピリアだ。
普段は治癒力にふっていたその力が、攻撃力としてトゥールーンに叩き込まれたのだ。
そこへアンバーがすかさず斬りかかる――とみせかけて、トゥールーンをスルー。その後ろで浮遊する巨大な天使像めがけて剣を振り抜いた。星の光が飛び、砲撃となって像を軽く破壊する。
トゥールーンがあからさまに舌打ちをした。
そこへ更にユーフォニーたちも駆けつける。
「挑発にのってはいけません! 持久戦に持ち込まれるまえに、ワールドイーターを倒しましょう!」
ユーフォニーの指示の元、今井さんはロケットランチャーを構え天使像へと砲撃。
爆発が起き、天使像が墜落する。
「邪魔を――」
「悪いね、私は手加減するのが嫌いなんだ」
そこへ更なる割り込みをかけたのがルーキスだった。
トゥールーンを阻害すべく『アルトゲフェングニス』の魔術を発動、発射する。
彼女を包んでいた聖なる光が破壊され、トゥールーンは急いで自らに結界を張り直した。
アーリアはそんな様子に目を細める。
トゥールーンと目が合った。懇願するように叫ぶトゥールーン。
「アーリアおねえちゃん、一緒に来て! なんでメディカなの! 家族を告発した妹なんて――」
「ごめんね、ミアちゃん」
あえて昔の名前で呼ぶと、アーリアは魔術を発動させた。
ワールドイーターめがけて発動された魔術はその美しい天使像の造形を歪ませ、崩れさせる。
「私はね、もう決めてるのよ」
いつ決めたのか。そう問われると難しいけれど。
チョコレートクッキーの香りに満ちた教会の病室だったか。それとも自らの妹を殴りつけたその日だったか。それとももっともっと昔の、酒に酔ったバーカウンターでの一幕だったのか。
「私は、この子のお姉ちゃんだから」
ザッ――と民家の屋根から飛ぶ影がある。
ゼファーとヴィリスだ。
槍による一閃と蹴りによる一閃が交差し、天使像がついに崩壊する。
ギリッと歯を食いしばるトゥールーン。
「退きなさいな」
ジルーシャは手を翳したまま囁いた。
「このまま戦っても、どうなるかは分かるでしょう?」
シールドを重ねがけし、アーリアたちとの間に割り込むように立つジルーシャ。周囲をわざとらしく見回してみせる。
グドルフは起き上がり剣を構え、メディカもハンマーを握りしめてじりじりと間合いをとろうとしている。
ルーキスとユーフォニーはいつでも砲撃できる位置から狙いを付け、ゼファーとヴィリスもそれを固めるように路上へと着地した。
ピリアとアンバーはあとから駆けつけ、ピリアは魔法を、アンバーは剣を繰り出せるように構える。
終わりだ。
トゥールーンはそう察したのだろう。
「次は絶対……」
そう歯ぎしりをしながら呟くと、その場を逃げ出すのだった。
「追わなくていいわ」
あの強さだ。捕らえることはむずかしいだろう。深追いすればこちらが被害をうけかねない。
ただ怪我をするだけならいいが、それが聖痕を刻むというようなクリティカルな被害であったらたまらないのだ。
アーリアのその言葉に頷き、メディカはふうと息をついてハンマーをおろした。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
●シチュエーション
サン・サヴォア領の町外れを舞台に『星灯聖典』の部隊との戦いが繰り広げられます。
領内には兵力が展開されており、影の天使などの雑兵が居住地へと入り込むことは抑えられるでしょう。
皆さんはそんな影の天使たちの軍勢を突破し、主力であるトゥールーンやワールドイーターの部隊と戦闘を繰り広げることになります。
●戦闘前半
逃げ遅れた市民を逃がしながら影の天使と戦い、敵主力へ向かって突き進みます。
ここで現れる敵は殆どが雑魚ですが、民間人にとっては脅威となるものばかりです。
●戦闘後半
敵主力部隊と会敵、戦闘を行います。
・ワールドイーター
戦闘力不明の敵主力のひとつ。
トゥールーンとバランスをとる形で範囲攻撃や治癒といった力を持たされているものと予想される。
・『真異端審問』トゥールーン
元異端審問官であり、巨大なメイスを武器に戦うパワーファイター。
自らを聖なる術によって堅い防御を固め、その力をそのまま破壊力に変えて叩き込む物理スタイルでの戦い方を得意とする。
天義の提唱する正義を否定し、『氷の聖騎士様』の提唱する真なる正義を実行すべく世界を破壊使用としている。
ただその目的は、『憧れの美しいお姉ちゃん』を自分のものにするという極めて利己的な理由によるものである。
・影の天使×複数
随伴し配置されている雑兵。ただし放っておくと厄介になるので一気に倒しておくのが吉。
●味方NPC
・メディカ
純粋なる黒衣と纏ったパワーファイター。自らを聖なる力で防御を固めてハンマーで殴り潰すという戦闘スタイルを主としている。
不正義と聞くと即潰したくなる性格だが、最近ちょっと性格が円くなった模様。
・アンバー
天義に属する星光騎士団の騎士。星の輝きを灯した剣で戦うスタンダードなファイター。
ベアトリーチェ災厄の際に全ての仲間を失った経験を持ち、それゆえに星灯聖典の気持ちは理解出来てしまう。
過去にそんな気持ちに付け込まれ触媒にされたことがあるが、ピリアたちの説得によって一人の足で未来へ歩む決意を固めた。
●『歴史修復への誘い』
当シナリオでは遂行者による聖痕が刻まれる可能性があります。
聖痕が刻まれた場合には命の保証は致しかねますので予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。
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