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シナリオ詳細

<烈日の焦土>アンバー・キリードーンの再起

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●騎士アンバーの再起
「まずは、やれるところからやろうと思うんです」
 揺られる馬車のその中で、黒衣の騎士はそう述べた。
 彼女の名はアンバー・キリードーン。星光騎士団の新米騎士であり、同時に唯一の騎士である。

 彼女の背景を、一度は語っておくことにしよう。
 アンバーはある待ちに生まれ、憧れの星光騎士団への入団を果たした新米騎士であった。
 しかし彼女たち星光騎士団は天義で勃発したベアトリーチェによる災厄に立ち向かい、街の人々を身を挺して守るという形で一人また一人と命を落とし、最後にはアンバーひとりを残して帰らぬ人となってしまったのだった。
 そのことに深く悲しんだアンバーを利用する形で、ルスト派は彼女を触媒として神の国を展開。イレギュラーズたちはそのなかで彼女が騎士団の仲間たちと楽しく過ごす世界を見た。
 だがその世界は偽りにすぎない。世界の平和を代償にした、淡い幻だ。
 事実を突きつけられ、再び絶望に沈むアンバー。だが彼女に手を差し伸べたのもまた、イレギュラーズたちだったのである。

「ピリアでよければ、お手伝いするのです。今は、ピリアも仲間ですから」
 馬車の中。にっこりと笑って見せるピリア(p3p010939)。彼女もまた、手を差し伸べたイレギュラーズのひとりだ。
 そして彼女は歌い始め、周囲にオパールの煌めきが浮かび始める。
 そんな空間の中で、アンバーは馬車の背もたれによりかかった。
「仲間……か」
 人は失う。奪われる。
 けれど再び得ることも出来る。
 なくした仲間たち、先輩たちの思い出を胸に、天義の騎士アンバーは純粋なる黒衣の胸に手を当てた。

●ワーズワーズ砦
 アンバーやピリアたちに知らされたのは『神の国』の発生であった。
 ある遂行者が聖遺物『野兎のラビリンス』によって発生させたこの異空間は、鉄帝動乱時にモンスターの群れによって陥落したワーズワーズ砦を再現していた。
 ただし砦に配備されているのは鉄帝の兵ではない。
 それを摸したフルプレートアーマーを纏った『影の天使』なるモンスターたちである。
 これはルスト派の遂行者たちが行使するモンスターで、様々な形態のものがいるとされている。
 情報によれば砦の奥深くにて、致命者の将軍ヴァリドスが触媒を守っているという。
 将軍ヴァリドスといえば、このワーズワーズ砦を最後まで守り戦った猛将だ。
 つまり、かつてモンスターによって陥落してしまった砦は、また別のモンスターによって占拠されたという格好なのである。
「砦は完璧な状態で再現されているのですよね」
 アンバーが尋ねると、情報屋はこくりと頷いた。
「周囲は塀で覆われ、対空装備もばっちりだ。物見の兵はご丁寧に魔導機関銃まで装備している。まず最初の難関は、この砦にどうやって入り込むかだな」
 アンバーがちらりとピリアを見る。
 ピリアは少しだけ考えるそぶりをしてから、むんっとガッツポーズをとった。
 要するに、『がんばろう!』である。
 一部の仲間だけがこっそり壁抜けをしたり、あまつさえ空を飛んでいったりすれば危険だ。いっそ普通に突っ込んでいって壁をよじ登ったり飛び越えたりして、物見の兵を倒しながら進んでいったほうが安全だというモノである。
 要するに、『がんばろう!』である!
「砦に入り込めばあとはもう乱戦さ。影の天使たちと滅茶苦茶にぶつかって、最後は将軍との対決、だな」
 情報屋は肩をすくめてみせる。がんばろう作戦が決まった以上、細かい作戦はあつまったイレギュラーズの顔ぶれ次第というところなのだろうから。
 アンバーはピリアたちに向き直った。
「ルスト派は世界を正しい姿に変えようと主張していします。仲間が死ななかった世界や、友達が元気な世界は、それは良いものかも知れません。
 けれど、そんな嘘の代償として世界が蝕まれ、破壊されてしまうなんて嫌です。
 私は人々を……この世界を守るために騎士になりました。
 どうか、この世界を守るために、偽りの世界を壊す力を貸してください!」

GMコメント

●成功条件:触媒の破壊
 将軍ヴァリドスが守っている触媒を破壊すればシナリオクリアとなります

●ワーズワーズ砦
 神の国内に作り出された砦です
 周囲は高めの兵に囲われており、跳躍や飛行といった手段か、またはよじ登ってのり越える必要があるでしょう。
 その際に物見台や飛行した影の天使たちからの射撃をうけるため、回復などの支援があるとgoodです。

