PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>何を失ったとて行かざるを得ない

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●飛び立った永久
「聖騎士グラキエス様は仰った。全ては戻ってくる……と」
 娘の遺影を前に跪いた男は、敬虔な瞳で呟いた。
「グラキエス様。私は――我々は全てを捧げます。『星灯聖典』に、この全てを!」

●なるべくしてなった未来だ
 まるで通り雨のように、それはいつの間にか天義の国へと入り込んでいた。
 名を『星灯聖典』。
 氷の聖騎士グラキエスの教えと導きに従えば、失ったものを取り戻せるという。
 ある者は、亡くした家族の復活を願う。
 ある者は、焼けた村の再建を願う。
 ある者は、失った財産の返還を願う。
 世界の禁忌と、特に天義では神への反逆とすら思えるような死者復活を掲げるそのありようは正しく異様そのものであり、しかし縋ってしまう者もまた多かった。
「なぜ信じる? この世界で死者が蘇ったことなんて一度だってない。月光人形事件を忘れたのかよ。なあ『俺』?」
 カイト(p3p007128)が冗談めかしてカイト・シャルラハ(p3p000684)に問うと、シャルラハはゆっくりと首を振った。
「わからん……けれど、『信じてしまった者がいる』のは事実だ。どこかにカラクリがあるのかもしれないけど、な」
 一方で天目 錬(p3p008364)は腕組みをして目を瞑っていた。話を聞いていないというわけでは、どうやらないらしい。
「『情報屋』によれば、連中は『聖骸布』というものを下賜されてるらしい。カラクリがあるとすれば、そこじゃないか?」
「いや、それだけとは思えないな。俺は『星灯聖典』の教えに染まった村を見たことがある。失ったものを取り戻せると、奴らは固く信じてた。宣教師――俺たちの言い方でいえば『遂行者』の仕業でな」
 そう語ったのはファニー(p3p010255)だ。
 『星灯聖典』と『ルスト派』を繋げる要素はいくつもある。
 同じ名の出るところで影の天使が目撃されていたり、それを使役する遂行者の影があったのだ。
 その中でも決定的なケースを目にしていたのはセララ(p3p000273)だった。
「ネズミ――ううん。もう洗礼名を名乗ってるはず。あの子は『星灯聖典』に縋って、亡くした仲間たちが戻ってくることを願ってた。
 ボクたちだって、違うって言い切れない。死んでいった仲間たちが本当に戻ってくるって信じられるなら……」
「…………」
 沈黙は誰のものだったろうか。
 そんな中で、天義でローレットとよく繋がりをもっていた情報屋の一人が酒場へと駆け込んできた。

「おい大変だ! 大貴族のヴェルフィオーラ家が『星灯聖典』を名乗り始めやがった! 騎士団を率いて隣領への攻撃を準備してやがる!」
 寝耳に水の情報に、セララたちががたりと立ち上がる。
「ヴェルフィオーラ家と言えば領内にロギ教会騎士団を抱えてるでけえ戦力だ。荒事があれば隣領の連中はそこから兵力を借りるってくらいのな。
 それがいきなり『星灯聖典』だ! どうなっていやがる!」

●蜃気楼と涙の川
 作戦は即座に計画された。
 軍備を整え隣領への侵攻を始めようとしているヴェルフィオーラ領へこちらから攻撃をしかけ、攻撃自体をやめさせるという作戦である。
「今回は二手に分かれたほうがいいだろう。ヴェルフィオーラ屋敷に直接攻め込んで領主を取り押さえるチーム。そしてロギ教会騎士団へ攻撃を仕掛けて戦力を潰すチームだ。
 どっちにしろ面倒な状況になってるみたいだぜ。こいつを見てくれ」
 情報屋が取り出した写真は降り注ぐ雷と暗雲がうつされたものだった。
「ヴェルフィオーラ領内はいわゆる『第一の預言』状態に陥ってる」
 ――第一の預言、天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう。
 ――第二の預言、死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼすでしょう。
 ――第三の預言、水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう事でしょう。
 それはシェアキム六世におりた神託の内容だ。現在天義国内ではこの予言にちなんだ事件が頻発し、今回の決起はそれに乗じたものであると思われる。
「作戦はすぐに決行する……が、充分に気をつけてくれ。現地にゃ『星灯聖典』の遂行者たちが何人か確認されてる。連中は並の戦士よりよっぽどつええぞ」
 カイトたちは顔を見合わせる。
 それぞれが遭遇してきた遂行者の強さを知る者もいるからだ。
 だがいずれにせよ、この予言に乗じたテロリズムを許すわけにはいかない。
 第一、ヴェルフィオーラやロギ教会騎士団と戦うことで『なぜ星灯聖典を信じようとしたのか』を聞き出すことだってできるかもしれないのだ。
 時間はあまり残されていない。
 さあ、武器を取り、走るのだ。

