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シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>襲来せし天災地変

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●一なる天使は舞い降りた
 ティツィオは言った。
「せっかく降ろした帳が悉く消されてしまうとは……。いやはや、イレギュラーズとは厄介なものですねぇ」
 しかし、ウーノにはそれに答える言葉を持たない。ただ命令されるままに行動するだけである。
 じっと主からの主人を待つウーノを放置して、ティツィオは独り言のように言葉を続けた。
「……まあぁ、これも想定内です。大局には影響ありません。データは順調に集まっているようですし、そろそろ次の段階に移しましょう」
 古びた教会の聖堂の中、同じ場所をうろうろとしながら言葉を口にしながら考えを纏めていたのだろう。一人で納得すると、ティツィオはウーノの前に立つと命令を下した。
「私は鉄帝へ向かいます。ウーノ、お前は聖都フォン・ルーベルグです。そうそう、全力を出すことを許可しておきましょう」
「……はい」
 ティツィオから指令を受け取り、ウーノはなんの感情もなく一言そう答えると教会を後にした。


 それが数日前の事。
 ティツィオから与えられた戦力を率いて、ウーノは天義の聖都フォン・ルーベルグ近郊まで来ていた。
 目標を見定めればあとは行動あるのみ。腰に佩いた剣を引き抜き眼前で掲げると、瞑目して集中。やがて、ウーノ自身の体が強く輝きを発し、頭上には円環が、背中には純白の羽が現れる。
 まるで天使が顕現したかのような神々しい佇まいではあるが、そんなウーノの姿とは真逆に周囲の空気は妖しく淀み、空は暗雲で覆われ雷鳴を轟かせ始めた。
 降り注ぐ雷は大地を砕きながらその範囲を広げていく。しかし、ウーノはそのような変化すら意にも介さずただひたすらに、命令の実行を最優先として行動する。
「……」
 無言で光輝く剣の切っ先を遠くに聳える聖都の白き外壁へ向ければ、その指示を待っていたと群衆が武器を手に我先にと走り出した。

●既視感のある顔
 その報せはすぐにローレットに届いた。
「緊急の依頼なのです!」
 依頼が書かれた紙束を持って現れたのは『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)。遂行者を名乗る者たちが天義に襲撃を開始したということで、天義から多くの救援依頼がローレットに舞い込んでいるのである。
 イレギュラーズはその剣呑な雰囲気に緊張感を走らせると、情報屋が齎してくれた情報をそれぞれで精査していくが、その中には『さらに前へ』イズマ・トーティス(p3p009471)の姿もあった。
「やつら、遂に本格的に動き出したのか……?」
 今までの動きも脅威といえば脅威ではあったが、どこか余裕のようなものが感じられていた。しかし、今回のこの構成にはそのような気配が感じられない。
 様子見は終わり、本気を出してきたと見るべきだろうか。
 と、考えながら依頼書やそれに付随する資料を見ていくと、その中に一つ気になる依頼書があった。
 『聖都フォン・ルーベルグ近郊で襲撃を受ける。救援を求む。』内容としては他の依頼と似たようなものだが、イズマが気になったのは、そこに添えられていた一枚の写真である。
 敵の指揮官らしい存在としてそこに映っていたのは、見覚えのある中性的な顔立ち。目はどこか虚ろで、天使のような姿へと変わっているが、一度対峙した敵を見間違えるはずがない。
「ドゥーエ、トレ、クワトロ……いずれとも違うな。となればウーノか!」
 過去の報告によると最初に海洋で戦ったウーノは、虚ろで機械的だったという。おそらく間違いないだろう。
 ユリーカにこの依頼を受けることを伝えると、イズマは同じくこの依頼を受けたイレギュラーズと共に聖都へ向かうのだった。

GMコメント

本シナリオは
・『さらに前へ』イズマ・トーティス(p3p009471)様
のアフターアクションとなります。
よろしくお願いします。

●目標
1.聖都の防衛
2.ウーノの撤退もしくは討伐
※1が達成された時点でウーノは撤退します。

●ロケーションなど
 天義の聖都『フォン・ルーベルグ』近郊の開けた土地です。
 視線を遮るものもない平原であり、ウーノが率いる群衆は数を頼りにここを突破することで聖都へ直接攻撃しようとしているようです。
 『第一の予言』によって不気味な暗雲が立ち込め、常に雷鳴が轟いています。