●影の天使
 鉄帝の兵のようにフルプレートアーマーを装備した天使たちです。
 魔導ライフルや剣といった強力な装備をもっています。

●ヴァリドス将軍
 この砦のボスであり、特に強力に作られた致命者です。
 つまりは死んだ人をコピーして作られたモンスターです。
 剣と盾を使った戦い方をし、シンプルに防御と攻撃が強いというタイプの将軍です。

●味方NPC
 この戦いには天義の騎士アンバーが味方として加わります。
 彼女はイレギュラーズを強く信頼しているため、彼女とコンビネーションプレイを行う際には友情や信頼によって行動ボーナスが加わります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <烈日の焦土>アンバー・キリードーンの再起完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)
花に集う
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
変わる切欠
ピリア(p3p010939)
欠けない月
芳野 桜(p3p011041)
屍喰らい

リプレイ


 神の国へと至る、そのさなか。
 『花に集う』シルフォイデア・エリスタリス(p3p000886)はぽつりとこんなことを言った。
「そうですね、まずは、やれるところから」
 何に対しての『そう』なのかは、隣を歩いていたアンバーにはすぐわかった。
 そしてわかったからこそ。頷く。
 頷きは偶然にも同時だった。
「わたしも、そう思うのです」
 人間は失う。人生とは喪失だ。
 停滞や忘却でそれを免れようとする者は数多いが、少なくともここにいる二人はそうではない側の人間だった。
 『痛みを抱えて生きていこう』なんていう、普通のことを言いたいわけじゃ、決してないんだから。
「アンバー様っ」
 『羽化』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)が小走りに追いついてくる。
「お久しぶりです。ええと――」
「私が触媒にされた時以来、ですね」
 苦笑するアンバー。言いづらいことを言わせてしまったとジョシュアが眉を寄せるけれど、声音に弱さは感じなかった。だからこう続けることにする。
「あれから心配だったのですが前に進もうとしているのですね。
 あなたは優しい人です。僕も仲間として協力させてください」
「本当ですか? 無茶を言うかもしれませんよ?」
 アンバーが返してきた冗談に、今度こそ笑顔を返すジョシュア。
 そんな二人の背中を強くドンと叩いて、間に『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が割り込んできた。
「よう、また会ったなアンバー。今度は夢でも幻でもねェ。お前が一番良くわかってるだろうが。あ?」
 露悪的な態度はキドーの十八番だ。そしてそれは、夢幻の中でも同じだったこと。夢であっても、一度は先輩と呼んだ相手なのだから。
「『優しい先輩モードは終わりだぜ』ですか?」
「おっ……」
 先に言われてしまったという顔で歯を見せるキドー。
 『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)がその肘を小突いた。
「どこが優しい先輩だったってのよ」
「馬鹿野郎お前馬鹿野郎優しいシゴきだっただろお前、なあ!?」
「アンバーに詰めないの」
 ゼファーに引っ張られ、キドーがぎゃーぎゃーとわめいている。
(夢から醒めて、今は前を向いて歩いているのね。そんな強い子は応援したくなるのが人の性……ってヤツなのかしら)
 ゼファーは心の中でそう呟いてから、『欠けない月』ピリア(p3p010939)のほうをちらりと見た。
 ピリアはアンバーと手を繋ぎ、にっこりと微笑む。
「みんなでいっしょに、がんばろう! なの! アンバーさんもいっしょだもん、きっとだいじょうぶなの♪ ね、アンバーさん!」
 差し出した手を、アンバーは強く握った。握った手を、ピリアは掲げる。
「えいえい、おー! なの!」