GMコメント

●シチュエーション
 ヴェルフィオーラ領へと二重の襲撃をしかけ、隣領への侵攻を阻止しましょう。

●フィールド
 ヴェルフィオーラ領には『第一の予言』が発生しています。
 これによってPC側に防御低下、回避低下のペナルティが発生しています。
 ただし心を強く持ち、あるいはそれを言葉にすることではねのけることが可能なようです。

●エネミーデータ
・ロギ教会騎士団
 強力な戦闘能力を持つ騎士団です。
 彼らは過去にベアトリーチェ災厄の際多くの仲間を失っており、領主のヴェルフィオーラも娘を失った過去をもっています。
 おそらくはそこに付け込まれる形で星灯聖典へと加わったのでしょう。

●遂行者
 この戦場には何人かの遂行者が派遣されています。
 そのため戦闘は過酷なものになるでしょう。誰がどこに配置されているかは定かでありませんが、おそらく運命的に同じフィールドに出現することになるでしょう。
 また、遂行者たちは自分達が不利になると撤退するものと思われます。

・『回帰悲願』イルハン
かつて失われた日常を取り戻せると信じ星灯聖典に忠誠を誓う豊穣出身の少年。
黒髪のショートヘアにラフに着崩した和服を好む。
聖骸布を多く下賜されているため超人的な戦闘能力を持ち、空想を一時的に具現化するという子供ならではの戦闘方法をとる。
天目 錬の領地を自らと同じ運命を辿らせようと襲った際に防衛されたことで、因縁が生まれている。

・『身代形代』黒羊
星灯聖典に所属する遂行者。氷の聖騎士様より聖骸布を下賜され、超人的な力を獲得した。
洗礼名を与えられる筈だったが、彼はそれを拒み黒羊と名乗った。
『舞台』や『演出』という言葉にこだわりをもち、神の国を作り出す際もそれを巨大な舞台に見立てる。

・『飛空騎士』ナジュド
星灯聖典に属する遂行者。
聖骸布を下賜され超人的な力を獲得している。
カイト(風読禽)によって人生を狂わされ、そして自らも狂ってしまった男。
カイトに並ぶだけの空戦能力を発揮する。

・『博愛聖女』マリーン
『氷の聖騎士様』から聖骸布を下賜された遂行者。聖女と呼ばれ、優れたヒーラーとしても知られる。
誰かの特別になりたくて、間違えて、ただの他人になっていた。そんな、からっぽの聖女様。

・(元)ネズミ
セララと因縁をもつ元探索者。ダンジョン探索のなかで失ってしまった仲間を取り戻すため『星灯聖典』へと加わった。
ハンマーによるパワフルな戦闘を得意とし、おそらく聖骸布によるパワーアップも図られている模様。