『第一の予言』
――天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう。
 戦場全体で常に雷が降り注ぎ、参加するPCは1ターンごとに固定ダメージを受ける状態となっています。
 これはシナリオ終了まで持続し、解除は不可となります。
 また、【痺れ】系統のBSが付与される可能性がありますが、こちらは抵抗・BS無効などでの予防や、回復スキルで治療が可能です。

●エネミー
・ウーノ×1
 致命者です。
 遂行者ティツィオの命令によって聖都へ襲撃を行いました。
 イレギュラーズとは海洋で一度交戦していますが、その時は様子見の色が強かったため本気を出していませんでした。
 しかし、今回はティツィオからの命令もあるため最初から全力です。
 侵攻の邪魔をする者には容赦なく襲い掛かってきます。
 ステータス傾向としては、全てのステータスのバランスが取れたオールラウンダータイプですが、突出した強みがないとも言えます。

 以下、ウーノの持つスキルの詳細ですが、切り札を隠している可能性があります。

 『光剣』
 近距離物理の通常攻撃です。
 本来は通常のロングソードでしたが、ウーノの力によって光を宿し威力が上がっています。

 『光刃』
 剣から光の斬撃を飛ばす遠距離神秘攻撃です。
 【麻痺】系のBSが付与されることがあります。

 『光雨』
 剣の形をした光を上空に多数召喚し、雨のように降り注がせる自域物理攻撃です。
 【出血】系のBSが付与されることがあります。

 『天使の翼』(パッシブ)
 反応を上昇させ、【飛行】が可能となります。

 『天使の輪』(パッシブ)
 輪から降り注ぐ加護の光がウーノを守ります。
 防技・抵抗が上昇しています。

・影の天使(強化型)×3
 通常の影の天使より一回り大きく強力な個体ですが、油断しなければさほど苦労はしないでしょう。
 3体はそれぞれ、剣・弓・杖を武器として持ち、近接・遠距離・支援を分担して行います。
 一見して連携を取れているように見えますが、知性はなく命令に従っているだけなので付け入る隙は多いでしょう。

・『星灯聖典』の信徒×多数
 ルスト派の勢力『星灯聖典』に属する一般市民です。
 彼らは『星灯聖典』に属していれば、亡くなった家族や恋人、失った財産や地位などを取り戻せるとかたく信じており、そのために身を粉にして協力しています。
 本来は一般人程度でそれほど強くはありませんでしたが、全ての構成員に『聖骸布』が下賜され能力が向上しています。
 とはいえ、元々が一般人レベルなので強化にも限度があり、数的優位を補う程度の意味しかありません。
 どちらかと言えば、無辜の民を戦場に立たせ対峙させることで、動揺を誘い手加減を強いさせる狙いの方が主です。
 武装は農具や刃こぼれした剣など粗末なものが多くなっています。
 なお、数は多いですが影の天使のように無限湧きはしません。

 『聖骸布』
 『星灯聖典』に属する者に下賜される簡易聖遺物です。
 切手サイズの小さな布で、服や肌に張り付けることで肉体を強化します。
 なお、洗脳の効果はありません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アンゲリオンの跫音>襲来せし天災地変完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月23日 22時06分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め
ロレイン(p3p006293)
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
紲 冥穣(p3p010472)
紲の魔女
マリオン・エイム(p3p010866)
晴夜の魔法(砲)戦士
アルティアーロ(p3p011108)
鋼鉄の冒険者