 そんな様子を微笑ましく眺めていた『屍喰らい』芳野 桜(p3p011041)たち。
 ふむ、と桜は老獪そうな顔で顎を撫でた。
 老夫の身体に少女の魂、というなんとも奇妙な一心同体。内なる少女の心は静め、外側に、あるいは器に精神を寄せる。
「確か、ワーズワーズ砦……だったな? 鉄帝南部の砦と聞いているが、それは強固な防衛力を持っていると考えていいのだろうか?」
 問いかけられたとみて、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)がこくりと頷いた。
 彼女も彼女で、こういうときのリアクションが吐血でなくなったのはえらい進歩である。
 知らぬ者からすれば、いまにも死にそうな少女であったのだから。
 さておき。
「鉄帝国は南部の幻想王国と長らく戦争状態にあります。なので、鉄帝南部は『南部戦線』と呼ばれ強固な砦が築かれやすいのです。ワーズワーズ砦は第一線にはないですから、それほどではないでしょうけれど、『はーどる』はそれなりに高いかと……」
 ですよね? とふられて『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)が眼鏡に指をそえる。
「そういうこと。でもボク達がやることはそんなに変わらないのよ。強いて言えば……変な小細工考えずに正面から正攻法で『がんばろう!』ってことね。
 この世界を守るため、大切な人達を守るため、皆でがんばりましょう!」
「ええ、合わせて参りますよ! がーっといってばーっと倒す感じですね!」
 むんっ、とがんばろうのポーズをとってみせる珠緒。彼女たちは彼女たちで、二人で一つのコンビであるらしい。
「さ、砦が見えてきたわ」
 ぼやけた霧のようなものを抜けると、早速高い塀と物見台が見える。
 こちらを発見したであろう影の天使が鐘を鳴らす音がした。
「いくわよ、『正面から正攻法で』ね!」