行動場所
 以下の選択肢の中から行動する場所を選択して下さい。

【1】ヴェルフィオーラ邸
領主であるヴェルフィオーラを抑えるべくヴェルフィオーラ邸を襲撃します。
主な敵は領内の兵士たちになるでしょう。

【2】ロギ教会
戦闘準備を整えているロギ教会騎士団を襲撃します。
主な敵は騎士団となるでしょう。

  • <アンゲリオンの跫音>何を失ったとて行かざるを得ない完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年08月25日 22時15分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ルチア・アフラニア・水月(p3p006865)
鏡花の癒し
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ファニー(p3p010255)
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●最悪な夢の残骸
 火薬の爆発によって生じた圧力は銃弾を押し出して、ライフリングの刻まれた筒を回転しながら滑る。それは宙に放たれた殺意の塊であり、指の先ほどの大きさしかないそれが鎧を着た騎士の肩に命中する。
 彼はエデロナ領に暮らすごく一般的な騎士であった。剣とマスケット銃の心得をもち、少し気弱なところがあるものの誠実で優しく、人に好かれる男だった。
 しかしそんな彼の経歴も人格も、そして評価も、打ち込まれた弾丸を止めてくれたりはしない。
「あ゛っ、ぐ……!?」
 大きくよろめいた彼はマスケット銃を思わず取り落とし、それを拾おうとして二発目の銃弾をくらった。今度はよろめくばかりではすまない。派手にひっくり返り、地面を転がることになった。
「クソッ! 一体どうしたってんだ! 俺たちが何をした!」
「『何もしなかった』の間違いだ」
 銃を突きつけ、彼を蹴飛ばした騎士が吐き捨てるように言った。
「お前たちは領地に危機が迫ればやれ『ロギ教会を出せ』だ『騎士団を派遣しろ』だとわめき散らし、終われば『感謝の言葉』でしまいときた。ヘルハウンドに喉笛を食いちぎられたジョージの顔を見たことがあるか? 魔種の軍勢に立ち向かった我等が友が、どんな気持ちでいたか知っていたか? みんなアンタのためだ。アンタらのためだ。誇りと誓いを胸に死んでった。それをなんだ、平和なツラして忘れやがって!」
 もう一度蹴りつけようとする騎士の足を、赤き暴風の如き斬撃が通り抜けていく。
 その一瞬だけでは何がおこったのかわからない。騎士は蹴りつけようと動かした足が思うように動かないと察し、どころか自分の意志とは無関係に転がっていったことを察し、そして足がすねから切断されたことに気がついた。
「な、な――!?」
「言いたいことはそれだけか、騎士様よ!」
 空を鋭くターンした『風読禽』カイト・シャルラハ(p3p000684)。
 彼は三叉蒼槍をくるりと軽やかに回転させたかと思うと、騎士の後頭部を思い切りその柄でもって殴りつけた。
 意識を刈り取られうつ伏せに崩れ落ちる騎士。
「今のあんたらは完ッ全にテロリストだ。罪を背負う覚悟があってやってるんだろうな! おい!」
 怒鳴りつけるカイト、いやシャルラハに回りの騎士たちの警戒が集まる。
 向けられた視線と銃口は確かなものだったが、それらが本当に火を吹く前にその『舞台演出』は始まった。
「――氷戒凍葬『黒顎逆雨』」
 地面から雨が降るという反転現象によって運命をねじ曲げられた騎士たちは、手にしていた銃の全てが弾詰まりを起こすというありえない不幸に見舞われる。
「この雨のせいかよ」
「いいや? 強いて言うならお前自身のせい。自業自得さロギ教会騎士団どの?」
 ポケットに手を突っ込んで歩く『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)。
「あんたのいう『ジョージ』とやらが、グラキエスに従っていれば帰ってくるとしよう。
 けどこの世界に死者蘇生は成り立たない。であればそいつはよく似た他人なのさ」
「だがアンタは見たはずだ。聖なる帳が現実を上書きするさまを。上書きされた現実は、現実そのものとかわらないんじゃないのか!」
「そういうのを現実逃避っていうんだよ。ったく――」
 吐き捨てるようにカイトは叫ぶと、シャルラハに呼びかけた。
「話にならねえ。やっちまってくれ、『俺』!」
「ああ。もうそういう段階ってことだよな。『俺』」
 カイトが紅蓮のオーラをまき散らす。それが合図だった。一方的な戦いの。