リプレイ


 聖都フォン・ルーベルグを囲う白壁を背に正面に広がる平野を望むと、彼方に雷鳴を引き連れ聖都側へと向かってくる一団が見える。
 無表情な天使に率いられたその一団からは強い殺意と敵意が感じられ、このまま接近を許せば聖都へと乗り込み、暴れ回るのは想像に難くない。
「こう見えて、覇竜の交易路整備事業で土木作業には慣れてるのよ? 力を貸してちょうだい、土の精霊達!」
 淹れたてのハーブティーを飲むと『紲の魔女』紲 冥穣(p3p010472)は精霊に語り掛ける。灰色に染まった薔薇の蕾を軽く握って願いを込めると、それに呼応したらしい周囲の精霊たちから反応が返ってきた。
 言語はなくとも任せてくれという意思が感じ取られ、その直後に大地が隆起を始めた。何も障害物がなかった平野が、瞬く間に防衛陣地へと姿を変えていく。
「もう少し手を入れて時間稼ぎをしやすいようにしよう。手伝ってくれ!」
 まだ敵軍が到着するまで多少の猶予はある。出来上がった陣地をより完璧なものへと仕上げるべく、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は防衛戦に参加するイレギュラーズの仲間に声をかけ、有刺鉄線を隆起させた地面の間へと張り巡らせたり、簡単な罠を仕掛けたりと随所に手を加えていく。
「雷鳴轟く戦場を勇み足で突撃してくる信徒達……厄介なことこの上ないね?」
「でもやるしかないわ。聖都に踏み込ませる訳にはいかないのだから」
 イズマに渡された有刺鉄線を張りながら、『記憶に刻め』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)とロレイン(p3p006293)が話し合っていれば、どうやら敵軍はもう間もなくというところまで迫ってきたようだ。
『大きい反応は一つ、中くらいの反応が三つ、そして小さい反応がたくさん、ですね』
「大きいのには私が向かう」
「それじゃあ俺もそっちに行こう。他は任せたぜ?」
 敵のエネルギー反応を感知した『鋼鉄の冒険者』アルティアーロ(p3p011108)が、装甲版のディスプレイに文字列を表示させるとそれに反応したのは『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)だった。
 上空から戦場全体を見渡し、各反応の位置には見当がついている。沙耶に続いた『狂言回し』回言 世界(p3p007315)と二人で抑えに回ることにしたようだ。
「中くらいのってたぶんあの黒い天使だよね。三体いるし。
 よーし、それじゃあマリオンさんはこっちの相手をしようかな!」
 目視でも確認できるほどに敵が近付くと、それを眺めて『双影の魔法(砲)戦士』マリオン・エイム(p3p010866)が握る柄より魔力の刃を伸ばし、その切っ先を敵軍へと向ける。
「ここから先は一歩も進ませない! 行くぞ!」
 よく響くイズマの声と共に遂に戦端が開かれるのだった。


 先頭にいた影の天使が飛び出した沙耶を斬ろうとしたところでその動きが止まる。
「君の相手はマリオンさんだから!」
「道は私が拓く!」
「助かるぜ!」
 マリオンが伸ばした指先より伸びる魔糸がその体を縛り上げていたのだ。振りほどこうと力を込める影の天使だが、容易に振りほどけるようなものではない。
 その間に横をすり抜けた沙耶は、跨るワイバーンの手綱を握って指示を出すと群れる信徒たちの上を飛び越えていくと、眼下に見える信徒たちを倒し世界が進むための道を作る。
 見えず聞こえず、いつの間にか同胞が倒れている。そんな状況に戸惑いを見せ、動きが鈍った信徒たちの合間を縫って世界が目指す先には、影の天使とは異なり純白の翼と光の輪を持つ、まさしく天使というに相応しい存在がいた。
「あんたがこの連中のボスだな?」
「……っ!」
「暫く私たちに付き合ってもらおうか!」
 天使――ウーノを間合いに捉えた世界は魔力を込めた指先を向けて閃光を放つと、光は回避する間も与えずウーノを貫き、その体に電流を流したかのような痺れた感覚を残す。
 そして、そこにすかさず沙耶が続いた。堂々としたその佇まいには強者の貫禄が感じられ、ウーノも沙耶を無視して他に向かうことはできないと感じたようで、翼を羽ばたかせ接近しながら剣を振るう。
 飛んできた光の刃を盾で受け止め、反撃に放った黒き魔力は獣の頭を象り巨大な口を広げてウーノに食らいつく。
 牙が深く食い込み鮮血が舞うが、ウーノは痛みを感じてすらいないのか、眉一つ動かさず剣を振るい獣の頭を両断すると、再び沙耶へと接近し二人は激しい空中戦を繰り広げる。
「……」
「流石だな……!」
「でも、こっちは二人だということを忘れないでくれよ?」
 轟雷が降り注ぐ中で、ウーノの白き輝きと沙耶の黒き輝きが空中で幾度も交錯し、そのたびに衝撃が空気を震わせる。
 世界が沙耶の傷を癒し魔力を賦活させることで、消耗を気にせず戦えるようにしているのだが、それでもなおウーノの方が押しているように見える。
 徐々に沙耶の高度が下がってきており、遂に光の刃の直撃を受けて地面近くまで叩き落されてしまった。
「俺が前に出る。一度下がって治療を優先してくれ!」
「すまない……!」
「サポートはさせてもらう。戦線維持も多少は力になれるだろう」
 沙耶と交代して世界が前に出ると、防衛陣地の中央で戦場全体を視界に納めていたマニエラが沙耶の治療を開始した。
 マニエラの紡ぐ調べが宿す聖なる力によって、これまで沙耶が受けた傷が塞がっていく。一節では足りずとも、二節三節と繰り返せば深い傷すらも残らず消えていく。
 その一方で世界はというと、ウーノを相手に時間稼ぎに徹していた。
 驟雨の如く降り注ぐ光の剣に対抗し、剣や槍といった無数の武器の幻を生み出して射出する。放たれた数々の武器は幻であるがゆえに光の剣を透過してウーノに突き刺さると、込められた呪いによってその体を蝕んでいく。
「おいおいウーノ君。その光の剣の雨、ひょっとして俺のパクりじゃないか?」
「……」
「っと! もしかして俺のファン? 照れ隠しにしちゃちょっと過激だぜ?」
 攻撃の形態や能力の傾向が似ていることから、振るわれる刃を防ぎながらそんな煽り文句を並べ立てていく。
 ウーノがその言葉に気を引かれているかは定かではないが、世界は後退した沙耶を始めとした仲間へ向かわせないために、ウーノの機先を制し自分に向かうように立ち回っているため、時間稼ぎという意味では十分にその役割を果たしていた。