 たとえば丸太を想像してほしい。それが隙間無く突き立ち、並んでいる光景だ。それがいわゆる、砦の塀である。
 そんなものを前に、ぼうっと立っているわけでも、ましてのんびり歩いて行くわけでもなく、蛍と珠緒は全速力で走って向かっていた。
 塀からは、まるでそれが巨大な生物がくしゃみでもしたかのように大量の矢が山なりに放たれる。
 砦における防衛戦術のひとつだ。蛍はゴムバンドで封じていた教科書の封印を解くと、それを剣と手甲へと変形。剣にしていた国語の教科書を一閃すると、壁のようにページが展開して魔術障壁へと変化する。狙いも付けずにただ山なりに飛ばしただけの矢など、当たりはしないのだ。
 山なりに迫る矢がとめられ、その上を飛び越えるようにして珠緒が跳躍。血の翼を展開すると手を伸ばした。
「迎撃が反応する前に塀を越えてしまえれば理想ですが、なかなか難しいでしょう
 ですが、ふたりならば備えをしつつ乗り越えることができるのです
 つまり、比翼連理の体現!」
 受け止めるように伸ばした蛍が珠緒の腕を掴み、二人は高い塀を飛行によって跳び越える。
 高い丸太の塀であったとはいえ、飛行してしまえば飛び越えるのも造作はない。
 塀の内側で弓を構えていた影の天使が、今更ながらといった様子で珠緒へ矢を放つが、『藤桜剣・契』――つまりは左手薬指の指輪を基点にして形成した攻勢術式刀が飛来する矢を切り落とした。
「囮がもう一人は必要ですね」
「それなら――!」
 エリスタリスが助走を付けて跳躍。アークエンジェの力によって飛行すると、あえて塀の上に着地して見せた。
 こんなに目立つ囮もそうないだろう。
 大量の矢が迫るが、エリスタリスは両手を翳し魔術障壁を展開。その内側に反射するようにして、自らに治癒の魔法を連射した。
 いわゆるタンクヒーラーという動きなのだが、時として集中砲火によるダメージよりも自身の治癒のほうが上回ることがある。エリスタリスの場合が、それだ。
 敵に高い知能があれば、一発撃っただけでそれを察してすぐに攻撃対象を切り替えてしまうところだろうが、どうやらこの影の天使たちはそこまで知性が高いわけではなかったらしい。
 暫くの間集中砲火が続く。
「今のうちに、中へ!」
「再現物とは云え、此の人数で砦攻めなんて骨が折れそうなお仕事ですこと」
 ゼファーは思い切り塀めがけて走り込むと、そのまま垂直に塀を駆け上がる、そしてぱしりと頂点を手で掴むと走ってきたのと同じだけの速度で自らの身体を引き上げた。
「ま、無理とは言いませんけど?」
 そのまま素早く塀の内側へと飛び降りる。
 影の天使の一部は元から弓を装備していなかったらしく、槍を構えゼファーめがけて突き込んできた。
 槍の扱いでゼファーに勝るのは、なかなかに難しいことだろう。
 ゼファーは自分の胸元めがけて撃ち込まれた槍を紙一重に交わすと、そのまま相手の懐へと迫る。
 掌底を顎に一撃。更に槍を掴んで相手の身体を突っ張らせると、蹴りつけることで吹き飛ばした。
 奪った槍はその場でぐるりと回してリーチを一度リセットさせ――たかと思うとおもむろに水平状態のまま放り投げて影の天使たちを牽制した。
 キャッチするわけにもいかず思わず飛び退いた影の天使たち――に浴びせられたのは、塀の上に飛び乗っていたジョシュアからの射撃だった。
 三本の矢を同時に弓につがえて放ったジョシュアはそのまま塀の内側へと着地。ごろんと転がってからすぐに次の矢を弓に番え、水平にした弓で狙いをつける。
「例のヴァリドス将軍は?」
「もっと奥でしょうね。指揮を執ってる……わけないわよねえ、この有様じゃ」
「ですね」
 ジョシュアは真顔のまま矢を放つ。影の天使の頭部に突き刺さった矢はその勢いのまま相手を吹き飛ばし、木製の建物の壁に叩きつけた。
「しかし、南部戦線の砦がこうも簡単に破られていいんでしょうか」
「戦力と『向き』が違うのよ」
「……ああ」
 言われてジョシュアは思い出した。自分達は『鉄帝側』から攻めているのだと。鉄帝の砦が鉄帝側に守りを固めるわけはなし。塀も回り込み対策程度ということか。
 更に言えば、本物の砦にはもっと優秀な兵たちが守りについている筈なのである。こんな、文字通りの雑兵ではなく。
「交代だ!」
 キドーが塀へとよじ登り、エリスタリスに降りるように呼びかける。
 影の天使たちも徐々に分かってきたようで、エリスタリスへの集中放火をやめつつある所だ。丁度良い。
 キドーはナイフを掲げてぶんぶん振り回してみせると、『出番だ野郎共』と空に吠えた。
 どこからともなく現れた邪妖精たちの『いたずら』が小石を天に大量に飛ばす。それらはまるで磁力でもあるかのように吸い付いて巨大な岩に変わると、こちらを狙う影の天使たちめがけて飛んでいった。
 べちゅんというなんとも言えない音をたて潰れる天使たち。
 残る天使はキドーを撃ち落とすべく矢を放つが、キドーは華麗なナイフ裁きでその矢を次々に切り落としていくのだった。
「おいおいちゃんと狙ってんのかぁ? 一発も届いてねえぞぉ?」
 などと挑発しつつ、ちらりと振り返った。
「チャッチャと進んで振り返るんじゃあねェぞ! ケツは俺が持つ!」
「……お願いします先輩!」
 アンバーは走り、剣を抜いた。あいた手を伸ばすと、それをピリアがぎゅっと握る。
 小さく歌い始めるピリアの周囲にはオパールの煌めきが浮かび上がり、それらはまるで空気を変えるみたいに二人をふわりと浮きあがらせた。厳密には、ピリアだけを。そして彼女が引っ張るアンバーを。
 キドーが囮になっていてくれる間に、ピリアとアンバー、そしてちゃっかり飛行の魔法で塀を跳び越えていた桜が砦の内側へと入り込んでいた。
「もう大丈夫だ。降りてきてくれるかな」
「おう」
 桜は天使を刀で切り伏せながらキドーへと呼びかけた。手を振り、塀から飛び降りるキドー。
 槍を持った天使たちが迫るが、それに対抗するのは桜たちだ。
「折角囮になって貰ったのだ。このくらいの働きはしなければな」
 刀を両手でしっかりと握るように構えると、桜は天使が撃ち込んできた槍の穂先を剣で弾く。
 弾いた直後に大きく踏み込み、天使の首を刀ではねた。
 更に刀を片手持ちに変えると、すぐ隣の天使の腕を掴んで足を払い、マーシャルアーツによって地面に投げ倒す。
「ピリアさん! 一気に切り抜けましょう!」
 アンバーがそう呼びかけると、ピリアは『うん!』と頷いて歌をどこか攻撃敵なものに切り替えた。
 オパールの煌めきが彼女たちを包み空を飛ばすものであったなら、今度の煌めきは円形の刃となって敵を切り裂くものへと変化する。
 まるで海の中を魚の群れが泳いでいくかのような美しい光景が、天使たちを次々に切り裂いて行く。
 アンバーは通り抜けざまに天使の一体を斬り付けると、ピリアの手をぎゅっと掴んでそのまま天使たちの間を走り抜けたのだった。