 隣領エデロナへ向けたロギ教会騎士団の侵攻は、その第一団が壊滅したことによって中止された。
「ローレットだ。ローレットの連中が来た!」
「やはりか……グラキエス様の仰る通りになった」
 ロギ教会の神父オルネバスは眉間に皺を寄せて言った。
 神父という立場にあるだけあって人望が厚く、騎士団の中でもまとめ役にある人物だ。
 一方で騎士団長のバークレイは短気な男であった。
「やっちまおう。我等には『これ』がある」
 聖骸布を取り出し、それを自らの胸にあてるバークレイ。鎧の上からまるで意志を持ったかのようにはりついたそれは、手のひらほどの大きさしかないにも関わらずカッと強い熱さを持っていた。
 鎧に張り付き、染み込み、溶け込み、そのまま魂まで浸透するかのように融合する。
 バークレイが腕を振るうと、木製のベンチがそのひとふりだけで粉々になった。
 回りの騎士たちも頷き、聖骸布を手に取る。彼らのものは指でやっとつまめるほど小さい切手サイズのものだが、同じように融合し力を強化しているようだ。
 と、その時だ。ドカンという派手な爆発音が耳をついた。頭がどうかしたのでなければ、近くで爆発が起きたのだ。それも教会の内側で。
「どこからだ!」
「馬舎からです!」
 騎士たちが叫び外へと飛び出す。
 すると指先に火を灯していた『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)が馬舎から悠々と歩いて出てくるのが見えた。
 火のついた馬舎はごうごうと藁を燃料に燃え、馬たちは狂ったようにどこかへ走り去っていく。
「領民が飢えて苦しんでる時に出兵するとか正気か? 何の為の領主、誰が為の騎士だよ、たく」
 吐き捨てるように言う牡丹は、フッと息を吹きかけて指先の火を消した。
 馬を潰されればこれ以上の侵攻は難しい。痛いところを突かれたと思う一方、もうここまで侵入を許したのだという焦りがバークレイを襲った。
 剣の柄に手をかけるバークレイ。
「なぜ邪魔をする。貴様等とてわかるはずだ。失った者の苦しみが。失わぬことへの渇望が!」
 彼を説得することは、どうやら難しいらしい。
 『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)は構え、バークレイへと対峙した。
(予言でなく預言なら、マッチポンプもありなのかしら。
 前々からそうだったけれども、人の弱い部分につけこむとか、あやつら最悪なのよ)
 バークレイの剣が迫る。胡桃は青い炎を手のひらに纏わせると、それを小さな盾のようにして剣の攻撃を斜めに弾いた。
 いや、弾ききれたわけではない。大きく身体が押し込まれ、吹き飛ばぬように軸足を移動させくるりとスピンする。その反動を利用して放った掌底を、しかしバークレイは素早いバックステップによって回避した。
「なかなかやるの」
「隣領まで行く前に抑えられてよかった……ってところかしらね」
 『高貴な責務』ルチア・アフラニア(p3p006865)が、流しきれずに負ったダメージを治癒すべく胡桃に治癒魔法をかけた。
(まるで、ヨハネの黙示録の内容のような預言よね。
 天使の喇叭でも誰か吹いたのかしら、なんてね。誰が神を気取っているのか知らないけれど、まだ最後の審判を受ける時じゃないし、そもそも偽りの神の裁きなんて受けるつもりはさらさらないわ)
 騎士たちが包囲を始める。
 突きつけられた銃口の殺意に、ルチアは顔をしかめた。
 『メイデンハート』や『殲滅使徒』による能力アップを自らに施しながら、そばの胡桃と牡丹に声をかけた。
「できるだけ離れないようにね。連中、『聖骸布』による強化を受けてるわ」
「さっきの一合でわかったの」
「でどうする? これ以上の破壊工作は必要ねえと思うが……この場でやり合うのか?」
 牡丹は肩をすくめて、そして言い直した。
「いや、やり合うしかねえ……か」

●明日は死んで逝く
 コルクを抜いた瓶から、芳醇な香りが広がる。
 グラスにワインを注いでから、領主ヴェルフィオーラは傍らに立つ護衛の男ケインズに視線を送った。
 生真面目で堅苦しいこの男は、酒を勧めてもいつも断るのだが、今日だけはヴェルフィオーラの差し出すそのグラスを受け取った。
「グラキエス様の言うことは、真実だと思うかね? ケインズ、我が友よ」
 腰にはいた剣を一瞥してから、ケインズはグラスの中身を飲み干した。
「死者が蘇ることは……ええ、きっとないでしょう。けれどフィナ様が生きていた世界を上書きすることは、おそらく」
「あの頃は良かったな」
 はは、と笑ってヴェルフィオーラは自ら手に取ったグラスにワインを注ぎ、そして一気に飲み干した。
 そして二人同時に、地面にグラスを叩きつけて割る。もう戻れはしないと、決意を示すかのように。