 星灯聖典と呼ばれる一派は基本的に一般人であるため、その実力はイレギュラーズに遠く及ばない。しかし、彼らはそれを承知の上で向かってくる。
 亡くなってしまった家族や恋人、失った財産や地位。もう戻ることはないと絶望したそれらを、今一度取り戻せるかもしれないという甘い囁きによって死に物狂いで向かってくるのだ。
「よし、これならなんとかなりそうだ……!」
「事前に陣地を作れてよかったわ。これのお陰で、人数差を埋めることが出来てるから」
 イズマと冥穣によって構築された陣地は、強大な力をもった魔物のような存在には心もとないかもしれないが、一般人相手であれば十分すぎるほどに機能する。
 無数に並び立つ岩の壁とそれらを繋ぐ有刺鉄線、そして単純ながらも足止めに特化した簡易トラップは信徒たちにそれ以上の侵攻を許さず、足止めしている間に余裕をもって迎撃することが出来たのだ。
「悪いようにはしないから、少し大人しくしていてね?」
 本来は回復役である冥穣ではあるが、信徒への対応においてはイレギュラーズが手傷を追うような事はない。
 しかし、降り注ぐ雷鳴によって肌を焼かれることもあるうえ、戦いの場はここだけではない。周囲の仲間の状態にも気を配りつつも、数だけは多い信徒の数を少しでも減らすべく攻め手に回る機会も多かった。
 冥穣の放つ神聖なる輝きは、信徒たちの精神へと直接作用しその神威によって動きを封じ、その間にイズマが前に出る。
「はっ!」
 陣地の最前線で細剣を振るうと、その先端が地面や岩壁にぶつかり鈍い音が響いた。
 その音波は魔力によって増幅され衝撃波となって周囲へと広がっていくと、一打ごとに近くにいた者たちを纏めて吹き飛ばす。
 襲い掛かってくる信徒たちは次から次へと湧いてくるが、そのたびに冥穣が動きを封じイズマが吹き飛ばすことで、徐々に押し返していく。
「だいぶ勢いが落ちてきたわね」
「仕掛けるならここだろうな。頼んだぞ」
 暫く攻防が続いたが、漸く終わりが見えてきた。
 際限なく襲い掛かってきたように見えても、信徒たちの数は着実に減っていたのだ。
 気持ちを煽られある種の狂気状態に陥っていた信徒たちは、数に任せた勢いだけの突撃をしていたが、こうして完全に食い止められれば気勢を削がれるのは無理もないだろう。
 マニエラが手にした扇を開き数度振るうと、振るわれるたびに黄金に輝く燐火が風と共に広がり、信徒たちを次々と飲み込んでいく。決して命を奪わぬように手加減こそされているが、信徒たちを竦ませるには十分なものであった。
 一部が正気に戻りつつあり、マニエラの追撃によって全体の統制が乱れたこの瞬間こそが好機。
「星灯聖典に属するだけで失った物が取り戻せる、と。
 皆さんの失った物はそんな簡単な物か?
 違うだろう。簡単に戻る物ならそもそも得る時点で苦労してないはずだ。
 長い時間と皆さんの努力で得た物が、こんな破壊を求める集団に作り出せるはずが無い!」
 だからもう戦いはもうやめよう。イズマがそう諭すと、信徒たちの間にどよめきが広がる。もともとは争いや戦いとは縁遠い者が多い信徒たちは、熱が冷めてくると途端に自分たちが今までしてきた行いを恐ろしいものだと感じ始めたようだ。
 不安や恐怖は瞬く間に伝播していくが、イズマがそれを宥めることで暴走を抑えると落ち着いてゆっくりと還るように促す。
「これでこっちは落ち着いたわね」
「あぁ、あとは……」
 落ち着きを取り戻した信徒たちから、冥穣が回収してきた聖骸布をイズマが跡形もなく焼き払うと、その視線は今なお戦いを続けている仲間たちに向けられた。