「…………」
 剣と盾を備え、じっと構える壮年の男。おそらくは彼がヴァリドス将軍であろう。
 この『神の国』を作り出すにあたっての触媒も、彼がもっているに違いない。
 が、素直に囲ませてくれるというわけではどうやらないらしい。
 剣を構えてフルプレートの天使たちが展開し、将軍を守るように構えている。
「偽りの命よ、あるべき姿へと還りなさい!」
 そこへ真っ先に斬り込んだのは蛍だった。
 将軍を射程に捕らえたまま、藤桜の聖剣の一閃を放つ。
 桜色の光が天使たちへと浴びせられ、それは蛍への意識誘導となる。つまるところ、【怒り】状態の付与であった。
「将軍は任せるよ。そのかわりこっちの天使たちは片付けておくから!」
 蛍がそう述べたということは、そこには藤桜も一緒だということだ。
「死者の在るべきは彼岸……その模造も同様にあるべきでしょう」
 あつまってきた天使たち相手に藤桜剣を振り抜くと、形を一次的に失った剣が血しぶきとなって散る。それらは大量の刃となって、天使たちへと降り注いだ。
 フルプレートの天使といえどこちらは血を代償とした攻勢術式の刃だ。まるで障子紙でも破るように鎧を貫通すると黒い血しぶきを上げさせた。
「誰にだって、悔恨や取り戻したいものはある筈……。だからこそタチが悪いのよね。連中の正しい世界ってヤツは」
 ゼファーはそう呟きながら将軍へと対峙する。
 繰り出す槍の連撃を、将軍は剣と盾で器用にも防ぎきってみせた。
「これは倒すのに骨がおれるわねえ」
 本気で行かなきゃマズイかしら? と槍を両手でしっかりと握って構えるゼファー相手の足を狙って振り抜いた槍を、将軍は跳躍によってかわし――そして、将軍の表情に『しまった』という後悔の色が浮かぶ。そうだ。ゼファーと互角に渡り合っているという事実は驚嘆すべきことだが、相手はゼファーひとりではないのだ。
「やあ!」
 アンバーの鋭い剣の一撃が、将軍の腹に叩き込まれる。
 幸いにしてというべきなのか鎧で防がれた剣。しかし吹き飛ばされた将軍は地面を転がり、おもわず盾を取り落としてしまった。
 即座に魔法を詠唱。大量の炎の玉がアンバーめがけて飛んでいくが、エリスタリスが対抗して治癒の魔法を詠唱。アンバーにぶち当たった大量の炎の玉がかき消えていく。
(本当のことを受け入れて、前に進むことができる。
 アンバーさんは、すごい方なのですね。
 わたしは……、まだ前に進めるかは分かりませんが。
 間違っていたとは、言われたくないのです)
 手を突きだし、次の詠唱を負えるエリスタリス。
「治癒は任せてください。そのまま攻めて!」
「行けるだろ? アンバー。お前の偽りの世界を壊す力ってやつを見せてくれよ」
 キドーはキヒヒと嗤うとワイルドハントの狩猟団を召喚。将軍へと群がらせる。
 勇猛な猟師が、八本足の馬が、黒い犬が遅いかかるのを、将軍は剣一本で凌いでみせる。だがそれも限界だ。
「かいかぶりですよ先輩。私の剣はいつだって……」
 アンバーは剣を握りしめる。
 その一方で桜はキドーの作った隙を突くようにして将軍に斬りかかっていた。
(死者を模した怪物だったか。今の私も似たようなものだが、あれはなかなか歪だな。私は中身が生きているが。いわゆるアンデッド、とは違うのだろう)
「ぬうっ……!」
 つばぜり合いにまで持ち込み、そして目を細める。
(天使の魂は……さすがに食えなさそうだな。糧にできれば良かったのだが)
 桜の妖しい目の光に何かを感じたのだろうか。飛び退こうとする将軍にジョシュアは弓矢による連射を浴びせかけた。
「ヴァリドス将軍、あなたの戦いはもう終わりました。
 守り抜く意志は引き継がれていくから、どうか安らかに眠ってください……」
 全ての矢を切り落とす――ことはできなかった。将軍の腕に矢が突き刺さり、その動きを鈍らせる。
 ピリアはその隙を逃さない。
「――」
 歌の調子を変え、オパールの煌めきが将軍の足元めがけて集中する。そう、それこそ魚群が一箇所めがけて泳いでいくかのように。
 それは逃れようのない呪いとなって将軍の足を石化させ。着地に失敗した将軍はそのまま派手に転倒する。
「今です、アンバー様!」
「やっちゃえ、なの!」
「――はい!」
 飛び込むアンバー振り上げた剣は――そう、前を向くための剣だ。


 将軍もろとも触媒を破壊したためだろう、神の国は崩壊し、いつのまにかアンバーたちは平野に立っていた。
「またたてるようになっても、もしかしたらちょっとつらいこともあるかもしれないし……だいじょうぶそうなら、それはそれでいいことなの!」
 ピリアはそう切り出して、手を差し出した。
「また、みんなでいっしょにがんばろう、なの♪」
「……はい、ピリアさん。皆さん」
 手を握り返し、アンバーは美しく笑うのだった。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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