 ヴェルフィオーラ邸へと踏み込む。そこまでは簡単だった。
 門番の男たちをギガセララブレイクで一掃するだけだ。
 警備兵たちが飛び出してくるも、その様子を『魔法騎士』セララ(p3p000273)は冷静に眺める。
 手からさげた聖剣ラグナロクをゆっくりと揺らし、身体の半分を盾ラ・ピュセルで隠す。
 自分を取り囲もうとする兵士の数を眼で数え、この程度かと眼を細めた。
「返ってくれ、ローレット。君たちに迷惑はかけない。僕等はかつての日々を取り戻したいだけなんだ」
 兵士の一人が言う。そんなわけがあるか。『記憶に刻め』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)はチッと舌打ちをしてセララの横に並ぶ。
「『迷惑はかけない』だ? 隣領に攻め込んでおいてなにいっていやがる」
「それも、心配する必要はないんだ」
 語りかけてくる兵士の声はあくまで落ち着いたものだ。
「この領内も、隣領も、みなグラキエス様がかつての姿に戻してくれる。知っているだろう? ベアトリーチェがもたらしたあの凄惨な事件を。あれが起こる前にもどしてくれるんだ。俺たちがそうしなければならないんだ」
「…………」
 『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)はフウとため息をついた。
 こういう連中は決まって何かを背負い込みすぎる。しなければならない。しなければならない。しなければならない、だ。
 そうでもしなければ誰も救えやしないと思い込んでいる。
 いや……その考え方自体は、きっと間違いじゃないのかもしれないけれど。
「帳やそれににた権能でかつての街を取り戻してどうする。永遠に過去の中で生きるつもりか」
 独特の句点をつけた口調でエクスマリアは問いかけたが、兵士はゆっくりと首を振る。
「違う。あの時間にこそ『未来』があるんだ。僕等はあそこからしか、前にすすめない」
「それは……わからないでもないけどな。はいそうですかってわけにはいかないんだよ」
 両手をポケットに入れたまま『Star[K]night』ファニー(p3p010255)がゆっくりと歩き、包囲に対抗するように向き直る。
「だけど――」
「だけどなんだ!」
 もう沢山だとでも言うように『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が激昂した。
「自分の日常を取り戻すために他人の日常を壊すとは、駄々っ子もいい加減にして欲しいものだな!
 死を免れる術はあっても既になった死を覆す術はない、そう見えたらそれは夢か幻の類だろう。ハッキリ言ってあんたらは騙されてる!」
「そんなことはない!」
 激昂に激昂で返す兵士。既に剣は抜かれ、斬りかかっていた。
 錬は瞬間鍛造した盾でもってそれを防御し、空いた手に斧を瞬間鍛造する。
「言ってもわからねえとは思ってたよ。だからこうしてやってきたのさ。それともアレか? 完全武装でやってきて『おねがいだやめてくれ』って懇願するとでも思ったか!」
 錬の繰り出す斧が兵士の鎧を破壊しながら吹き飛ばす。
 それをゴングにしたかのように他の兵士たちが遅いかかり始めた。
 ファニーは逆にそんな兵士たちから飛び退きながら『降りしきる二番星』を発動させた。
 青白い光が放たれ兵士を飲み込んで行く。
 構わずその間を突っ込んでくる兵士の剣がファニーの肩に突き刺さるが、それをがしりと素手で掴んでファニーは歯を食いしばる。
 血の流れるこの身体がどこまでも皮肉だ。食いしばった歯が笑みの形を作った理由を、相手の兵士は理解できるだろうか。
(遂行者の姿が見えねえ。どこかで油を売っていやがるのか? だとして、今すぐ乱入されちゃたまらないけどな)
 鋭いマニエラによる蹴りで兵士が飛ばされる。
 ファニーに刺さった剣を無理に引き抜いてから、乱暴に治癒魔法をかけてやった。
「いまのはわざと喰らったのか?」
「まさか。死ぬほど痛いんだぜ?」
「どうだか」
 マニエラはさっさと話をきりあげ、兵士たちに向き直る。
「こちらも効率を上げているからね、そう簡単に落としはせんよ。さぁ、弾はこちらで用意しよう。現実逃避が絶対悪ではないとはいえ、迷惑をかける寝坊助共には目覚まし時計をたたきつけてやってくれ給え」
「なら、遠慮無くやらせてもらう」
 エクスマリアは『黒金絲雀』をきゅっと手にはめ直すと小指から順に握り拳を作っていく。拳には青い魔力が迸り、その様子に兵士たちが動揺を示した。
「後悔するなよ。敵に回したのはそちらだ」
 拳を引き絞り、振り抜く。
 その動作で兵士たちが吹き飛んでいく。いや、厳密には彼女の拳がそうしたのではない。彼女の視線がそうさせたのだ。魔瞳剣技、『魔剣・蒼』。
 屋敷へと突入すべく兵士のど真ん中を走るセララ。
 彼女の剣が兵士のそれを強烈に弾くと、踏み込んだ足から魔法の翼がはえた。
「お願い、邪魔しないで! 会いたい人がいるんだ!」
 全力で踏み込んだことでセララの一歩は無限に伸びる。
 まるでボーリングのピンのように兵士たちを撥ね飛ばしながら突っ込んだセララは大きな両開きの扉を突き破り、ヴェルフィオーラ邸内部へと踏み込んだのであった。