「君の相手はマリオンさんだから!」
 そう言って先頭を飛んでいた影の天使を縛り上げたマリオンに続いて、ロレインもまた飛び出していた。
「まずは押し返すわ」
 広げた左手の前に魔力で作られた盾が広がるが、盾の役割は敵の攻撃を受け止めるだけではない。振りかぶった腕を力強く押し込むと、盾もまた前方に押し出され影の天使に叩きつけられそのまま遠くまで吹き飛ばす。
 だがそれだけでは終わらない。すかさずライフルを構えなおすと、魔力を込めながら引き金を引きその銃口より極低温の冷気が放たれた。
 一点に収束された冷気を受けた影の天使はその場で氷に覆われることとなり、杖を持った別の影の天使がそれを治そうとするが、直したところで意味はない。
 すかさずアルティアーロが追撃を仕掛けたからだ。
『このまま仕留めましょう』
 甲高い鳴き声と共に三連装砲から放たれるマイクロ波によって牽制し、その動きを止めさせているのだ。
 降り注ぐ雷と後方に控える影の天使が放つ矢をその身に受けながら、マリオンは更に踏み込み魔力の刃を振るうと、影の天使が振るう剣と衝突。
 一合、二合、三合と、幾度も剣を交えるが、強化されたとはいえ所詮は影の天使。マリオンほどの実力があれば遅れを取ることなどまずありえない。
 徐々に迎撃が間に合わなくなってきた影の天使をそのまま押し切り、下から掬い上げるような一撃によって相手の剣を跳ね上げると、自身の剣を両手で強く握りしめてその刃に魔力を注ぎ込む。
「これで、終わり!」
 漆黒の魔力が象る獣が上段からの振り下ろしと共に奔り、その胴体へと食らいつくとそのまま食い破ったのだ。
 影の天使はその存在を安定させるだけの力がなくなり、粒子となって消えていく。
「杖の方は私で抑えておきます」
「分かったわ、こちらもすぐに片付けるから」
 剣を持った影の天使の相手はマリオン一人で十分だと判断したロレインとアルティアーロは、剣持ちをマリオンに任せて弓持ちと杖持ちをそれぞれで相手にすることにしていた。
 弓持ちの影の天使が前進するマリオンに矢を放つのを見ると、すかさずロレインが銃撃によって牽制して自身へ注意を惹きつけると、そのまま射撃戦を展開する。
 空を自在に飛び回りながら矢を放ってくる影の天使へと照準を定め、対抗して放たれる冷却砲は影の天使を穿つとその着弾点より凍結が始まっていく。
 剣持ちや弓持ちが劣勢となっているためすぐにでも支援したい杖持ちだろうが、それが許されることはない。マリオンやロレインほどでの火力はないものの、アルティアーロが支援に動こうとしたタイミングを狙って砲撃を行い、その動きを牽制しているのだ。
 せめてもの反撃をと杖持ちが闇球を放つが、それすらもバリアに阻まれアルティ―アーロを傷つける事さえできない。
「あと一体!」
「合わせるわ」
 マリオンが剣持ちを斬り伏せ、ロレインが弓持ちを撃ち抜きそれぞれの相手を撃破すると、残されたのは単独での戦闘力が大きく劣る杖持ちだけ。
 アルティアーロによって動きを封じられたところに、マリオンとロレインの同時攻撃が炸裂すれば、生き残れる可能性などなく影の天使は問答無用で消滅するしかなかったのだった。