●どれだけ急いても昨日には追いつけぬ
 ヴェルフィオーラ邸の扉を突き破った、直後。セララを強烈なハンマーによる打撃が襲った。
「わぷっ」
 ピンボールのごとく飛ばされ、ウィンスシューズの羽ばたきによって制動をかけるセララ。
 この打撃には、覚えがある。敵ではなく、あのときは味方として。
「――ネズミ!」
 見つめ、叫ぶ。対する相手は邸宅の扉を守るように立ち塞がると、ハンマーを手にくるりと回した。
「今は『ズィール』って名乗ってんだ。こんなことでマトモな名前が手に入るなんてよ、笑えるよな」
「――ッ!」
 ネズミ、あらためズィール。彼はこの世界の未来よりも、正義や新しい友情よりも、かつて共に探検した仲間たちとの日々を選んだ。
 星灯聖典に加わることを選んだのだ。
 敵が星灯聖典なら、ズィールが出てくるのも不思議じゃなかったか。
 セララはフェンリルカードをインストールすると、ぴょこんと狼耳をはやし剣に氷結の魔力を纏わせた。
「ネズミ、君の気持ちはすごくよく分かるよ。
 どんな手段を使っても2度と会えなくなった人達に再会したい。そうだよね?
 ボクも大切な相棒を失ったらそう考えてもおかしくない。
 だけどダメなんだ!」
 叩きつける氷結の風を、ズィールは腕を翳して防御する。
「遂行者が作るifの世界はあくまで並行世界で、それで得られる仲間は別人なんだ。
 君が共に生きた本当の仲間は蘇らない」
「そんなこと知ってんだ。知ってるけど、ダメなんだ。オイラはここまでだ。これ以上の未来なんていらない。あの日が返ってくるなら……まやかしだっていい!」
 暴風の中を突っ切り再びの打撃を浴びせてくるズィール。
「君はかつての仲間が託した想いを考え、背負って欲しい。
 世界を塗り替える遂行者と共に行動するなんて、仲間だったら止めたはず。
 仲間はきっと、君が前を向いて生きていく事を望んでいたはずだよ!」
「オマエが中間を語るんじゃねー!」
「語るよ! ボクは君と友達になりたいから。君に未来を見て欲しいから!」

「どうやら、彼らには因縁があったらしい」
 そう語り姿を現したのはヴェルフィオーラ領主。手にした剣とその殺気を見てとって、エクスマリアは説得をまず諦めた。
 剣を構えるヴェルフィオーラ。兵たちが突撃を仕掛ける。対するエクスマリアは黙って手をかざすとアイゼン・シュテルンの魔術を発動させた。
 兵隊たちが吹き飛んでいく――その中を、ヴェルフィオーラだけが突っ切りエクスマリアへと迫った。
「チッ――」
 割り込みをかけたのはマニエラだ。魔術障壁を展開し、ヴェルフィオーラの剣をギリギリのところで押さえ込む。しかし障壁は砕かれ、マニエラの身体はエクスマリアと共に派手に吹き飛んだ。
「いち領主がもっていい戦闘力か?」
「『聖骸布』……とやらの力らしいな」
 そこへ数発の銃弾が撃ち込まれる。
「主の悲願。邪魔させはしない」
 執事服を着た男の名はケインズ。ヴェルフィオーラの執事だ。
 マニエラは眼を細め、そして首を振った。
「無くしたものを取り戻したいのは理解できる。私も失せものを取り戻せると聞けば正気でいられるかわからんからな。だが……」
 そうはならない。
 そうはならないから、ここに立っているのだ。
「ヤツの狙いはこちらの分断だ。連携を崩されているぞ」
 エクスマリアが小声でささやきかけてくる。
 なるほど確かに、ヴェルフィオーラとケインズは兵士たちと共に猛攻をしかけることでセララとの分断を図っているようだ。それだけではない。他の仲間たちも……。

「――ッ!」
 錬は危険を察知して振り向き、巨大な壁を瞬間鍛造した。
 壁には大量の剣が突き刺さり、その一部は壁を突き破って破壊する。
 まるで機関砲のごとき攻撃に錬は飛び退き転がり、そして鍛造した斧を握り込んだ。
「新手か!」
「いいや、顔見知り――さ」
 パチン、と指を鳴らす少年の声がする。
 見上げると、そこには空に浮かぶイルハンの姿があった。
「星灯聖典に加わる仲間たちをみすみす減らすわけにはいかないんでね。邪魔させてもらうよ」
 イルハンは自らの周囲に再び無数の剣や斧を具現化した。
「具現化能力か……面白いが、聖骸布で手に入れた力じゃあな!」
「それの何がダメ?」
 連続で繰り出される大量の武器による連射。
 錬は走りながらそれをギリギリに回避すると、こちらからも攻撃すべく厄災を込めた砲台を瞬間鍛造した。砲撃――と同時に砕け散る砲台。
 イルハンは目の前に巨大な鎧武者を具現化させて防御した。砕け散る鎧武者。
 雨のように降る塵の中、イルハンは具現化させた剣を手に錬へと飛びかかった。対抗し斧を振り込む錬。
 そして――ぶつかり合うその一瞬、錬の脳裏にイルハンの過去が流れ込んだ。
 たった一瞬。たった一合。であるにも関わらず、それは鮮明な記憶の如く読み取れた。
 ――父を返せ。
 ――母を返せ。
 ――友達を返せ。
 ――学校を返せ。
 ――日常を返せ!
「イルハン……アンタはそんなにまでして……」

「ズィールにイルハン。星灯聖典の遂行者がここまで揃ってるってことは……いるんだろ?」
 ポケットに手を突っ込んだまま、ファニーは振り返る。
 建物の影よりスッと姿を現したのは、いつか豊穣の村で見た聖女マリーン。
 あのときのように、念話だけで会話を交わす。
『次会うときは敵だって言ってたもんな』
『ええ。ここまで露骨にとは、思っていませんでしたけれど』
 ファニーはエクスマリアたちの援護を、マリーンはヴェルフィオーラたちの援護をそれぞれ行いながらしかし念話は続く。
『生きていれば優劣はできるものだ。優劣ができる以上、特別なものは発生する。
 平等になるとすればそれは、誰かが我慢するか、水面下で足の引っ張り合いをするしかない。
 そもそもオレたちが特別になれなかったのは……自業自得のはずだ。違うか?』
『その自業自得が覆るから、私はここにいるのです。あなただって思うでしょう。やり直したい。戻りたい。自分だけの特別が欲しい』
『だからって、これはあんまりじゃあないのか』
 だから信じたのか。
 だから縋ったのか。
 聖騎士グラキエスが齎す奇跡とやらに、ルスト・シファーの権能のおこぼれに、閉じた世界を夢見たというのか。
「だったらオレはなんだ? オレは、どうしてここに立っている?」
「そうです。あなたはなぜ、私の敵となりえたのです。同じ特別を願った敵同士に」
「簡単だ、そんなのは――」
 皮肉げに笑って、ファニーは光線を放射した。