 ウーノと激しい攻防を繰り広げる三人は、マニエラによる回復を下地に、沙耶が積極的に攻撃を仕掛けその支援を世界が行うことで安定しており、倒せないまでも時間稼ぎとしては十分に機能していた。
 もう何度目かも分からないウーノと沙耶の衝突であったが、それももう終わりのようだ。
「どうやら趨勢は決したようだな?」
「……」
 星灯聖典の信徒たちが投降を始め、影の天使が消滅したことで敵戦力はウーノただ一人のみ。分散していた戦力が集まれば、この場でウーノを倒すことも可能かもしれない。
 だが、ウーノもそれは理解しているらしく、即座に撤退の動きを見せた。
「おいおい、最後まで付き合ってくれよ?」
「……」
 ウーノが広げた翼を打ち抜いたのは世界が生み出した幻影武器たち。その呪力によってその場に縫いとめられたウーノは、集まりつつあるイレギュラーズを見て次の一手を打つことにしたようだ。
「おいおい、マジかよ!?」
 ウーノが掲げた手の先には宿す光が溢れ出し巨大化した一本の剣が浮いており、その狙いは沙耶や世界ではなく投降していた星灯聖典の信徒たちであった。
 その狙いを察知した世界がそれを止めようと幻影を投射するが、ウーノは止まる気配を見せることはない。
「速く避難を!」
「無理だ、今からでは間に合わん!」
 沙耶が避難を呼びかけるが、マニエラの言うように一般人である信徒たちがどれだけ急いでも逃げることは難しい。
 ウーノの手が振り下ろされると、それと共に巨大な剣がその切っ先を信徒たちに向けて落下を始め、万事休すかと思われたその時であった。
 巨大な剣を正面から迎え撃つ二条の閃光が奔った。
「そう簡単にやらせはしないさ!」
「予言通りの災害で、抵抗は無駄だとでも?」
 イズマとロレインによる砲撃だが、それはまだ先駆けに過ぎなかった。
「躊躇なくこんな手段を取るなんて!」
「キシャーー!!」
 マリオンが漆黒の獣を放ち、アルティアーロも砲口よりエネルギーを撃ち出すことで迎撃に参加する。
 四人が持つ最大火力とウーノの剣が正面からぶつかり合うと、剣の落下は止まり二つの力が拮抗した。だが、それは僅かな間だけだった。
 四人分の力を合わせることでウーノの力を上回ることに成功したのだ。耐えきれなくなった剣身に罅が広がっていき、やがて盛大な爆発と共に剣は砕け散ったのだった。


 ウーノが放った最後の一撃を凌ぎ切ったイレギュラーズではあったが、爆発によって広がった噴煙が晴れる頃にはウーノの姿は消えていた。
 巻き込まれて消滅した、と考えるのは楽観的過ぎるだろう。間違いなく、爆発に乗じて逃げたと見ていい。
 しかし、ひとまずの危難は去った。残すは戦闘の後処理だろう。
「……怪我人はこれで全てだな?」
「大丈夫。みんな治してあげるから安心してね」
 イレギュラーズが手加減したため信徒たちの中に死者はいなかったが、傷付き倒れた者は多い。そんな彼らを治療したのはマニエラと冥穣であった。
 マニエラが祈りを捧げると、辺りに春の日差しのような暖かな光が溢れ、優しく爽やかな風が巡り、その中で冥穣が歌声を響かせれば、光と風が彩る旋律に包まれた人々の傷はみるみるうちに癒えていき、すぐにでも歩いて帰れるほどになっていたのだ。
 もちろん、これは信徒たちに限った話ではなく、イレギュラーズたちが戦いで受けた傷もまた塞がっていく。

『出来ればこの場で仕留めきりたかったのですが……』
「仕方ねぇだろ。あんなことされちゃ、こっちも防御に回るしかない」
 アルティアーロが口惜しそうにしているが、世界の言う通りあの時は民間人の保護を優先すべきだと誰もが考えていたのだから。
「チャンスはまたきっと来るわ」
「そうだな。連中の意図は分からんが、これだけで終わるとは思えない」
 ロレインや沙耶が言うように、遂行者を名乗る者たちとその配下たる致命者たちは、なにかを企んでいることは間違いない。今回の大規模攻勢もまたその計画の一部に過ぎないのだろう。
「次こそはきっと……!」
「あぁ、決着をつけよう!」
 意気込むマリオンにイズマが応えると、イレギュラーズは正気に戻り大人しく従う信徒たちを聖都に引き渡し、遂行者たちの次なる襲撃に備えるのだった。

成否

成功

MVP

マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)
記憶に刻め

状態異常

結月 沙耶(p3p009126)[重傷]
怪盗乱麻

あとがき

聖都の防衛に成功し、ウーノも撃退することが出来ました。
お疲れさまでした。

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