●禊
 兵士たちの中を稲妻のように駆け抜ける。いや、飛翔する牡丹。
 彼らの剣が次々と空振りする中で、牡丹はその片翼を広げにやりと笑った。
「星灯聖典なんつうきなくせえもん、よく信じる気になったな!」
「焦臭い? 確かにそうかもしれんな」
 何か喋るだろうと挑発的な発言をしてみたところに、答えたのは騎士団長バークレイだった。
 紅蓮の残光を引いて走る彼の動きは、誰もとらえられないと思われていた牡丹の速度に追いついてくる。
「マジか――」
 咄嗟に取る防御姿勢。振り抜いた剣が牡丹の身体へと直撃し、教会の壁へと激突させる。そこへ騎士たちが群がろうとしたその時、胡桃が文字通りに火を噴いた。
 自らを包む青白い炎は巨大な狐を思わせ、騎士たちをなぎ払う。
(長い間根無し草、肩入れしすぎると別れがつらくなるのは分かっていたわたしなの。
 彼らの気持ちが分かるとは言えぬけれども否定もしづらく……。
 それでも、きっと失ったものが取り戻せるとしても。
 それは、思い出に泥を塗るみたいで嫌なの)
 キッと強い視線を向けることで牽制とする胡桃。
 そこルチアが駆けつけ、素早く牡丹に治癒の魔法をかけた。
「大丈夫? その速度に追いついてくるなんて、一体どういう……」
「それが『聖骸布』の力ってこったろ。安易なパワーアップに頼りやがって。そういうもんは何かしらしっぺ返しが来るもんだってのによ」
「それは……」
 ルチアは思った。確かに星灯聖典の掲げる教えと齎すものは『美味しすぎる』。
 たとえ限定的といえどなくしたものを取り戻せる。その事実をまるで裏付けるように、いっぱしの騎士団長がローレットの精鋭たち並の戦闘力をゆうに手に入れている。
 身体に融合させることで使うというその『聖骸布』。
 与えられた量によって得られる強さが変わるというなら、遂行者たちはこれ以上の実力ということか。
「カイトたちとの合流は?」
「大丈夫、今来たわ」
 ルチアが次なる回復魔法を唱えようとしたところで、兵士たちの集中砲火が浴びせられる。ヒーラー潰しは戦いの常套だ。それはわかる。わかるから、防げる。
「――ッ!」
 かばうように間に割り込んだカイト・シャルラハが回転させた槍によってマスケット銃の弾を全て撃ち落としてしまった。
「合流できたか。これならこっちが優勢でいられるかね」
 呟く牡丹に、しかしシャルラハは皮肉げに笑った。
「いや、厄介な連中が追加でご登場だ」
「――風読禽ィ!!」
 白く眩い光を放ち、剣を繰り出す飛行種の姿。遂行者ナジュドだ。
 シャルラハへの完全対策。つまりは必中の剣による攻撃だ。
 切り裂かれた腕から血が吹き出るのを、シャルラハはチッと舌打ちしながら飛び退いた。
 回復はルチアに任せ、このままナジュドを引きつけ続けなければ危険だ。彼が大暴れすれば場は引っかき回されることになる。
「おいナジュド! てめぇらも自らのために奪い殺し、犠牲を強いる簒奪者じゃねえか。俺は俺の翼が届く範囲で守って助けるだけだ。このまま『星灯聖典』とやらが勝手したら俺の大切な奴らが傷つく。なら潰すのみだ。犠牲を払ってでもな?」
「犠牲だと? その傲慢が私達の中間を……!」
「俺は『風読禽』。風を読んで獲物を狩る禽。傲慢で何が悪い。簒奪者たるもの、奪った罪も無念も喰らい飛ぶものだぜ。
 お前らも簒奪者として、その全てを奪う覚悟をな!覚悟のないやつは俺の上を飛べないぜ!」
 ビュンと音をたて上空へと逃れるシャルラハ。それを追って飛ぶナジュド。
 残されたルチアを守るのは、どうやらカイトの役目であるらしい。
「あっちは『俺』にまかせとけ。ここは俺が受け持つぜ」
「ややこしいわね」
「だろ?」
 肩をすくめてにやりと笑うカイト。
「が、厄介なお客さんはヤツだけじゃなかったらしくてな」
 カイトが振り返ると、遂行者黒羊が立っていた。
 繰り出すカイトの『舞台演出』を、同種の魔術の行使によって打ち消してしまう。
 こいつの相手はどうやらカイトの役目であるらしい。
「ったく、厄介なヤツに……」
 カイトはわざと手を広げると、肩をすくめてみせた。
「お返事は必要だったか? 俺は誰の代わりにもなれなかっただけの哀れな野郎さ。俺のケツ追っかけてもアンタの望む答えは出てこないぜ」
「あら、そうかしら?」
 黒羊はどこか上品に頬に手を当て、首をかしげる。
「アンタのことは調べたわ。『なりそこない』の量産品。アンタはアタシと同じな筈。けれどなぜ……そうして立っていられるのかしら。どうして――」
「『誰かの代わり』を止めたかって、聞きたいか?」
 カイトの応えに、黒羊は少なからず驚いたようだった。
「調べたぜ。俺もアンタを。確かに似てるよな。誰かの代わり――スケープゴートの黒羊」
「調べたなら、どうして――」
「ああ、教えてやるよ」
 カイトはスッと二本指を揃え、銃口を向けるかのように黒羊へと突きつけた。
「『俺を見てくれる人が此処に居る』から」
「そう、じゃあ……アンタはアタシを見てくれるかしら?」
 黒羊の起こす『舞台演出』。暗黒のスポットライトが落ちるその術を、カイトは術式をハックすることで回避する。
 処理しきれなかった力が逆流し、カイトの額から血が流れた。
「いやだと言っても、こりゃダメそうだ」

 バークレイと胡桃の幾度もの激突。それは最終的に胡桃の勝利という形で幕を閉じた。
 収束火炎輻射術式[Blazing Blaster]。その零距離射撃がバークレイを貫くことで、ぶすんと煙をふいてバークレイは膝から崩れ落ちたのだった。
「投降するの。今ならまだ間に合う」
「…………チッ」
 バークレイは剣を投げ出し、その部下の騎士たちもまた武器を捨てて手をあげるのだった。

 時刻をほとんど同じくして、ヴェルフィオーラ邸でも決着はついていた。
 戦いはギリギリの優勢。それ以上のダメージをさけたイルハンたちが撤退したことで、ヴェルフィオーラ以下兵士たちは武器を捨て投降した。
 後の調べによれば、マリーンら遂行者たちが星灯聖典への勧誘を広げ、聖骸布による力を欲する者もまた天義国内のあちこちで広がっているともいう。
 氷の聖騎士グラキエスの魔の手は、もう既に広がり始めているのだ……。

成否

成功

MVP

紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

 氷の聖騎士グラキエスの影響力は天義国内に広がり始めています……。

PAGETOPPAGEBOTTOM